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翌日
新年ミツヤマ初出社日の定時後
結局、12月は1日しか出勤しなかった私が久しぶりにミツヤマに出勤をすると、案の定みんなから良い顔をされなかった。
みんな顔には出さないようにしていたみたいだけど、”ダメ秘書“の私でも簡単に分かるくらいには良い顔をしていなかったから分かった。
「今日はパソコンを教えて貰ってどうだった?」
ミツヤマの新年会と私の歓迎会で、三山社長の隣の座布団でビールを飲んでいた私に三山社長が優しい声で聞いてきたので、それには苦笑いになりながら答える。
「もう、難しすぎて~・・・。
タイピング?も全然ダメダメです~。」
「それは慣れたら出来るようになるよ。
星野社長からは、事務の一般的な仕事を一通り出来るようにして欲しいと言われていて、それをうちで教えるという条件で金額も安くして貰ってるんだよね。」
「そうだったんですか・・・。」
「良い人だよね、星野社長って。」
「そうですね、良い人です。」
素直に答えた私のことを三山社長はジッと見てきて、それには疑問に思いながら私も三山社長のことを見返した。
そしたら・・・
三山社長の顔が私に近付いて来て・・・
頬にキスをされた時と同じように、そこまで近付いて来て・・・
”え、どうしよう・・・“
アワアワとしているだけの私にミツヤマ社長は私の耳元で小さく囁いた。
「望ちゃんって、星野社長の今の彼女なの?」
そんなことだけを囁いてきた三山社長は私の顔からすぐに離れ、私の返事をめちゃくちゃニコニコとしながら待っている。
さっきの動作と今の三山社長の顔を見て思う。
“この人、めっっっちゃタチの悪い天然かも。”
“女に無意識でこんなことをしたらダメだって~。”
そう言いたい気持ちはあるけれど、今それを掃除してしまったらこの会社の観察が上手くいかないことも分かるので、必死に口を閉じながら首を横に振った。
「そうなんだ?
妻が亜里沙ちゃんに、“星野社長にはたぶん今はもう彼女さんがいると思う”って言ってたよ?
“星野社長の会社で昔からの知り合いの女の子を雇っていて、その女の子が今の彼女だと思う”って言っていて。」
また私の顔の近くでヒソヒソとそんなことを言ってきて、それにもまた気になるけれど今はその内容の方が気になる。
「望ちゃんの名前も出しちゃってたから帰ったら妻に言っておくよ。」
「お願いしますね。
青さんと亜里沙さんの問題に私まで巻き込まれるのは無理なので。」
「うん、まあ・・・でも、妻がそう思ったのも僕はよく分かるけどね。
望ちゃんの審査の時なんて、星野社長が死にそうな顔をしながら悩みに悩んで、僕に望ちゃんの頬にキスをすることを頼んで来て。」
三山社長が凄く凄く楽しそうに笑って、その顔はなんだか年齢よりも随分と幼く見えるような気がする。
「あんなに悩んで頼んで来たのに、その後もずっっっっと悩み続けていたんだよ。
1日に何度も電話が掛かってきて“やっぱり頬にキスはしない方向で”って連絡してきたり、たまに家にまで来て“やっぱりやる方向で”って言ってきたり。
その度に言い訳みたいに、“僕が凄く可愛がってきた女の子なので・・・”とか、“こんなに小さい頃から僕に懐いてくれていた女の子で・・・”とか。
“こんなに小さい頃”っていう手のジェスチャーがさ、生まれたての赤ちゃんくらいの大きさで。」
三山社長が両手で再現したその大きさを見て、私も自然と笑った。
「私は青さんのネコなんです。
私は青さんが飼っていた死んでしまったノンノンっていう名前のネコの生まれ変わりなので、そこまで悩んでいたんだと思います。」
「そっか・・・。
最初は物静かで穏やかな人だよな~と思っていたのに突然叫び出して、“こんなこと俺はしたくないんだよ”って、“俺はただあいつを猫可愛がりしたいだけなのに、何でこんな可哀想なことをしないといけないんだよ”って。
亜里沙ちゃんから聞いていた通り、本当は面倒で煩い人なんだなってすぐに納得したよ。
普段の仕事では絶対に素を出さないそうだけど思わず叫んでしまったくらい、望ちゃんは星野社長のネコだったのか。」
三山社長が凄く凄く楽しそうに笑った後に私のことをジッと見詰めてきた。
「でも妻や僕から見たら、どう見てもネコに対するソレではないように見えた。
妻も僕もうちの犬のことを心から愛しているけど、あんな風な愛ではないよ。」
新年ミツヤマ初出社日の定時後
結局、12月は1日しか出勤しなかった私が久しぶりにミツヤマに出勤をすると、案の定みんなから良い顔をされなかった。
みんな顔には出さないようにしていたみたいだけど、”ダメ秘書“の私でも簡単に分かるくらいには良い顔をしていなかったから分かった。
「今日はパソコンを教えて貰ってどうだった?」
ミツヤマの新年会と私の歓迎会で、三山社長の隣の座布団でビールを飲んでいた私に三山社長が優しい声で聞いてきたので、それには苦笑いになりながら答える。
「もう、難しすぎて~・・・。
タイピング?も全然ダメダメです~。」
「それは慣れたら出来るようになるよ。
星野社長からは、事務の一般的な仕事を一通り出来るようにして欲しいと言われていて、それをうちで教えるという条件で金額も安くして貰ってるんだよね。」
「そうだったんですか・・・。」
「良い人だよね、星野社長って。」
「そうですね、良い人です。」
素直に答えた私のことを三山社長はジッと見てきて、それには疑問に思いながら私も三山社長のことを見返した。
そしたら・・・
三山社長の顔が私に近付いて来て・・・
頬にキスをされた時と同じように、そこまで近付いて来て・・・
”え、どうしよう・・・“
アワアワとしているだけの私にミツヤマ社長は私の耳元で小さく囁いた。
「望ちゃんって、星野社長の今の彼女なの?」
そんなことだけを囁いてきた三山社長は私の顔からすぐに離れ、私の返事をめちゃくちゃニコニコとしながら待っている。
さっきの動作と今の三山社長の顔を見て思う。
“この人、めっっっちゃタチの悪い天然かも。”
“女に無意識でこんなことをしたらダメだって~。”
そう言いたい気持ちはあるけれど、今それを掃除してしまったらこの会社の観察が上手くいかないことも分かるので、必死に口を閉じながら首を横に振った。
「そうなんだ?
妻が亜里沙ちゃんに、“星野社長にはたぶん今はもう彼女さんがいると思う”って言ってたよ?
“星野社長の会社で昔からの知り合いの女の子を雇っていて、その女の子が今の彼女だと思う”って言っていて。」
また私の顔の近くでヒソヒソとそんなことを言ってきて、それにもまた気になるけれど今はその内容の方が気になる。
「望ちゃんの名前も出しちゃってたから帰ったら妻に言っておくよ。」
「お願いしますね。
青さんと亜里沙さんの問題に私まで巻き込まれるのは無理なので。」
「うん、まあ・・・でも、妻がそう思ったのも僕はよく分かるけどね。
望ちゃんの審査の時なんて、星野社長が死にそうな顔をしながら悩みに悩んで、僕に望ちゃんの頬にキスをすることを頼んで来て。」
三山社長が凄く凄く楽しそうに笑って、その顔はなんだか年齢よりも随分と幼く見えるような気がする。
「あんなに悩んで頼んで来たのに、その後もずっっっっと悩み続けていたんだよ。
1日に何度も電話が掛かってきて“やっぱり頬にキスはしない方向で”って連絡してきたり、たまに家にまで来て“やっぱりやる方向で”って言ってきたり。
その度に言い訳みたいに、“僕が凄く可愛がってきた女の子なので・・・”とか、“こんなに小さい頃から僕に懐いてくれていた女の子で・・・”とか。
“こんなに小さい頃”っていう手のジェスチャーがさ、生まれたての赤ちゃんくらいの大きさで。」
三山社長が両手で再現したその大きさを見て、私も自然と笑った。
「私は青さんのネコなんです。
私は青さんが飼っていた死んでしまったノンノンっていう名前のネコの生まれ変わりなので、そこまで悩んでいたんだと思います。」
「そっか・・・。
最初は物静かで穏やかな人だよな~と思っていたのに突然叫び出して、“こんなこと俺はしたくないんだよ”って、“俺はただあいつを猫可愛がりしたいだけなのに、何でこんな可哀想なことをしないといけないんだよ”って。
亜里沙ちゃんから聞いていた通り、本当は面倒で煩い人なんだなってすぐに納得したよ。
普段の仕事では絶対に素を出さないそうだけど思わず叫んでしまったくらい、望ちゃんは星野社長のネコだったのか。」
三山社長が凄く凄く楽しそうに笑った後に私のことをジッと見詰めてきた。
「でも妻や僕から見たら、どう見てもネコに対するソレではないように見えた。
妻も僕もうちの犬のことを心から愛しているけど、あんな風な愛ではないよ。」
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