クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

52. お祝い

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 結局、魔導具達は一旦騎士団預かりとなり、私達はそれぞれ家に帰りました。
 校外学習も三日目がまだ残っていましたが、それも中止になり、しばらく休むようにと先生達に言われました。
 学校から来てもいいという手紙が届くまでは、自宅療養らしいです。
 大した怪我とかはしませんでしたが、念のためだそうです。むむむ。
 それに、あれだけのことに巻き込まれたので、毎日家にやってくる騎士団の人達や役所の役人さん達への対応もあり、学校に行くことができませんでした。
 もちろん、役所の人達に魔導具を壊してしまったことをエレナさんと一緒に謝りました。
 オルデンの騎士団長さんとクロードお兄ちゃんも一緒に謝ってくれて、役所の人達はタジタジでした。
 魔導具を壊すのは、程度によりますが結構よくあることのようで、役所の人達は許してくれました。
 むしろ、無事かどうかはともかく、十三個も取り戻してくれたことに泣いて感謝されました。
 そうだよね。また同じ魔導具を造るのは大変ですよね…。

 その騎士団や役所への対応も終わり、やっと休みが取れます。
 でも、もう二週間も学校に行っていなかったので、とても学校に行きたくて堪りませんでした。
 ううぅ、リィちゃん、組のみんなに会いたい…。

 学校からのお手紙が届くのを今日も待っていると、お兄ちゃん達がお部屋に訪ねて来てくれました。

「クリス、やっと落ち着いたな。はい、これ。昨日と今日の分のプリントだ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
「今日の本はいかがでしたか?難しくはありませんでしたか?」
「大丈夫だよ。わかりやすくて、おもしろかった」

 クロードお兄ちゃんは、もうすでに学校に戻っていて、ときどきリスト先生やリィちゃんからプリントやお手紙を預かってきてくれます。
 レガロお兄ちゃんは、私が休んでいる間にできる勉強の本などを貸してくれます。
 私が学校に行けなくて寂しく思いながらもここまで頑張れたのはお兄ちゃん達のおかげです。
 でも、もう学校行きたい。みんなに会いたい。
 リィちゃん、組のみんなにもだけど、先生達やフェルーテちゃんにも…。

 プリントを受け取って勉強机に置くと、その傍で丸まって眠っていたフォルトが顔を上げます。

『クリス、大丈夫か?』
「うん…ちょっとだけ、寂しいなって思っただけだよ」

 その会話を聞いていたお兄ちゃん達が、優しく抱きしめてきます。
 その腕に甘えるように身を任せれば、レガロお兄ちゃんが言いました。

「クリス、今日の夕ご飯が終わったら家族会議です。もちろん、そちらのご友人も一緒に」
「? うん。何を話すの?」

 首を傾げると、お兄ちゃん達に微笑まれます。
 その様子から、内容はその時にならないと言わないみたいです。
 二人の雰囲気からして、重い話ではない…よね?
 そう思って、小さく頷きました。



 今日の夕食はいつもより豪華で、一体何のお祝い事だろうと思いました。
 私の誕生日はまだ先だし、お兄ちゃん達の誕生日は過ぎています。
 あっ、お父さん?ううん、違うな…。
 実は、今までお父さんの誕生日を祝ったことがないのです。

 食べている間、お父さん、お母さん、お兄ちゃん達は何も理由については話しませんでした。
 そうして、訳がわからないままごちそうを食べて一旦部屋に戻りました。

「家族会議って何を話すんだろうね、フォルト」
『……まあ、遅いお祝いだよな』
「えっ。フォルト、何のお祝いか、わかったの?」

 なんでもないように言ったフォルトに食いつくように顔を寄せます。
 その時、ドアをノックされて、お父さんが呼びに来ました。

「クリス、そろそろ始めるぞ」

 その呼びかけに、慌ててフォルトと一緒に部屋を出ます。
 リビングに行くと、すでに家族は揃っていて、私達を待っていました。
 テーブルをみんなで囲んで、沈黙が降ります。

「急な家族会議で驚かせたね。クリス、おめでとう」

 お父さんが穏やかな顔でそう切り出し、拍手をします。
 それに釣られて、お母さん、お兄ちゃん達も手を叩きます。

「え?え?何が?どういうこと?」

 何がおめでとうなのか訳が分からず、みんなの拍手に戸惑います。
 すぐ傍で座っているフォルトに視線を向けると、どこか誇らしげに見えました。

「クリス、そして、フォルト様。契約おめでとうございます」
「おめでとう、クリス」
「おめでとうございます」

 お母さん、お兄ちゃん達も口々にお祝いを言います。
 その理由はフォルトとの契約でした。

 お父さんは、ゆっくりとうれしそうに話します。

「クリスにはずっと黙っていたんだが、お父さんとお母さんはクリスを守ってくれる契約獣をずっと探していたんだ」
「え?」

 首を傾げると、クロードお兄ちゃんが補足してくれました。

「ときどき母さん達が大がかりな準備をしてでかけることがあっただろ?それはクリスに合うかもしれない契約獣の噂を聞いて確かめに行っていたんだよ」

 それは本当に知らなかった事実です。
 そのことにただただびっくりして、言葉が出ませんでした。
 お父さんとお母さんがあんなに忙しかったのは、私のためだったなんて。

 続けて、お母さんが話し始めます。

「クリス。私がとても体調が悪くて倒れてしまった時のことを覚えているかしら?」
「うん、覚えてるよ」

 お母さんの魔導具が壊れて、とても体調が悪くなったってお父さんに聞きました。
 あの時のお母さんの顔は血の気がないほど真っ白で、このままお母さんが死んじゃうんじゃないかって、とても怖かったのを覚えています。

「あの時に、深霧の森の上位精霊達が私のところに慌てたように押し寄せたの。とても大切なお客様を連れてね。だから、私を守る魔導具が壊れてしまったの」
「そ、そうだったんだ…?」

 深霧の森の精霊達は、よくお母さんのところに会いに来ます。
 それは、遊びに来たり、何かのお告げのためだったり、理由は様々です。
 森の精霊達は、お母さんの体が弱いことを知っているので、いつも一人か二人で訪れるそうです。
 そんな精霊達が慌ててお母さんのところに押し寄せただなんて、余程のお客様だったんだろうなと思います。

 隣のフォルトに視線を移すと、なんだか懐かしそうな顔をしていました。
 なんだろう?今の話で何かフォルトと関係しているところあったかな?

「それで、魔導具のことは置いておいて。そのお客様に言われたわ。これからクリスを狙う者が現れると。今のままのクリスでは対抗も抵抗さえもできないとも」
「その話をお母さんから聞いてね。それで前々から考えていた、クリスのための契約獣を本格的に探そうと決めたんだ」

 お母さんの話を締めくくるようにお父さんが言いました。

 私を狙う者が現れる…まさか、ゼロのこと?
 ゼロのことはまだよくわからないことが多いですが、あの校外学習の事件で私を連れて行こうとしたのは事実です。
 そういえば、あの時は横に置きましたが、クロードお兄ちゃんもゼロに対して私を狙う者と認識していました。
 きっと、私があの校外学習の参加届のサインをお願いした時に、お父さんからこの話を聴いたのかもしれません。

「クリスを危険から守るためとはいえ、そのことでクリスには寂しい、つらい思いをさせてしまったこと、本当にすまない。お父さん達はクリスに何もしてあげられなかったが、こうしてフォルト様と契約ができてほっとしたよ」
「ええ、本当によかったわ。クリスは、いつか私達のもとを離れる時が来る。その時に、ずっとクリスの味方でいてくれる者がいてくれたらとずっと願っていたのよ」

 お父さんとお母さんは、フォルトを見つめながら言いました。
 そして、感謝と敬いの気持ちを込めてフォルトに頭を下げます。
 フォルトは、黙ってその礼を受け取っていました。
 その両親の姿に込み上げてくるものがあって、言葉が詰まります。

「そ、そうだったんだね。お父さん、お母さん…私のために…ありがとう…」

 何もできなかったと苦しげに笑うお父さん達を責めることなんてできません。
 あそこまで過保護だったのも納得です。もう許しちゃいます。
 だって、そんなにも私を大事に思ってくれてることがうれしくないわけありません。

 泣きそうになるのを堪えて、笑顔を見せました。
 でもやっぱり涙が出て、うまく笑えませんでした。
 その涙を、優しくフォルトが舐めとってくれました。

「フォルト様、クリスを選んでくださって、ありがとうございます」
『別に。………いや。うん、まあ、そうだな。クリスと契約できてうれしいよ』

 お母さんが丁寧な姿勢でフォルトにお礼を言うと、最初はそっけなく返していましたが、思い直したのか、うれしいと言ってくれました。
 フォルトに目を向けると、ちょっとだけ照れているように見えました。

「フォルト様、質問があるのですが…。クリスは魔法が使えるようになったと訊いていますが、どういうことなのでしょうか?」

 レガロお兄ちゃんが私も気になっていたことを質問します。
 実は帰ってから二週間、私自身が忙しくしていた上にそれらに疲れていて、フォルトが気を遣って詳しいことは話せないままでした。
 フォルトは小さくため息をついて、私達を見渡します。

『最初に言っておく。クリスの魔力は魔法を使えねえ』

 その言葉に、誰もが息を呑みました。
 エヴァン先生とフェルーテちゃんからその可能性は聞いていたけど、それは本当だったようです。
 ううぅ、聞いてはいましたが、やっぱりショックです。

 そこへ、レガロお兄ちゃんが再び質問をします。

「しかし、現にクリスは魔法を使えています。それはクリスの力ではないということですか?」
『ああ。これは、俺の魔力の性質から来てる。俺の魔法は、生活魔法以外は誰かを介さなければ使えねえ。それは、誰でもいいってわけじゃない。お互いに信頼できる間柄じゃねーとダメだ。他にも条件があったけど、クリスは全部クリアしてくれた』
「なるほど。わかりました」

 レガロお兄ちゃんは、納得したように頷きました。
 続けて、クロードお兄ちゃんがフォルトに質問します。

「ええと、フォルト…様…」
『様付じゃなくていいぞ。敬語も無しな』

 フォルトがそう言うと、クロードお兄ちゃんはほっとしたような顔になりました。
 クロードお兄ちゃんは、フォルトがカイト君だった時の姿を知ってるから、確かに気を遣うよね。

「フォルトの魔法がクリスを通して使えることはわかった。でも、あの時使った魔法は俺が見た感じ、精霊級魔法だった。普通の契約獣…魔獣じゃ使えない魔法だと思うんだが」
「ええっ!?精霊級魔法を使ったんですか!?」

 クロードお兄ちゃんの言葉にレガロお兄ちゃんがびっくりして叫びます。
 ここまで取り乱すレガロお兄ちゃん、初めて見ました…。
 驚きながらも、その目には好奇心の色が見えたのは、気のせい…ではないですよね?

『答えは、簡単だ。俺が精霊獣だからだ』

 その言葉に、お母さん以外の人間が固まりました。
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