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2.親友が勇者になりました
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恐る恐る剣に視線を戻すと、ふわふわと剣の周りを舞っていた光の粒が僕の方に纏わりついてきた。
おばあちゃんが鞘から抜こうとしたのを見た時は、寄り付こうともしなかったのに、なんで??
本当にみんな、この光見えてないの?
っていうか、鞘から剣が抜けないっていうのもおかしな話だよね?
もしかして、剣を扱える人も抜けなかったってこと…?
さっきまで自分も剣が抜けるわけがないと思っていたけど、なんだか嫌な予感がした。
みんなに見守られながら、剣に手をかけ、鞘を持つ方の手に力を込める。
すると、纏わりつく光の粒が輝きを増していくのを感じた。
あ、面倒なことになりそう。
そう瞬時に判断した僕は、鞘からちょっとだけ抜きかけた剣を元に戻した。
「あはは。僕も抜けませんでした」
そう言って、さらっと誤魔化した。一瞬の出来事だったから、誰にも気づかれていないはずだ。…気づかれてないよね?
実際、一番近くにいたローブの人は気づいていないようで、残念そうな顔をして僕の後ろへ視線を移した。
「では、君で最後ですね。お願いします」
「はーい」
最後と言われたレオンは陽気に返事をして剣に手をかけた。
この時は誰もが思っていただろう、これは儀式のようなもので、そう易々と剣を抜ける人間はいないと。
だけど、なんてことだろう。
スラリと鞘から剣が抜けてしまった。
その瞬間、場の空気が止まったように思えた。
抜いたレオン本人もポカンとした顔で言葉を失っている。
「な、なんと……剣が抜けた…!」
そして誰が言ったかわからない言葉を皮切りに人々は大歓声を上げた。
これには僕も言葉失うほどびっくりした。
ええっ!?嘘っ、抜けちゃった!?
僕は、愚かにも元に戻せば大丈夫だと思っていたのだ。
ちょっと考えれば、全然大丈夫じゃないとわかるはずなのに…。
「すげぇ!レオン、おまえは頭の出来は良くなかったが勇者になるほどすごい奴だったんだな!」
興奮したようにバシバシとレオンの背中を叩くおじさん。
おじさん、レオが痛がってるからやめてあげて!?
って、え!?待って!?勇者って何!?
そういえば、この剣を抜く理由を教えてもらってなかったことに気がついた。今更過ぎる!!
「ほ、本当に抜けている!聖剣はこの者を勇者に選んだ!!」
そう叫んだローブの人は、震えていたけどその顔は喜びでいっぱいだった。傍にいた騎士達も興奮した様子でレオンを見つめている。
「ゆ、勇者だ!!我が村の者が勇者に選ばれたぞ!!」
村長さんが涙目で万歳をした。それにつられて、村の人達も万歳や拍手をして喜んだ。その騒ぎようはレオンをもみくちゃにするほど。
そんなみんなの様子に戸惑う親友は僕の方に振り返った。
「なんで俺??」
その言葉に僕は苦笑いを返すことしかできなかった。
※※※※※※※
これがことの顛末。
僕が抜いた(けど元に戻した)剣を後に続いたレオが抜いたことになってしまい、めでたく勇者認定をされたのだ。
いや、全然めでたくないよ!!どうしよう!!!
僕が誤魔化したばっかりに、レオンを勇者にしてしまったのだ。
チラリとレオンの方へ目を向けると、村の人達から両腕いっぱいにたくさんの花やお菓子をもらっていた。
レオ、お菓子に喜んでるところ悪いけど、後ろでローブの人と騎士達が何か相談してるし、これ絶対何か面倒なことを言われるからね!?
もし、レオンが偽物だってわかったとき、どうなるかわからない。
僕達は貴族でも偉い人でもない平民だから、最悪、偽証罪や公務執行妨害で罪に問われるかもしれない。そのことで村の人達だって巻き込んでしまうかもしれない。
そんな最悪の状況が僕の頭の中をぐるぐると巡る。
そうだ、今からでも本当は自分が剣を抜いたと名乗り出た方がいい!
誤魔化したことを責められるかもしれないけれど、レオンや村のみんなに迷惑が掛かるよりマシだ。自分がやったことの責任はとらなければいけない。
正直めちゃくちゃ怖いけどね!!
そんなことを考えているうちに、ローブの人がレオンに近づいて何かを言おうとしたのを見て、思わず叫んだ。
「す、すみません!本当は僕が剣を抜いたんです!!」
僕の言葉にみんな振り向いたけれど、すぐにレオンの方へと向き直った。
「フィールのやつ、おまえが勇者に選ばれて嫉妬してるんだ。気にするな!」
「実際おまえが剣を抜いたのを俺達が見てるんだからな。おまえが勇者だよ!」
「そうそう!レオンが勇者だ!」
レオンを取り囲む人達があれこれ言っている。
あれ?もしかして、これ僕が嘘つき扱いされてる?
ローブの人と騎士達からも睨まれている気がする。
それでも、僕は何度も自分が剣を抜いたと訴えるように叫んだ。それが逆効果になるとも知らずに…。
「いいかげんにしろ、フィール!自分が聖剣に選ばれなかったから、親友のレオンからなら奪えると思ってるのか!」
「違…っ」
「本当に抜いたのなら、そうして見せればよかったんだ!」
「それは…」
みんなの顔がだんだん険しくなってくる。もう、これは何を言っても覆せない雰囲気だった。
僕達の様子を戸惑いながら見ていたレオンは、自分の手にある剣と僕の顔を交互に見たあと、その目が真剣なものに変わった。
「ああ、俺が勇者だ!」
それは、一番言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
おばあちゃんが鞘から抜こうとしたのを見た時は、寄り付こうともしなかったのに、なんで??
本当にみんな、この光見えてないの?
っていうか、鞘から剣が抜けないっていうのもおかしな話だよね?
もしかして、剣を扱える人も抜けなかったってこと…?
さっきまで自分も剣が抜けるわけがないと思っていたけど、なんだか嫌な予感がした。
みんなに見守られながら、剣に手をかけ、鞘を持つ方の手に力を込める。
すると、纏わりつく光の粒が輝きを増していくのを感じた。
あ、面倒なことになりそう。
そう瞬時に判断した僕は、鞘からちょっとだけ抜きかけた剣を元に戻した。
「あはは。僕も抜けませんでした」
そう言って、さらっと誤魔化した。一瞬の出来事だったから、誰にも気づかれていないはずだ。…気づかれてないよね?
実際、一番近くにいたローブの人は気づいていないようで、残念そうな顔をして僕の後ろへ視線を移した。
「では、君で最後ですね。お願いします」
「はーい」
最後と言われたレオンは陽気に返事をして剣に手をかけた。
この時は誰もが思っていただろう、これは儀式のようなもので、そう易々と剣を抜ける人間はいないと。
だけど、なんてことだろう。
スラリと鞘から剣が抜けてしまった。
その瞬間、場の空気が止まったように思えた。
抜いたレオン本人もポカンとした顔で言葉を失っている。
「な、なんと……剣が抜けた…!」
そして誰が言ったかわからない言葉を皮切りに人々は大歓声を上げた。
これには僕も言葉失うほどびっくりした。
ええっ!?嘘っ、抜けちゃった!?
僕は、愚かにも元に戻せば大丈夫だと思っていたのだ。
ちょっと考えれば、全然大丈夫じゃないとわかるはずなのに…。
「すげぇ!レオン、おまえは頭の出来は良くなかったが勇者になるほどすごい奴だったんだな!」
興奮したようにバシバシとレオンの背中を叩くおじさん。
おじさん、レオが痛がってるからやめてあげて!?
って、え!?待って!?勇者って何!?
そういえば、この剣を抜く理由を教えてもらってなかったことに気がついた。今更過ぎる!!
「ほ、本当に抜けている!聖剣はこの者を勇者に選んだ!!」
そう叫んだローブの人は、震えていたけどその顔は喜びでいっぱいだった。傍にいた騎士達も興奮した様子でレオンを見つめている。
「ゆ、勇者だ!!我が村の者が勇者に選ばれたぞ!!」
村長さんが涙目で万歳をした。それにつられて、村の人達も万歳や拍手をして喜んだ。その騒ぎようはレオンをもみくちゃにするほど。
そんなみんなの様子に戸惑う親友は僕の方に振り返った。
「なんで俺??」
その言葉に僕は苦笑いを返すことしかできなかった。
※※※※※※※
これがことの顛末。
僕が抜いた(けど元に戻した)剣を後に続いたレオが抜いたことになってしまい、めでたく勇者認定をされたのだ。
いや、全然めでたくないよ!!どうしよう!!!
僕が誤魔化したばっかりに、レオンを勇者にしてしまったのだ。
チラリとレオンの方へ目を向けると、村の人達から両腕いっぱいにたくさんの花やお菓子をもらっていた。
レオ、お菓子に喜んでるところ悪いけど、後ろでローブの人と騎士達が何か相談してるし、これ絶対何か面倒なことを言われるからね!?
もし、レオンが偽物だってわかったとき、どうなるかわからない。
僕達は貴族でも偉い人でもない平民だから、最悪、偽証罪や公務執行妨害で罪に問われるかもしれない。そのことで村の人達だって巻き込んでしまうかもしれない。
そんな最悪の状況が僕の頭の中をぐるぐると巡る。
そうだ、今からでも本当は自分が剣を抜いたと名乗り出た方がいい!
誤魔化したことを責められるかもしれないけれど、レオンや村のみんなに迷惑が掛かるよりマシだ。自分がやったことの責任はとらなければいけない。
正直めちゃくちゃ怖いけどね!!
そんなことを考えているうちに、ローブの人がレオンに近づいて何かを言おうとしたのを見て、思わず叫んだ。
「す、すみません!本当は僕が剣を抜いたんです!!」
僕の言葉にみんな振り向いたけれど、すぐにレオンの方へと向き直った。
「フィールのやつ、おまえが勇者に選ばれて嫉妬してるんだ。気にするな!」
「実際おまえが剣を抜いたのを俺達が見てるんだからな。おまえが勇者だよ!」
「そうそう!レオンが勇者だ!」
レオンを取り囲む人達があれこれ言っている。
あれ?もしかして、これ僕が嘘つき扱いされてる?
ローブの人と騎士達からも睨まれている気がする。
それでも、僕は何度も自分が剣を抜いたと訴えるように叫んだ。それが逆効果になるとも知らずに…。
「いいかげんにしろ、フィール!自分が聖剣に選ばれなかったから、親友のレオンからなら奪えると思ってるのか!」
「違…っ」
「本当に抜いたのなら、そうして見せればよかったんだ!」
「それは…」
みんなの顔がだんだん険しくなってくる。もう、これは何を言っても覆せない雰囲気だった。
僕達の様子を戸惑いながら見ていたレオンは、自分の手にある剣と僕の顔を交互に見たあと、その目が真剣なものに変わった。
「ああ、俺が勇者だ!」
それは、一番言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
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