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女が副社長室から出た後、従兄弟様は楽しそうな顔でソファーに戻ってきた。



「久しぶりに良い女、いたね?」



そんな第一声に、俺は従兄弟様を睨み付ける。



「俺が最初に気付いたんですけど。」



「早く声を掛けないから。
気付いた時には、もう手遅れになることもあるからね?
そうなってから取り戻すのは、すごい大変だから。」



「奥さんの時、大変だっもんな、勉君。」



わざと、従兄弟様の名前を呼ぶ。
そんな俺に、従兄弟様も楽しそうに頷いた。



「これ、見て。可愛よね。」



従兄弟様が見せてきた紙を見て・・・



俺も笑ってしまった。



従兄弟様の手には、ウサギの形をした付箋が・・・。
そこに、綺麗な字で名前が書かれている。



あの隙のないような女からの、そのウサギの付箋に、俺はしばらく笑いが止まらなかった。



「何の花だと思う?ユリ?」



従兄弟様も、俺が思ったように感じたらしい。
俺と従兄弟様は、よく似ている。
だから、従兄弟様は俺が小さい頃から、「いずれ、この会社を一緒に回そう」と洗脳し続けた・・・。



そんな従兄弟様は、あの女をユリだと思ったらしいが・・・



俺は、あの女を思い浮かべる・・・




「薔薇、だな・・・。」




1輪だとしても、誰もがその花に気付き、誰もがその花に見惚れ、心奪われる。




「赤い、薔薇だな・・・」




それも、強い、強い、赤・・・。
薔薇の美しさが、より一層引き立つ色。





でも・・・




従兄弟様が持つウサギの付箋を眺める・・・。




あの薔薇には、刺がないから・・・




きっと、誰かにすぐに切り取られてしまう・・・。




そんな、薔薇の花・・・。
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