枯葉と帆船

みらいつりびと

文字の大きさ
10 / 11

キラキラ光る小魚

しおりを挟む
 テムズ川沿いの道を下って行く。霧がごく薄くかかり、遠景がうっすらと霞んでいた。
 紫の屋根をした長屋のような建物を過ぎた所に船着場があった。ボートが四艘と漁船が二艘着けてある。漁船と漁船の間には、腐りかけて、打ち捨てられた小舟があった。それらの船影が鮮明に水に映って綺麗だった。
 馬車の進みはのんびりしたものだった。僕らの乗る船が出る時刻は九時で、時間はまだたっぷりあったし、馭者のニールスが名残惜しそうに景色を見ながら馬車を動かしていたから。僕も風景を目に焼き付けたかった。
 早起きの少年が川岸の石垣に座って釣りをしている。彼が竿を上げるたびにキラキラ光る小魚が引っかかっていて、少年は慌ただしく小魚を針からはずし、すぐさま餌をつけかえている。彼は笑っていた。次から次へと釣れるから、愉快で堪らないらしい。
 川をたくさんの船が上り下りしている。漁船があり、渡し船がある。
「ロナルド」
 川に見入っていたときに突然呼ばれたので、僕はちょっと驚いた。
「そこにパン屋が見えるだろう。何か買って来てくれないか」
 父は僕に少しばかりのお金を渡した。
 僕は馬車を降りて、父の指し示したパン屋さんに入った。並んでいるパンをざっと眺め、所持金と相談して、僕は長いバゲットをふたつと牛乳を四つ買った。牛乳瓶は冷たかった。
 パン屋さんの主人は、僕のよそ行きの服を見て、話しかけて来た。
「どこかへ行くのかね」
「これからアメリカだよ。移住するんだ」
「ほう!」
 彼は目を丸くした。そして、餞別のつもりか、バゲットをもうひとつくれた。僕は礼を言って店を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...