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第1章 ◆ はじまりと出会いと
34. 妖精の祝福
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「先生、訊いてもいいですか?」
「はい、なんですか?クリスさん」
料理実習をした次の日の放課後。
どうしても気になることがあって、エヴァン先生のところへ足を運びました。
エヴァン先生は今日も調理実習室の奥の準備室で、何かを作っていました。
妖精の雫とは違う香りが先生を包んでいて、今度は何を作っていたんでしょうか?
気になりつつも、本題に入ります。
「料理実習の点数、どうして他のグループはあんなに低かったんですか?みんなもとてもよくできていたと思います」
他のグループの食材集めや調理はあまり見ていませんでしたが、あの点数はいくらなんでも低すぎる気がします。
理由は昨日教えてもらいましたが、やっぱり納得ができなくて、もう一度訊いてみたかったんです。
そう思ってエヴァン先生に訊いたのですが、先生は困ったように笑って言いました。
「クリスさんは…やっぱり無意識だったのですね」
「え?」
エヴァン先生は、ハンバーグのレシピを渡してきました。
それは、料理実習で使ったレシピと同じでした。
でも、どうしてこれを渡されたのか意味がわかりません。
首を傾げながらレシピを見つめていると、突然準備室の扉が開きました。
『クリスー!!』
勢いよく胸に飛び込んできたのは、光妖精のフェルーテちゃんでした。
半透明の羽から零れる光がキラキラと舞っています。
フェルーテちゃんは顔を上げると、今度はエヴァン先生の方へ飛んでいきます。
『エヴァン!なんで起こしてくれなかったの!?クリスが来てるなら言ってよー!』
「フェルーテ…寝ていたんじゃなかったんですか?」
『何言ってるの!わたしの友達が来たのなら起こすのが当然でしょ!』
「はいはい」
どうやらフェルーテちゃんは準備室で寝ていて、外から聞こえる話し声で目が覚めたらしく、そしたら私の気配を感じて飛び起きたそうです。
ぽかぽかとエヴァン先生を叩いているフェルーテちゃん。怒ってるけど、かわいい…。
先生も呆れつつ笑っています。
相変わらず、この二人のやり取りはおもしろいです。
まるで親友…いえ、親子かな?
「今、クリスさんと料理実習の評価について話していたんですよ」
『! やっと気がついたの、クリス!?』
目をキラキラさせて振り向くフェルーテちゃん。
期待に溢れた目で見つめられて、思わず困り顔になってしまいます。
さっきからエヴァン先生ともお話していましたが、まったく意味がわかりません。
渡されたレシピを見ても特に変わったところはないし、私達のグループはこのレシピ通りにハンバーグを作りました。他のグループもそうしたはずです。
でも、エヴァン先生とフェルーテちゃんの言葉から、私は何かやってしまったみたいです。
「フェルーテ、落ち着いてください。クリスさんは全く気がついていません。無意識だったようですよ」
『ええええええ~~っ!!?』
フェルーテちゃんはこれ以上ないくらい驚いた顔で叫びました。
『信じられない!』『なんで!?』と言いながら、エヴァン先生に詰め寄っています。
ここまで言われると、気がつかない私が悪い気がしてきました…。
「ご、ごめんね、フェルーテちゃん…。本当に全然わからないよ。実は私、魔法が使えたことがなくて、もしかしてそのせいかな?」
『えっ!?』
フェルーテちゃんは驚いた顔で再び見つめてきます。
でも今度は何かに気がついたような表情でした。
『そう…そうだったの。それなら気がつかなかった…かも…』
フェルーテちゃんは羽をはばたかせて、ふわりと私の膝に舞い降ります。
目を合わせれば、その真剣な目に息をのみます。
『クリス、教えてあげる。あなたは、わたしがあげた祝福魔法をハンバーグに使ったのよ』
「…………うん??」
言われた言葉の意味かわかりませんでした。
祝福魔法をハンバーグに使った?私が??
言葉を理解しようと考え込んでいたら、エヴァン先生が困り笑いをしながら言いました。
「クリスさん、みんなの料理、キラキラ光っていたでしょう?」
「え?はい。魔法の調味料を使ったのかなって思いました」
他のグループが食材集めで調味料もいろいろ手にしていたことは知っています。
その中に魔法の調味料があったのだと思っていました。
そう答えると、エヴァン先生は首を振って否定しました。
「それは違います。クリスさんがフェルーテからもらった祝福魔法を使って、みんなの料理に祝福を与えていたのですよ」
あまりのことに言葉が出ません。
え?ええ??まさか、そんなこと…。
一体、いつ?
料理実習のことを思い出しながら、自分の行動を辿って行きます。
食器や調理器具を選んで、食材をみんなからもらって、調理して…。
「…―――あ」
思い出して辿り着いたその行動。
先生に渡されたレシピに書いてなかったこと。
きっと、みんなもしていなかった、私だけがしたこと。
――― おいしくなあれ ―――
「私が祈ったから?」
そう呟いた私に、「正解」とエヴァン先生が答えてくれました。
膝に乗っていたフェルーテちゃんもうれしそうに笑いながら頷きます。
『クリスったら、せっかくわたしがあげた祝福魔法をぜーんぶ料理に使っちゃったんだもの。自分のために使わないなんてあの時は呆れたわよ』
「ご、ごめん、フェルーテちゃん…私、全然気がつかなくて…」
だからあの時、呆れたような怒ったような顔をしていたんですね。
エヴァン先生が私を見て困り笑いをしたのも、つまりそういうこと。
「他のグループの評価が低かったのは、その祝福魔法のおかげで料理がおいしいものになっていたからなんです。みんなは気がついていませんでしたが、あれは半分以上祝福魔法の効果ですよ」
「そ、そうだったんですか…」
「あの時は、少々大人げなく怒ってしまいました。それについてはみんなには申し訳ないですが、それと評価は別です。あれが事実です」
先生はあの時のように困り笑いをしながら「祝福魔法を差し引いた評価でしたが、あれでも甘めに評価した方です」と言い足しました。
なるほど。先生はそれを知っていたから、あんな厳しい言葉を言っていたんですね。
みんなのハンバーグの出来に対して低すぎる評価にようやく納得できたような気がしました。
「クリスさん、いろいろありましたが限られた中で自分にできる最大限のことをやっていましたね。本当によく頑張りました」
「…! はいっ、ありがとうございます」
エヴァン先生は、よくできましたと言うように私の頭を撫でてくれました。その顔は今まで見た中で一番甘くて優しいものでした。思わず照れてしまうほど。
先生は、きっと、私がみんなに食材を分けてくれるようにお願いしたことも、スープやサラダを作ったことも知っている。
フェルーテちゃんが傍でずっと見ていたから、もしかしたらその目を通して見ていてくれたかもしれないです。
自分にできることを探してやったことが認められるのは、うれしいです!頑張ってよかった!
撫でられてしばらく幸せな気分になっていると、黙っていたフェルーテちゃんが疑問を投げつけてきました。
『ところでクリス。わたしの祝福魔法を料理に使えたのに、自分では本当に魔法が使えないの?』
「…………えーと…そうだね。まだ使えたことないよ…」
一気に気持ちが沈んだような気がしました。
落ち込み気味に答えたら、フェルーテちゃんが不思議そうな顔で見つめてきます。
『クリスって、本当に不思議な人間よね。わたしのことが見えてるし。魔法が使えないなんて…魔力に何か制限がかかっているのかしら?』
「ギル先生から聞いたところによると、クリスさんの魔力は少し特殊なところがあるそうですよ。魔法が使えないのはその性質のせいかもしれませんね」
フェルーテちゃんの疑問に、エヴァン先生が事もなげに答えます。
「え?」
エヴァン先生、今なんかさらっと聞き逃しちゃいけないこと言いませんでした?
『そうなの?じゃあ、もしかしたら普通では考えられない条件が鍵になっているのかもね。例えば、クリス一人じゃ魔法は使えないとか。わたしの祝福魔法を使ったのがいい例よ』
「ああ、なるほど。確かに的を得ていますね」
『あとは、魔力が魔法を使うことに向いていないとか』
「それは私も一度考えましたね。クリスさんは内包的な気がします。実際、魔法を発動させるよりも、他人をサポートする能力の方が長けていますし」
『それから、それから…』
ええええと!!!ちょっと待って待って―!!
私を置いて次々に話をするエヴァン先生とフェルーテちゃんに慌てます。
二人の話の内容が衝撃すぎてついていけません!
しかも、私が知らない新事実とかいろいろ聞こえた気がするのですが!?
そんな私の様子に気がついたエヴァン先生が口を噤みました。
「ごめんね、クリスさん。置いてきぼりにしてしまいました」
「先生…私の魔力って…そんなに特殊な性質なんですか?」
大事なことです、これは訊いておかなければいけないです。
不安な顔で言ったせいか、エヴァン先生は少し困った顔をします。
「そうらしいですよ。しかし、ギル先生はそれが少しだけ見えているだけなので、絶対にそうだとは言えません。可能性の一つとして、覚えておいてください」
「……そう、なんですか…」
知らなかった。
ギル先生も魔力を見ることができる人だったんですね。
だからいつも魔法実技の授業の時、いろんなアドバイスをしてくれるんだ…。
―――「わからないことは、たくさんあるね。難しくて、できなくて、足りなくて。でも、重要なのは、どうしてそれができないのかを知ることだよ」
―――「難しいことかもしれないけど、クリスさんはもっと自分の魔力について見つめるといい。闇雲では、できるものもできないからね」
初めての魔法実技の授業の時、そう言ってくれたのはギル先生でした。
あの時の言葉で、自分の魔力と向き合おうと努力して、勉強もしてきました。
結果は、うん、まだ全然ダメだけど…。
『クリス。魔力については、わたし達では本当の意味で教えてあげられないわ。さっきはいろんな可能性を言ってはみたけど、結局はクリスにしかクリスの魔力はわからないんだから』
「うん…」
特殊な魔力の性質。
リィちゃんとカイト君が前に調べてくれた、あまり例のない性質があることを思い出しました。
その時の会話の中で、何かが引っ掛かった気がするのですが、それが何だったのか今の私にはわかりませんでした。
「クリスさんなら大丈夫です。今は苦しいかもしれません。ですが、気がついてみれば案外簡単に魔法が使えるかもしれませんよ」
エヴァン先生はそう言って、微笑んでくれました。
そうだったらいいなと、それに小さく頷きます。
自分の魔力について、まだわからないことがたくさんあるけど、前ほど不安じゃない。
だって、私にはちゃんと魔力があって、フェルーテちゃんの力を借りた形だったけど、魔法が使えたから。
今は、それがわかっただけで十分です。
先生とフェルーテちゃんの話からすると、魔法が使えなくても違う形で魔力を使えるようだし、その方面も勉強してみたいな。
~~~っどうしよう!そう思ったら、うずうずしてきました!
だって、その新しい可能性はまだ見たことのない知らない世界です!
帰りに図書室に行こうっと!
そわそわし始めた私の様子を見たエヴァン先生が噴き出すように笑います。
慌ててシャキッと姿勢を正すと、さらに笑われてしまいました。むむむ。
「クリスさん、わからないことや不安なことがあったら、またいつでも相談しに来てください。もちろん、お茶をしに来てくれてもいいですよ」
『わたしもクリスのこと、応援してるからね!また遊びに来て!今度は他の妖精も紹介するから!』
エヴァン先生とフェルーテちゃんの優しい励ましに、うれしくなって笑顔で返事を返しました。
「はい!また来ます!」
「はい、なんですか?クリスさん」
料理実習をした次の日の放課後。
どうしても気になることがあって、エヴァン先生のところへ足を運びました。
エヴァン先生は今日も調理実習室の奥の準備室で、何かを作っていました。
妖精の雫とは違う香りが先生を包んでいて、今度は何を作っていたんでしょうか?
気になりつつも、本題に入ります。
「料理実習の点数、どうして他のグループはあんなに低かったんですか?みんなもとてもよくできていたと思います」
他のグループの食材集めや調理はあまり見ていませんでしたが、あの点数はいくらなんでも低すぎる気がします。
理由は昨日教えてもらいましたが、やっぱり納得ができなくて、もう一度訊いてみたかったんです。
そう思ってエヴァン先生に訊いたのですが、先生は困ったように笑って言いました。
「クリスさんは…やっぱり無意識だったのですね」
「え?」
エヴァン先生は、ハンバーグのレシピを渡してきました。
それは、料理実習で使ったレシピと同じでした。
でも、どうしてこれを渡されたのか意味がわかりません。
首を傾げながらレシピを見つめていると、突然準備室の扉が開きました。
『クリスー!!』
勢いよく胸に飛び込んできたのは、光妖精のフェルーテちゃんでした。
半透明の羽から零れる光がキラキラと舞っています。
フェルーテちゃんは顔を上げると、今度はエヴァン先生の方へ飛んでいきます。
『エヴァン!なんで起こしてくれなかったの!?クリスが来てるなら言ってよー!』
「フェルーテ…寝ていたんじゃなかったんですか?」
『何言ってるの!わたしの友達が来たのなら起こすのが当然でしょ!』
「はいはい」
どうやらフェルーテちゃんは準備室で寝ていて、外から聞こえる話し声で目が覚めたらしく、そしたら私の気配を感じて飛び起きたそうです。
ぽかぽかとエヴァン先生を叩いているフェルーテちゃん。怒ってるけど、かわいい…。
先生も呆れつつ笑っています。
相変わらず、この二人のやり取りはおもしろいです。
まるで親友…いえ、親子かな?
「今、クリスさんと料理実習の評価について話していたんですよ」
『! やっと気がついたの、クリス!?』
目をキラキラさせて振り向くフェルーテちゃん。
期待に溢れた目で見つめられて、思わず困り顔になってしまいます。
さっきからエヴァン先生ともお話していましたが、まったく意味がわかりません。
渡されたレシピを見ても特に変わったところはないし、私達のグループはこのレシピ通りにハンバーグを作りました。他のグループもそうしたはずです。
でも、エヴァン先生とフェルーテちゃんの言葉から、私は何かやってしまったみたいです。
「フェルーテ、落ち着いてください。クリスさんは全く気がついていません。無意識だったようですよ」
『ええええええ~~っ!!?』
フェルーテちゃんはこれ以上ないくらい驚いた顔で叫びました。
『信じられない!』『なんで!?』と言いながら、エヴァン先生に詰め寄っています。
ここまで言われると、気がつかない私が悪い気がしてきました…。
「ご、ごめんね、フェルーテちゃん…。本当に全然わからないよ。実は私、魔法が使えたことがなくて、もしかしてそのせいかな?」
『えっ!?』
フェルーテちゃんは驚いた顔で再び見つめてきます。
でも今度は何かに気がついたような表情でした。
『そう…そうだったの。それなら気がつかなかった…かも…』
フェルーテちゃんは羽をはばたかせて、ふわりと私の膝に舞い降ります。
目を合わせれば、その真剣な目に息をのみます。
『クリス、教えてあげる。あなたは、わたしがあげた祝福魔法をハンバーグに使ったのよ』
「…………うん??」
言われた言葉の意味かわかりませんでした。
祝福魔法をハンバーグに使った?私が??
言葉を理解しようと考え込んでいたら、エヴァン先生が困り笑いをしながら言いました。
「クリスさん、みんなの料理、キラキラ光っていたでしょう?」
「え?はい。魔法の調味料を使ったのかなって思いました」
他のグループが食材集めで調味料もいろいろ手にしていたことは知っています。
その中に魔法の調味料があったのだと思っていました。
そう答えると、エヴァン先生は首を振って否定しました。
「それは違います。クリスさんがフェルーテからもらった祝福魔法を使って、みんなの料理に祝福を与えていたのですよ」
あまりのことに言葉が出ません。
え?ええ??まさか、そんなこと…。
一体、いつ?
料理実習のことを思い出しながら、自分の行動を辿って行きます。
食器や調理器具を選んで、食材をみんなからもらって、調理して…。
「…―――あ」
思い出して辿り着いたその行動。
先生に渡されたレシピに書いてなかったこと。
きっと、みんなもしていなかった、私だけがしたこと。
――― おいしくなあれ ―――
「私が祈ったから?」
そう呟いた私に、「正解」とエヴァン先生が答えてくれました。
膝に乗っていたフェルーテちゃんもうれしそうに笑いながら頷きます。
『クリスったら、せっかくわたしがあげた祝福魔法をぜーんぶ料理に使っちゃったんだもの。自分のために使わないなんてあの時は呆れたわよ』
「ご、ごめん、フェルーテちゃん…私、全然気がつかなくて…」
だからあの時、呆れたような怒ったような顔をしていたんですね。
エヴァン先生が私を見て困り笑いをしたのも、つまりそういうこと。
「他のグループの評価が低かったのは、その祝福魔法のおかげで料理がおいしいものになっていたからなんです。みんなは気がついていませんでしたが、あれは半分以上祝福魔法の効果ですよ」
「そ、そうだったんですか…」
「あの時は、少々大人げなく怒ってしまいました。それについてはみんなには申し訳ないですが、それと評価は別です。あれが事実です」
先生はあの時のように困り笑いをしながら「祝福魔法を差し引いた評価でしたが、あれでも甘めに評価した方です」と言い足しました。
なるほど。先生はそれを知っていたから、あんな厳しい言葉を言っていたんですね。
みんなのハンバーグの出来に対して低すぎる評価にようやく納得できたような気がしました。
「クリスさん、いろいろありましたが限られた中で自分にできる最大限のことをやっていましたね。本当によく頑張りました」
「…! はいっ、ありがとうございます」
エヴァン先生は、よくできましたと言うように私の頭を撫でてくれました。その顔は今まで見た中で一番甘くて優しいものでした。思わず照れてしまうほど。
先生は、きっと、私がみんなに食材を分けてくれるようにお願いしたことも、スープやサラダを作ったことも知っている。
フェルーテちゃんが傍でずっと見ていたから、もしかしたらその目を通して見ていてくれたかもしれないです。
自分にできることを探してやったことが認められるのは、うれしいです!頑張ってよかった!
撫でられてしばらく幸せな気分になっていると、黙っていたフェルーテちゃんが疑問を投げつけてきました。
『ところでクリス。わたしの祝福魔法を料理に使えたのに、自分では本当に魔法が使えないの?』
「…………えーと…そうだね。まだ使えたことないよ…」
一気に気持ちが沈んだような気がしました。
落ち込み気味に答えたら、フェルーテちゃんが不思議そうな顔で見つめてきます。
『クリスって、本当に不思議な人間よね。わたしのことが見えてるし。魔法が使えないなんて…魔力に何か制限がかかっているのかしら?』
「ギル先生から聞いたところによると、クリスさんの魔力は少し特殊なところがあるそうですよ。魔法が使えないのはその性質のせいかもしれませんね」
フェルーテちゃんの疑問に、エヴァン先生が事もなげに答えます。
「え?」
エヴァン先生、今なんかさらっと聞き逃しちゃいけないこと言いませんでした?
『そうなの?じゃあ、もしかしたら普通では考えられない条件が鍵になっているのかもね。例えば、クリス一人じゃ魔法は使えないとか。わたしの祝福魔法を使ったのがいい例よ』
「ああ、なるほど。確かに的を得ていますね」
『あとは、魔力が魔法を使うことに向いていないとか』
「それは私も一度考えましたね。クリスさんは内包的な気がします。実際、魔法を発動させるよりも、他人をサポートする能力の方が長けていますし」
『それから、それから…』
ええええと!!!ちょっと待って待って―!!
私を置いて次々に話をするエヴァン先生とフェルーテちゃんに慌てます。
二人の話の内容が衝撃すぎてついていけません!
しかも、私が知らない新事実とかいろいろ聞こえた気がするのですが!?
そんな私の様子に気がついたエヴァン先生が口を噤みました。
「ごめんね、クリスさん。置いてきぼりにしてしまいました」
「先生…私の魔力って…そんなに特殊な性質なんですか?」
大事なことです、これは訊いておかなければいけないです。
不安な顔で言ったせいか、エヴァン先生は少し困った顔をします。
「そうらしいですよ。しかし、ギル先生はそれが少しだけ見えているだけなので、絶対にそうだとは言えません。可能性の一つとして、覚えておいてください」
「……そう、なんですか…」
知らなかった。
ギル先生も魔力を見ることができる人だったんですね。
だからいつも魔法実技の授業の時、いろんなアドバイスをしてくれるんだ…。
―――「わからないことは、たくさんあるね。難しくて、できなくて、足りなくて。でも、重要なのは、どうしてそれができないのかを知ることだよ」
―――「難しいことかもしれないけど、クリスさんはもっと自分の魔力について見つめるといい。闇雲では、できるものもできないからね」
初めての魔法実技の授業の時、そう言ってくれたのはギル先生でした。
あの時の言葉で、自分の魔力と向き合おうと努力して、勉強もしてきました。
結果は、うん、まだ全然ダメだけど…。
『クリス。魔力については、わたし達では本当の意味で教えてあげられないわ。さっきはいろんな可能性を言ってはみたけど、結局はクリスにしかクリスの魔力はわからないんだから』
「うん…」
特殊な魔力の性質。
リィちゃんとカイト君が前に調べてくれた、あまり例のない性質があることを思い出しました。
その時の会話の中で、何かが引っ掛かった気がするのですが、それが何だったのか今の私にはわかりませんでした。
「クリスさんなら大丈夫です。今は苦しいかもしれません。ですが、気がついてみれば案外簡単に魔法が使えるかもしれませんよ」
エヴァン先生はそう言って、微笑んでくれました。
そうだったらいいなと、それに小さく頷きます。
自分の魔力について、まだわからないことがたくさんあるけど、前ほど不安じゃない。
だって、私にはちゃんと魔力があって、フェルーテちゃんの力を借りた形だったけど、魔法が使えたから。
今は、それがわかっただけで十分です。
先生とフェルーテちゃんの話からすると、魔法が使えなくても違う形で魔力を使えるようだし、その方面も勉強してみたいな。
~~~っどうしよう!そう思ったら、うずうずしてきました!
だって、その新しい可能性はまだ見たことのない知らない世界です!
帰りに図書室に行こうっと!
そわそわし始めた私の様子を見たエヴァン先生が噴き出すように笑います。
慌ててシャキッと姿勢を正すと、さらに笑われてしまいました。むむむ。
「クリスさん、わからないことや不安なことがあったら、またいつでも相談しに来てください。もちろん、お茶をしに来てくれてもいいですよ」
『わたしもクリスのこと、応援してるからね!また遊びに来て!今度は他の妖精も紹介するから!』
エヴァン先生とフェルーテちゃんの優しい励ましに、うれしくなって笑顔で返事を返しました。
「はい!また来ます!」
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