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こっちの家に暮らすことになったら外面にも気を付けて“朝1番”もなくなる、そしてジサマとバサマのことばかり思い出すことになる、そう思っていた。
でも実際はそんなことはなくて・・・。



それくらい、それくらいに・・・



「また熱出してんのかよ!!!」



日曜日、サッカー部の練習試合が終わった後にカヤの部屋の扉を普通に開けた。
小学校3年生なったカヤ、俺は高校3年生になっていた。



オバサンから買ってくるように頼まれたポカリを持ってベッドに寝ているカヤに近付くと、カヤの顔色がめちゃくちゃ悪い。



冷えピタをしているおでこから下、その下は真っ赤な顔をしているけれどいつもの熱の時よりもずっと顔色が悪い。



「辛いよ~・・・。」



「熱何度?」



「37.8度。」



「余裕だろ。」



「うざ・・・っ。
ポカリ置いて早く出ていって。」



「はいはい。」



「練習試合どうだったの?」



「俺がいて負けるわけねーだろ。」



「キモッ。朝と付き合ってる彼女がいるなんて信じられないくらいにキモい。」



「モテ過ぎて面倒なくらいモテるんですけどどうしたらいいとか分かる?」



「調子乗れるのは今のうちだけ。
後で調子になんて乗れなくなるんだから。」



「マジで?
オジサンからは大丈夫って言われてるぞ?」



「長い目で見たらじゃない?」



「お前って何か本当にませてるよな。
俺の部屋に急に入ってくるし。」



この前彼女を初めて連れてきてそういうことになりそうになった時、カヤが突然俺の部屋に入ってきた。
オジサンが煩いくらい彼女を連れてこいと言うから連れてきたのに、二度と彼女という存在を自分が暮らす家に連れてくるかと誓った。



顔色がめちゃくちゃ悪いカヤのことを見詰めたまま喋り続ける。
カヤは毎週末必ずといっていいほど熱を出す。
美鼓も疲れやすい子ではあるけどカヤは美鼓以上に身体が弱かった。



苦しそうな顔をしているカヤを見下ろしながら俺は言った。



「お前も外面を気にしてる奴だからな、疲れるだろ。」



「うん、疲れる・・・。」



美鼓は天気予報が晴れだろうが長靴を履いて傘を持っていくような子だった。
カヤはそんなことは絶対にしない。
天気予報が外れてその日土砂降りになるのが分かっていたとしても絶対にしない。



「“普通”でいるのは疲れる・・・。」



「お前は気持ちが弱いからな、頭は結構強いのに。」



「また悪口?」



「少しだけだろ!!」



「いつも私の悪口ばっかり。
お姉ちゃんのことは溺愛してるのに。」



「美鼓は可愛すぎるからな!!」



「顔がでしょ?」



「顔もそうだけど中身も弱すぎて!!」



「お姉ちゃんへの突然の悪口。」



「いや、2人とも良い子だなと思ってるよ。
普通じゃねーのに美鼓もカヤも努力してて純粋に良い子だとは思ってるって。」



「それはそれでキモい。」



「・・・ちょっと待ってろ。」



カヤの悪すぎる顔色を見て俺は慌てて立ち上がり、そしてカヤの部屋を飛び出した。



そしたら、俺の背中に小さな声が聞こえてきた。



「朝・・・っ吐きそう・・・っ」



その言葉を聞いてまた慌ててカヤの部屋に戻り、上半身を少しだけ起こして口を小さく開いたカヤの姿を確認し、俺は急いで両手をカヤの口のすぐ下に持っていった。



そして・・・



カヤが吐いた物を俺の両手で受け止めた。



「ごめ・・・っ」



吐きながらも苦しそうな顔で謝ってきて、それには普通に笑った。



「イトコなんてほぼ家族だろ!!
汚くもなんともねーから気にすんな!!
全部吐き出せ!!」



俺の言葉にカヤが涙も鼻水も垂らしながら小さく笑い、それからまた少しだけ吐き出していた。



少しだけ顔色が良くなったカヤのブスな顔を見て俺は口を開く。



「朝5時にお前まで起きなくていい。
俺がみんなの朝飯を作るから。」



カヤがこんなに疲れているのは俺の為に“朝1番”の時間を作ってくれているからだとも分かっていた。
だからそう伝えると、カヤは真剣な顔で首を横に振った。



「朝があの家に戻るまでは私が朝の“朝1番”になる。
おばあちゃんとおじいちゃんの代わりに。
私を何歳だと思ってるの?
そんな本心じゃないこと言ってこないでよ。
ガキの私にまで外面良くしてこないでよね。」



そう言ってくれたカヤの顔はやっぱりブスで。
でも病人だから今日は言わないで明日このことを言ってやろうと“ガキ”の俺は思った。



こんなことが起きたりこんなことばかり考えているからか、ジサマとバサマのことは不思議とそんなに考える時間がなかった。
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