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第二話
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「誰だお前は!…ってか俺の弁当!!」
女の子は最後に残った唐揚げを慌てて口に頬張った。
それを見て思わず女の子に掴みかかった。
「んー、んー」
「俺の弁当返せー!」
女の子は俺を凝視しながら口の中の食べ物をモグモグモグモグ咀嚼してゴクリと飲み込んだ。
「旨いなコレ。まだ無いのか?」
「あ?なに勝手に他人んち上がり込んで弁当食ってやがる!警察に突き出してやる!」
「…いや待て、落ち着け。」
「落ち着けるか!何処から入ってきやがった!」
「ケイサツとは何だ?まさか取り締まりの役人のことか?それは勘弁してもらいたい。」
「テメェ俺の弁当盗み食いしやがったくせに、よくそんなこと言えるな!」
「解った!解ったから一旦落ち着いて話をしよう。」
「落ち着けるか!」
女の子は、俺の手を振り払いその場に立ち上がった。
中腰の体制だった事もあり、押し退けられて思わず後ろによろめいたがなんとか踏み留まれた。
対峙した状態で見てみると、身長は俺の目線の下に頭があるから160センチくらいかな?
大きめの襟がついた黒のトップスに短めの赤黒いスカートとそこから伸びる華奢な脚、足元にはゴテゴテと装飾されたショートブーツ、そして何が入ってるのか、たすき掛けされた大きめの皮のバッグ。
首には赤や青、緑色の宝石の様な物が散りばめられたネックレス。
右手にはゴルフボールくらいの真っ赤な玉が埋め込まれ、キレイにレリーフの施された大きな杖を持っていた。
髪はセミロングよりもちょっと長めでちょっと茶色がかった黒。
瞳の色も同じく茶系でクリクリッとしていて、見つめていると吸い込まれそうになる。
床に落ちている尖り帽子を被ったら、如何にもって感じの魔法使いの出来上がりだな。
同い年かちょっと下くらいかな?
ちょっと好みかも(笑)
「…な…何をジロジロ見ておる!…わ…私の名はエリー。」
突然名乗りだしたけど、なんか声うわずってるし(笑)
「ま…魔法の都イカサガンから来た。しかし帝都に向かう途中キビナーの大群に襲われた………所までは覚えてるんだけど………その後の記憶がハッキリしないんだ…。」
そう言って悲しそうに俯いた。
「で…目が覚めたらこの屋敷の中に倒れてた訳なんだが…そこに丁度旨そうな食事があったのでな…。」
何を言ってるんだ?
頭がオカシイのか?
それとも厨二か?厨二病の真っ只中なのか?
キャラに成りきって言ってると言うよりは、本気で言ってるみたいだけど…。
やっぱ頭が可哀想な状態なのか…。
ちょっと可哀想(色んな意味で…)だけどとりあえず関わりたく無いので出て行ってもらおう。
「はいはい、分かった分かった。でホントは何処からきたんだ?…ってか靴を脱げ靴を!そしてとっとと出て行ってくれ!」
「何故靴を脱がなくてはいけないのだ?」
「お前ホント馬鹿にしてんのか?いいから脱げ!そして出て行け!靴は外で履き直せ!」
エリーはブツブツいいながらショートブーツを脱いだ。
「靴は脱いだぞ。出て行く前にちょっと私の話しを聞いてくれ!」
真剣な眼差しで俺の目を見ながら訴えてくる。
オツムが残念なヤツだけど可愛いからちょっとだけなら聞いてやろう。
エリーは、身振り手振りを交えながら自分の身に起こった事を話し始めた。
「で?なんだって?」
「だからぁイカサガンから来たって言ってるじゃないか!」
「イカサガンって何処だよ?聞いたこともない…。」
「あ…田舎だからって馬鹿にしてるな!」
「バカにしてるも何も、知らないモノは知らねーよ。何処にあんだよ。それに帝都って何処に行こうとしてたんだよ。今の日本にそんな地名の場所は存在しないぞ!東京の事か?」
「な…なに?帝都がないだと?そんな馬鹿なことがあるか!それに日本ってなんだ?」
「は?日本だよ。お前日本語話してるじゃないか!設定がブレまくりなんだよ。どんなボケだよ?」
「…………。」
「どーせ厨二だろお前!とりあえず家に上がり込んだのは置いといて、俺の飯返せよ!食いモンの恨みは怖いぞ!そして早く出て行け!」
「出て行け出て行けと五月蝿いヤツだなぁ…とりあえず飯の代金を払えば許してくれるのか?それと厨二病とはなんだ?特殊な病気なのか?なんか馬鹿にされてる気がするんだが…。」
「…なんか開き直ってないか?」
ホントになんなんだ?この女は?
厨二なら厨二でもっとこう…もっともらしい設定作ってキッチリ仕上げとけよな…。
やっぱり開き直ったのか、急に大人しくなったエリーは、チラチラ俺の顔を見ながらバッグの中を覗き込んで小さな袋を引っ張り出して、中から一枚の金貨らしきモノを取り出した。
「ほら、コレで足りるだろ…むしろ釣りがでるくらいじゃないか?」
「なんだよコレ?ちゃんと日本円で払えよ、560円な!」
「な…また…。コレは一般的に流通している通貨じゃないか!お前こそ何を訳の分からんことを言ってるんだ?」
ダメだ、やっぱりコイツ…オツムが可哀想なことになってる…。
このまま揉めてても時間と労力の無駄だ…。
これ以上面倒ごとを起こされる前にお帰りいただこう。
「さぁ話しはきいてやったぞ、そろそろ帰ってくれないか?出口はあっちだ。」
親指を立てて俺の後ろにある玄関を指差した。
ん?なんかこんなシュチュエーションどっかで…。
「いや…待ってくれ、こんな夜に外に出ろと?こんなか弱い女の子に暗い夜道を歩けと?悪魔か?お前は…。」
エリーは、キッチン横の窓に目をやってそう呟いた。
「いやいやお前こそ魔法使いなんだろ?何かに襲われても攻撃魔法で対処出来るんじゃないのか?大丈夫、さぁ帰れ。頼むから帰ってくれ…。」
そうじゃないと、もうそろそろ蒼葉ネエちゃんが来る気がする…。
こんなヤツが家に居るのを見られたら、なんて言われるか…。
可哀想だけど、あらぬ疑いを掛けられるのだけは避けたい。
何とか家から出て行ってもらおうと、暫く押し問答を繰り返した後、それでも居座ろうとするエリーを半ば無理やり背中を押して家から追い出した。
静かになった家の中で、食べ散らかされた弁当の残骸を片付ける。
ちょっと罪悪感を感じながら、そしてちょっと惜しい事をした様な気がしてた。
いい加減腹が減ったな…。
仕方ない…ピザでも頼むか…。
§
エリーと名乗る色々と怪しい感じの女の子を追い払って30分程経った頃、注文していたピザが届いた。
部屋まで届けて貰う為、一階のオートロックを部屋から開けた。
お金を支払い、ピザを受け取り後ろ手にドアを閉めようとした瞬間物凄い力で引き戻された。
予想外の状況で体制を崩し後ろに仰け反る身体を抑えつつその場に踏みとどまって勢いよく振り向いた。
目をやるとドアの淵をガッチリ掴んだ指が見えた。
エリーだ…。
「お前なぁ…とっとと帰れって言っただろ…。」
ドアの隙間から覗き込むと、エリーが必死にドアの淵にしがみついていた。
まるで迷子の子供みたいに目にいっぱいの涙を浮かべてウルウルとタダ無言でこちらを見つめていた。
…いやいや…ダメだダメだ…危うく情に流されそうになった。
「そんな顔しても無駄だぞ、早く帰れよ!」
そう言い放って振り向きざまに再びドアノブを今度は力一杯手前に引いた…がピクともしない…。
数秒の攻防。
振り向くと今度はドアの隙間に半身をねじ込んできていた。
それでも構わずドアを閉めに掛かると…。
「ギャー!やめろー!身体が…身体が…。」
「だったら離れろよ!」
ドアにしがみつくエリーの身体を引き剥がそうとしてみるが、ガンとして離れようとしない、それどころか隙を見てジワジワと中に入り込もうとしてやがる。
「頼む!ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから部屋に入れてくれ。」
必死に意中の彼女の家に上がり込もうとするナンパ男みたいなセリフを吐きやがって…。
「…あのなぁ…。」
「助けてくれ…頼む…。」
「ダメだ!」
更にドアを閉める手に力を込めた。
「イタイイタイイタイイタイ!」
エリーの騒ぎ声がマンションの廊下に響き渡り、他の部屋のドアが開く音が聞こえた。
ヤバイ…このままじゃ何かとんでもない事に巻き込まれそうだ…。
…いや…もう巻き込まれてる…(涙)
「あーもー!近所迷惑だろうが、一旦入れ。」
…情けない…根負けした…。
§
「はぁ…話はさっき聞いただろ?落ち着いたら帰れよ…。」
リビングの床に座り込んで鼻をすするエリーを横目に、まだなんとか暑さを保っていたピザを食べ始める。
「申し訳ない、水を一杯頂けないだろうか?」
図々しいな…まぁ仕方ない俺もそこまで鬼じゃない、麦茶でも出してやるか。
「ほら。」
「…ありがとう。…なんだこの薄茶色い飲み物は?」
「なに?麦茶だよ麦茶!日本人なら飲んだ事くらいあるだろ!」
「…さっきも言ったが私は日本人などではない。」
「だったら何人だよ?」
「イカサガン人だ!」
「まだ言うか?じゃイカサガンって何処だよ!」
リビングのテレビラックの上に飾ってあった地球儀を指差して持ってくるように促した。
「なんだこの球体は?」
「まさか地球儀も知らんってか?」
「こんな丸いの見た事ないぞ…。」
あぁ…昨日からツイてない…。
なんで拗れまくった厨二女の相手をせにゃならんのだ…。
「そう言えば、お前あれからずっと玄関前に居たのか?」
「いや…この建物から出ようとはおもったのだが…下に降りる手段が解らなかったんだ。ひとつこの家の扉とは違う鉄の扉を見つけたんだが…封印が施されているようで迂闊に開けられなかったんだ…。」
封印?そんなのあったか?
「エレベーターがあるだろ?」
「エレベーターとはなんだ?」
また始まった…。
「まさかあの鉄の二枚扉に小さめの覗き窓が付いてて、中の暗闇で時々ガーッと音を立ててるアレのことか?」
「なんか凄くややこしく言ってるが…それだ。それに乗って一階に降りれば外に出られる。解ったか?解ったらもう帰れるな。」
「…いや…待て…。」
「何を待たなきゃいけないんだ?」
「いや…さっき塀の外を見たのだが、まったく見たことの無い風景が広がっててな…夜空だけじゃなくて、地上にも星がいっぱいあったんだ!ここはもしかして天界なのか?」
地上に星?
あぁ、街明かりとか車のライトの事を言ってるのかな?
なんか話しをすればするほど拗れていく…。
そんなエリーの訳のわからない話に付き合いながらピザも残り一切れになった時、不意にスマホから聞き覚えのない着信音が鳴った。
女の子は最後に残った唐揚げを慌てて口に頬張った。
それを見て思わず女の子に掴みかかった。
「んー、んー」
「俺の弁当返せー!」
女の子は俺を凝視しながら口の中の食べ物をモグモグモグモグ咀嚼してゴクリと飲み込んだ。
「旨いなコレ。まだ無いのか?」
「あ?なに勝手に他人んち上がり込んで弁当食ってやがる!警察に突き出してやる!」
「…いや待て、落ち着け。」
「落ち着けるか!何処から入ってきやがった!」
「ケイサツとは何だ?まさか取り締まりの役人のことか?それは勘弁してもらいたい。」
「テメェ俺の弁当盗み食いしやがったくせに、よくそんなこと言えるな!」
「解った!解ったから一旦落ち着いて話をしよう。」
「落ち着けるか!」
女の子は、俺の手を振り払いその場に立ち上がった。
中腰の体制だった事もあり、押し退けられて思わず後ろによろめいたがなんとか踏み留まれた。
対峙した状態で見てみると、身長は俺の目線の下に頭があるから160センチくらいかな?
大きめの襟がついた黒のトップスに短めの赤黒いスカートとそこから伸びる華奢な脚、足元にはゴテゴテと装飾されたショートブーツ、そして何が入ってるのか、たすき掛けされた大きめの皮のバッグ。
首には赤や青、緑色の宝石の様な物が散りばめられたネックレス。
右手にはゴルフボールくらいの真っ赤な玉が埋め込まれ、キレイにレリーフの施された大きな杖を持っていた。
髪はセミロングよりもちょっと長めでちょっと茶色がかった黒。
瞳の色も同じく茶系でクリクリッとしていて、見つめていると吸い込まれそうになる。
床に落ちている尖り帽子を被ったら、如何にもって感じの魔法使いの出来上がりだな。
同い年かちょっと下くらいかな?
ちょっと好みかも(笑)
「…な…何をジロジロ見ておる!…わ…私の名はエリー。」
突然名乗りだしたけど、なんか声うわずってるし(笑)
「ま…魔法の都イカサガンから来た。しかし帝都に向かう途中キビナーの大群に襲われた………所までは覚えてるんだけど………その後の記憶がハッキリしないんだ…。」
そう言って悲しそうに俯いた。
「で…目が覚めたらこの屋敷の中に倒れてた訳なんだが…そこに丁度旨そうな食事があったのでな…。」
何を言ってるんだ?
頭がオカシイのか?
それとも厨二か?厨二病の真っ只中なのか?
キャラに成りきって言ってると言うよりは、本気で言ってるみたいだけど…。
やっぱ頭が可哀想な状態なのか…。
ちょっと可哀想(色んな意味で…)だけどとりあえず関わりたく無いので出て行ってもらおう。
「はいはい、分かった分かった。でホントは何処からきたんだ?…ってか靴を脱げ靴を!そしてとっとと出て行ってくれ!」
「何故靴を脱がなくてはいけないのだ?」
「お前ホント馬鹿にしてんのか?いいから脱げ!そして出て行け!靴は外で履き直せ!」
エリーはブツブツいいながらショートブーツを脱いだ。
「靴は脱いだぞ。出て行く前にちょっと私の話しを聞いてくれ!」
真剣な眼差しで俺の目を見ながら訴えてくる。
オツムが残念なヤツだけど可愛いからちょっとだけなら聞いてやろう。
エリーは、身振り手振りを交えながら自分の身に起こった事を話し始めた。
「で?なんだって?」
「だからぁイカサガンから来たって言ってるじゃないか!」
「イカサガンって何処だよ?聞いたこともない…。」
「あ…田舎だからって馬鹿にしてるな!」
「バカにしてるも何も、知らないモノは知らねーよ。何処にあんだよ。それに帝都って何処に行こうとしてたんだよ。今の日本にそんな地名の場所は存在しないぞ!東京の事か?」
「な…なに?帝都がないだと?そんな馬鹿なことがあるか!それに日本ってなんだ?」
「は?日本だよ。お前日本語話してるじゃないか!設定がブレまくりなんだよ。どんなボケだよ?」
「…………。」
「どーせ厨二だろお前!とりあえず家に上がり込んだのは置いといて、俺の飯返せよ!食いモンの恨みは怖いぞ!そして早く出て行け!」
「出て行け出て行けと五月蝿いヤツだなぁ…とりあえず飯の代金を払えば許してくれるのか?それと厨二病とはなんだ?特殊な病気なのか?なんか馬鹿にされてる気がするんだが…。」
「…なんか開き直ってないか?」
ホントになんなんだ?この女は?
厨二なら厨二でもっとこう…もっともらしい設定作ってキッチリ仕上げとけよな…。
やっぱり開き直ったのか、急に大人しくなったエリーは、チラチラ俺の顔を見ながらバッグの中を覗き込んで小さな袋を引っ張り出して、中から一枚の金貨らしきモノを取り出した。
「ほら、コレで足りるだろ…むしろ釣りがでるくらいじゃないか?」
「なんだよコレ?ちゃんと日本円で払えよ、560円な!」
「な…また…。コレは一般的に流通している通貨じゃないか!お前こそ何を訳の分からんことを言ってるんだ?」
ダメだ、やっぱりコイツ…オツムが可哀想なことになってる…。
このまま揉めてても時間と労力の無駄だ…。
これ以上面倒ごとを起こされる前にお帰りいただこう。
「さぁ話しはきいてやったぞ、そろそろ帰ってくれないか?出口はあっちだ。」
親指を立てて俺の後ろにある玄関を指差した。
ん?なんかこんなシュチュエーションどっかで…。
「いや…待ってくれ、こんな夜に外に出ろと?こんなか弱い女の子に暗い夜道を歩けと?悪魔か?お前は…。」
エリーは、キッチン横の窓に目をやってそう呟いた。
「いやいやお前こそ魔法使いなんだろ?何かに襲われても攻撃魔法で対処出来るんじゃないのか?大丈夫、さぁ帰れ。頼むから帰ってくれ…。」
そうじゃないと、もうそろそろ蒼葉ネエちゃんが来る気がする…。
こんなヤツが家に居るのを見られたら、なんて言われるか…。
可哀想だけど、あらぬ疑いを掛けられるのだけは避けたい。
何とか家から出て行ってもらおうと、暫く押し問答を繰り返した後、それでも居座ろうとするエリーを半ば無理やり背中を押して家から追い出した。
静かになった家の中で、食べ散らかされた弁当の残骸を片付ける。
ちょっと罪悪感を感じながら、そしてちょっと惜しい事をした様な気がしてた。
いい加減腹が減ったな…。
仕方ない…ピザでも頼むか…。
§
エリーと名乗る色々と怪しい感じの女の子を追い払って30分程経った頃、注文していたピザが届いた。
部屋まで届けて貰う為、一階のオートロックを部屋から開けた。
お金を支払い、ピザを受け取り後ろ手にドアを閉めようとした瞬間物凄い力で引き戻された。
予想外の状況で体制を崩し後ろに仰け反る身体を抑えつつその場に踏みとどまって勢いよく振り向いた。
目をやるとドアの淵をガッチリ掴んだ指が見えた。
エリーだ…。
「お前なぁ…とっとと帰れって言っただろ…。」
ドアの隙間から覗き込むと、エリーが必死にドアの淵にしがみついていた。
まるで迷子の子供みたいに目にいっぱいの涙を浮かべてウルウルとタダ無言でこちらを見つめていた。
…いやいや…ダメだダメだ…危うく情に流されそうになった。
「そんな顔しても無駄だぞ、早く帰れよ!」
そう言い放って振り向きざまに再びドアノブを今度は力一杯手前に引いた…がピクともしない…。
数秒の攻防。
振り向くと今度はドアの隙間に半身をねじ込んできていた。
それでも構わずドアを閉めに掛かると…。
「ギャー!やめろー!身体が…身体が…。」
「だったら離れろよ!」
ドアにしがみつくエリーの身体を引き剥がそうとしてみるが、ガンとして離れようとしない、それどころか隙を見てジワジワと中に入り込もうとしてやがる。
「頼む!ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから部屋に入れてくれ。」
必死に意中の彼女の家に上がり込もうとするナンパ男みたいなセリフを吐きやがって…。
「…あのなぁ…。」
「助けてくれ…頼む…。」
「ダメだ!」
更にドアを閉める手に力を込めた。
「イタイイタイイタイイタイ!」
エリーの騒ぎ声がマンションの廊下に響き渡り、他の部屋のドアが開く音が聞こえた。
ヤバイ…このままじゃ何かとんでもない事に巻き込まれそうだ…。
…いや…もう巻き込まれてる…(涙)
「あーもー!近所迷惑だろうが、一旦入れ。」
…情けない…根負けした…。
§
「はぁ…話はさっき聞いただろ?落ち着いたら帰れよ…。」
リビングの床に座り込んで鼻をすするエリーを横目に、まだなんとか暑さを保っていたピザを食べ始める。
「申し訳ない、水を一杯頂けないだろうか?」
図々しいな…まぁ仕方ない俺もそこまで鬼じゃない、麦茶でも出してやるか。
「ほら。」
「…ありがとう。…なんだこの薄茶色い飲み物は?」
「なに?麦茶だよ麦茶!日本人なら飲んだ事くらいあるだろ!」
「…さっきも言ったが私は日本人などではない。」
「だったら何人だよ?」
「イカサガン人だ!」
「まだ言うか?じゃイカサガンって何処だよ!」
リビングのテレビラックの上に飾ってあった地球儀を指差して持ってくるように促した。
「なんだこの球体は?」
「まさか地球儀も知らんってか?」
「こんな丸いの見た事ないぞ…。」
あぁ…昨日からツイてない…。
なんで拗れまくった厨二女の相手をせにゃならんのだ…。
「そう言えば、お前あれからずっと玄関前に居たのか?」
「いや…この建物から出ようとはおもったのだが…下に降りる手段が解らなかったんだ。ひとつこの家の扉とは違う鉄の扉を見つけたんだが…封印が施されているようで迂闊に開けられなかったんだ…。」
封印?そんなのあったか?
「エレベーターがあるだろ?」
「エレベーターとはなんだ?」
また始まった…。
「まさかあの鉄の二枚扉に小さめの覗き窓が付いてて、中の暗闇で時々ガーッと音を立ててるアレのことか?」
「なんか凄くややこしく言ってるが…それだ。それに乗って一階に降りれば外に出られる。解ったか?解ったらもう帰れるな。」
「…いや…待て…。」
「何を待たなきゃいけないんだ?」
「いや…さっき塀の外を見たのだが、まったく見たことの無い風景が広がっててな…夜空だけじゃなくて、地上にも星がいっぱいあったんだ!ここはもしかして天界なのか?」
地上に星?
あぁ、街明かりとか車のライトの事を言ってるのかな?
なんか話しをすればするほど拗れていく…。
そんなエリーの訳のわからない話に付き合いながらピザも残り一切れになった時、不意にスマホから聞き覚えのない着信音が鳴った。
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