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狭い1DKの部屋。
1LDKでもなく、1DKの部屋。
それも、広いわけではなく狭い1DKの部屋。



そこのローテーブルに座り、私は正直驚いていた。
築年数は浅いであろう綺麗なマンションである1室・・・。
アポは取れていたから部屋に入れてくれた、ニコリとも笑わない女性・・・。
データでは、今年60歳になる、眼鏡を掛けた女性・・・。



そんな女性が、この狭い部屋で暮らしている・・・。
1人で暮らしているわけではない・・・。
旦那さんと2人で暮らしている・・・。
大企業の部長をしているはずの旦那さんと・・・。
そして、この女性自身も研究開発の部長でもあるはずで・・・。



何故こんなに狭い部屋に住んでいるのかと、正直驚いていた・・・。



「お二人、ご出身は?」



女性の隣・・・宮本さんの隣に座った旦那さんが声を掛けてくれた。
女性の名前は、旧姓宮本・・・宮本明日香さん。
かつて、“マツイ化粧品の若き天才空手家”と呼ばれていた人・・・。
企画部で通ったどんな企画でも形にすることが出来ていた女性・・・。



それも、その企画は“伝説の男”が作っていた企画の時により力を発揮した。
“伝説の男”、松居会長の一人娘である松居理菜の旦那さん、鮫島光。
“鮫”にちなんで、“時代の先を泳いでいる”と言われていた男。



時代を先取りしたような企画の商品を、当時まだ若手であったこの宮本さんが研究し開発していた。



ボランティアで空手道場を開いている松居会長。
だからか、うちの会社の社員のことを“空手家”と呼ぶ。
でも、鮫島光のことは“空手技しか使わないような男ではなかった”と言っていた。
だから、“伝説の男”。
当時は異例の高卒新卒入社、元不良のような出で立ち、そして・・・若すぎる死。



そんな鮫島光の死を誰もが惜しみ、“伝説の男”と呼ばれていた。



そして・・・鮫島光がこの世を去ってしまったのを追うように、“マツイ化粧品の若き天才空手家”もマツイ化粧品を去っていった。
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