3 / 50
胸のサイズ
しおりを挟む
沖館さんはプリンアラモードを食べながら、わたしに話しかけてきた。
「どう、美味しい?」
「うん。プリンの味がとても濃厚」
わたしが褒めると、沖館さんは我がことのようにきゃっきゃっと喜んだ。
「そうでしょ? マスターが毎朝つくってるんだって。個数限定で、売り切れもめずらしくないんだよ。ネットでの評判も上々なの」
にこにこ笑って、わたしに顔をすり寄せんばかりに近づけてくる。この子は猫だ、と思った。人懐っこくて可愛らしい猫。
「フルーツも美味しいね。今年初めていちごを食べた」
「クリームをつけて味わうと最高だよ。あたしはいちごよく食べてるなあ。いちごショート好きだし」
沖館さんはよくしゃべり、宇津木さんは静かだ。コーヒーを音を立てずに上品にすすっている。ダイエットをしているからか、好みなのかはわからないが、砂糖もクリームも入れず、ブラックで。
すごい美少女が制服で喫茶店に入り、清楚にコーヒーを飲んでいる。睫毛が長い。絵になる。クラスの男子がこれを見たら、発電するのはまちがいない。
「さてと、恋バナしようか。相生さん、授業中に発電してたよね?」
「してません」
「嘘。顔が赤かったよ」
わたしは口を閉じたまま、首を振った。沈黙は金。
「千歳、ぶしつけだよ」
「えーっ、いいじゃん。相生さんが誰で発電してたか気にならない?」
「気にはなるけど、いきなりそんなことを尋ねるのは失礼でしょ。修学旅行の夜じゃないんだから」
宇津木さんが良識派で助かった。
でも気にはなっているのか。
彼女はコーヒーカップをテーブルに置いた。
「自分の話から始めたら? 千歳は今日、発電しなかったの?」
あれ、良識派じゃないのか?
女の子は恋バナ好きだからなあ。わたしも自分が槍玉に挙げられていなければ大好きだ。
「した! 堀切くんで!」
沖館さんはあっけらかんと言った。
「堀切くん、人気あるよね」
わたしは話を合わせた。
「かっこいいからねえ。見ていたら、発電できちゃう。ユナはしないの?」
「しない! 別に堀切くんのこと、意識してないから」
宇津木さんはきっぱりと否定したけど、口調は力みすぎているように思えた。
「本当かあ~」
沖館さんが追及。宇津木さんはコーヒーカップを手に取って、無視で応酬。
「ユナと堀切くんなら、お似合いなのにな。まあ、強力な|恋敵(ライバル)がいなくて良いけど」
ふたりの話が一段落して、沖館さんと宇津木さんはパッと同時にわたしを見た。
「「で、相生さんの発電相手は?」」
息が合っていた。
「言わなくちゃいけないの?」
わたしはちょっと抵抗を試みる。
「別にいいけど」と宇津木さんは言ってくれたが、「ぜひ教えて」と沖館さんは興味津々だ。
観念して、「堀切くん」と短く答えた。
「あ、やっぱ堀切くんかあ」
「強力な恋敵がここにいたね」
わたしは平凡な女子だ。宇津木さんほどの美少女ではないが、割と可愛い沖館さんの恋敵にはなり得ないと思う。
「やめてよ。わたしなんか堀切くんに相手にされるわけないもん」
「そうでもないでしょ」
宇津木さんの視線はわたしの胸のあたりで止まっている。
「相生さんの胸、たぶん学年で1番大きい。あなたで発電してる男子、きっと多いよ」
わたしの顔は強張っていたと思う。
思わず両手をクロスさせて、自分の胸を隠した。
「ぶしつけなのはユナの方じゃん!」
「あ、ごめんなさい」
わたしは平凡だ。胸のサイズを除いて。
「でも大きいよね。高校生のものとは思えませんな~」
沖館さんがオヤジ化して、わたしの胸を凝視する。
いつまでも胸を隠している方が変なので、わたしは両手をだらりと下げた。
「そっちに栄養がいくなら、ダイエットしなくても良い」
宇津木さんは清楚な美少女だと思っていたけど、認識を改めた方が良さそう。沖館さんといいコンビだ。
「胸が大きくなる方法を教えましょうか」とわたしが言ったら、ふたりともぐいっと身を乗り出した。
「わたし独自の方法だけどいい?」
「いい」
「男の子のことを考えます。ずっとずっと考えます。授業中も食事中も就寝前も。そうしたら、いつの間にか胸が大きくなります」
「恋愛脳か」
「ビッチじゃん」
「ビッチじゃないもん。恋愛脳かもしれないけど」
「てかその方法、絶対まちがってるでしょ」
「まちがってないよ。わたしはそれで大きくなりました」
「結果論だよね」
「何カップなの」
わたしがサイズを教えると、ふたりは驚愕した。
「そんなサイズがあったとは!」
「グラビアアイドル超え?」
「大げさ。そこまでめずらしくはないよ。お母さんと同じだし」
「遺伝か」
「遺伝かよ。ふつうに絶望するんだけど」
途中から声が大きくなっていた。鏡石珈琲のお客さんたちが、わたしたちの話に聞き耳を立てている。
「やめよう」
「うん」
「そろそろ帰ろうか」
わたしたちは割り勘で支払った。
いじられたけど、ふたりとの距離を詰められた気がして、楽しかった。
「どう、美味しい?」
「うん。プリンの味がとても濃厚」
わたしが褒めると、沖館さんは我がことのようにきゃっきゃっと喜んだ。
「そうでしょ? マスターが毎朝つくってるんだって。個数限定で、売り切れもめずらしくないんだよ。ネットでの評判も上々なの」
にこにこ笑って、わたしに顔をすり寄せんばかりに近づけてくる。この子は猫だ、と思った。人懐っこくて可愛らしい猫。
「フルーツも美味しいね。今年初めていちごを食べた」
「クリームをつけて味わうと最高だよ。あたしはいちごよく食べてるなあ。いちごショート好きだし」
沖館さんはよくしゃべり、宇津木さんは静かだ。コーヒーを音を立てずに上品にすすっている。ダイエットをしているからか、好みなのかはわからないが、砂糖もクリームも入れず、ブラックで。
すごい美少女が制服で喫茶店に入り、清楚にコーヒーを飲んでいる。睫毛が長い。絵になる。クラスの男子がこれを見たら、発電するのはまちがいない。
「さてと、恋バナしようか。相生さん、授業中に発電してたよね?」
「してません」
「嘘。顔が赤かったよ」
わたしは口を閉じたまま、首を振った。沈黙は金。
「千歳、ぶしつけだよ」
「えーっ、いいじゃん。相生さんが誰で発電してたか気にならない?」
「気にはなるけど、いきなりそんなことを尋ねるのは失礼でしょ。修学旅行の夜じゃないんだから」
宇津木さんが良識派で助かった。
でも気にはなっているのか。
彼女はコーヒーカップをテーブルに置いた。
「自分の話から始めたら? 千歳は今日、発電しなかったの?」
あれ、良識派じゃないのか?
女の子は恋バナ好きだからなあ。わたしも自分が槍玉に挙げられていなければ大好きだ。
「した! 堀切くんで!」
沖館さんはあっけらかんと言った。
「堀切くん、人気あるよね」
わたしは話を合わせた。
「かっこいいからねえ。見ていたら、発電できちゃう。ユナはしないの?」
「しない! 別に堀切くんのこと、意識してないから」
宇津木さんはきっぱりと否定したけど、口調は力みすぎているように思えた。
「本当かあ~」
沖館さんが追及。宇津木さんはコーヒーカップを手に取って、無視で応酬。
「ユナと堀切くんなら、お似合いなのにな。まあ、強力な|恋敵(ライバル)がいなくて良いけど」
ふたりの話が一段落して、沖館さんと宇津木さんはパッと同時にわたしを見た。
「「で、相生さんの発電相手は?」」
息が合っていた。
「言わなくちゃいけないの?」
わたしはちょっと抵抗を試みる。
「別にいいけど」と宇津木さんは言ってくれたが、「ぜひ教えて」と沖館さんは興味津々だ。
観念して、「堀切くん」と短く答えた。
「あ、やっぱ堀切くんかあ」
「強力な恋敵がここにいたね」
わたしは平凡な女子だ。宇津木さんほどの美少女ではないが、割と可愛い沖館さんの恋敵にはなり得ないと思う。
「やめてよ。わたしなんか堀切くんに相手にされるわけないもん」
「そうでもないでしょ」
宇津木さんの視線はわたしの胸のあたりで止まっている。
「相生さんの胸、たぶん学年で1番大きい。あなたで発電してる男子、きっと多いよ」
わたしの顔は強張っていたと思う。
思わず両手をクロスさせて、自分の胸を隠した。
「ぶしつけなのはユナの方じゃん!」
「あ、ごめんなさい」
わたしは平凡だ。胸のサイズを除いて。
「でも大きいよね。高校生のものとは思えませんな~」
沖館さんがオヤジ化して、わたしの胸を凝視する。
いつまでも胸を隠している方が変なので、わたしは両手をだらりと下げた。
「そっちに栄養がいくなら、ダイエットしなくても良い」
宇津木さんは清楚な美少女だと思っていたけど、認識を改めた方が良さそう。沖館さんといいコンビだ。
「胸が大きくなる方法を教えましょうか」とわたしが言ったら、ふたりともぐいっと身を乗り出した。
「わたし独自の方法だけどいい?」
「いい」
「男の子のことを考えます。ずっとずっと考えます。授業中も食事中も就寝前も。そうしたら、いつの間にか胸が大きくなります」
「恋愛脳か」
「ビッチじゃん」
「ビッチじゃないもん。恋愛脳かもしれないけど」
「てかその方法、絶対まちがってるでしょ」
「まちがってないよ。わたしはそれで大きくなりました」
「結果論だよね」
「何カップなの」
わたしがサイズを教えると、ふたりは驚愕した。
「そんなサイズがあったとは!」
「グラビアアイドル超え?」
「大げさ。そこまでめずらしくはないよ。お母さんと同じだし」
「遺伝か」
「遺伝かよ。ふつうに絶望するんだけど」
途中から声が大きくなっていた。鏡石珈琲のお客さんたちが、わたしたちの話に聞き耳を立てている。
「やめよう」
「うん」
「そろそろ帰ろうか」
わたしたちは割り勘で支払った。
いじられたけど、ふたりとの距離を詰められた気がして、楽しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる