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第1話 悪魔少女の夏 第99小隊の旅
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「『悪魔少女の夏』という小説を知っているかい?」
白馬に乗った16歳の少年が、後続する3人の部下に訊ねた。
少年の名はダダ・バルーン。バルーン教皇国最年少の司教だ。
白地に金の縦縞が入った司教服を着ているが、イケメン、明るい茶髪、チャラい表情で、聖職者らしい威厳は微塵もない。女好きの不良少年といった雰囲気だ。剣帯ベルトを腰につけて、剣をぶら下げている。
彼は第13代教皇バルデバラン・バルーンの甥だ。教皇の指名でパーム県ラシーラ教区の司教に抜擢されたが、それ以前は神学校の学生で、女遊びにうつつを抜かす問題児だった。血筋のおかげで司教になっただけ。
友人の家のメイドに手を出し、妊娠、堕胎させたという疑惑がある。自宅のメイドとSMごっこにふけっていたという疑惑もある。幼馴染の女の子を裸にして、ペイントで水着を描いて遊んでいたという疑惑も。
学長は疑惑ではなく、真実だろうと睨んでいたが、教皇の甥を退学処分にするわけにはいかなかった。
「『悪魔少女の夏』ですか。わたくしは知りません」
第1騎士シャン・キムの回答。抑揚のない声だ。
「リム、タイトルは知っていますが、読んでいませーん。ダダ様、その小説、おもしろいんですかあ」
第2騎士リム・シンエイの答え。媚びるような声音で、小首を傾げ、ダダを見つめている。
「自分は読みました。すっげえ面白かったっす。読んでいて興奮しましたっ」
第3騎士ノナ・パパラの声は大きかった。天真爛漫に興奮と言い、顔を紅潮させている。
ダダの部下、3人の神聖少女騎士たちは、栗毛の馬に乗っている。
「はい、ノナはアウトー! 『悪魔少女の夏』は18禁のエロ本だよ。おまえ、16歳だろ?」
「あの物語、確かにエロかったっすね。悪魔少女と悪魔少女狩り小隊長の禁断の恋。セックス描写が濃厚でびっくりしました。悪魔少女が小隊長をエグく殺すシーンも、なんかえっちでうずきました」
「うずいたか、ノナ。どこが、どんなふうに?」
「えーっ、そんなこと言えません」
「まあいい。とにかくノナは死刑だ」
「ええーっ、なんでですかっ」
「『悪魔少女の夏』はベストセラーになったが、すぐに禁書に指定された。悪魔少女をヒロインにしたエロ本だから、当然の措置だ。未成年で禁書を読んで興奮しているノナは死刑」
「殺さないでください。ダダ様だって読んだんじゃないですか?」
「読んだ。悪くない本だった。エンターテインメントとしては。ボクも興奮した」
「ダダ様、自分と同い年じゃないですか。一緒に死刑になりますか」
「ボクは特別な人間なんだよ。将来バルーン教皇国の中枢で仕事をすることが約束されている。教皇になる可能性もある。ていうか、ボクはなるつもりだよ。禁書を読むのも、勉強のうちだ」
教皇バルデバラン・バルーンには子どもがいない。ダダが跡を継ぐのは充分にあり得ることだった。
教皇は国の最高権力者にして独裁者。地上における神の代理だ。
「今夜、おまえの太ももをボクの枕にしろ。それで死刑は許してやるよ」
ダダ・バルーンは第99悪魔少女狩り小隊長でもある。司教より、そちらの方がメインの任務だ。
ダダの小隊はバルーン唯神歴241年7月1日に、バルーン教皇国の首都マーロを出発した。任地のパーム県ラシーラ教区は人口4千人程度の村で、敵国との国境に近い辺境の地だ。辺鄙な土地だからこそ、悪魔少女が潜んでいる可能性が高い。
教皇の命令で、悪魔少女狩り小隊が100隊つくられ、各地に派遣された。国の秩序を乱し、信仰深い男を惑わす悪魔少女の根絶が表向きの目的だ。
裏の目的は、教皇に忠誠を誓う悪魔少女の軍隊『神聖少女騎士団』の拡充である。体制側の正義の悪魔少女になることを誓った者は騎士団に組み込まれ、死刑をまぬがれる。
唯神歴230年代から他国との戦争が断続的につづく乱世が到来していた。バルーン教皇国は強力な軍隊を必要としている。
少年司教・悪魔少女狩り小隊長ダダ・バルーンと3人の神聖少女騎士は馬に乗って、ラシーラ村に向かって旅をしている。
「ラシーラ村にはどんな悪魔少女がいるのかな。ぜひとも美しい悪魔少女に出会っていじめたい。泣かせたい。殺したい。ボクには拷問権と処刑権がある。くくくく」
ダダはサディスティックな少年だった。美しい少女に屈辱を与えて快感を得る変態。
悪魔少女は例外なく美少女だ。いろんなタイプの美少女がいるが、とにかく綺麗な女の子という点では共通している。美少女だから悪魔少女であるとは限らないが、悪魔少女であれば、美少女なのは確実だ。理由ははっきりしていないが、それが事実なのだ。魔力が女の子を美しく成長させるという説が有力視されている。
「ダダ様は鬼畜ですね。わたくし、どん引きですわ」
第1騎士シャン・キムは平坦な口調で言う。銀髪ショートボブでスタイルがよく、手足がすらっと長い18歳の美少女。神聖少女騎士で、体制側の悪魔少女。アーモンド型の形のいい目をしていて、睫毛が長いが、瞳には光がない。左右の目の下に泣きぼくろがある。諦観を感じさせる無表情な少女だ。
悪魔少女は20歳になる頃、魔力を失う。シャンはあと2年ほどで騎士団から除団できる。充分な報酬を得て、普通の女性として生きていける。戦闘で死なず、除団するのが望みだったが、彼女は神聖少女騎士の高い死亡率を知っていた。
「リムはダダ様にいじめられて気持ちよかったですう。また縛ってください」
第2騎士リム・シンエイの声は明るく弾んでいる。金髪碧眼でメロンサイズの大きな胸を持つ17歳の美少女。彼女も教皇とダダに忠誠を誓っている正義の悪魔少女だ。ダダとともに出世しようという野望を持っている。成人して魔力を失っても、教皇の甥に気に入られれば、楽しい人生が送れると信じていた。
今後ダダが輝かしいキャリアを積めば、リムも多くの部下を持ち、権力をふりかざして生きることができるだろう。もしダダの正妻になれれば、一生贅沢ができるにちがいない。
リムは快楽主義者で、性的にはマゾヒストだった。
「自分は戦えれば、それでいいっす。破壊衝動、殺人衝動を合法的に満たすために神聖少女騎士になったんすから。ラシーラ村の悪魔少女、残らず殺してやります」
第3騎士ノナ・パパラは、鎖骨まで届くストレートの黒髪で、大きなぱっちりした目を持つ童顔美少女。ダダと同じ16歳だ。天真爛漫に見えるが、狂気を宿している女の子。
いままでに5人の悪魔少女、悪魔少女容疑者を殺している。悪魔少女は多かれ少なかれ破壊衝動を持っているものだが、ノナは特に激しい戦闘狂だった。仲間のリムと口論になり、決闘しようとしたことがある。ダダは笑って見ていた。シャンが懸命になって決闘を止めた。
ノナの鞄には注射器が入っている。父親が医者で、多少の医療の知識がある。麻薬植物を知っていて、自分で薬物をつくり、自らに注射する。破滅的な少女だ。
3人の少女騎士はもちろん剣を持っている。戦闘訓練を受けていて、通常の騎士程度の実力がある。そして少女たちは、悪魔少女の異能を持っていた。
「ボクら第99悪魔少女狩り小隊が、ラシーラ村の悪魔少女を殺し、あるいは心を折って味方の神聖少女騎士にしよう。首を絞めよう、火あぶりにしよう、存分にいたぶろう、悪魔少女を。ああ、美しい少女を殺したい」
ダダが歌うように言う。
「うちの小隊長はつくづく変態ですねー。自分はいたぶって殺すのは趣味じゃないっす。美しく俊敏に殺したい。うふふ」
ノナは右手で注射器をもてあそんでいた。麻薬の入ったそれを左の二の腕に刺した。
「気持ちいい。気持ちいいー。殺人と麻薬なしでは生きられないっす。あは、あははは」
夏だった。蝉がやかましく鳴いていた。一行はパーム街道を進みつづけた。森を抜け、橋を渡り、なだらかな草原の丘を越えた。向日葵畑が点在する土地に入った。ラシーラ村は大輪の向日葵畑が多いことで有名だった。向日葵は太陽に向かって高く育ち、黄色い花を咲かせていた。
街道に『ラシーラ村』と彫られた杭が立っていた。
ダダたちは8月1日にそこに到着した。
白馬に乗った16歳の少年が、後続する3人の部下に訊ねた。
少年の名はダダ・バルーン。バルーン教皇国最年少の司教だ。
白地に金の縦縞が入った司教服を着ているが、イケメン、明るい茶髪、チャラい表情で、聖職者らしい威厳は微塵もない。女好きの不良少年といった雰囲気だ。剣帯ベルトを腰につけて、剣をぶら下げている。
彼は第13代教皇バルデバラン・バルーンの甥だ。教皇の指名でパーム県ラシーラ教区の司教に抜擢されたが、それ以前は神学校の学生で、女遊びにうつつを抜かす問題児だった。血筋のおかげで司教になっただけ。
友人の家のメイドに手を出し、妊娠、堕胎させたという疑惑がある。自宅のメイドとSMごっこにふけっていたという疑惑もある。幼馴染の女の子を裸にして、ペイントで水着を描いて遊んでいたという疑惑も。
学長は疑惑ではなく、真実だろうと睨んでいたが、教皇の甥を退学処分にするわけにはいかなかった。
「『悪魔少女の夏』ですか。わたくしは知りません」
第1騎士シャン・キムの回答。抑揚のない声だ。
「リム、タイトルは知っていますが、読んでいませーん。ダダ様、その小説、おもしろいんですかあ」
第2騎士リム・シンエイの答え。媚びるような声音で、小首を傾げ、ダダを見つめている。
「自分は読みました。すっげえ面白かったっす。読んでいて興奮しましたっ」
第3騎士ノナ・パパラの声は大きかった。天真爛漫に興奮と言い、顔を紅潮させている。
ダダの部下、3人の神聖少女騎士たちは、栗毛の馬に乗っている。
「はい、ノナはアウトー! 『悪魔少女の夏』は18禁のエロ本だよ。おまえ、16歳だろ?」
「あの物語、確かにエロかったっすね。悪魔少女と悪魔少女狩り小隊長の禁断の恋。セックス描写が濃厚でびっくりしました。悪魔少女が小隊長をエグく殺すシーンも、なんかえっちでうずきました」
「うずいたか、ノナ。どこが、どんなふうに?」
「えーっ、そんなこと言えません」
「まあいい。とにかくノナは死刑だ」
「ええーっ、なんでですかっ」
「『悪魔少女の夏』はベストセラーになったが、すぐに禁書に指定された。悪魔少女をヒロインにしたエロ本だから、当然の措置だ。未成年で禁書を読んで興奮しているノナは死刑」
「殺さないでください。ダダ様だって読んだんじゃないですか?」
「読んだ。悪くない本だった。エンターテインメントとしては。ボクも興奮した」
「ダダ様、自分と同い年じゃないですか。一緒に死刑になりますか」
「ボクは特別な人間なんだよ。将来バルーン教皇国の中枢で仕事をすることが約束されている。教皇になる可能性もある。ていうか、ボクはなるつもりだよ。禁書を読むのも、勉強のうちだ」
教皇バルデバラン・バルーンには子どもがいない。ダダが跡を継ぐのは充分にあり得ることだった。
教皇は国の最高権力者にして独裁者。地上における神の代理だ。
「今夜、おまえの太ももをボクの枕にしろ。それで死刑は許してやるよ」
ダダ・バルーンは第99悪魔少女狩り小隊長でもある。司教より、そちらの方がメインの任務だ。
ダダの小隊はバルーン唯神歴241年7月1日に、バルーン教皇国の首都マーロを出発した。任地のパーム県ラシーラ教区は人口4千人程度の村で、敵国との国境に近い辺境の地だ。辺鄙な土地だからこそ、悪魔少女が潜んでいる可能性が高い。
教皇の命令で、悪魔少女狩り小隊が100隊つくられ、各地に派遣された。国の秩序を乱し、信仰深い男を惑わす悪魔少女の根絶が表向きの目的だ。
裏の目的は、教皇に忠誠を誓う悪魔少女の軍隊『神聖少女騎士団』の拡充である。体制側の正義の悪魔少女になることを誓った者は騎士団に組み込まれ、死刑をまぬがれる。
唯神歴230年代から他国との戦争が断続的につづく乱世が到来していた。バルーン教皇国は強力な軍隊を必要としている。
少年司教・悪魔少女狩り小隊長ダダ・バルーンと3人の神聖少女騎士は馬に乗って、ラシーラ村に向かって旅をしている。
「ラシーラ村にはどんな悪魔少女がいるのかな。ぜひとも美しい悪魔少女に出会っていじめたい。泣かせたい。殺したい。ボクには拷問権と処刑権がある。くくくく」
ダダはサディスティックな少年だった。美しい少女に屈辱を与えて快感を得る変態。
悪魔少女は例外なく美少女だ。いろんなタイプの美少女がいるが、とにかく綺麗な女の子という点では共通している。美少女だから悪魔少女であるとは限らないが、悪魔少女であれば、美少女なのは確実だ。理由ははっきりしていないが、それが事実なのだ。魔力が女の子を美しく成長させるという説が有力視されている。
「ダダ様は鬼畜ですね。わたくし、どん引きですわ」
第1騎士シャン・キムは平坦な口調で言う。銀髪ショートボブでスタイルがよく、手足がすらっと長い18歳の美少女。神聖少女騎士で、体制側の悪魔少女。アーモンド型の形のいい目をしていて、睫毛が長いが、瞳には光がない。左右の目の下に泣きぼくろがある。諦観を感じさせる無表情な少女だ。
悪魔少女は20歳になる頃、魔力を失う。シャンはあと2年ほどで騎士団から除団できる。充分な報酬を得て、普通の女性として生きていける。戦闘で死なず、除団するのが望みだったが、彼女は神聖少女騎士の高い死亡率を知っていた。
「リムはダダ様にいじめられて気持ちよかったですう。また縛ってください」
第2騎士リム・シンエイの声は明るく弾んでいる。金髪碧眼でメロンサイズの大きな胸を持つ17歳の美少女。彼女も教皇とダダに忠誠を誓っている正義の悪魔少女だ。ダダとともに出世しようという野望を持っている。成人して魔力を失っても、教皇の甥に気に入られれば、楽しい人生が送れると信じていた。
今後ダダが輝かしいキャリアを積めば、リムも多くの部下を持ち、権力をふりかざして生きることができるだろう。もしダダの正妻になれれば、一生贅沢ができるにちがいない。
リムは快楽主義者で、性的にはマゾヒストだった。
「自分は戦えれば、それでいいっす。破壊衝動、殺人衝動を合法的に満たすために神聖少女騎士になったんすから。ラシーラ村の悪魔少女、残らず殺してやります」
第3騎士ノナ・パパラは、鎖骨まで届くストレートの黒髪で、大きなぱっちりした目を持つ童顔美少女。ダダと同じ16歳だ。天真爛漫に見えるが、狂気を宿している女の子。
いままでに5人の悪魔少女、悪魔少女容疑者を殺している。悪魔少女は多かれ少なかれ破壊衝動を持っているものだが、ノナは特に激しい戦闘狂だった。仲間のリムと口論になり、決闘しようとしたことがある。ダダは笑って見ていた。シャンが懸命になって決闘を止めた。
ノナの鞄には注射器が入っている。父親が医者で、多少の医療の知識がある。麻薬植物を知っていて、自分で薬物をつくり、自らに注射する。破滅的な少女だ。
3人の少女騎士はもちろん剣を持っている。戦闘訓練を受けていて、通常の騎士程度の実力がある。そして少女たちは、悪魔少女の異能を持っていた。
「ボクら第99悪魔少女狩り小隊が、ラシーラ村の悪魔少女を殺し、あるいは心を折って味方の神聖少女騎士にしよう。首を絞めよう、火あぶりにしよう、存分にいたぶろう、悪魔少女を。ああ、美しい少女を殺したい」
ダダが歌うように言う。
「うちの小隊長はつくづく変態ですねー。自分はいたぶって殺すのは趣味じゃないっす。美しく俊敏に殺したい。うふふ」
ノナは右手で注射器をもてあそんでいた。麻薬の入ったそれを左の二の腕に刺した。
「気持ちいい。気持ちいいー。殺人と麻薬なしでは生きられないっす。あは、あははは」
夏だった。蝉がやかましく鳴いていた。一行はパーム街道を進みつづけた。森を抜け、橋を渡り、なだらかな草原の丘を越えた。向日葵畑が点在する土地に入った。ラシーラ村は大輪の向日葵畑が多いことで有名だった。向日葵は太陽に向かって高く育ち、黄色い花を咲かせていた。
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