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あのオジサンには少しだけ感謝をしていた。
少しだけだけど、本当に感謝をしていた。



翌朝も5時にお店に来た時までは・・・。



「味、濃・・・っっっ!!!」



今日でオジサンがうちのお店に来てから3ヶ月が経とうとしている。
それなのにオジサンが今日もそんな言葉を出してくる。



それにはめちゃくちゃムカつきながら、カウンターに座るようになったオジサンをカウンター越しから見下ろす。



「嘘でしょ!?
今日は昨日より更に味付け薄くしてるんだけど!!」



「どこがだよ!?
味、濃・・・っっ!!!!
ちょっと食ってみろよ!!!」



今日もそう言って、自分が使っていたお箸で野菜炒めのお肉を私に向けてきた。
それを見て・・・昨日までは断っていたけれど、今日は思いきって食べてみた。



そしたら・・・



「味、な・・・っ!!!」



あまりにも薄い味付けに思わず叫んだ。



それからオジサンを睨み付ける。



「何の嫌がらせ!?
こんなに味が薄くてもまだ濃いとか言ってきて!!」



「濃いだろ!?
これじゃあ素材の味が消えてるだろ!!」



「別に消えてないから!!
これ全然味ないじゃん!!
味見をした時と同じく、やっぱり味ないよ!!」



何度作っても何度作っても、毎朝毎朝味が濃いと大騒ぎをするうるさいオジサン。
今日は昨日よりもずっと味を薄くしていた。
それまでは美味しく作ることも意識していたけれど、嫌がらせかというくらい味付けを薄くした。



味見をした時と同じく味が全然しない野菜炒めのお肉だったことで、こんなオジサンと間接キスをしてしまったことについてもどうでもいいと思うくらいにムカついてきた。



「千寿子、“朝の人”大丈夫かな?」



オジサンと今日も口喧嘩をしていたらお父さんが2階から初めて降りてきた。
昨日お父さんにも味見をして貰って「これじゃあ薄すぎる」と心配していたからかもしれない。



陰でこのオジサンのことを我が家では“朝の人”と呼んでいて、その呼び名を本人を目の前に言ってきたお父さんには少しだけ焦った。



そしたらオジサンが楽しそうに笑い、お父さんのことを見てきた。



「初めまして、松戸朝人と申します。
朝の人と書いて朝人です。」



そんな名前には思わず笑ってしまった。
大人みたいな感じで立ち上がりお父さんに挨拶をしているオジサンが、楽しそうに笑いながら私のことを見てきた。



「気持ちも頭も強い良いお嬢さんですね。
顔はこのポスターの和泉かおりよりもっと幼い時のような可愛い顔をしていますけど。」



和泉かおりのポスターを指差しながらオジサンがそう言った。
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