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「アント皇子との結婚から3年、妊娠出来ていないのかと僕が陛下に聞かれました、アンナ姫。」



私の執事であるクレアンが、眼鏡の奥の瞳を困ったように光らせ笑っている。



私付きの1人の侍女であるタリスまで小さく吹き出していて、それに私は苦笑いをして答える。



「クレアン、初夜の1度だけの子作りで妊娠って出来るんだっけ?」



「そういう奇跡が起こることもありますね。」



「じゃあ、そういう奇跡を起こせって陛下が言ってるってこと?
ユニザレス陛下って能無しだよね。
国王が能無しだからまだこの国だけ奴隷制度が続いてるんだろうけど。
あの初夜から3年も経つのに“奇跡を~”とか言ってるなんて本当に強欲の王。」



「今夜その強欲の王がアンナ姫の元にやってくるそうですよ?
自分の子種を注いでやると意気込んでいました。」



「あの強欲王が~?
アント皇子と私が結婚するってなった時は、“こんな鼠を王族に入れるか!!”って大反対してたのにね?」



「女性は10代後半で結婚することが一般的なこの国で、アンナ姫は僕と同じ19歳。
それほど若い年齢ではありませんけどね。
この王宮にいる女性の中で、髪色以外の姿は尋常ではなく美しいですからね。
この王宮だけではなく、この世界で1番の大国であるこの国の中でも1番美しい女性なんじゃないですか?」



クレアンが楽しそうに笑い、深い紺色の自分の髪の毛を少しだけ手で触れた。
私と同じ深い紺色の髪の毛を。



私だけではない。
侍女のタリスの髪の毛も深い紺色の色をしている。



白に近い髪色を持つ人間が神に近い能力を持っていると言われるこの世界で、黒髪は生まれた瞬間に殺されるこの国で、私達は深い紺色の髪の毛を持っていた。



私はそんな色を持って生まれ、そして皇子の正室にもなった。



「14番皇子のアント皇子がお相手をしてくれないようでしたら、僕がお相手になりましょうか?
アント皇子も僕達と同じ髪の色を持っていますし、夜の闇できっと陛下は僕が相手だとは気付きませんよ。」



クレアンの提案にタリスは楽しそうに笑っていて、私だけは慌てて首を横に振った。



「タリス、私の代わりに相手出来る?
夜の闇でクレアンの相手が私ではないとあの強欲王は気付かないだろうし。」



アント皇子との部屋ではなく、部屋の中の扉で行き来が出来る小さな部屋からクレアンと一緒に部屋の外に出た。
アント皇子はいなくなっていた部屋を通って。



「侍女の私には大役過ぎるので無理です!!」



窮屈で重いドレスを着た身体で、タリスの楽しそうな声を背中で聞きながら。
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