【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました！

28

28-6

オフィスビルを出るとすぐそこに一美さんの姿があった。
一美さんの美しいその姿には通り過ぎる人達がチラチラと見ている。
それくらいに一美さんは"普通”ではない、うちの自慢のお嬢様だった。



その自慢のお嬢様が下を向き、私のことを待っている。



久しぶりに見たそんな姿には思わず小さく笑ってしまう。



"うちのお嬢様は相変わらず弱っちぃな～。”



可哀想な可哀想なうちのお嬢様は急に凄く弱くなることがある。
こんな私に手を引いて欲しがる時がある。
私のお兄ちゃんの手を求めることは"いけないコト”だと直感的に思っているからか、昔からお嬢様が求める手は私の手だった。



こんなに美しく、時には驚くほど強くもなれるお嬢様が、私の前ではたまに弱い弱い1人の女の子になる。



"私ではなくて安倍さんじゃまだダメですか？”



心の中でそう聞いてみた後、見た瞬間から思っていたことを口にした。



「あれ、一美さん・・・少し染めました？」



定時をこんなに過ぎた夜、空はもう真っ暗だけどオフィス街はまだ明るくて。
その光りだけでも一美さんの"何か”が変わったことが私は分かった。



お兄ちゃんだけではなく私だって一美さんの変化なら分かる。



どんなに小さなことだって分かる。



私は加藤望。
小関の"家”の秘書、加藤の"家”に生まれた。



私の声にゆっくりと顔を上げた一美さんの顔はとても悲しそうな顔をしていた。



全然普通の顔なんて出来ていなくて。



昔から何度か見たことがあるこの顔に、昔と同じように口を開いた。



「どうしました？疲れちゃいました？」



胸の前でスマホを両手で握り締める一美さんの手に力が入ったのを確認した。



私に連絡をしたスマホを・・・。



お兄ちゃんの連絡先は登録されていないスマホを・・・。



そして、きっと安倍さんの連絡先も登録されていないであろうスマホを・・・。



泣きそうな顔でスマホをギュッと握り締めた一美さんは、小さく震える口を動かした。



「世間一般の人からしてみたら、うちの財閥の分家の思考は到底理解が出来ないのかな。」



一美さんから出てきたその言葉は、一美さんのこの表情からは想像が出来ないくらい、"普通”の声をしていた。