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それでも、藤岡副社長を見詰め瞬きを何度も繰り返した。
そんな私を藤岡副社長は面白そうな顔で笑う・・・。



「あまり・・・詳しくは聞いていません・・・。
話してくれた内容だけで・・・。」



「父親のことは?
父親が剛士に・・・あの子にしたことは?」



「聞いています・・・。
詳しくは聞いていませんけど、聞いています。」



苦しい空気の中で私が答えると、副社長は私の顔をジッと見た後に少しだけ笑った。



「今から“剛士”の友達として、個人的な質問をしていいかな?」



「はい・・・。」



「笠原さんの経験人数は何人なの?」



そんなことを副社長から聞かれ驚いたけど・・・
驚いたけど、瞬きをした。



「1人です。」



そう答えると、部屋の空気が一気に元通りになった。
やっと空気が吸えて必死に呼吸を繰り返す。



私を見下ろす副社長が優しい笑顔になった・・・



「感謝しているよ、本当に。」



「感謝ですか・・・?」



「あの子を治療出来たのは笠原さんだけだった。
剛士のこともお願いしたい。」



「天野さんのことも・・・。
私に出来るでしょうか・・・。
私は今まで男の人と関わるのを避けてきてしまっていて。」



「男の人が苦手だった?」



「苦手といいますか、どうしたら良いのか分からないので困ってしまって・・・。
その時に1番幸せな顔でいられないので避けてしまっていました。」



俯きたい気持ちになったけれど・・・なんだか大丈夫で顔を上げたままでいられた。



副社長は面白そうな顔で笑う・・・。



「少し度胸がついたね?
剛士に輸血してもらった?」



「分かるんですか・・・?」



「前に輸血した所を見ることが出来たからね。
急に女らしくもなったから木葉さんにも?」



「はい・・・。」



「それなら大丈夫そうだね。
剛士のこともよろしく頼むよ。」



副社長からお願いをされてしまった・・・。



「剛士が言う通り、剛士のメンタルヘルス不調を改善出来るのは笠原さんしか存在しないだろうから。
どんなに優秀な医師でもカウンセラーでも、きっと剛士のことは見付けられなかった。
それなのに笠原さんは見付けられた。」



「私が天野さんに見付けてもらったんですけどね・・・。」



「笠原さんに見付けて貰えたから、剛士も笠原さんを見付けられたんだろうね。
だからお願いしたい、副社長としても個人的にも。
会社としても剛士は貴重な人材だし、友達としても幸せになってもらいたいからね。」



そう言って副社長は優しい笑顔で珈琲店を出ていった・・・。
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