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先生の横顔は一瞬だけ強張ったように見えた。
でも、一瞬だけ。
すぐに爽やかな笑顔になって、ゆっくりと私を見てきた。



そして・・・



今度は爽やかな笑顔が一瞬でなくなり・・・



驚いた顔のまま固まった。



私の顔を見詰めたまま、めちゃくちゃ固まっていて・・・。



それには思わず吹き出してしまった。



約5年も経ってしまったけれど、先生はまだ私のことを覚えてくれていたようだから。
“朝1番”の娘だっただけの私を覚えてくれていたらしい。



“朝人”が“朝1番”に帰ってくることはなかったけれど、先生が私のことを覚えてくれていたという事実にはめちゃくちゃ嬉しくなりながら先生を見上げる。
そんな私のことを先生がめ~ちゃくちゃ嬉しそうな顔で見詰め、ゆっくりと口を開いた。



「千寿子。」



先生が・・・



先生が、私の名前を呼んだ。



この会社の中、男の人達はみんな私のことを“佐伯ちゃん”と呼ぶ。



この大きな大きな会社の中、信じられないことに男の人達全員が私のことを“佐伯ちゃん”と呼ぶ。



そんなこの建物の中で先生が私のことを“千寿子”と呼んでくれて・・・



ビッッックリするくらい、この胸が嬉しいと騒ぎだした・・・。



ビッッックリするくらい、再会したばかりの先生のことが好きだと思った。



「朝!!さっきの応接室18時半まで取ってあるよ!!
使ってもいいって社長も言ってるから!!」



カヤのお姉さんがエレベーターに向かう途中で立ち止まっていて、そこから先生に叫んできた。



入社してすぐの頃にカヤのお姉さんには私から挨拶をしたけれど、それからは特に接点はなくて。
先生に可愛く笑い掛けながら叫んでいたカヤのお姉さんは、先生の隣に並ぶ私の方にも視線を移してきた。



凄く凄く優しい笑顔で。
私には出来そうもないような優しい笑顔で。



「千寿子、少しだけ時間貰える?」



先生が“先生”の顔で私にそう聞いてきた。
“朝人”ではなく“先生”の顔で。



それが寂しい気持ちにもなったけれど、嬉しくもあった。
23歳になる私のことをこの人は大人の女として見てくれた。
私が高校生の頃のこの人はオジサンだけど中身は“ガキ”みたいな人だったけど、大人になった私の前ではちゃんと“先生”の顔で接してくれた。



それにめちゃくちゃ嬉しくなる気持ちを実感しながら、私は大きく頷いた。
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