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第五話

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「とりあえず経緯は解った。色々とツッコミどころ満載だけど…。でもなぁ、見ず知らずの…しかもこんな可愛い女の子をこの思春期真っ只中の超危険生物と一緒に、ひとつ屋根の下に住まわせるなんて…見逃せる訳ないじゃ無い。」

リビングの床に3人で座り込んで、ひと通り蒼葉ネエちゃんには事情を話したが、到底信じて貰えたとは思えない訳で、当然の反応だと思う。

何度も俺とエリーを疑いの目で見てくる。

「じゃ蒼葉ネエちゃんが面倒見てやってくれよ。」
「えーウチは無理だよ…実家だし。」
「じゃぁどうしろって言うんだよ!」
「ちゃんと家に帰って貰いなさい。」
「ほら…やっぱり信じてない…。」

追い出すのは簡単だ…でもなぁ………あっそうだ!
「なぁエリーお前、魔導士なんだろ?なんかホラ、魔法的なヤツ見せてくれよ。何でもいいから。」
そう、魔法なんかを目の前で見せられたら、蒼葉ネエちゃんも話を信じてくれるだろう。
まぁ俺も半信半疑だったし、それにちゃんと魔法を見てみたい。

「…じゃぁ簡単なヤツを…。」
そう言うとその場に立ち上がり杖を俺の後ろのテーブルに向けて差し出した。

「ファイグ(着火)!」

エリーがボソッと何の詠唱も無しに呟いた瞬間、テーブルに置いてあった新聞に火がついた。

「わー!」

突然燃え上がった新聞に驚いて思わず声を上げ、近くにあった麦茶のポットを携えてテーブルにダッシュした。
幸いにもテーブルの天板の一部に焦げ目が付いた程度で済んだけど…。

「なにやってくれてんだ!この馬鹿!」
「なっ…馬鹿とはなんだ、お前がやれって行ったんじゃないか!」
「そりゃそーだけど、なんかもっと被害の少ないヤツとかあるだろ普通!」

灰になった新聞紙とブチまけた麦茶で出来た水溜りを指差して怒鳴りつけた。
蒼葉ネエちゃんは、その光景を見て「おー凄い凄い。」と拍手なんかしてて凄く落ち着いて見えた。

「エリーちゃん凄いねぇ、どんなマジック?二人でこっそり仕掛けてたのかな?」
「だぁー!違うって!本物の魔法だよ!」
あれ?なんで俺エリーの擁護してんだ?

「マジックとはなんですか?こちらの世界の魔法ですか?」
エリーは怒鳴られてしょげているかと思いきや、新しく耳にした『マジック』と言う言葉に興味津々な表情を浮かべていた。

「見たことあるでしょ?ハト出したり、コイン消したりする…。」
「えーっとコインは判るがハトとはなんだ?」
「ねぇサトルぅ…この子変だよぉ…。」
蒼葉ネエちゃんはエリーをますます怪しい目で見はじめた。

「だからさっき説明したじゃん、厨二病じゃなくて、ホントにどっか別の世界から来ちゃってるんだってば…。」


§


「っと言う訳で、今日から私もココに住むことに決めました。」
「あ?何言ってんだよ蒼葉ネエちゃん!」
「だってやっぱりぃ、あんた達の話も信じられないしぃ、エリーちゃんをサトルと二人っきりで住まわせる訳にもいかないじゃない?かと言って、どっかに追いやるのも心がイタイしぃ…。ほら、なにかと保護者的な立場って必要でしょ?」
「えーせっかくの独り暮らしがぁ…。」
「それに、サトルんのが会社行くにも近いしさ♪」
「それがホントの狙いだろ…。」

エリーの説明や、その後の話し合いで結局3人で暮らすと言う話で纏まった訳だけど…。
はぁ…なんでこーなるかなぁ…。

蒼葉ネエちゃんは一旦家に帰り1時間後、色々と荷物を持って戻ってきた。

戻って来るなり蒼葉ネエちゃんは勝手にと言うか、いつも使ってる玄関横の部屋を陣取り、エリーには俺の隣の部屋を充てがった。

その後、順番に風呂に入って再びリビングで談笑。
エリーは蒼葉ネエちゃんが貸したパジャマを着ている…っと言うかすでに3人で居ることに馴染みはじめていた。
順応性の高いヤツだ…。

「じゃそろそろ俺は寝るわ…。」
「サトル…隣だからって夜這いとかすんじゃないよ!」
「するかっ!」

時計を見るともうすぐ深夜0時に成ろうとしていた。

「あっそーだ!ちょっと待って。」
各自部屋に戻ろうとしたところで、蒼葉ネエちゃんに呼び止められた。

「明日日曜日だしさ、買い物行かない?エリーちゃんもあの服しか持ってないんでしょ?」
「そうですが…。」
亀井さん可愛いの買ってあげるからさ。」
「い…良いのですか?」
「任せなさい!もうすぐボーナスだから、」
「ボーナス?良くわかんないですが、では…よろしくお願いします。」

なんかこの二人…仲良くなってるっぽい。

「サトルも付き合いなさいよ!じゃおやすみぃ。」
「おやすみなさい。」
蒼葉ネエちゃんはサッサと部屋に戻り、エリーはペコリと頭を下げて、そそくさと部屋に入って行った。
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