クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

47. 校外学習④

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 校外学習二日目の野外戦闘見学は、オルデンの郊外にいくつかある騎士団の練習場の一つで行われます。
 そこはオルデンの街に近い練習場で、オルデンの正門の停留所から西へ十分くらい歩いたところにあります。
 この練習場はとても広くて、草一本生えていない運動場のような砂地と街にある詰所のような建物がその向こう側に見えます。その隣には厩も見えるので、ここで乗馬もするみたいです。
 オルデンの騎士さん達は、ここで毎日訓練しているんですね!
 
 は!オルデンの騎士団ってことは、エレナさんとジルディースさんもいるかも…!

 あのライゼンさんとのおでかけ以来会っていなかったので、会えるかもしれないと思うとそわそわしてしまいます。
 だって、二人の戦う姿、見たことないです!
 二人は帯剣していないので、どんな風に戦うのかすごく気になります!やっぱり魔法かな!?

「クリス、こんな何もないとこ見て楽しいか?」

 隣でカイト君が呆れたように言います。その隣でリィちゃんもちょっと困ったように笑っていました。

「楽しいっていうより、ここで騎士さん達は訓練してるんだなって、ちょっとわくわくしただけだよ」

 魔宝石を失くした時、いっぱい助けてもらったから、私にとって騎士さん達は知らない人達ではありません。
 心強くて頼もしい、尊敬する人達です。
 実際ここに来たら、騎士さん達に手を振ってもらったり、挨拶されました。
 うれしくなって私も笑顔で挨拶を返します。
 クロードお兄ちゃんも知り合いがいるのか、礼を執ったり、挨拶を交わしていました。

 そうこうしているうちに準備が整ったようで、騎士さん達が木刀や盾を持って整列しました。
 見学する私達も先生達に誘導されて、整列した騎士さん達の正面に並んで座ります。
 私達が落ち着いて腰を下ろすと、騎士さん達に整列の号令を出した男の人が私達の前に歩み出ます。
 その人はロマンスグレーの髪をポニーテールに結んでいて、左目が眼帯で隠れていました。
 他の騎士さん達は見知っているのですが、この人は見たことがありませんでした。

「皆さん、はじめまして。私はオルデン騎士団の団長を務めるスティールと申します。今日は野外戦闘訓練の見学ということで、私達の訓練風景を見てもらいます」

 なんと、騎士団長様!
 団長さんをよく見れば、顔や腕、そのところどころに傷跡があります。
 他の騎士さん達とあまり年齢は変わらなさそうに見えるのに、この人はここにいる誰よりも実践経験があるような雰囲気でした。
 やっぱり団長さんとなるとすごく強いのかな!?

「戦闘訓練は、二人一組で行います。近寄って見学してもよいですが、騎士達の訓練の邪魔にならないよう心掛けてください。剣はもちろん、魔法も使いますので巻き込まれないように気をつけてください」

 団長さんは淡々とそう言うと、私達に背を向けて騎士さん達に始めるように合図をしました。
 それまで全く動かなかった騎士さん達が弾かれたように散らばって、戦闘を開始します。
 急に始まった戦闘訓練にびっくりしながら、ギル先生が私達も散らばってそれぞれ見学するようにと言いました。



「クリスちゃん、どこから見ていく?」

 リィちゃんがそう言った隣で、もうすでにカイト君はじっと騎士さん達の戦闘を観察しています。
 その目は真剣で、騎士さん達の剣技や魔法を追っていました。
 クロードお兄ちゃんもさっきの団長さんの戦闘を食い入るように見つめています。
 私には戦闘訓練している騎士さん達の剣技や魔法のすごさがわからないですが、海組志望のカイト君と自警団のお兄ちゃんにはそのすごさや違いがわかるのかもしれません。
 ずっと一定の人を見ているので、戦闘に対する向上心が見えて、ちょっとだけ羨ましく思いました。

 そんな二人に苦笑しつつ、リィちゃんに答えます。

「できたら、エレナさんとジルディースさんが戦闘しているところを見たいな」
「そうね。今日、ここにいるのかしら?」

 カイト君とお兄ちゃんが真剣に観察している横で、目でエレナさん達を探しました。
 エレナさんとジルディースさんは目立つ髪の色をしているので、すぐに見つかると思ったのですが、どこを探しても見つかりません。
 どうやらこの戦闘訓練には参加していないようです。

 オルデンの騎士だもんね。
 今頃街中を見回りながら守ってくれてるんだ。

 エレナさんとジルディースさんのやりとりを思い出して、笑みをこぼします。
 リィちゃんも私と同じことを考えていたのか、小さく微笑んでいました。

「エレナさん達いないみたいだから、カイト君が見てる騎士さん達の戦闘訓練を見よう?」
「そうね。今日はカイトに付き合いましょ」

 私の提案にリィちゃんは微笑みながら頷いてくれました。
 もともと花組志望のリィちゃんは、戦闘訓練にはあまり興味がないようです。
 私としては、騎士さん達が使う魔法に興味がありますが、戦闘を見ればとても近寄れません。
 砂嵐が起こったり、何かが飛び交ったり、人が遠くへ飛ばされたりしています。私の後ろの方からは、いっぱい爆発音もします。
 そんな中をさらに近くで見学する度胸は私にはないです……。
 騎士さん達って訓練も命がけなんですね。

 ちょっとだけ怖く思いながらも尊敬の目で近くの騎士さん達の戦闘を見つめていると、カイト君が軽く肘で小突いてきました。
 見れば、その目はどこかわくわくしていました。

「なあ、クリスの兄ちゃんは強いのか?」
「クロードお兄ちゃん?もちろんっ!私の村の自警団では班のリーダーだし、剣はもちろん、魔法も強いよ!」
「へぇ。剣だけじゃなくて魔法もか?」

 カイト君がさっきよりも興味津々で訊いてきます。

「うんっ!レガロお兄ちゃんの方が魔法は得意なんだけど、攻撃魔法は村の誰よりも強いよ!一番すごい魔法はね、光の刃がいっぱい出てくる魔法!この魔法はね、動けなくなるツボを射抜くだけで血が出ないの!人を傷つけないんだよ、すごいよね!?」
「お、おう…」

 クロードお兄ちゃんの魔法は、攻撃型だけど優しい魔法だってお父さんが言っていました。
 相手を傷つけないで戦う気力を失くさせるので、村の外では「無血の英雄」とか「戦う聖職者」と呼ばれているそうです。
 お兄ちゃんはそう呼ばれるのが苦手みたいだけど、英雄って呼ばれてるクロードお兄ちゃんは、やっぱりかっこいいです!

 力拳を作りながらクロードお兄ちゃんについてあれこれと勢いよく話してしまい、カイト君がちょっと引き気味に苦笑いをします。
 自慢のお兄ちゃんのことを訊かれれば、いっぱい話したくなるものです!
 まだまだ話せるよ!

「その辺にしてくれ、クリス」

 その声に振り返ると、照れた顔のクロードお兄ちゃんが。
 いつの間にか団長さんの戦闘訓練は終わっていたようで、私達の傍まで戻ってきたようです。
 お兄ちゃんの後ろには背を向けて肩をプルプル震わせているリィちゃん。
 どうしたんだろう?寒いのかな?

「兄ちゃん、強いんだな。ぜひ手合わせしてもらいてぇな」

 私の肩越しにカイト君がいたずらっぽく笑いながらお兄ちゃんに言います。
 お兄ちゃんはその言葉に笑顔を返しながらも、「望むところだ」と力強く頷きました。

 お兄ちゃんとカイト君の手合わせ…すごく見たい!
 お兄ちゃんが戦う姿は何度か見たことあるけど、カイト君は一度も魔法実技で大きな魔法を使ったことがないので、どんな風に戦うのか、とても気になります!
 カイト君は身軽だから、体術かな?それとも剣を使うのかな?

 ふと、いつの間にか隣に来ていたリィちゃんが心配そうな顔でお兄ちゃん達を見つめていました。
 それを不思議に思って声を掛けようとしたら、後ろでさっきまで聞こえていたものとは違う爆発音が聞こえてきました。
 その爆風の威力に砂埃が舞い、思わず目を強く瞑ります。
 周りからは、組の子達の叫び声や泣き声が上がります。

「一体何が…!?」
「誰か魔法を失敗したのか!?」
「とにかく、子ども達を安全なところへ誘導しろ!」

 遠くで驚きを隠せない騎士さん達と先生達の声も聞こえました。
 恐る恐る目をうっすらと開けると周りは砂煙で視界が悪く、近くにいるお兄ちゃん達以外の姿は見えませんでした。
 ぐるりと辺りを見渡してみると、どこか違和感が。

 この砂煙、なんだか変……。

 緊張しながら周りを見回していたら、ふと気がつきます。
 さっきまで聞こえていた、組の子達の声や騎士さん達、先生達の声がぱったり聞こえなくなったのです。
 それにぞわりと寒気を感じた瞬間、どこからともなく風の矢が無数に飛んできました。
 突然のことに体が動かず、向かってくる矢に目を強く瞑れば、強い力で後ろへと引っ張られました。

「クリス!後ろにいろ!」

 クロードお兄ちゃんが私を庇いながら風の矢を剣で弾き落としました。
 それを皮切りに、その矢は本数を増やして、まるで生きているかのようにグニャグニャと進路を変えてこっちに飛んできます。

「クリス、カイト君、リリーちゃん、この場を離れるぞ!」

 お兄ちゃんの手が私の腕を掴み、建物の方へと走らされます。
 反対側の腕はリィちゃんが握っていて、後ろからカイト君が付いて走ります。
 砂煙の中を走るのは目が痛くて前はよく見えませんでしたが、お兄ちゃんとリィちゃんに引っ張られるまま、一生懸命走りました。
 後ろからもカイト君が背中を押してくれて、なんとか建物の近くまで来た時、何かがすごい勢いで私達の上を通り抜けました。
 びっくりして見上げれば、なんと建物が一階から二階にかけて斜めに真っ二つになっていました。
 ガラガラと建物が崩れていくのを呆然と見つめます。

 一体、何が起こってるの?
 どうして、こんなことに……?

 さっきまでおしゃべりしながら戦闘訓練を見ていたのに。
 楽しく見学していたところに、突然の状況の変化。ただただ呆然とするしかありませんでした。

「くそ。まさかここまで強攻で来るとは…」

 呟くようにそう言ったお兄ちゃん。
 その言葉と焦るような表情から、お兄ちゃんは何かが来ることをどこかで知っていたのでしょうか?
 私達を庇うように立つお兄ちゃんの視線の先を見ても、そこには何もいません。
 それなのに、リィちゃんとカイト君も何かを警戒するようにその方向を見ています。
 それは、昨日遺跡の中でお兄ちゃんが警戒した時と同じような状況だと気がつきます。
 昨日の不安と緊張がじわじわとよみがえってきました。

「お兄ちゃんっ!そこに何かいるの!?リィちゃんもカイト君も見えてるの!?」

 自分の不安を振り払うように叫ぶと、目の前の砂埃が時が止まったかのようにぴたりと静止しました。
 すると、今度は急に逆巻いて大きな竜巻を作り出します。
 ここが何もない平原でよかった。オルデンの街中でこんな竜巻が起こったら、きっと建物も人もひとたまりもない。
 お兄ちゃんの背中越しに竜巻を見ていると、中に人のような形をした影が見えました。
 ここからでは、巻き込まれた人なのか、それともこの砂嵐を作っている犯人なのか判断ができません。

「クリス。この状況、ちょっと、やべーかもしれねーな」

 私の後ろから竜巻を睨んでいたカイト君がそう呟きました。
 その言葉を聞きながら、視線を移したその先の光景に息を飲みました。

 竜巻が緩やかに収まっていき、姿を現したその人は―――――…





「エレナさん……」




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