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新卒で増田ホールディングスに入社し、その年の8月




「佐伯ちゃん、元気ない?」



ランチから1人で増田ホールディングスの大きなビルに戻ると、すぐに営業部の先輩、若松さんが声を掛けてきた。
手にはアイスがのったアイスコーヒーのようなカップを持っている若松さん。



「それは元気なくなりますよ、みんなして“佐伯ちゃん佐伯ちゃん”って。
私の名前、福富ですからね?」



「・・・そうだ、そうだった!
福富ちゃんだよな・・・何でかいつも思い出せなくなるんだよな!!」



「それくらい佐伯さんの10年前みたいな見た目ですからね~。」



「いや、全然そんなことないだろ。
佐伯ちゃんの方が断然可愛い。」



「子どもみたいにですよね?」



「そういう話ではなく!!
佐伯ちゃんって元気だし明るいし素直で良い子で可愛い!!
怒ってる姿も何か可愛いしな!!」



「どうしよう、全然嬉しくないんですけど。」



「何でだよ!褒めてるのに!!」



若松さんが楽しそうに笑いながら、私にアイスがのったアイスコーヒーのようなカップを渡してきた。



「これあげるから元気だせよ!!
まだ口付けてないから!!」



「いらないです~!!
私、コーヒー飲めないもん。」



「可愛い可愛い、そんな所も可愛い!!」



「絶対からかってるだけですよね!?」



「マジで違うって!!」



そんな会話をしながら若松さんとオフィスビルのエレベーターの前に立つ。



「佐伯さんと上手くいってるのか?」



「“佐伯ちゃん”なんて呼ばれていますけど、仲が悪すぎてダメですね。
何かと私に喧嘩を売ってくるんですけど。」



「佐伯ちゃんが元気だし明るいし素直で良い子で可愛いから嫉妬してるんだろ!!」



「私の方が佐伯さんに嫉妬してますから!!
私、あんな風な大人になれると思い込んでいた痛い女子高生でしたからね!!」



新卒で入社をして数ヶ月、この会社の人達は私のことを“私”とは認識してくれず、私はいつだって“佐伯ちゃん”だった。



「めちゃくちゃ嫌なんですけど~・・・。
なんか色々上手くいかない・・・。
せっかく実家に引っ越して来たのに、色々と上手くいかない・・・。」
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