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第1章 ◆ はじまりと出会いと
39. ドキドキなおでかけ④
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ライゼンさんといっぱいお話ししていたら、あっという間に二時になりました。
「猫の瞳」が午後の営業を始める時間です。
もっとライゼンさんのお話を聴きたいなと思いましたが、今日のおでかけの目的は「猫の瞳」に行ってペンダントにしてもらうことだから、わがままを言ってはいけないです。
私達はパンケーキの会計をすませて、「猫の瞳」へ行きました。
「猫の瞳」の前まで来ると、お昼に見たプレートは外されていて、お店の明かりが点いていました。
扉を開けて中に入れば、お客さんがいるのか、店主のアメジストさんが何かしゃべっている声がします。
カウンターの向こうでお話ししているようで、その姿を見つけることはできませんでした。
それにしても、このお店、お客さんが入ってるところを見たことないなぁ…。
はっ!そういえば、特に伝言も連絡もなく来ちゃったけどよかったのかな!?
いまさら気がついてももう遅いです。
今日がダメなら、また別の日にしよう…。
「アメジストさん、お話し中みたいですね」
「…そのようだな」
ライゼンさんは、小さくため息をつきながら頷きました。
ちょっとだけ苦い顔をしているのはなんでだろう?
周りをチラチラと見ながら、ときどき頭を振ったり、手で払うような仕草をします。
でも、一体何を払っているのか、わかりません。
まるで、何かがまとわりついて来るのを嫌がるような仕草です。
その動きを不思議に思っていると、アメジストさんがカウンターから顔を出しました。
「いらっしゃいませ、クリス様。気がつかず、申し訳ないですにゃん。お待たせしてしまいましたかにゃ?」
「ううん、今入ってきたばかりです。アメジストさんこそ、誰かとお話ししてたみたいだけど…違う日に来た方がよかったですか?私、連絡もしなかったし…」
「いいえ、いいえ。大丈夫ですにゃ。クリス様と約束しましたにゃん、いつでもいいと。さあ、こちらへどうぞにゃ」
アメジストさんは優雅な動きでカウンターに乗り、手招きしてくれました。
それに応えるように、カウンターへと足を向けます。
二、三歩歩いて後ろを振り返ると、ライゼンさんは扉の前で立ったままでした。
「ライゼンさん?」
「私はここで待っている。クリス、用事を済ませるといい」
「は、はい…」
ライゼンさんは、その場から一歩も動きませんでした。
それが気になりつつも、アメジストさんのもとへ行きます。
「改めて、いらっしゃいませ、クリス様。ご依頼されていたペンダントの案、お持ちしますにゃ。まずはペンダントにする石をここにお願いできますかにゃん?」
言われて視線をアメジストさんの右に向けると、猫用にしては小さいダークブルー色のクッションが置かれていました。
アメジストさんの言うとおりにポケットのポーチから魔宝石を取り出して、それに乗せます。すると魔法文字が浮き出てきて、魔宝石全体を包むように淡く光りだしました。
びっくりしてその様子を見つめていると、アメジストさんは何でもないようにその輝きを見ています。
魔法文字は、一つ一つが違う色の光で輝いていました。
クルクルと魔宝石の周りを囲むように回っている様は、まるで魔宝石に円形の虹が囲んでいるようでした。
やがて光が収まると、アメジストさんは何かの数字をさらさらとメモしていきます。
すごい、猫の手でも字が書けるんだ…!?
「はい、ありがとうございましたにゃ。これで石のサイズの詳しいデータが採れましたにゃん」
「あ、大きさを測ってたんですね」
「ええ。ペンダントにするにも大きさによってはできにゃい工程もありますから」
「そうなんですね」
確かに、魔宝石はペンダントにするには大きすぎるよね。
紐をつけるにしても、きっと重すぎて千切れちゃうだろうし…。
魔宝石は、私の手のひらサイズだけど、実は意外と見た目よりも重い石です。
今日、ライゼンさんに魔宝石のお話を聴いて、さらに重く感じるようになりました。
たぶん、それは気持ちの問題で、実際には重くなっていないと思いますが…。
アメジストさんはどうやってペンダントにしてくれるんだろう?
紐をつける以外の方法が思いつかないので、ドキドキしながらアメジストさんの案を聴きます。
「五つのうち二つの案が今のところこの石に合いそうですにゃ。その他の案は、大きさもそうですが、重さに耐えられそうにありませんでしたので、外させていただきますにゃん」
アメジストさんは、さっきのメモとは別の紙に書かれていた三つの項目を線で消しました。
揺り籠型とか網目型とか書かれていましたが、どういう技法なんでしょうか、気になる…。
「残った二案は、こちらににゃりますにゃ」
アメジストさんはカウンターの向こうから、中身がわからない四角い箱とカメオくらいの大きさの鏡が入った丸いケースを持ってきました。
これだけでは、どんなペンダントになるのか想像もつきません。
「それではこちらの案から説明させていただきますにゃん」
最初に説明してくれたのは、四角い箱の方でした。
箱には、透き通った氷のようなガラスが入っていました。
大きさは魔宝石と変わりませんが、平べったいので板ガラスと言った方が正しいかもしれません。
「このミラージュガラスでアクセサリーを作り、それにクリス様の石を入れさせていただきますにゃん」
「えっと…ガラスの装飾がついたアクセサリーになるってこと?」
ガラス細工の中に魔宝石をはめる形のペンダントなのかなと思ってそう訊くと、アメジストさんは首を横に振りました。
「いいえ。実際に見てもらった方がわかりやすいと思いますので、このガラスに石をかざしてみてくださいにゃ」
首を傾げつつ、言われたとおりに魔宝石をガラスに近づけると、そのままガラスの中に吸い込まれてしまいました。
「っえええ!!?」
びっくりしすぎて、思わず叫んでしまいました。
アメジストさんは、その声にビクッと肩を震わせます。
あわわ!びっくりさせて、ごめんなさい…!
「こ、これ、どうなっているんですか?」
ガラスに吸い込まれた魔宝石は、ガラスの向こうに浮かんでいるように見えます。
でも、実際はガラスの向こうにはありません。
そこに見えているのに触れない、ミラージュ…まさに蜃気楼です。
「このガラスには、『硝子の箱庭』という特殊な魔法がかけられてありますにゃ。わかりやすく言いますと、ガラスの中に魔法空間があるのですにゃ。魔導具を作るための材料を制作している技師に頼んで作らせたものですにゃん」
「す、すごい…」
魔法空間は、いろんなところで応用されている中級魔法です。特に施設や競技場、劇場などで使われていることが多いです。
もちろん、密閉できるなら、瓶や箱などの物に対しても魔法空間を作り出すことができます。
が、魔法をかける物が小さければ小さいほど、込める魔力量のコントロールが難しくて下手をすると壊れてしまうこともあるそうです。
なので、ランクはそこまで高くない魔法ですが、使う物によっては、とても難しい魔法と言えます。
そんな魔法空間がこんな小さなガラス1枚に展開されているなんて…これを作った人すごすぎます。
ミラージュガラスのすごさに言葉を発せないでいると、アメジストさんは、もう一つの案である小さな鏡を丸いケースから取り出しました。
「そして、こちらの鏡の方の案ですが…使い方はミラージュガラスと似たようにゃものですにゃん。特別違うのは、鏡の方は共有できるというメリットがございますにゃ」
「えと、共有って…何と?」
「ミラージュガラスは、この中にしか保管できませんにゃ。この鏡は、鏡に入れれば別のどんにゃ鏡からでも取り出すことが可能ですにゃん」
アメジストさんの説明によると、この鏡はシリュセルという魔法の鏡、つまり魔導具です。
込められている魔法は、ミラージュガラスの魔法空間と同じですが、ランクで言えばシリュセルの魔法の方が上です。
魔法空間を別の物に繋げて呼び出す魔法は、大きな魔力と魔法紋章術が必要な魔法だからです。
シリュセルに入れた物は、別の鏡…手鏡や姿見、物が映るものならどこからでも取り出せるのだそうです。
取り出し方は、シリュセルを握って頭に取り出したいものを思い浮かべると鏡にそれが映し出されるので、それに手をかざせば外に出てきてくれるそうです。他の鏡から取り出す時も同じです。
この鏡のすごいところは、鏡の魔法空間を他の人とも共有できることです。
持ち主の許しをもらった人だけが使えるので、例えば倉庫として使えばとても便利かもしれません。
ミラージュガラスもそうですが、こんなすごい材料が用意できるアメジストさん、すごすぎませんか…。
「ただ、一つ問題がありますにゃ。シリュセルはとても脆いものですにゃん。欠けたり割ったりしてしまうと、二度と鏡の中のものは取り出せませんので、気をつけてくださいにゃん」
「そ、それは困るよ…」
絶対割らないという自信はありません。
注意してても、きっと転んだりぶつかったりして簡単に割ってしまうと思います。
これはペンダントには向かないと思いました。
それはアメジストさんも考えていたようで、ペンダントのような無防備なアクセサリーには不向きかもしれないと言いました。
私が大事に扱えば一番いいんだろうけど、むむむ…絶対は無理なのでやっぱり怖いです。
となると、ガラスの方に目が行きます。
「ミラージュガラスは、簡単には壊れませんか?」
「ええ。このガラスの良いところは、保存魔法がかけられているので、割れたり欠けたりすることがありませんにゃ」
「すごい!それはいいですね!」
保存魔法は、守護魔法に次ぐ高等魔法の一つです。
守護魔法と使い方は似ているところがありますが、保存魔法は生きているものには使えないし、直接発動もできません。
限定魔法にも分類されているそれは、何かしらの物質にかけることを絶対条件として、その他にいくつかの条件も組み合わせて発動できるようになっている魔法です。
効力は守護魔法よりも劣ると言われていますが、一つの物を守ることには大きな効力を発揮するので、守護魔法とは違った強みがあります。
そんな保存魔法がかけられたミラージュガラス。
もちろんペンダントになっても大事にするけど、やっぱり何かあるといけないから壊れないのはとてもうれしい!
「それでは、こちらのガラスにしますかにゃ?」
「はい!それでお願いします!」
「かしこまりましたにゃ」
アメジストさんは、何かの書類にまたさらさらと書き出していきます。
私は、ガラスの中にぼんやりと映る魔宝石を見つめて、はっと気がつきます。
「アメジストさん、保存魔法をシリュセルにかけることはできないんですか?」
「クリス様、よく気がつかれましたにゃ。ですが残念ながら、シリュセルは素材の特性で保存魔法と相性が悪いのですにゃ」
なるほど。素材にも魔法の相性があるんですね。
いい案だと思いましたが、そんなに簡単なものではないということです。
魔導具は、いろんなことがうまく掛け合わされてできているのですね。
うん、欲張っちゃいけない。
魔宝石を守るのなら、ミラージュガラスで充分です。
アメジストさんは納得した私を見て、さらに続けます。
「それでは次ですが、アクセサリーのデザインはどうされますにゃん?私の方からもいくつかクリス様に合ったデザイン案を提案させていただきますが、もちろんクリス様のお好きな形でも対応できますにゃん」
「わあああ!アメジストさんが考えてくれたデザインがあるんですか?見たいです!」
特にアクセサリーのデザインにこだわりはなかったので、初めから用意されたものでいいと思っていました。
ですが、アメジストさんが私のためにデザインしてくれた案があるというなら、それはすごくうれしいです!
「ふふ、かしこまりましたにゃ」
アメジストさんは上機嫌で答えてくれました。
「猫の瞳」が午後の営業を始める時間です。
もっとライゼンさんのお話を聴きたいなと思いましたが、今日のおでかけの目的は「猫の瞳」に行ってペンダントにしてもらうことだから、わがままを言ってはいけないです。
私達はパンケーキの会計をすませて、「猫の瞳」へ行きました。
「猫の瞳」の前まで来ると、お昼に見たプレートは外されていて、お店の明かりが点いていました。
扉を開けて中に入れば、お客さんがいるのか、店主のアメジストさんが何かしゃべっている声がします。
カウンターの向こうでお話ししているようで、その姿を見つけることはできませんでした。
それにしても、このお店、お客さんが入ってるところを見たことないなぁ…。
はっ!そういえば、特に伝言も連絡もなく来ちゃったけどよかったのかな!?
いまさら気がついてももう遅いです。
今日がダメなら、また別の日にしよう…。
「アメジストさん、お話し中みたいですね」
「…そのようだな」
ライゼンさんは、小さくため息をつきながら頷きました。
ちょっとだけ苦い顔をしているのはなんでだろう?
周りをチラチラと見ながら、ときどき頭を振ったり、手で払うような仕草をします。
でも、一体何を払っているのか、わかりません。
まるで、何かがまとわりついて来るのを嫌がるような仕草です。
その動きを不思議に思っていると、アメジストさんがカウンターから顔を出しました。
「いらっしゃいませ、クリス様。気がつかず、申し訳ないですにゃん。お待たせしてしまいましたかにゃ?」
「ううん、今入ってきたばかりです。アメジストさんこそ、誰かとお話ししてたみたいだけど…違う日に来た方がよかったですか?私、連絡もしなかったし…」
「いいえ、いいえ。大丈夫ですにゃ。クリス様と約束しましたにゃん、いつでもいいと。さあ、こちらへどうぞにゃ」
アメジストさんは優雅な動きでカウンターに乗り、手招きしてくれました。
それに応えるように、カウンターへと足を向けます。
二、三歩歩いて後ろを振り返ると、ライゼンさんは扉の前で立ったままでした。
「ライゼンさん?」
「私はここで待っている。クリス、用事を済ませるといい」
「は、はい…」
ライゼンさんは、その場から一歩も動きませんでした。
それが気になりつつも、アメジストさんのもとへ行きます。
「改めて、いらっしゃいませ、クリス様。ご依頼されていたペンダントの案、お持ちしますにゃ。まずはペンダントにする石をここにお願いできますかにゃん?」
言われて視線をアメジストさんの右に向けると、猫用にしては小さいダークブルー色のクッションが置かれていました。
アメジストさんの言うとおりにポケットのポーチから魔宝石を取り出して、それに乗せます。すると魔法文字が浮き出てきて、魔宝石全体を包むように淡く光りだしました。
びっくりしてその様子を見つめていると、アメジストさんは何でもないようにその輝きを見ています。
魔法文字は、一つ一つが違う色の光で輝いていました。
クルクルと魔宝石の周りを囲むように回っている様は、まるで魔宝石に円形の虹が囲んでいるようでした。
やがて光が収まると、アメジストさんは何かの数字をさらさらとメモしていきます。
すごい、猫の手でも字が書けるんだ…!?
「はい、ありがとうございましたにゃ。これで石のサイズの詳しいデータが採れましたにゃん」
「あ、大きさを測ってたんですね」
「ええ。ペンダントにするにも大きさによってはできにゃい工程もありますから」
「そうなんですね」
確かに、魔宝石はペンダントにするには大きすぎるよね。
紐をつけるにしても、きっと重すぎて千切れちゃうだろうし…。
魔宝石は、私の手のひらサイズだけど、実は意外と見た目よりも重い石です。
今日、ライゼンさんに魔宝石のお話を聴いて、さらに重く感じるようになりました。
たぶん、それは気持ちの問題で、実際には重くなっていないと思いますが…。
アメジストさんはどうやってペンダントにしてくれるんだろう?
紐をつける以外の方法が思いつかないので、ドキドキしながらアメジストさんの案を聴きます。
「五つのうち二つの案が今のところこの石に合いそうですにゃ。その他の案は、大きさもそうですが、重さに耐えられそうにありませんでしたので、外させていただきますにゃん」
アメジストさんは、さっきのメモとは別の紙に書かれていた三つの項目を線で消しました。
揺り籠型とか網目型とか書かれていましたが、どういう技法なんでしょうか、気になる…。
「残った二案は、こちらににゃりますにゃ」
アメジストさんはカウンターの向こうから、中身がわからない四角い箱とカメオくらいの大きさの鏡が入った丸いケースを持ってきました。
これだけでは、どんなペンダントになるのか想像もつきません。
「それではこちらの案から説明させていただきますにゃん」
最初に説明してくれたのは、四角い箱の方でした。
箱には、透き通った氷のようなガラスが入っていました。
大きさは魔宝石と変わりませんが、平べったいので板ガラスと言った方が正しいかもしれません。
「このミラージュガラスでアクセサリーを作り、それにクリス様の石を入れさせていただきますにゃん」
「えっと…ガラスの装飾がついたアクセサリーになるってこと?」
ガラス細工の中に魔宝石をはめる形のペンダントなのかなと思ってそう訊くと、アメジストさんは首を横に振りました。
「いいえ。実際に見てもらった方がわかりやすいと思いますので、このガラスに石をかざしてみてくださいにゃ」
首を傾げつつ、言われたとおりに魔宝石をガラスに近づけると、そのままガラスの中に吸い込まれてしまいました。
「っえええ!!?」
びっくりしすぎて、思わず叫んでしまいました。
アメジストさんは、その声にビクッと肩を震わせます。
あわわ!びっくりさせて、ごめんなさい…!
「こ、これ、どうなっているんですか?」
ガラスに吸い込まれた魔宝石は、ガラスの向こうに浮かんでいるように見えます。
でも、実際はガラスの向こうにはありません。
そこに見えているのに触れない、ミラージュ…まさに蜃気楼です。
「このガラスには、『硝子の箱庭』という特殊な魔法がかけられてありますにゃ。わかりやすく言いますと、ガラスの中に魔法空間があるのですにゃ。魔導具を作るための材料を制作している技師に頼んで作らせたものですにゃん」
「す、すごい…」
魔法空間は、いろんなところで応用されている中級魔法です。特に施設や競技場、劇場などで使われていることが多いです。
もちろん、密閉できるなら、瓶や箱などの物に対しても魔法空間を作り出すことができます。
が、魔法をかける物が小さければ小さいほど、込める魔力量のコントロールが難しくて下手をすると壊れてしまうこともあるそうです。
なので、ランクはそこまで高くない魔法ですが、使う物によっては、とても難しい魔法と言えます。
そんな魔法空間がこんな小さなガラス1枚に展開されているなんて…これを作った人すごすぎます。
ミラージュガラスのすごさに言葉を発せないでいると、アメジストさんは、もう一つの案である小さな鏡を丸いケースから取り出しました。
「そして、こちらの鏡の方の案ですが…使い方はミラージュガラスと似たようにゃものですにゃん。特別違うのは、鏡の方は共有できるというメリットがございますにゃ」
「えと、共有って…何と?」
「ミラージュガラスは、この中にしか保管できませんにゃ。この鏡は、鏡に入れれば別のどんにゃ鏡からでも取り出すことが可能ですにゃん」
アメジストさんの説明によると、この鏡はシリュセルという魔法の鏡、つまり魔導具です。
込められている魔法は、ミラージュガラスの魔法空間と同じですが、ランクで言えばシリュセルの魔法の方が上です。
魔法空間を別の物に繋げて呼び出す魔法は、大きな魔力と魔法紋章術が必要な魔法だからです。
シリュセルに入れた物は、別の鏡…手鏡や姿見、物が映るものならどこからでも取り出せるのだそうです。
取り出し方は、シリュセルを握って頭に取り出したいものを思い浮かべると鏡にそれが映し出されるので、それに手をかざせば外に出てきてくれるそうです。他の鏡から取り出す時も同じです。
この鏡のすごいところは、鏡の魔法空間を他の人とも共有できることです。
持ち主の許しをもらった人だけが使えるので、例えば倉庫として使えばとても便利かもしれません。
ミラージュガラスもそうですが、こんなすごい材料が用意できるアメジストさん、すごすぎませんか…。
「ただ、一つ問題がありますにゃ。シリュセルはとても脆いものですにゃん。欠けたり割ったりしてしまうと、二度と鏡の中のものは取り出せませんので、気をつけてくださいにゃん」
「そ、それは困るよ…」
絶対割らないという自信はありません。
注意してても、きっと転んだりぶつかったりして簡単に割ってしまうと思います。
これはペンダントには向かないと思いました。
それはアメジストさんも考えていたようで、ペンダントのような無防備なアクセサリーには不向きかもしれないと言いました。
私が大事に扱えば一番いいんだろうけど、むむむ…絶対は無理なのでやっぱり怖いです。
となると、ガラスの方に目が行きます。
「ミラージュガラスは、簡単には壊れませんか?」
「ええ。このガラスの良いところは、保存魔法がかけられているので、割れたり欠けたりすることがありませんにゃ」
「すごい!それはいいですね!」
保存魔法は、守護魔法に次ぐ高等魔法の一つです。
守護魔法と使い方は似ているところがありますが、保存魔法は生きているものには使えないし、直接発動もできません。
限定魔法にも分類されているそれは、何かしらの物質にかけることを絶対条件として、その他にいくつかの条件も組み合わせて発動できるようになっている魔法です。
効力は守護魔法よりも劣ると言われていますが、一つの物を守ることには大きな効力を発揮するので、守護魔法とは違った強みがあります。
そんな保存魔法がかけられたミラージュガラス。
もちろんペンダントになっても大事にするけど、やっぱり何かあるといけないから壊れないのはとてもうれしい!
「それでは、こちらのガラスにしますかにゃ?」
「はい!それでお願いします!」
「かしこまりましたにゃ」
アメジストさんは、何かの書類にまたさらさらと書き出していきます。
私は、ガラスの中にぼんやりと映る魔宝石を見つめて、はっと気がつきます。
「アメジストさん、保存魔法をシリュセルにかけることはできないんですか?」
「クリス様、よく気がつかれましたにゃ。ですが残念ながら、シリュセルは素材の特性で保存魔法と相性が悪いのですにゃ」
なるほど。素材にも魔法の相性があるんですね。
いい案だと思いましたが、そんなに簡単なものではないということです。
魔導具は、いろんなことがうまく掛け合わされてできているのですね。
うん、欲張っちゃいけない。
魔宝石を守るのなら、ミラージュガラスで充分です。
アメジストさんは納得した私を見て、さらに続けます。
「それでは次ですが、アクセサリーのデザインはどうされますにゃん?私の方からもいくつかクリス様に合ったデザイン案を提案させていただきますが、もちろんクリス様のお好きな形でも対応できますにゃん」
「わあああ!アメジストさんが考えてくれたデザインがあるんですか?見たいです!」
特にアクセサリーのデザインにこだわりはなかったので、初めから用意されたものでいいと思っていました。
ですが、アメジストさんが私のためにデザインしてくれた案があるというなら、それはすごくうれしいです!
「ふふ、かしこまりましたにゃ」
アメジストさんは上機嫌で答えてくれました。
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