【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha

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ゆっくり、ゆっくりと振り返ると・・・



野々ちゃんが少しだけ息を切らして私のことを追ってきたのだと分かった。



真冬の朝の空気の中、野々ちゃんの口から白い息が吐き出されていく。



こんなに寒い中でスーツのジャケットも羽織らずに乱れているブラウスを直しながら、私がさっきまで持っていた晃孝堂の紙袋を持ち上げた。



「すみません・・・っお願いしていた時間よりも早めに来てくださったんですね・・・っ!
アパートの階段を勢い良く降りる音が聞こえて、もしかしてと思ったら紙袋が掛かっていて・・・っ!」



「早めにって言っても、15分前だけどね。」



「普通は、アポの時間の5分前くらいの訪問ですからね。」



「そっか・・・そうなんだ、知らなかった・・・。
私は普通じゃないから知らなかった、ごめんね・・・。」



目を背けたいのに顔が全然動かない。



だって、晃孝堂の紙袋を持ち上げる野々ちゃんの指が凄くキラキラと輝いているから。



「あ、指輪ですか?
これ、バレンタインデートの時に貰って。」



凄く凄く嬉しそうな顔で笑う野々ちゃんが、左手の薬指にあるキラッキラの指輪を見下ろした。



「こんなに石がついている指輪とか緊張しちゃいますよ。
でも・・・凄く嬉しくて。」



凄く凄く幸せそうに、沢山の石で光り輝いている指輪に指先で触れた。



「2人の名前まで刻印してくれてて、私は市販のチョコしか準備してなかったのに、凄いお店の予約と支払いだけじゃなく、こんなに嬉しいプレゼントまで貰っちゃって。」



全然違う・・・。



私に渡してくれた指輪と全然違う・・・。



私に渡した指輪は石なんて1つもついていなかった。



サイズだって全然合っていなかった。



青さんと私の名前なんて刻まれてもいなかった。



嬉しそうに指輪を見詰める野々ちゃんの向こう側に、見えた。



スーツにコート姿の青さんがこっちに向かって歩いてくる姿が、見えた。



遠くても分かる。



凄く怒っている。



私のことを見て、凄く怒った顔をしている。



”一平の、奪い取ってきてやった!!“



”結婚するぞ。“



消えていってしまう。



私の青(あお)も星も消えていく・・・。



そんな顔で私のことを見ないで。



そんな目で私のことを見ないで。



「こいつに二度と会うなって言ったよな?
まんじゅうなんていらねーよ。
持って帰って自分で食ってろ。」



青さんが凄く凄く怒った顔で私にそう言って、野々ちゃんの手から晃孝堂の紙袋を取り私の胸に突き返してきた。



さっきまで野々ちゃんに愛の言葉を渡していた青さんが、私にはそんなことを言いながら晃孝堂のおまんじゅうをこんな風に扱ってきた。



私が晃孝堂の紙袋を抱き締めたのを確認した青さんはすぐに私から目を逸らし、野々ちゃんのことを見下ろし・・・



「お前も・・・・・・・って、どんな格好だよ、ハレンチな奴だな。」



怒りながらもコートを脱ぎ、そのコートを野々ちゃんの身体に乱暴にだけど掛けてあげていた。
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