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3.勇者とは勇者ではないらしい
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レオンが勇者宣言をした瞬間、僕に纏わりつく光がビリリと震えた。
「あ」
これはまずいと感じとった。
だけど、僕以外誰もこの空気を感じていないようで、みんなレオンを称え、声援を増していく。
僕の周りを浮遊していた光は、その声に反発するようにどんどん膨らんでいる。
このまま膨らみ続ければ破裂してしまうんじゃ…?
なんだか怖くなって、振り切るようにその場を離れた。
レオンとおばあちゃんと一緒に来た道を戻って、誰もいない畦道を行く。
相変わらず、光の粒は僕に纏わりついていたけど、気にも留めなかった。
ここまで無心で歩いて来て、畦道の途中で座り込む。
っていうかレオ!!なんで勇者だって言っちゃったのさ!!?
胸に怒りとは違う、もやもやしたものがわいてくる。
勇者宣言をしたレオンは、沸き立つみんなを冷静な態度で収めていた。
その姿は、いつものちょっとおバカだけど、明るくて笑顔が眩しいレオンじゃない。
僕と目が合うと、逸らすように背を向けられてしまった。
なんで…レオ……本気で自分が聖剣を抜いたって思ってるの?
誤魔化したのは自分で、レオンが悪いわけじゃない。
だから、そう思うのは身勝手だ。
でも、親友のその態度に喉の奥が締め付けられるように苦しかった。
『愚かだな』
「えっ?」
突然、誰かの声が頭に響いてきた。
…今、誰が喋った?
誰かが僕を追ってきたのかなと思って辺りを見回したけど、誰もいなかった。
その代わり、そこには想像とは違ったものがいた。
「………うさぎ?」
真っ白な毛で茶色っぽい目をした、小さなうさぎと目が合った。
すると、急にゾワリと嫌な感覚が背中を走る。
今日は暑いはずなのに、まるで氷の中にいるみたいに体が震えた。
纏わりついていた光の粒も僕につられて小さくなった気がする。
警戒心が強いうさぎが人の気配が多いところに迷い込むことなんてありえない。
それに野生にしては綺麗すぎる。
もしかして普通のうさぎじゃない………のかな?
『おまえも、何故剣を手離したのだ。ようやく、私と波長の合う者が現れたと思ったのに』
「…っ、!!?」
えっ!?喋った…!?
いや、待って。頭に響いてるから、テレパシー!?
びっくりして言葉を失っていると、見た目と違って声が低いうさぎはさらに語りかけてくる。
『私はあの剣の守護精霊、ルークだ。長く使い手に出会えず退屈だったが、やっと剣を抜いた人間に出会えた。よろしくな』
「あ、はい…ええっ!?」
剣の守護精霊??
使い手???
もう僕の頭はキャパオーバーだった。
できればよろしくしたくないんだけど…!!
「えと、あのですね…僕はあまり面倒なことにはなりたくないっていうか…その…勇者に向いてないと思うんだけど………」
『ん?勇者だと?おまえは何を言っている』
ルークと名乗ったうさぎは、僕の方へと駆けて来てそのまま僕の肩に飛び乗ってきた。
彼(?)のもふもふした毛が頬を撫でて、くすぐったい。
一番びっくりしたのは、全然重さを感じないことだった。後ろから飛び乗られても気づかないかも。
『何か勘違いしているようだが、精霊が宿る剣を人間が勝手に聖剣と呼んでいるのであって、ただの剣にすぎん。それが抜けたからといって勇者というわけではない』
「えっ、そうなの?」
なんだ、そうなのか~。
じゃあ、僕は勇者じゃないんだね!よかったよかった。
そう安心したのも一瞬で。
『精霊の力のおかげで強くなることはあるがな。使いこなせば、相当強くはなる』
「それを勇者と言うんじゃないの!?」
ルークの言葉で、一気に絶望まで引き戻されたよ!!
精霊に選ばれて大きな力を使うというのは、やっぱり勇者と言うのでは!?
少なくとも普通の人間じゃ無いよね!?
ルークは、悲壮感溢れているだろう僕の顔を見て、不機嫌そうにため息をついた。
『それも人間が勝手にそう言っているだけだ。精霊が宿る剣は数が少ないからな。そもそも、勇者なんぞは称号にすぎんだろう。そういうものは後世の人間が後付けしたにすぎん』
「そう、かも…しれないけど………」
勇者は、国の歴史で何度も登場する。
聖剣をもって魔物を退けたとか、他国の侵略から国を救ったとか、疫病を防いだとか…。
とにかく、普通の人間じゃできないようなことをやり遂げている。
あれ?やっぱり、勇者って聖剣を持っている人がなっているのでは?
結局、聖剣を抜いた者=勇者の式になるんだけど??
「やっぱりそれ勇者だよね?」という顔でルークを見つめたら、うさ耳ビンタをされた。意外に痛い!!
『人間の言う勇者がどういう存在か知らんが、少なくとも私が思っているような者ではないだろう』
「えと…どういうこと?」
『ここまで言っているのに気づかんのか。勇者は人間の体のいい英雄みたいなものだろう。いわば、人間の思惑によって生まれた哀れな存在だ』
「そんな…」
じゃあ、子どもの頃からよく聞かされていた勇者のお話は、すべて人間の都合で作り上げられたものだったってこと?
勇者になりたいとまでは思わなかったけど、憧れの存在だったのに…。
勇者の存在が僕の中で崩れて、なんとも言えない寂しい気持ちになる。
『歴代の勇者すべてがそうだったとは言い切れん。中には私が思うような本物の勇者もいただろう』
そう呟いたルークの声は僕に届かなかった。
それよりも重大なことに気がついてしまったから。
このままだと、レオが人間の思惑で勇者として利用されてしまう…?
「あ」
これはまずいと感じとった。
だけど、僕以外誰もこの空気を感じていないようで、みんなレオンを称え、声援を増していく。
僕の周りを浮遊していた光は、その声に反発するようにどんどん膨らんでいる。
このまま膨らみ続ければ破裂してしまうんじゃ…?
なんだか怖くなって、振り切るようにその場を離れた。
レオンとおばあちゃんと一緒に来た道を戻って、誰もいない畦道を行く。
相変わらず、光の粒は僕に纏わりついていたけど、気にも留めなかった。
ここまで無心で歩いて来て、畦道の途中で座り込む。
っていうかレオ!!なんで勇者だって言っちゃったのさ!!?
胸に怒りとは違う、もやもやしたものがわいてくる。
勇者宣言をしたレオンは、沸き立つみんなを冷静な態度で収めていた。
その姿は、いつものちょっとおバカだけど、明るくて笑顔が眩しいレオンじゃない。
僕と目が合うと、逸らすように背を向けられてしまった。
なんで…レオ……本気で自分が聖剣を抜いたって思ってるの?
誤魔化したのは自分で、レオンが悪いわけじゃない。
だから、そう思うのは身勝手だ。
でも、親友のその態度に喉の奥が締め付けられるように苦しかった。
『愚かだな』
「えっ?」
突然、誰かの声が頭に響いてきた。
…今、誰が喋った?
誰かが僕を追ってきたのかなと思って辺りを見回したけど、誰もいなかった。
その代わり、そこには想像とは違ったものがいた。
「………うさぎ?」
真っ白な毛で茶色っぽい目をした、小さなうさぎと目が合った。
すると、急にゾワリと嫌な感覚が背中を走る。
今日は暑いはずなのに、まるで氷の中にいるみたいに体が震えた。
纏わりついていた光の粒も僕につられて小さくなった気がする。
警戒心が強いうさぎが人の気配が多いところに迷い込むことなんてありえない。
それに野生にしては綺麗すぎる。
もしかして普通のうさぎじゃない………のかな?
『おまえも、何故剣を手離したのだ。ようやく、私と波長の合う者が現れたと思ったのに』
「…っ、!!?」
えっ!?喋った…!?
いや、待って。頭に響いてるから、テレパシー!?
びっくりして言葉を失っていると、見た目と違って声が低いうさぎはさらに語りかけてくる。
『私はあの剣の守護精霊、ルークだ。長く使い手に出会えず退屈だったが、やっと剣を抜いた人間に出会えた。よろしくな』
「あ、はい…ええっ!?」
剣の守護精霊??
使い手???
もう僕の頭はキャパオーバーだった。
できればよろしくしたくないんだけど…!!
「えと、あのですね…僕はあまり面倒なことにはなりたくないっていうか…その…勇者に向いてないと思うんだけど………」
『ん?勇者だと?おまえは何を言っている』
ルークと名乗ったうさぎは、僕の方へと駆けて来てそのまま僕の肩に飛び乗ってきた。
彼(?)のもふもふした毛が頬を撫でて、くすぐったい。
一番びっくりしたのは、全然重さを感じないことだった。後ろから飛び乗られても気づかないかも。
『何か勘違いしているようだが、精霊が宿る剣を人間が勝手に聖剣と呼んでいるのであって、ただの剣にすぎん。それが抜けたからといって勇者というわけではない』
「えっ、そうなの?」
なんだ、そうなのか~。
じゃあ、僕は勇者じゃないんだね!よかったよかった。
そう安心したのも一瞬で。
『精霊の力のおかげで強くなることはあるがな。使いこなせば、相当強くはなる』
「それを勇者と言うんじゃないの!?」
ルークの言葉で、一気に絶望まで引き戻されたよ!!
精霊に選ばれて大きな力を使うというのは、やっぱり勇者と言うのでは!?
少なくとも普通の人間じゃ無いよね!?
ルークは、悲壮感溢れているだろう僕の顔を見て、不機嫌そうにため息をついた。
『それも人間が勝手にそう言っているだけだ。精霊が宿る剣は数が少ないからな。そもそも、勇者なんぞは称号にすぎんだろう。そういうものは後世の人間が後付けしたにすぎん』
「そう、かも…しれないけど………」
勇者は、国の歴史で何度も登場する。
聖剣をもって魔物を退けたとか、他国の侵略から国を救ったとか、疫病を防いだとか…。
とにかく、普通の人間じゃできないようなことをやり遂げている。
あれ?やっぱり、勇者って聖剣を持っている人がなっているのでは?
結局、聖剣を抜いた者=勇者の式になるんだけど??
「やっぱりそれ勇者だよね?」という顔でルークを見つめたら、うさ耳ビンタをされた。意外に痛い!!
『人間の言う勇者がどういう存在か知らんが、少なくとも私が思っているような者ではないだろう』
「えと…どういうこと?」
『ここまで言っているのに気づかんのか。勇者は人間の体のいい英雄みたいなものだろう。いわば、人間の思惑によって生まれた哀れな存在だ』
「そんな…」
じゃあ、子どもの頃からよく聞かされていた勇者のお話は、すべて人間の都合で作り上げられたものだったってこと?
勇者になりたいとまでは思わなかったけど、憧れの存在だったのに…。
勇者の存在が僕の中で崩れて、なんとも言えない寂しい気持ちになる。
『歴代の勇者すべてがそうだったとは言い切れん。中には私が思うような本物の勇者もいただろう』
そう呟いたルークの声は僕に届かなかった。
それよりも重大なことに気がついてしまったから。
このままだと、レオが人間の思惑で勇者として利用されてしまう…?
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