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第1章 ◆ はじまりと出会いと
50. 校外学習⑦
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「何をする気だ、カイト?」
カイト君の様子に何かを感じ取ったのか、ゼロが顔をしかめながら問いかけてきます。
カイト君はそんなゼロの言葉も無視して私の傍に跪き、ふわりと優しく手を取りました。いつもとは違う仕草になんだか戸惑います。
その時、カイト君の手を通して何かが繋がる感覚がしました。
不思議な感覚にカイト君を見れば、やっぱりその目は金色に輝いていました。
「クリス、俺のことが好きか?」
真剣な顔で見つめてくるカイト君がゆっくりとした口調で言いました。
唐突に何をと思いましたが、素直に答えます。
「うん。好きだよ」
グランツ学園に入学してから、一緒に学んで喧嘩もしたりしていろいろあったけど、カイト君は私にとって大切な友達です。
たくさん助けてもらって、いつもリィちゃんと三人一緒に過ごした仲です。嫌いな訳ないです。
私を抱えているお兄ちゃんが息を呑んだ気がしますが、今は気にしないことにします。
カイト君はさらに続けます。
「信頼してくれるか?」
「もちろんだよ。だって、カイト君は私の親友だもん。私もカイト君が困ってたら、頼りにしてほしいよ」
私のために魔法のことや勉強を教えてくれて、一緒になって私の魔力のことを考えてくれた。
だから、私もカイト君のために何かできるなら、助けになりたいって思ってる。
カイト君は目を丸くしました。それから、すぐに微笑んで取っていた手を強く握ってきます。
「最後にもう一つ。俺に、クリスのためだけの新しい名前を付けてくれないか?」
「え…?」
どういうこと?新しい名前?
わけがわからなくて、戸惑うようにカイト君から視線を外せば、リィちゃんが涙目で私達を見ていました。とてもうれしそうな顔です。
お兄ちゃんとエレナさんも黙って私達のやり取りを見つめています。
ゼロの視線も感じましたが、なんだか怖いので無視します。
再びカイト君に視線を戻すと、金色の目がどこか不安に揺れているように見えました。
私のためだけのカイト君の名前。
それがどんなものになるのかよくわからないけど、それをカイト君は望んでる。
これは、きっとカイト君にとって、とっても大事なことなんだ。
うん、責任重大です。カイト君にぴったりの名前を考えなくちゃ。
集中して考えるために、目を閉じて深呼吸をします。
今の状況も、周りの人達のことも、今このひと時だけは考えない。
カイト君の名前のことだけ考えるんだ。
しばらく頭の中でカイト君との日常や勉強したことを思い巡らせて、ふと、ある名前が頭に浮かびます。
「こういうのは、その時のひらめきだよ。特に、魔法を使う時はそうだ」とお父さんが言っていたのを思い出します。
カイト君の名前は魔法ではないけど、でもこれ以上にぴったりの名前は思いつかないと思いました。
「うん。決めた」
そう言って目を開けると、手を握るカイト君から緊張が伝わってきました。
お兄ちゃん達も息を呑むようにして、私の言葉を待っています。
みんなに安心させるように微笑んで、新しい名前をカイト君に贈ります。
その名前に、「想い」を込めて。
「あなたの名前は、フォルト。私を護り、助ける砦…フォルトだよ」
そう言った瞬間、辺りがまぶしい夕焼け色に輝きました。
オレンジとも黄色ともどちらとも言えない、そのグラデーションにその場にいたみんなが目を瞑りました。
どれくらいの時が経ったのか、光が収まったのを感じて目を開けると、さっきまでいた場所とは違うところに立っていました。
一緒にいたお兄ちゃん達も、フェルーテちゃん、ゼロの姿も見えません。
フォルトと名付けた親友も。
「…っえ、ここ、どこ…?」
ここがどこかと訊かれても答えるには難しい、何もない空間。
右も左も上も下も、色までもが無くなったかのようにどこもかしこも真っ白です。
『クリス』
どこからか声がして、その声の主を探すように振り向きます。
振り向いた視線の先には、大きな狼のような動物がこっちを見つめていました。
普通なら逃げ出したいくらい怖い動物のはずなのに、不思議と怖くありませんでした。
その動物をよく見ると、狼にしては大きすぎる身体です。ライオンよりも大きいのではないでしょうか?
耳は普通の感じですが、尻尾は地面に着くほど長くて二つに分かれています。
あれ?よく見ると、額に何かある?
無意識に毛で隠れているそれに手を伸ばすと、狼は自ら額を寄せてくれました。
触ってみると、固くてごつごつとした何かがあるようです。
覆っている毛をちょっとだけかき分けて見ると、そこにはオレンジ色に輝く石が。
それを見て、はっと気がつきます。
この夕陽色、知ってる。
親友の目の色と同じだ。
「もしかして、カイ…っじゃない、フォルト!?」
するとその狼は肯定するかのように、伏せをしました。
なんと、この大きな狼はフォルトだったのです!
ということは、カイトく…じゃない、フォルトは人間じゃなかった!?
いや、確かに、ときどき人間というより野性っぽい仕草があるなと思っていましたが…。
まさか、狼だったなんて…!
ぐるぐると頭の中が混乱しそうになりましたが、フォルトの目がカイト君だった時と同じ目をしていて、それを見たらほっとしました。
姿が違っていても、カイト君はカイト君…ううん、フォルトなんだね。
「えと、フォルト?ここはどこ?何もない場所みたいだけど…」
フォルトに確認しながら、この場所がどういうところなのか訊きます。
フォルトは伏せから立ち上がると、鼻を寄せてきました。
『クリス、新しい名前、ありがとな。今は時間がねーから、詳しいことはみんなで無事に帰ったらする』
狼の姿なのにフォルトの言葉がわかるのは、頭の中にしゃべりかけてきているからだと気がつきました。
フォルトはそのまま続けて言います。
『とりあえず簡単に説明すると、ここはクリスの精神の中だ。『なんで?』っていうのは帰るまで無視だからな』
「う、うん」
フォルトは狼の姿でも人間だった時と同じ口調です。
言葉遣いは変わらないものなんだ、と内心苦笑します。
『で、俺とおまえは契約を結んだ。そのおかげで魔法が使えるようになったぞ』
「へえ………っええっ!!?」
は?え?い、今、なんて言った!?
魔法が使えるようになった??
軽く聞き流そうとしましたが、その投下された爆弾発言に数秒固まってしまいました。
さっきからフォルトにびっくりさせられっぱなしです。
フォルトはこっちの反応にはお構いなしで、淡々と話を続けます。
『そういう訳だから、オルデンの魔導具師には悪いが、あの厄介な魔導具を壊すぞ。クリス、あっちに戻ったら何でもいいから知ってる最大級の攻撃魔法を使え』
「う、うん…?」
魔導具を壊すって…えと、そんな簡単なことじゃなかったよね?
ゼロも精霊クラスの魔力じゃないと壊せないって言ってたし、私の魔力なんかで壊せるの?
訊きたいことはたくさんありますが、今はそんなゆっくりしている時間はないことはわかっています。
フォルトが言ったように、みんなで無事に帰ること、これが今の最優先です。
だけど、そう思いながらも、考えてしまいます。
「ほ、本当に魔法が使えるの…?」
今まで使えなかったのに、急に使えるようになったって言われても戸惑います。
本当にできるのか疑ってしまいます。
『……俺を信頼してくれてるんじゃなかったのかよ…?』
フォルトの金色の目が揺らぎます。耳も、どこかしょんぼりと垂れているような気がしました。
それに慌てて首を振って、フォルトの首に抱きつきます。
「ち、違うよ!魔法が使えるって急に言われても、緊張っていうか、不安っていうか…とにかく、魔法が使えたことがないから、実感がなくて…」
フォルトを信頼してないわけじゃない。
これは、いろんなことが一気に来たから動揺してるだけ。
きっと、こんな危機的状況じゃない時に時間をかけて向き合ったなら、こんなに動揺しなかったと思います!
私のしがみつく程の必死さに、フォルトはため息をつきながら首を振ります。
『…わかった。じゃあ、とりあえず実践な。そろそろゼロが動き出す。あの妖精も限界だ』
「えっ」
フォルトはそう言って、スイッチを切るかのように私の意識を現実に切り替えました。
気がつけば、さっきの真っ白な空間からお兄ちゃんに抱っこされた状態に戻ってきていました。
「っクリス!大丈夫か!?…失敗、したのか?」
急に引き戻されたせいか、お兄ちゃんに呼びかけられるまで目がチカチカしていました。
「失敗って何?」と思いましたが、フォルトが隣に座っているのを見てすぐに意識を切り替えます。
視線を上げれば、フォルトの言うとおり、ゼロの翼がフェルーテちゃんを覆っているのが見えました。
さっきよりも濃い靄が周りを漂っていて、フェルーテちゃんの羽が輝きを失っていました。
「っフェルーテちゃん!!」
「クリス、目が覚めた?何かしてたみたいだけど、カイトはどこに行ったのかな?」
ゼロがくすくすと笑いながら私達を見下ろします。
その禍々しさを纏った姿は、もう悪魔と呼んでもいいかもしれません。
光に包まれる前の私達のやり取りは聞こえてなかったのでしょうか?
ゼロは、隣にいるフォルトがカイト君だと思っていないようです。
狼の姿だし、気づかないのもしょうがないよね。
私も最初はわからなかったもん。
「カイト君はもうここにはいないよ」
「……どういうことかな?クリス?」
さっきまで笑みを浮かべていたゼロの顔がだんだん険しくなり、気持ち悪い空気がまた纏わりつく感覚がしました。
傍にいるお兄ちゃん達に害がないように、お兄ちゃんの腕から離れます。
お兄ちゃんは何かを言おうとしていましたが、私を引き戻そうとはしませんでした。
ゼロの近くまで行くと、ゼロはどこか苛立っているように感じました。
ゼロにとって、カイト君…フォルトはどんな存在だったんだろう?
そう思いましたが、今は全部隅っこに追いやります。
隣のフォルトに視線だけ向ければ、小さく頷いてくれました。
それだけで、とっても心強いです。
うん!みんなで帰るんだ!
ゼロから視線を外してフェルーテちゃんを見ると、光を失った羽とぐったりした姿が痛々しくて顔をしかめそうになりました。
それを我慢して、にっこりとこの状況に不釣り合いな笑顔をゼロに見せます。
ゼロは、とても不機嫌な顔を返してきました。
「なぜ笑っている?」と言っているような表情です。
そんなゼロになんでもないように言います。
「カイト君はね、私が食べちゃった」
「…っは?」
ゼロが呆気にとられたその瞬間。
『メテオ』
両手を真上へ掲げて、精霊級魔法を発動させます。
遥か上空に大きな隕石が生成され、その熱量で魔法空間が揺らいだのを感じました。
この魔法は、以前レガロお兄ちゃんに魔法のランクを教えてもらっていた時に聴いた、確か、精霊が使う一番強い炎魔法だった…はず。
発動に必要な詠唱とか魔法紋章術とか、まったく知らないので、いろいろ省略しましたが。
それでも発動できたのは、フォルトの力が働いているのだと思います。
『ははっ!余裕だな♪』
隣にいるフォルトがいたずらっぽく笑うのが聞こえました。
カイト君の様子に何かを感じ取ったのか、ゼロが顔をしかめながら問いかけてきます。
カイト君はそんなゼロの言葉も無視して私の傍に跪き、ふわりと優しく手を取りました。いつもとは違う仕草になんだか戸惑います。
その時、カイト君の手を通して何かが繋がる感覚がしました。
不思議な感覚にカイト君を見れば、やっぱりその目は金色に輝いていました。
「クリス、俺のことが好きか?」
真剣な顔で見つめてくるカイト君がゆっくりとした口調で言いました。
唐突に何をと思いましたが、素直に答えます。
「うん。好きだよ」
グランツ学園に入学してから、一緒に学んで喧嘩もしたりしていろいろあったけど、カイト君は私にとって大切な友達です。
たくさん助けてもらって、いつもリィちゃんと三人一緒に過ごした仲です。嫌いな訳ないです。
私を抱えているお兄ちゃんが息を呑んだ気がしますが、今は気にしないことにします。
カイト君はさらに続けます。
「信頼してくれるか?」
「もちろんだよ。だって、カイト君は私の親友だもん。私もカイト君が困ってたら、頼りにしてほしいよ」
私のために魔法のことや勉強を教えてくれて、一緒になって私の魔力のことを考えてくれた。
だから、私もカイト君のために何かできるなら、助けになりたいって思ってる。
カイト君は目を丸くしました。それから、すぐに微笑んで取っていた手を強く握ってきます。
「最後にもう一つ。俺に、クリスのためだけの新しい名前を付けてくれないか?」
「え…?」
どういうこと?新しい名前?
わけがわからなくて、戸惑うようにカイト君から視線を外せば、リィちゃんが涙目で私達を見ていました。とてもうれしそうな顔です。
お兄ちゃんとエレナさんも黙って私達のやり取りを見つめています。
ゼロの視線も感じましたが、なんだか怖いので無視します。
再びカイト君に視線を戻すと、金色の目がどこか不安に揺れているように見えました。
私のためだけのカイト君の名前。
それがどんなものになるのかよくわからないけど、それをカイト君は望んでる。
これは、きっとカイト君にとって、とっても大事なことなんだ。
うん、責任重大です。カイト君にぴったりの名前を考えなくちゃ。
集中して考えるために、目を閉じて深呼吸をします。
今の状況も、周りの人達のことも、今このひと時だけは考えない。
カイト君の名前のことだけ考えるんだ。
しばらく頭の中でカイト君との日常や勉強したことを思い巡らせて、ふと、ある名前が頭に浮かびます。
「こういうのは、その時のひらめきだよ。特に、魔法を使う時はそうだ」とお父さんが言っていたのを思い出します。
カイト君の名前は魔法ではないけど、でもこれ以上にぴったりの名前は思いつかないと思いました。
「うん。決めた」
そう言って目を開けると、手を握るカイト君から緊張が伝わってきました。
お兄ちゃん達も息を呑むようにして、私の言葉を待っています。
みんなに安心させるように微笑んで、新しい名前をカイト君に贈ります。
その名前に、「想い」を込めて。
「あなたの名前は、フォルト。私を護り、助ける砦…フォルトだよ」
そう言った瞬間、辺りがまぶしい夕焼け色に輝きました。
オレンジとも黄色ともどちらとも言えない、そのグラデーションにその場にいたみんなが目を瞑りました。
どれくらいの時が経ったのか、光が収まったのを感じて目を開けると、さっきまでいた場所とは違うところに立っていました。
一緒にいたお兄ちゃん達も、フェルーテちゃん、ゼロの姿も見えません。
フォルトと名付けた親友も。
「…っえ、ここ、どこ…?」
ここがどこかと訊かれても答えるには難しい、何もない空間。
右も左も上も下も、色までもが無くなったかのようにどこもかしこも真っ白です。
『クリス』
どこからか声がして、その声の主を探すように振り向きます。
振り向いた視線の先には、大きな狼のような動物がこっちを見つめていました。
普通なら逃げ出したいくらい怖い動物のはずなのに、不思議と怖くありませんでした。
その動物をよく見ると、狼にしては大きすぎる身体です。ライオンよりも大きいのではないでしょうか?
耳は普通の感じですが、尻尾は地面に着くほど長くて二つに分かれています。
あれ?よく見ると、額に何かある?
無意識に毛で隠れているそれに手を伸ばすと、狼は自ら額を寄せてくれました。
触ってみると、固くてごつごつとした何かがあるようです。
覆っている毛をちょっとだけかき分けて見ると、そこにはオレンジ色に輝く石が。
それを見て、はっと気がつきます。
この夕陽色、知ってる。
親友の目の色と同じだ。
「もしかして、カイ…っじゃない、フォルト!?」
するとその狼は肯定するかのように、伏せをしました。
なんと、この大きな狼はフォルトだったのです!
ということは、カイトく…じゃない、フォルトは人間じゃなかった!?
いや、確かに、ときどき人間というより野性っぽい仕草があるなと思っていましたが…。
まさか、狼だったなんて…!
ぐるぐると頭の中が混乱しそうになりましたが、フォルトの目がカイト君だった時と同じ目をしていて、それを見たらほっとしました。
姿が違っていても、カイト君はカイト君…ううん、フォルトなんだね。
「えと、フォルト?ここはどこ?何もない場所みたいだけど…」
フォルトに確認しながら、この場所がどういうところなのか訊きます。
フォルトは伏せから立ち上がると、鼻を寄せてきました。
『クリス、新しい名前、ありがとな。今は時間がねーから、詳しいことはみんなで無事に帰ったらする』
狼の姿なのにフォルトの言葉がわかるのは、頭の中にしゃべりかけてきているからだと気がつきました。
フォルトはそのまま続けて言います。
『とりあえず簡単に説明すると、ここはクリスの精神の中だ。『なんで?』っていうのは帰るまで無視だからな』
「う、うん」
フォルトは狼の姿でも人間だった時と同じ口調です。
言葉遣いは変わらないものなんだ、と内心苦笑します。
『で、俺とおまえは契約を結んだ。そのおかげで魔法が使えるようになったぞ』
「へえ………っええっ!!?」
は?え?い、今、なんて言った!?
魔法が使えるようになった??
軽く聞き流そうとしましたが、その投下された爆弾発言に数秒固まってしまいました。
さっきからフォルトにびっくりさせられっぱなしです。
フォルトはこっちの反応にはお構いなしで、淡々と話を続けます。
『そういう訳だから、オルデンの魔導具師には悪いが、あの厄介な魔導具を壊すぞ。クリス、あっちに戻ったら何でもいいから知ってる最大級の攻撃魔法を使え』
「う、うん…?」
魔導具を壊すって…えと、そんな簡単なことじゃなかったよね?
ゼロも精霊クラスの魔力じゃないと壊せないって言ってたし、私の魔力なんかで壊せるの?
訊きたいことはたくさんありますが、今はそんなゆっくりしている時間はないことはわかっています。
フォルトが言ったように、みんなで無事に帰ること、これが今の最優先です。
だけど、そう思いながらも、考えてしまいます。
「ほ、本当に魔法が使えるの…?」
今まで使えなかったのに、急に使えるようになったって言われても戸惑います。
本当にできるのか疑ってしまいます。
『……俺を信頼してくれてるんじゃなかったのかよ…?』
フォルトの金色の目が揺らぎます。耳も、どこかしょんぼりと垂れているような気がしました。
それに慌てて首を振って、フォルトの首に抱きつきます。
「ち、違うよ!魔法が使えるって急に言われても、緊張っていうか、不安っていうか…とにかく、魔法が使えたことがないから、実感がなくて…」
フォルトを信頼してないわけじゃない。
これは、いろんなことが一気に来たから動揺してるだけ。
きっと、こんな危機的状況じゃない時に時間をかけて向き合ったなら、こんなに動揺しなかったと思います!
私のしがみつく程の必死さに、フォルトはため息をつきながら首を振ります。
『…わかった。じゃあ、とりあえず実践な。そろそろゼロが動き出す。あの妖精も限界だ』
「えっ」
フォルトはそう言って、スイッチを切るかのように私の意識を現実に切り替えました。
気がつけば、さっきの真っ白な空間からお兄ちゃんに抱っこされた状態に戻ってきていました。
「っクリス!大丈夫か!?…失敗、したのか?」
急に引き戻されたせいか、お兄ちゃんに呼びかけられるまで目がチカチカしていました。
「失敗って何?」と思いましたが、フォルトが隣に座っているのを見てすぐに意識を切り替えます。
視線を上げれば、フォルトの言うとおり、ゼロの翼がフェルーテちゃんを覆っているのが見えました。
さっきよりも濃い靄が周りを漂っていて、フェルーテちゃんの羽が輝きを失っていました。
「っフェルーテちゃん!!」
「クリス、目が覚めた?何かしてたみたいだけど、カイトはどこに行ったのかな?」
ゼロがくすくすと笑いながら私達を見下ろします。
その禍々しさを纏った姿は、もう悪魔と呼んでもいいかもしれません。
光に包まれる前の私達のやり取りは聞こえてなかったのでしょうか?
ゼロは、隣にいるフォルトがカイト君だと思っていないようです。
狼の姿だし、気づかないのもしょうがないよね。
私も最初はわからなかったもん。
「カイト君はもうここにはいないよ」
「……どういうことかな?クリス?」
さっきまで笑みを浮かべていたゼロの顔がだんだん険しくなり、気持ち悪い空気がまた纏わりつく感覚がしました。
傍にいるお兄ちゃん達に害がないように、お兄ちゃんの腕から離れます。
お兄ちゃんは何かを言おうとしていましたが、私を引き戻そうとはしませんでした。
ゼロの近くまで行くと、ゼロはどこか苛立っているように感じました。
ゼロにとって、カイト君…フォルトはどんな存在だったんだろう?
そう思いましたが、今は全部隅っこに追いやります。
隣のフォルトに視線だけ向ければ、小さく頷いてくれました。
それだけで、とっても心強いです。
うん!みんなで帰るんだ!
ゼロから視線を外してフェルーテちゃんを見ると、光を失った羽とぐったりした姿が痛々しくて顔をしかめそうになりました。
それを我慢して、にっこりとこの状況に不釣り合いな笑顔をゼロに見せます。
ゼロは、とても不機嫌な顔を返してきました。
「なぜ笑っている?」と言っているような表情です。
そんなゼロになんでもないように言います。
「カイト君はね、私が食べちゃった」
「…っは?」
ゼロが呆気にとられたその瞬間。
『メテオ』
両手を真上へ掲げて、精霊級魔法を発動させます。
遥か上空に大きな隕石が生成され、その熱量で魔法空間が揺らいだのを感じました。
この魔法は、以前レガロお兄ちゃんに魔法のランクを教えてもらっていた時に聴いた、確か、精霊が使う一番強い炎魔法だった…はず。
発動に必要な詠唱とか魔法紋章術とか、まったく知らないので、いろいろ省略しましたが。
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