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第1章 ◆ はじまりと出会いと
35. おでかけしよう!
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エヴァン先生とフェルーテちゃんとお話した日から、魔力について他の分野も勉強することにしました。
今まで、魔法を使うための分野ばかり勉強していたので、知識が魔法に関する分野に偏っていることに気がつきました。
フェルーテちゃんが言っていた、「魔力が魔法を使うことに向いていない」ということは、「魔力は魔法を使うためだけのものではない」ということです。
「私の魔力は魔法を使えない…」
それは一般の人達から見れば、かなり異質なことでした。
だって、光組の図書室で調べた範囲では、そのことが書かれた本はたった2冊しかなかったから。しかも、一、二行だけという内容。
ここ数日、光組の図書室で調べていましたが、ここで知ることができる情報はもう限界だと思いました。
「他の組の図書室は行けないし…んー…」
いつもの作業机で突っ伏していると、肩を叩かれました。
誰だろうと顔を上げれば、担任のリスト先生が大きな本を持って立っていました。
「図書室はお昼寝の場所じゃないぞ、クリスさん」
「す、すみません、先生!」
ピシッと姿勢を正して、先生を見上げます。
リスト先生は爽やかに笑って、視線を私が読んでいた本に移しました。
すると、ちょっと目を見開いて、黙り込んでしまいました。
その様子に首を傾げれば、先生はまた笑って「ほどほどにな」と言葉を残して去ってしまいました。
なんだったんだろう?
気になりつつも、今目の前にあるものに意識を向ければ、すぐに忘れてしまいました。
そんなこんなで、リィちゃんとカイト君、ときどきエヴァン先生、フェルーテちゃんと勉強して、あっという間にこの日がやってきました。
そう、今日はお母さんとおでかけの日!
「猫の瞳」でペンダントにしてもらう日です!
ペンダントにしてもらうのも楽しみだけど、お母さんとお買い物するのは本当に久しぶりです。楽しみで仕方がありません!
普段、お母さんは精霊の聴き手として働いていて、村の外に出ることはありません。
出れないわけじゃないけど、外に出ると「深霧の森」の精霊がついてきて、大変なことになるんだとか。
だから、魔導具に結界魔法を何重にもかけて、精霊に見つからないように外に出ないといけないそうです。
それが大変で面倒だということもあって、余程のことがない限り、お母さんは村の外へおでかけしないのです。
そんなお母さんが私と一緒にお買い物に行くのです。
楽しみじゃないわけがありません!
「よし、ポシェットも準備万端。ポーチもポケットに入れた。忘れ物はない!」
顔を洗って歯磨きして、朝ご飯も食べて、時刻はまだ朝の八時。
おでかけする時間にはまだ早かったけど、わくわくしてしまうのはしょうがないですよね?
身なりを鏡で整えたら、鼻歌交じりに部屋を出ます。
すると、お父さんが部屋の傍で立っていました。
その顔はちょっと落ち込んだものです。
あ。もしかして。
この顔は、知っています。
絶対、よくないことを言われる、そんな顔。
「クリス…ごめんね。お母さん、一緒におでかけできなくなってしまったんだ…」
ほら、やっぱり。
予想通りのことに何も言葉にできなくて、ただお父さんを見つめます。
お父さんはゆっくり屈んで、目線を合わせてきました。
涙なんて出てなかったと思うけど、それを拭うみたいに目元を撫でてくるお父さんの手は、とても冷たく感じました。
「クリス、お母さんは今日をとても楽しみにしていたんだよ。今日の分のお仕事も前倒しでこなしていたから…ちょっと頑張りすぎてしまったんだ」
「!! お母さん、大丈夫なの!?」
普段から体力を温存しないと使えないお母さんの魔法は、とてもたくさんの魔力も使います。
それを前倒しで使っていたのだとしたら、疲れて倒れたのかもしれない。
前に魔導具が壊れたこともあって、魔法を使うたびにお母さんの体が少しずつ弱くなっていることは私にもわかっていました。
お父さんにしがみつくように言えば、抱きしめられました。
「心配しなくても大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだ。クリス、おでかけはできなくなってしまったけど、次は絶対行くからとお母さんが言っていた。あとでお母さんの部屋にお見舞いに行ってくれるかい?」
「…うん…わかった…」
力無くそう頷いて、お父さんと別れます。
お父さんも朝から自警団のお仕事なのです。
リビングに行くと、クロードお兄ちゃんとレガロお兄ちゃんがお話ししていたところでした。
お兄ちゃん達は私に気がつくと、ちょっとだけ悲しそうに笑って、抱っこと頭を撫でてくれました。
「ごめんな。おでかけ、一緒に行ってやりたいけど俺もレガロも用事で行けないんだ。…でも、クリスはお母さんと行きたかったよな」
おでかけできない私を気遣うようにクロードお兄ちゃんが言います。
頭を撫でてくるレガロお兄ちゃんも私の気持ちがわかっているようで、優しく髪を梳いてくれます。
お兄ちゃん達の優しさに、お父さんの前では我慢していた涙が溢れてしまいました。
お母さんが私の泣き声で飛んでこないように、クロードお兄ちゃんの胸に顔を埋めて声に出さないように泣きました。
その間、お兄ちゃん達はずっと私の傍にいてくれました。
「お兄ちゃん、ごめんね、服汚しちゃった…」
「気にするな。もう大丈夫か?」
「うん」
悲しくてしょうがなかったけど、泣いたらちょっとだけすっきりしたかもしれないです。
顔を上げれば、レガロお兄ちゃんがあったかい濡れタオルを用意してくれていました。
それを受け取って、泣いてぐちゃぐちゃになった顔を拭きます。
濡れタオルの温かさにホッとして、拭き終わった頃には気持ちも落ち着いていました。
「クリス、これは賭けになるかもしれませんが…僕と一緒に学園に行きませんか」
「え?」
レガロお兄ちゃんは、いつの間にか教育科の通学鞄を肩に掛けていました。
そういえば、今日は学修科共用の第二研究塔で空組のグループ研究発表の準備会議があると昨日言っていました。
私がそこに一緒に行くということでしょうか?
邪魔にならないかな?
「僕は一緒におでかけはできませんが、もしかしたらライゼンに頼めるかもしれません」
レガロお兄ちゃんのその言葉に思いきり目を見開きました。
レガロお兄ちゃんによると、今日はライゼンさんが研究発表のための材料見本を持ってきてくれるそうです。
準備会議が始まる前に研究塔に置いていくそうなので、早く行けばライゼンさんに会えるかもしれないとのことでした。
「ライゼンに会えるかどうかもわかりませんし、もし会えたとしても彼に予定があれば、おでかけはできません。それでも行ってみますか?」
「…っ行く!行きたい!!」
返事は即決でした。
私の勢いにレガロお兄ちゃんは笑っていましたが、クロードお兄ちゃんは複雑そうな顔をしていました。
「兄上、大丈夫ですよ。ライゼンは魔導具研究科の神童で、しかも僕達と同志でもあります」
クロードお兄ちゃんはそれを聞いて、「それなら安心だ」と、ぱっと顔を明るくしました。
「…どうし?」
聞き慣れない言葉に首を傾げれば、レガロお兄ちゃんは微笑んで言います。
「同じ思いを持っている仲間のことです。クリスが大事ということですよ」
「……」
ものすごく子ども扱いされていることにちょっと不満ですが、納得することにしました。
それに、ライゼンさんとおでかけできるかもしれないと思えば、そんなこと気にならないです!
私だって、ライゼンさんは尊敬する大切な友達ですから!
「では、急いで学園へ行きましょう。クリス、準備はできていますか?」
「うんっ!」
力強く頷けば、クロードお兄ちゃんに頭を撫でられます。
「気をつけて行って来い。母さんには俺から言っておくから」
「ううん、今言ってくる。お母さんもきっと気にしてると思うから」
そう言った私に、お兄ちゃん達は優しく頷いてくれて、背中をポンッと押してくれました。
そのままお母さんの部屋に行って、レガロお兄ちゃんと学園に行って、叶えば友達とおでかけしてくることを伝えました。
お母さんは最初申し訳ない顔をしていたけど、最後には微笑んで頷いてくれました。
「ごめんね、クリス。お友達とおでかけできるといいわね。次はお母さんとおでかけしてちょうだいね?」
「うんっ!もちろんだよ!」
お互いに笑って、ぎゅっと抱きしめ合いました。
次のおでかけ、楽しみにしてます!
レガロお兄ちゃんと急いで学園に行って研究塔に着けば、まだライゼンさんは来ていないようでした。
それにほっとして、研究準備室でレガロお兄ちゃんと材料が届けられるのを待つことにしました。
研究材料ってどんなのだろうと思いながらしばらく待っていると、突然扉の向こうが光りだしました。
それにびっくりしていると、レガロお兄ちゃんが慌てて扉を開きます。
扉の脇には、材料と思われるものが大きな箱や袋に詰められて置いてありました。
「…これは…転移魔法を使ったのですね…」
レガロお兄ちゃんががっかりしたように言います。
材料が魔法を使って届けられた。
それは、ライゼンさんがここには来ないということを示していました。
「すみません、クリス。ライゼンは転移魔法で届けてくれたようです。…期待をさせて、すみません…」
「ううん…お兄ちゃんも賭けになるかもって言ってたから…ありがとう、今日は諦める」
困ったように笑えば、レガロお兄ちゃんは顔を苦しげにゆがめて、申し訳ない顔をします。
これは仕方がないです、今日は大人しく家で遊ぼう。
そうだ、お母さんのお手伝いをしようかな。
諦めたようにため息をついたその時。
「何故クリスがいるんだ?」
ここにいなかったはずの声が聞こえて、思わず固まってしまいました。
レガロお兄ちゃんもびっくりして、声がした方に振り返ります。
そこに立っていたのは、大きな袋を脇に抱えたライゼンさんでした。
「ライゼン…いたのですか?」
「? いたらいけないのか?」
びっくりした顔で言ったレガロお兄ちゃんに、ライゼンさんは不機嫌な顔で返しました。
その顔、見たことないです。不機嫌そうな顔でもきれいだなんて反則です。
レガロお兄ちゃんは慌てて説明をします。
「いえ、違うんです。荷物が転移魔法で送られてきたので、ライゼンは来なかったと思って…」
「今朝になって追加の材料を先生に頼まれた。転移魔法を組んだ後だったから、一緒に送れなかった」
「そ、そうだったんですか!よかった!!」
喜ぶレガロお兄ちゃんに顔をしかめながら首を傾げるライゼンさん。
と、とりあえず、これ以上不機嫌になる前にお願いを言わないと…!
そう思って、ライゼンさんに思い切って話しかけます。
「あの、ライゼンさん!実は、私がライゼンさんに会いたかったんです!今日は、えと、ライゼンさんは、何か予定、が、あり…ます、か?」
なんだか変に緊張してしまって、最後の方は声が小さくなってうまく言えませんでした。
ライゼンさんは、そんな私をしばらく見つめています。
相変わらず無表情なので、何を考えているのかわかりません。
「……特にない…」
ぽつりと言われた答えは、私をうれしくさせるのに十分でした。
うれしすぎて、思わずライゼンさんに抱きつきます。
ライゼンさんはびっくりしながらも、倒れないように抱きとめてくれました。
「ライゼンさん!私とおでかけしませんか…っ!」
「っ………」
顔を上げて言うと、思ったよりライゼンさんの顔が近くて、固まります。
ライゼンさんもびっくりしたように固まっています。
その金色の目は、まるではちみつを光にかざしたようにキラキラしていて、思わず見惚れてしまいました。
変だな。何度もこの目を見ているはずなのに、見るたびに、見つめられるたびにその輝きに引き込まれてしまいます。
しばらく二人で固まっていると隣でコホンと咳払いをされて、体の緊張が解けたようにお互い離れます。
ありがとうレガロお兄ちゃん。
あのまま固まってたら、どうしようかと思ったよ。
「…そういうわけです。ライゼン、もしよかったらクリスと一緒に猫町通りの『猫の瞳』へおでかけしてくれませんか?」
「私でいいのか?」
戸惑うようにライゼンさんが言うので、思い切り肯定します。
「ライゼンさんがいいです!」
「…わかった」
ため息をつきながらも、少し微笑んで答えてくれたライゼンさんに、また抱きつこうとしました。
が、とっさにレガロお兄ちゃんが止めたので、それは叶いませんでした。
こうして、お母さんとおでかけする日は、ライゼンさんとおでかけする日に変わりました。
今まで、魔法を使うための分野ばかり勉強していたので、知識が魔法に関する分野に偏っていることに気がつきました。
フェルーテちゃんが言っていた、「魔力が魔法を使うことに向いていない」ということは、「魔力は魔法を使うためだけのものではない」ということです。
「私の魔力は魔法を使えない…」
それは一般の人達から見れば、かなり異質なことでした。
だって、光組の図書室で調べた範囲では、そのことが書かれた本はたった2冊しかなかったから。しかも、一、二行だけという内容。
ここ数日、光組の図書室で調べていましたが、ここで知ることができる情報はもう限界だと思いました。
「他の組の図書室は行けないし…んー…」
いつもの作業机で突っ伏していると、肩を叩かれました。
誰だろうと顔を上げれば、担任のリスト先生が大きな本を持って立っていました。
「図書室はお昼寝の場所じゃないぞ、クリスさん」
「す、すみません、先生!」
ピシッと姿勢を正して、先生を見上げます。
リスト先生は爽やかに笑って、視線を私が読んでいた本に移しました。
すると、ちょっと目を見開いて、黙り込んでしまいました。
その様子に首を傾げれば、先生はまた笑って「ほどほどにな」と言葉を残して去ってしまいました。
なんだったんだろう?
気になりつつも、今目の前にあるものに意識を向ければ、すぐに忘れてしまいました。
そんなこんなで、リィちゃんとカイト君、ときどきエヴァン先生、フェルーテちゃんと勉強して、あっという間にこの日がやってきました。
そう、今日はお母さんとおでかけの日!
「猫の瞳」でペンダントにしてもらう日です!
ペンダントにしてもらうのも楽しみだけど、お母さんとお買い物するのは本当に久しぶりです。楽しみで仕方がありません!
普段、お母さんは精霊の聴き手として働いていて、村の外に出ることはありません。
出れないわけじゃないけど、外に出ると「深霧の森」の精霊がついてきて、大変なことになるんだとか。
だから、魔導具に結界魔法を何重にもかけて、精霊に見つからないように外に出ないといけないそうです。
それが大変で面倒だということもあって、余程のことがない限り、お母さんは村の外へおでかけしないのです。
そんなお母さんが私と一緒にお買い物に行くのです。
楽しみじゃないわけがありません!
「よし、ポシェットも準備万端。ポーチもポケットに入れた。忘れ物はない!」
顔を洗って歯磨きして、朝ご飯も食べて、時刻はまだ朝の八時。
おでかけする時間にはまだ早かったけど、わくわくしてしまうのはしょうがないですよね?
身なりを鏡で整えたら、鼻歌交じりに部屋を出ます。
すると、お父さんが部屋の傍で立っていました。
その顔はちょっと落ち込んだものです。
あ。もしかして。
この顔は、知っています。
絶対、よくないことを言われる、そんな顔。
「クリス…ごめんね。お母さん、一緒におでかけできなくなってしまったんだ…」
ほら、やっぱり。
予想通りのことに何も言葉にできなくて、ただお父さんを見つめます。
お父さんはゆっくり屈んで、目線を合わせてきました。
涙なんて出てなかったと思うけど、それを拭うみたいに目元を撫でてくるお父さんの手は、とても冷たく感じました。
「クリス、お母さんは今日をとても楽しみにしていたんだよ。今日の分のお仕事も前倒しでこなしていたから…ちょっと頑張りすぎてしまったんだ」
「!! お母さん、大丈夫なの!?」
普段から体力を温存しないと使えないお母さんの魔法は、とてもたくさんの魔力も使います。
それを前倒しで使っていたのだとしたら、疲れて倒れたのかもしれない。
前に魔導具が壊れたこともあって、魔法を使うたびにお母さんの体が少しずつ弱くなっていることは私にもわかっていました。
お父さんにしがみつくように言えば、抱きしめられました。
「心配しなくても大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだ。クリス、おでかけはできなくなってしまったけど、次は絶対行くからとお母さんが言っていた。あとでお母さんの部屋にお見舞いに行ってくれるかい?」
「…うん…わかった…」
力無くそう頷いて、お父さんと別れます。
お父さんも朝から自警団のお仕事なのです。
リビングに行くと、クロードお兄ちゃんとレガロお兄ちゃんがお話ししていたところでした。
お兄ちゃん達は私に気がつくと、ちょっとだけ悲しそうに笑って、抱っこと頭を撫でてくれました。
「ごめんな。おでかけ、一緒に行ってやりたいけど俺もレガロも用事で行けないんだ。…でも、クリスはお母さんと行きたかったよな」
おでかけできない私を気遣うようにクロードお兄ちゃんが言います。
頭を撫でてくるレガロお兄ちゃんも私の気持ちがわかっているようで、優しく髪を梳いてくれます。
お兄ちゃん達の優しさに、お父さんの前では我慢していた涙が溢れてしまいました。
お母さんが私の泣き声で飛んでこないように、クロードお兄ちゃんの胸に顔を埋めて声に出さないように泣きました。
その間、お兄ちゃん達はずっと私の傍にいてくれました。
「お兄ちゃん、ごめんね、服汚しちゃった…」
「気にするな。もう大丈夫か?」
「うん」
悲しくてしょうがなかったけど、泣いたらちょっとだけすっきりしたかもしれないです。
顔を上げれば、レガロお兄ちゃんがあったかい濡れタオルを用意してくれていました。
それを受け取って、泣いてぐちゃぐちゃになった顔を拭きます。
濡れタオルの温かさにホッとして、拭き終わった頃には気持ちも落ち着いていました。
「クリス、これは賭けになるかもしれませんが…僕と一緒に学園に行きませんか」
「え?」
レガロお兄ちゃんは、いつの間にか教育科の通学鞄を肩に掛けていました。
そういえば、今日は学修科共用の第二研究塔で空組のグループ研究発表の準備会議があると昨日言っていました。
私がそこに一緒に行くということでしょうか?
邪魔にならないかな?
「僕は一緒におでかけはできませんが、もしかしたらライゼンに頼めるかもしれません」
レガロお兄ちゃんのその言葉に思いきり目を見開きました。
レガロお兄ちゃんによると、今日はライゼンさんが研究発表のための材料見本を持ってきてくれるそうです。
準備会議が始まる前に研究塔に置いていくそうなので、早く行けばライゼンさんに会えるかもしれないとのことでした。
「ライゼンに会えるかどうかもわかりませんし、もし会えたとしても彼に予定があれば、おでかけはできません。それでも行ってみますか?」
「…っ行く!行きたい!!」
返事は即決でした。
私の勢いにレガロお兄ちゃんは笑っていましたが、クロードお兄ちゃんは複雑そうな顔をしていました。
「兄上、大丈夫ですよ。ライゼンは魔導具研究科の神童で、しかも僕達と同志でもあります」
クロードお兄ちゃんはそれを聞いて、「それなら安心だ」と、ぱっと顔を明るくしました。
「…どうし?」
聞き慣れない言葉に首を傾げれば、レガロお兄ちゃんは微笑んで言います。
「同じ思いを持っている仲間のことです。クリスが大事ということですよ」
「……」
ものすごく子ども扱いされていることにちょっと不満ですが、納得することにしました。
それに、ライゼンさんとおでかけできるかもしれないと思えば、そんなこと気にならないです!
私だって、ライゼンさんは尊敬する大切な友達ですから!
「では、急いで学園へ行きましょう。クリス、準備はできていますか?」
「うんっ!」
力強く頷けば、クロードお兄ちゃんに頭を撫でられます。
「気をつけて行って来い。母さんには俺から言っておくから」
「ううん、今言ってくる。お母さんもきっと気にしてると思うから」
そう言った私に、お兄ちゃん達は優しく頷いてくれて、背中をポンッと押してくれました。
そのままお母さんの部屋に行って、レガロお兄ちゃんと学園に行って、叶えば友達とおでかけしてくることを伝えました。
お母さんは最初申し訳ない顔をしていたけど、最後には微笑んで頷いてくれました。
「ごめんね、クリス。お友達とおでかけできるといいわね。次はお母さんとおでかけしてちょうだいね?」
「うんっ!もちろんだよ!」
お互いに笑って、ぎゅっと抱きしめ合いました。
次のおでかけ、楽しみにしてます!
レガロお兄ちゃんと急いで学園に行って研究塔に着けば、まだライゼンさんは来ていないようでした。
それにほっとして、研究準備室でレガロお兄ちゃんと材料が届けられるのを待つことにしました。
研究材料ってどんなのだろうと思いながらしばらく待っていると、突然扉の向こうが光りだしました。
それにびっくりしていると、レガロお兄ちゃんが慌てて扉を開きます。
扉の脇には、材料と思われるものが大きな箱や袋に詰められて置いてありました。
「…これは…転移魔法を使ったのですね…」
レガロお兄ちゃんががっかりしたように言います。
材料が魔法を使って届けられた。
それは、ライゼンさんがここには来ないということを示していました。
「すみません、クリス。ライゼンは転移魔法で届けてくれたようです。…期待をさせて、すみません…」
「ううん…お兄ちゃんも賭けになるかもって言ってたから…ありがとう、今日は諦める」
困ったように笑えば、レガロお兄ちゃんは顔を苦しげにゆがめて、申し訳ない顔をします。
これは仕方がないです、今日は大人しく家で遊ぼう。
そうだ、お母さんのお手伝いをしようかな。
諦めたようにため息をついたその時。
「何故クリスがいるんだ?」
ここにいなかったはずの声が聞こえて、思わず固まってしまいました。
レガロお兄ちゃんもびっくりして、声がした方に振り返ります。
そこに立っていたのは、大きな袋を脇に抱えたライゼンさんでした。
「ライゼン…いたのですか?」
「? いたらいけないのか?」
びっくりした顔で言ったレガロお兄ちゃんに、ライゼンさんは不機嫌な顔で返しました。
その顔、見たことないです。不機嫌そうな顔でもきれいだなんて反則です。
レガロお兄ちゃんは慌てて説明をします。
「いえ、違うんです。荷物が転移魔法で送られてきたので、ライゼンは来なかったと思って…」
「今朝になって追加の材料を先生に頼まれた。転移魔法を組んだ後だったから、一緒に送れなかった」
「そ、そうだったんですか!よかった!!」
喜ぶレガロお兄ちゃんに顔をしかめながら首を傾げるライゼンさん。
と、とりあえず、これ以上不機嫌になる前にお願いを言わないと…!
そう思って、ライゼンさんに思い切って話しかけます。
「あの、ライゼンさん!実は、私がライゼンさんに会いたかったんです!今日は、えと、ライゼンさんは、何か予定、が、あり…ます、か?」
なんだか変に緊張してしまって、最後の方は声が小さくなってうまく言えませんでした。
ライゼンさんは、そんな私をしばらく見つめています。
相変わらず無表情なので、何を考えているのかわかりません。
「……特にない…」
ぽつりと言われた答えは、私をうれしくさせるのに十分でした。
うれしすぎて、思わずライゼンさんに抱きつきます。
ライゼンさんはびっくりしながらも、倒れないように抱きとめてくれました。
「ライゼンさん!私とおでかけしませんか…っ!」
「っ………」
顔を上げて言うと、思ったよりライゼンさんの顔が近くて、固まります。
ライゼンさんもびっくりしたように固まっています。
その金色の目は、まるではちみつを光にかざしたようにキラキラしていて、思わず見惚れてしまいました。
変だな。何度もこの目を見ているはずなのに、見るたびに、見つめられるたびにその輝きに引き込まれてしまいます。
しばらく二人で固まっていると隣でコホンと咳払いをされて、体の緊張が解けたようにお互い離れます。
ありがとうレガロお兄ちゃん。
あのまま固まってたら、どうしようかと思ったよ。
「…そういうわけです。ライゼン、もしよかったらクリスと一緒に猫町通りの『猫の瞳』へおでかけしてくれませんか?」
「私でいいのか?」
戸惑うようにライゼンさんが言うので、思い切り肯定します。
「ライゼンさんがいいです!」
「…わかった」
ため息をつきながらも、少し微笑んで答えてくれたライゼンさんに、また抱きつこうとしました。
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