【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました！

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「嬉しい？」



全て書き終わった後、青さんからそう聞かれた。



震える手で書いた下手くそな字を見下ろしながら、私は何も答えられなかった。



声に出せなくても頷けば良いのに、そんな嘘も演技も出来なくて、冷たい涙を流し続けながら青さんと私の名前が書かれた婚姻届を眺めていた。



長い長い時間、眺めていた。



”一平の、奪い取ってきてやった！！“



左手の薬指にはめてもらった結婚指輪よりも、私は”一平さんの第2ボタン“をこんなにも求めている。



青さんが死ぬ気で私に渡してくれた”一平さんの第2ボタン“を私は死ぬまで大切にするつもりだった。



「嬉しい？」



もう1度そう聞かれ、私は大きく大きく泣いた。



”全然嬉しくない・・・・っっ“



”こんな“愛してる“は全然嬉しくない・・・っっ“



”こんな”愛してる“はいらない・・・っっ“



”青さんから欲しいのはこんな“愛してる“なんかじゃない・・・っっ“



心の中で叫びながら、唇をキツく結び続けた。



結び続けていたはずなのに・・・。



私はダメ秘書だから・・・。



大バカなダメ秘書だから・・・。



「こんな”愛してる“はいらない・・・っっ。」



顔を上げ、そう叫んでしまった。



「青さんにしか渡せない”愛してる“が欲しい・・・っっ」



真剣な顔で私のことを見詰めている青さんに叫び続ける。



「青さんだから渡せる”愛してる“が欲しい・・・っっ！！！」



「うん。」



「青さん、私・・・・っ」



「うん。」



「私、加藤望は嫌だ・・・・っっ」



「うん。」



「でも、私は加藤望だから・・・。」



「うん。」



「加藤望の私が受け取ることが出来る、青さんからの”愛してる“が欲しい・・・っっ」



「うん。」



青さんが怖いくらい真剣な顔で頷き、段ボールの上にある婚姻届を手に取り、ビリビリと破いた。



そして私の左手の薬指からも結婚指輪を抜き取り・・・



私の首に”一平さんの第2ボタン“を優しく掛けてくれた。



「俺の望への”愛してる“を舐めるなよ。
一平にも負けるかよ。」



そう言って、青さんらしい大きな笑顔で笑った。



「誰にも負けないくらいのデカい”愛してる“を望に渡してやるよ。
それまでは俺の所でゴロゴロしながら楽しみに待っとけ。」



それに頷いてはいけないと頭では分かっているのに、私は泣きながら頷いてしまった。



「ありがとう、青さん・・・。」



「そのゴミはお前が捨てておけよ。
ゴミだとしても俺には捨てらんねーから。
指輪は売って新しいコートでも買えよ、家政婦としてのボーナス。」



青さんは立ち上がり、私の部屋から出ていこうとした。



でも、扉の前で立ち止まって。



「嬉しいかって聞かれて、演技でも頷いておけば俺がそれなりに幸せにしてやったからな。
俺にはその覚悟もちゃんとあったことは覚えておけよ。」



青さんの大きな大きな背中を眺めながら、小さく笑いながら返事をした。



「私、青さんと再会をしてから欲張りになっちゃったかもしれない・・・。」



「それで良い。
お前はもっと欲を出した方が良い。」



「うん、だから青さんにもちゃんと幸せになって欲しいとも思うよ。」



「俺は幸せだったよ。
望との結婚生活も幸せだったし、最後には本当に婚姻届も書けて結婚指輪もはめられた。
俺は呆けてもこの1ヶ月のことは忘れねーよ。
俺の中では望の腹の中にはノンノンだって本当にいた。
家族3人ですげー幸せな毎日だった。」



「うん・・・。」



”私もだよ。“



嘘や演技に聞こえてしまうのは分かっているので、その言葉は必死に我慢をした。