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トイレの手洗い場で手を洗いながら、さっきの三山社長からの言葉を思い出す。
「青さんは私のことが好きなのは知ってる・・・。
大好きなことも知ってる・・・。
でもその愛は、私にノンノンのことを重ねた愛で・・・。」
鏡に移る”誰もが可愛い“と思ってくれるような自分の顔を見詰める。
「それに私は凄く可哀想らしいから、私のことも弱みなだけ・・・。
私は青さんのタイプの女の人では全然ないから・・・。
青さんの私への愛は、お兄ちゃんの暗示と洗脳から生まれた愛なだけ・・・。」
今さっき生理が来たことを確認出来た私が鏡の中の自分に笑い掛ける。
「私は排卵日も排卵日前後も排卵痛があるタイプだから、ピルをやめた後も排卵予定日にそこまでズレがないことも分かってる・・・。」
”望が妊娠したら俺が結婚したいから、結婚もする。“
青さんが渡してくれたその気持ちと言葉をまた思い出し、手を拭いた後に一平さんの第2ボタンをスーツのブラウスの上からおさえた。
「青さんはいつも私が欲しい言葉を渡してくれる・・・。
私はあの時、一美さんのことを強くして欲しいと思いながらも凄く苦しくて・・・。
凄く悲しくて凄く虚しくて・・・。」
鏡の中の私は泣きそうな顔をしながらも笑っている。
「私が妊娠していたら結婚をしてくれるっていう青さんからの言葉を、私は”もう大丈夫“にしたくないと望んでた・・・。
心の奥底できっとそう望んでた・・・。」
青さんと結婚出来る未来は絶対にないけれど、青さんからのその気持ちと言葉を貰えて良かった。
凄く凄く良かった。
凄く凄く嬉しかった。
私は凄く凄く幸せだった。
「でも青さんの愛は”そういう愛“じゃない・・・。
青さんは私のことを一平さんに返そうとしてる・・・。
死にそうなくらいの嫉妬をするような愛じゃない・・・。」
愛姉さんが自分のことを男として好きではないと知り、愛姉さんが他の男の人のことを好きでエッチまでしていたと誤解した鎌田さんが死亡した姿を思い出し、小さく笑った。
「いいなぁ・・・。」
愛姉さんのことを追い掛けていった鎌田さんの後ろ姿も思い出しながら、自然と笑いながらトイレの扉から外へと足を踏み出した。
そしたら、いた。
ミツヤマの女性社員が、いた。
まるで私がトイレから出てくるのを待っていたような様子で、いた。
“Hatori”のロングコートを・・・私と同じデザインの、でも白いロングコートを着た女性社員が・・・。
自己紹介で転んだ私に声だけでも掛けてきてくれた、島の1つの責任者が座る席にいた綺麗な女の人がいて・・・
「私今さっき来た所で。
他の女の子から教えて貰った。」
“Hatori”の白いロングコートをゆっくりと脱いだ女の人は、スーツのジャケットからも分かるくらいの大きな胸を持った女の人だった。
”一美さんよりも大きいかも・・・。”
“私よりは絶対に大きい・・・。”
“痩せてるのに、めちゃくちゃ巨乳・・・。”
“顔は青さんのタイプではないけど、この身体は青さんが喜びそうだな・・・。”
「私の胸、同じ女なのに見すぎ・・・っ」
女の人が小さく吹き出しながら笑い、どこか懐かしい顔で私のことを見てきた。
「世間知らずな感じはするけど、そこまで悪い子とも思えない。
だから忠告に来た。」
女の人がそう言って、綺麗な長い髪の毛を色っぽくかき上げた。
その薬指に指輪がついていないことを確認すると、私よりも結構年上に見える女の人が真剣な顔で私のことを見詰めた。
「あの人、誰にでもああなの。
だから自分だけだって勘違いしないようにね?」
“あの人”というのは三山社長のことだと分かる。
そんなことは分かる。
でも、さっきからずっと青さんのことを考えていたからその言葉に青さんの姿が重なってしまう。
青さんは“ああいう人”だから、私だけに優しいわけではない。
青さんは誰にでも優しい。
凄く凄く、凄く凄く優しい・・・。
ここまで可哀想なのが私ではなく他の女だったとしても、青さんは迷わず手を差し伸ばしていていた。
私だけではない。
青さんが手を差し伸ばすのは私だけではない。
それに、私は可哀想でなければ青さんからは見向きもされなかった女だった。
青さんのタイプの女ではないから、私なんて青さんからこんなに構って貰えることなんてなかった。
拾って貰えることなんてなかった。
青さんは好みの女の人がいたら自分から声を掛ける人で。
自分からどんどんアプローチをしていく人で。
私は“可哀想”で、私は“ラッキースケベ”で、それらがないと私なんて青さんから素通りされる女で。
パソコンも出来ない私は青さんの会社にも採用されないような女で。
勘違いなんてしていない。
私はちゃんと分かっている。
ちゃんと、ちゃんと理解している。
きっと理解出来ている。
青さんからずっっっとメッセージの返事を貰えていない時点で、知っている。
そんなことは昔から知っている。
「ちょっと・・・良い歳の大人なんだからすぐに泣くのはやめなさいよ。
そんな風に泣いたら優しくして貰えるからって、可哀想な女になるのはやめなさい。」
女の人がしっかりとした声で私にそう言ってくる。
「顔や身体なんて使わなくても、涙なんて武器にしなくても、それでも必要とされるような女になりなさい。」
““Hatori”の白いロングコートの女の人“が私にそう言ってくる。
”ダメ秘書“の私にそんな厳しいことを言ってくる。
なんだか、凄く苦しい・・・。
凄く凄く苦しくて・・・。
息が出来なくなる。
苦しい・・・。
苦しい・・・。
”助けて・・・・・・・・・。“
大きく泣きながら、心の中でそう言った時・・・
「望。」
聞き覚えのある男の人の声が、でもいつも聞いている声とは違う優しい声が聞こえて。
涙の向こう側に、見えた。
私のもう1人の”友達“、田代君が見えた。
”ソっちゃんが隣にいない時の田代君は普通に格好良いね・・・。“
田代君の姿を見ただけで心が一気に軽くなり、そんなことまで思えた。
「青さんは私のことが好きなのは知ってる・・・。
大好きなことも知ってる・・・。
でもその愛は、私にノンノンのことを重ねた愛で・・・。」
鏡に移る”誰もが可愛い“と思ってくれるような自分の顔を見詰める。
「それに私は凄く可哀想らしいから、私のことも弱みなだけ・・・。
私は青さんのタイプの女の人では全然ないから・・・。
青さんの私への愛は、お兄ちゃんの暗示と洗脳から生まれた愛なだけ・・・。」
今さっき生理が来たことを確認出来た私が鏡の中の自分に笑い掛ける。
「私は排卵日も排卵日前後も排卵痛があるタイプだから、ピルをやめた後も排卵予定日にそこまでズレがないことも分かってる・・・。」
”望が妊娠したら俺が結婚したいから、結婚もする。“
青さんが渡してくれたその気持ちと言葉をまた思い出し、手を拭いた後に一平さんの第2ボタンをスーツのブラウスの上からおさえた。
「青さんはいつも私が欲しい言葉を渡してくれる・・・。
私はあの時、一美さんのことを強くして欲しいと思いながらも凄く苦しくて・・・。
凄く悲しくて凄く虚しくて・・・。」
鏡の中の私は泣きそうな顔をしながらも笑っている。
「私が妊娠していたら結婚をしてくれるっていう青さんからの言葉を、私は”もう大丈夫“にしたくないと望んでた・・・。
心の奥底できっとそう望んでた・・・。」
青さんと結婚出来る未来は絶対にないけれど、青さんからのその気持ちと言葉を貰えて良かった。
凄く凄く良かった。
凄く凄く嬉しかった。
私は凄く凄く幸せだった。
「でも青さんの愛は”そういう愛“じゃない・・・。
青さんは私のことを一平さんに返そうとしてる・・・。
死にそうなくらいの嫉妬をするような愛じゃない・・・。」
愛姉さんが自分のことを男として好きではないと知り、愛姉さんが他の男の人のことを好きでエッチまでしていたと誤解した鎌田さんが死亡した姿を思い出し、小さく笑った。
「いいなぁ・・・。」
愛姉さんのことを追い掛けていった鎌田さんの後ろ姿も思い出しながら、自然と笑いながらトイレの扉から外へと足を踏み出した。
そしたら、いた。
ミツヤマの女性社員が、いた。
まるで私がトイレから出てくるのを待っていたような様子で、いた。
“Hatori”のロングコートを・・・私と同じデザインの、でも白いロングコートを着た女性社員が・・・。
自己紹介で転んだ私に声だけでも掛けてきてくれた、島の1つの責任者が座る席にいた綺麗な女の人がいて・・・
「私今さっき来た所で。
他の女の子から教えて貰った。」
“Hatori”の白いロングコートをゆっくりと脱いだ女の人は、スーツのジャケットからも分かるくらいの大きな胸を持った女の人だった。
”一美さんよりも大きいかも・・・。”
“私よりは絶対に大きい・・・。”
“痩せてるのに、めちゃくちゃ巨乳・・・。”
“顔は青さんのタイプではないけど、この身体は青さんが喜びそうだな・・・。”
「私の胸、同じ女なのに見すぎ・・・っ」
女の人が小さく吹き出しながら笑い、どこか懐かしい顔で私のことを見てきた。
「世間知らずな感じはするけど、そこまで悪い子とも思えない。
だから忠告に来た。」
女の人がそう言って、綺麗な長い髪の毛を色っぽくかき上げた。
その薬指に指輪がついていないことを確認すると、私よりも結構年上に見える女の人が真剣な顔で私のことを見詰めた。
「あの人、誰にでもああなの。
だから自分だけだって勘違いしないようにね?」
“あの人”というのは三山社長のことだと分かる。
そんなことは分かる。
でも、さっきからずっと青さんのことを考えていたからその言葉に青さんの姿が重なってしまう。
青さんは“ああいう人”だから、私だけに優しいわけではない。
青さんは誰にでも優しい。
凄く凄く、凄く凄く優しい・・・。
ここまで可哀想なのが私ではなく他の女だったとしても、青さんは迷わず手を差し伸ばしていていた。
私だけではない。
青さんが手を差し伸ばすのは私だけではない。
それに、私は可哀想でなければ青さんからは見向きもされなかった女だった。
青さんのタイプの女ではないから、私なんて青さんからこんなに構って貰えることなんてなかった。
拾って貰えることなんてなかった。
青さんは好みの女の人がいたら自分から声を掛ける人で。
自分からどんどんアプローチをしていく人で。
私は“可哀想”で、私は“ラッキースケベ”で、それらがないと私なんて青さんから素通りされる女で。
パソコンも出来ない私は青さんの会社にも採用されないような女で。
勘違いなんてしていない。
私はちゃんと分かっている。
ちゃんと、ちゃんと理解している。
きっと理解出来ている。
青さんからずっっっとメッセージの返事を貰えていない時点で、知っている。
そんなことは昔から知っている。
「ちょっと・・・良い歳の大人なんだからすぐに泣くのはやめなさいよ。
そんな風に泣いたら優しくして貰えるからって、可哀想な女になるのはやめなさい。」
女の人がしっかりとした声で私にそう言ってくる。
「顔や身体なんて使わなくても、涙なんて武器にしなくても、それでも必要とされるような女になりなさい。」
““Hatori”の白いロングコートの女の人“が私にそう言ってくる。
”ダメ秘書“の私にそんな厳しいことを言ってくる。
なんだか、凄く苦しい・・・。
凄く凄く苦しくて・・・。
息が出来なくなる。
苦しい・・・。
苦しい・・・。
”助けて・・・・・・・・・。“
大きく泣きながら、心の中でそう言った時・・・
「望。」
聞き覚えのある男の人の声が、でもいつも聞いている声とは違う優しい声が聞こえて。
涙の向こう側に、見えた。
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”ソっちゃんが隣にいない時の田代君は普通に格好良いね・・・。“
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