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第1章 ◆ はじまりと出会いと
53. フォルトの過去
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精霊獣って…もう神話というか、伝説というか…。
妖精の存在と同じく、それを見た人は誰もいません。
遥か昔には人々と共に生活し、その数もたくさんいたそうなのですが、いつの間にか姿を消してしまったと言われています。
お母さんが固まらなかったのは、きっとフォルトの正体を知っていたからなんだろうなと思います。
あまりにも私達がびっくりしすぎて言葉を失っているので、フォルトが簡単に精霊獣について説明してくれました。
精霊獣は精霊に仕える動物で、魔獣と違って言葉も話すし、精霊とも意志疎通ができるのだそうです。
魔力も精霊に匹敵するくらい高いので、精霊級魔法が使えるのは当たり前なんだとか。
昔は、人々の生活を影ながら守るその土地の守護獣の役割をしていたそうですが、あることをきっかけにそれを断ち切ることになったそうです。
そのあることっていうのは教えてくれませんでしたが、フォルトがとても苦しそうな顔をしたので訊かないことにしました。
『そういう訳で、俺は精霊級の魔法を使えるし、もちろん、精霊級の魔力を持ってる。納得したか?』
「あ、ああ。ありがとう、フォルト君…」
一通りの説明を受けて、クロードお兄ちゃんは目を回しながらも納得しました。その様子では、あまりわかってないかもしれないです。
その隣のレガロお兄ちゃんは、どこかわくわくした様子でフォルトを見ているので、これは後で質問攻めですね。
こういう時のレガロお兄ちゃんは、誰にも止められません。
『…これで質問は終わりか?』
フォルトが若干飽きてきたような目をし始めました。
わわっ!ダメだ、今訊かないと…!
フォルトが飽きる前に私が疑問に思っていることを訊いてみようと思いました。
「えっと、フォルト。どうして私の魔力は魔法が使えないの?そういう性質?」
これはとても大事なことです。
魔法が使えない理由がわかるのです。
訊かずにはいられません。
フォルトは、この質問にちょっとだけ困った雰囲気で首を振りました。
『それについては俺にもよくわからねえ。ただ、ゼロがクリスの魔力は自分に似てるって言ってたな』
「えっ」
ゼロに似てる?
私の魔力が?
あのゼロの禍々しい魔力を思い出して、急に怖くなってきました。
あんな気持ち悪い魔力なら、使えない方がいい。
もし、魔力を奪うなんて力を持っているなら、そんなものいらない。
心成しか震えていた体をクロードお兄ちゃんが抱き上げて、膝に抱っこしてくれました。
突然のことにびっくりしましたが、お兄ちゃんのあったかさにほっとします。
「クリスはあんな奴じゃない。友達思いで優しい、俺達のかわいい妹だ」
「お兄ちゃん…」
ぎゅっと抱きつくと、体を包むようにクロードお兄ちゃんの腕が回されて、とても安心します。
私の頭をレガロお兄ちゃんが優しく撫でてくれました。
『ゼロが言ったことは本当かどうかわからねえ。あいつはよく嘘を吐くし…。それに、クリスの魔力はゼロとは全然違うぞ。クリスの魔力は、とても澄んだ、透明なものだ』
フォルトは鼻先で、ふにっと私の頬をつつきます。
むにむにされながら、フォルトの優しさにちょっとだけ気持ちが浮上しました。
フォルトがそう言うなら、怖くない、のかな…?
『クリスの魔力については、また勉強しようぜ。これからは、ずっと一緒だしな』
「ずっと?」
『おう。クリスが死ぬまでな。それまで、俺達は親友だ』
フォルトは、にかっと笑って言いました。
私の一生を傍で見守ってくれる親友なんて、贅沢過ぎます。
「フォルト」に込めた想いを、この親友は尽くそうとしてくれている。
その気持ちだけで、もう十分だと思いました。
この時、初めて学校に行った日に言われた、お母さんの言葉を思い出しました。
―『大丈夫よ。あなたにはきっと、いい友達ができるわ。そうね、それはきっと一生ものの』―
ぱっとお母さんと目を合わせると、とても優しい顔で微笑まれました。
ああ、お母さんはこのことを言ってたんだ…。
うれしくて、涙が出そうです。
「うん。これからもよろしくね、フォルト」
フォルトはとてもうれしそうに頷いてくれました。
次の日の朝、うれしい来客がありました。
パタパタと廊下を走る足音に、誰だろうと思っていると突然部屋の扉を開けられます。
「クリスちゃん!」
「…っリィちゃんっ!!」
扉を開けたのは、会いたかったリィちゃんでした。
うれしすぎて、リィちゃんに抱きつきます。
リィちゃんも力いっぱい抱きしめ返してくれました。
「どうしたの?あっ、今日は学校お休みだったね!」
「ええ!先生にお願いして遊びに来たのよ。クリスちゃんが落ち着くまでは、我慢するように言われてたから」
「そうだったんだ…。遊びに来てくれてありがとう、リィちゃん」
ぎゅうぎゅう抱きしめ合っていると、ジト目でフォルトが言います。
『落ち着け、おまえら。そんなに大好きなら、お互い逃げねーだろ』
その言葉に二人できょとんとなりましたが、「その通りだね」と笑い合いました。
落ち着いたところで、リィちゃんにピンクの丸いクッションを勧めます。
私達は、この二週間のことをお互いに報告し合いました。
フォルトは、いつも寝ているお気に入りのラグで体を丸めて、私達の会話を静かに聞いていました。
リィちゃんは、学校からのお手紙とエレナさん、ジルディースさんのお手紙も預かってきていました。
それを受け取って、まずは学校からのお手紙を読むと、次の週から学校に来てもいいという内容でした。
二枚目には担任のリスト先生とエヴァン先生のメッセージが書かれていて、私の学校復帰をとても喜んでくれているようでした。
「リィちゃん!私、来週から学校に行ってもいいって!」
「ふふふっ、よかったわね!」
『おー。やっと勉強ができるな、クリス』
「うん!」
学校に行けることをリィちゃんとフォルトは一緒に喜んでくれました。
これでやっと、やりたい勉強ができる!
そこで、はっと気がつきます。
「…フォルトはどうするの?」
グランツ学園では、”カイト君”として通っていたし、海組に行きたいと言っていました。
私と契約したことによって、フォルトがやりたいことができなくなってしまいました。
申し訳ないと思いながらそれを伝えると、フォルトは笑って言いました。
『気にすんな。もともと俺は進級する気はなかったし、海組はただの興味本位だから。それに、学園は保護目的で俺を置いてくれてたしな。もし精霊獣に戻れたら学園を退学することになってたんだよ。担任の奴らと学園長はそれを知ってる』
「そうだったんだ…うん。わかった」
フォルトがそう言うなら、気にしないことにします。
それにしても、先生達はフォルトが精霊獣だってことを知ってたんですね。
だから、魔法実技の授業が不参加でも何も言わなかったんだ。
そこでフォルトの言った、ある言葉に引っかかります。
「んん?ちょっと待って。精霊獣に戻れたらって、どういうこと?カイト君だった時の姿は違うの?」
『俺は、守護獣をやめた時に人間の姿をもらったんだ。体が人間になったから、精霊獣としての力は人間並みになるし、精霊や妖精だってそうそう見えなくなる。魔法自体は、昨日クリス達に言ったとおりだ』
なるほど。カイト君の姿の時にいろいろ見えていなかったのはそういうことだったんですね。
”カイト君”は、ゼロもフェルーテちゃんも見えていなかったから。
人間の体っていう制限もあったんだ。
あれ?でも、校外学習ではみんな、ゼロのこと見えてた…。
それに、図書室で会った時に私だけが見えていたこともおかしいことだよね?
ゼロに対する謎が増えてしまいました。
『精霊獣に戻る時は、ある条件を満たさないと戻れねーようにしてて、それが新しい名前だったんだ。新しく生まれ変わるなら、新しい名前が必要だからな』
ぽつりとフォルトが呟きます。
その表情は、とても真剣なものでした。
『…まあ、正直、カイトの名で精霊獣に戻りたくなかったってのもあるけど』
「どうして?」
どこか悲しげに言ったフォルトに思わず訊いてしまいました。
隣にいるリィちゃんはちょっとだけ沈んだ顔でフォルトを見つめています。
フォルトは、しばらく考える素振りを見せて、再び私と目を合わせました。
『昨日は話さなかったけど…守護獣が人々から断ち切られた原因は、ゼロだ。今でも覚えてる』
フォルトは、淡々とその話をしてくれました。
遠い昔、フォルトがまだカイトという名前で、精霊獣だった時。
フォルトが護っていた村がゼロによって滅ぼされてしまいました。
ゼロは、村人達の魔力を全部吸い上げて、それを村の破壊に使ったのだそうです。
生き残った者もなく、村も跡形もなく壊されて、その時のフォルトは絶望で身が焼かれるように苦しかったのだと言います。
そして、守護獣として助けることも守ることもできなかったことがさらにフォルトを追い詰めました。
このまま、滅ぼされた村で絶望の中朽ちようとしていた時、精霊王が救ってくれたそうです。
精霊王は、フォルトに人間の体を与えたのです。
それからフォルトは、精霊王に付いて世界を回ったそうです。
精霊王には他にもたくさんの精霊や精霊獣、妖精も付いていて、とても賑やかな旅だったと言います。
その旅の中で、ゼロが壊してきたものを精霊王達が救い、時には守り、戦いました。
ゼロはどうしてか、精霊の力を持つ者を容赦なく傷つけていきました。
時には、人形にしたり、自分の味方にしたりもしました。
ゼロは、守護獣がいる土地ばかりを狙いました。
精霊獣が守護する土地は魔力が満ち、それが人々にも影響するからです。
それは、いい方向にもですが、悪い方向にも言えました。
ゼロは、あらゆる土地の人々を自分の味方にして、一緒になって精霊達と対立し始めたのです。
そのことにより、たくさんの血が流れ、精霊と人の間に大きな溝ができてしまいました。
こうして、精霊王さんは人々との繋がりを断ち切ることになったのです。
『…と、まあ、こんな感じだな。そういう訳もあって、次に守りたい奴ができたら、そいつに新しい名前を付けてもらいたかったんだ』
フォルトの過去があまりにも衝撃的過ぎて、言葉が出ませんでした。
ゼロもその時からいたなんて……。
…あれ?ちょっと待って。
何気なく話の内容に頷いていましたが、精霊王さん出てきましたよね!?
精霊王さんって私に魔宝石をくれたアンジェさんのことだよね!?
フォルトに人間の体を与えたって言ってたけど…えええっ!!?
なんだか昨日からいろいろなことが判明して、しかもいろんなところで繋がっていたことにもびっくりして、頭がパンクしそうです。
突然一人で頭を抱えた私をリィちゃんとフォルトは不思議そうに見ていました。
妖精の存在と同じく、それを見た人は誰もいません。
遥か昔には人々と共に生活し、その数もたくさんいたそうなのですが、いつの間にか姿を消してしまったと言われています。
お母さんが固まらなかったのは、きっとフォルトの正体を知っていたからなんだろうなと思います。
あまりにも私達がびっくりしすぎて言葉を失っているので、フォルトが簡単に精霊獣について説明してくれました。
精霊獣は精霊に仕える動物で、魔獣と違って言葉も話すし、精霊とも意志疎通ができるのだそうです。
魔力も精霊に匹敵するくらい高いので、精霊級魔法が使えるのは当たり前なんだとか。
昔は、人々の生活を影ながら守るその土地の守護獣の役割をしていたそうですが、あることをきっかけにそれを断ち切ることになったそうです。
そのあることっていうのは教えてくれませんでしたが、フォルトがとても苦しそうな顔をしたので訊かないことにしました。
『そういう訳で、俺は精霊級の魔法を使えるし、もちろん、精霊級の魔力を持ってる。納得したか?』
「あ、ああ。ありがとう、フォルト君…」
一通りの説明を受けて、クロードお兄ちゃんは目を回しながらも納得しました。その様子では、あまりわかってないかもしれないです。
その隣のレガロお兄ちゃんは、どこかわくわくした様子でフォルトを見ているので、これは後で質問攻めですね。
こういう時のレガロお兄ちゃんは、誰にも止められません。
『…これで質問は終わりか?』
フォルトが若干飽きてきたような目をし始めました。
わわっ!ダメだ、今訊かないと…!
フォルトが飽きる前に私が疑問に思っていることを訊いてみようと思いました。
「えっと、フォルト。どうして私の魔力は魔法が使えないの?そういう性質?」
これはとても大事なことです。
魔法が使えない理由がわかるのです。
訊かずにはいられません。
フォルトは、この質問にちょっとだけ困った雰囲気で首を振りました。
『それについては俺にもよくわからねえ。ただ、ゼロがクリスの魔力は自分に似てるって言ってたな』
「えっ」
ゼロに似てる?
私の魔力が?
あのゼロの禍々しい魔力を思い出して、急に怖くなってきました。
あんな気持ち悪い魔力なら、使えない方がいい。
もし、魔力を奪うなんて力を持っているなら、そんなものいらない。
心成しか震えていた体をクロードお兄ちゃんが抱き上げて、膝に抱っこしてくれました。
突然のことにびっくりしましたが、お兄ちゃんのあったかさにほっとします。
「クリスはあんな奴じゃない。友達思いで優しい、俺達のかわいい妹だ」
「お兄ちゃん…」
ぎゅっと抱きつくと、体を包むようにクロードお兄ちゃんの腕が回されて、とても安心します。
私の頭をレガロお兄ちゃんが優しく撫でてくれました。
『ゼロが言ったことは本当かどうかわからねえ。あいつはよく嘘を吐くし…。それに、クリスの魔力はゼロとは全然違うぞ。クリスの魔力は、とても澄んだ、透明なものだ』
フォルトは鼻先で、ふにっと私の頬をつつきます。
むにむにされながら、フォルトの優しさにちょっとだけ気持ちが浮上しました。
フォルトがそう言うなら、怖くない、のかな…?
『クリスの魔力については、また勉強しようぜ。これからは、ずっと一緒だしな』
「ずっと?」
『おう。クリスが死ぬまでな。それまで、俺達は親友だ』
フォルトは、にかっと笑って言いました。
私の一生を傍で見守ってくれる親友なんて、贅沢過ぎます。
「フォルト」に込めた想いを、この親友は尽くそうとしてくれている。
その気持ちだけで、もう十分だと思いました。
この時、初めて学校に行った日に言われた、お母さんの言葉を思い出しました。
―『大丈夫よ。あなたにはきっと、いい友達ができるわ。そうね、それはきっと一生ものの』―
ぱっとお母さんと目を合わせると、とても優しい顔で微笑まれました。
ああ、お母さんはこのことを言ってたんだ…。
うれしくて、涙が出そうです。
「うん。これからもよろしくね、フォルト」
フォルトはとてもうれしそうに頷いてくれました。
次の日の朝、うれしい来客がありました。
パタパタと廊下を走る足音に、誰だろうと思っていると突然部屋の扉を開けられます。
「クリスちゃん!」
「…っリィちゃんっ!!」
扉を開けたのは、会いたかったリィちゃんでした。
うれしすぎて、リィちゃんに抱きつきます。
リィちゃんも力いっぱい抱きしめ返してくれました。
「どうしたの?あっ、今日は学校お休みだったね!」
「ええ!先生にお願いして遊びに来たのよ。クリスちゃんが落ち着くまでは、我慢するように言われてたから」
「そうだったんだ…。遊びに来てくれてありがとう、リィちゃん」
ぎゅうぎゅう抱きしめ合っていると、ジト目でフォルトが言います。
『落ち着け、おまえら。そんなに大好きなら、お互い逃げねーだろ』
その言葉に二人できょとんとなりましたが、「その通りだね」と笑い合いました。
落ち着いたところで、リィちゃんにピンクの丸いクッションを勧めます。
私達は、この二週間のことをお互いに報告し合いました。
フォルトは、いつも寝ているお気に入りのラグで体を丸めて、私達の会話を静かに聞いていました。
リィちゃんは、学校からのお手紙とエレナさん、ジルディースさんのお手紙も預かってきていました。
それを受け取って、まずは学校からのお手紙を読むと、次の週から学校に来てもいいという内容でした。
二枚目には担任のリスト先生とエヴァン先生のメッセージが書かれていて、私の学校復帰をとても喜んでくれているようでした。
「リィちゃん!私、来週から学校に行ってもいいって!」
「ふふふっ、よかったわね!」
『おー。やっと勉強ができるな、クリス』
「うん!」
学校に行けることをリィちゃんとフォルトは一緒に喜んでくれました。
これでやっと、やりたい勉強ができる!
そこで、はっと気がつきます。
「…フォルトはどうするの?」
グランツ学園では、”カイト君”として通っていたし、海組に行きたいと言っていました。
私と契約したことによって、フォルトがやりたいことができなくなってしまいました。
申し訳ないと思いながらそれを伝えると、フォルトは笑って言いました。
『気にすんな。もともと俺は進級する気はなかったし、海組はただの興味本位だから。それに、学園は保護目的で俺を置いてくれてたしな。もし精霊獣に戻れたら学園を退学することになってたんだよ。担任の奴らと学園長はそれを知ってる』
「そうだったんだ…うん。わかった」
フォルトがそう言うなら、気にしないことにします。
それにしても、先生達はフォルトが精霊獣だってことを知ってたんですね。
だから、魔法実技の授業が不参加でも何も言わなかったんだ。
そこでフォルトの言った、ある言葉に引っかかります。
「んん?ちょっと待って。精霊獣に戻れたらって、どういうこと?カイト君だった時の姿は違うの?」
『俺は、守護獣をやめた時に人間の姿をもらったんだ。体が人間になったから、精霊獣としての力は人間並みになるし、精霊や妖精だってそうそう見えなくなる。魔法自体は、昨日クリス達に言ったとおりだ』
なるほど。カイト君の姿の時にいろいろ見えていなかったのはそういうことだったんですね。
”カイト君”は、ゼロもフェルーテちゃんも見えていなかったから。
人間の体っていう制限もあったんだ。
あれ?でも、校外学習ではみんな、ゼロのこと見えてた…。
それに、図書室で会った時に私だけが見えていたこともおかしいことだよね?
ゼロに対する謎が増えてしまいました。
『精霊獣に戻る時は、ある条件を満たさないと戻れねーようにしてて、それが新しい名前だったんだ。新しく生まれ変わるなら、新しい名前が必要だからな』
ぽつりとフォルトが呟きます。
その表情は、とても真剣なものでした。
『…まあ、正直、カイトの名で精霊獣に戻りたくなかったってのもあるけど』
「どうして?」
どこか悲しげに言ったフォルトに思わず訊いてしまいました。
隣にいるリィちゃんはちょっとだけ沈んだ顔でフォルトを見つめています。
フォルトは、しばらく考える素振りを見せて、再び私と目を合わせました。
『昨日は話さなかったけど…守護獣が人々から断ち切られた原因は、ゼロだ。今でも覚えてる』
フォルトは、淡々とその話をしてくれました。
遠い昔、フォルトがまだカイトという名前で、精霊獣だった時。
フォルトが護っていた村がゼロによって滅ぼされてしまいました。
ゼロは、村人達の魔力を全部吸い上げて、それを村の破壊に使ったのだそうです。
生き残った者もなく、村も跡形もなく壊されて、その時のフォルトは絶望で身が焼かれるように苦しかったのだと言います。
そして、守護獣として助けることも守ることもできなかったことがさらにフォルトを追い詰めました。
このまま、滅ぼされた村で絶望の中朽ちようとしていた時、精霊王が救ってくれたそうです。
精霊王は、フォルトに人間の体を与えたのです。
それからフォルトは、精霊王に付いて世界を回ったそうです。
精霊王には他にもたくさんの精霊や精霊獣、妖精も付いていて、とても賑やかな旅だったと言います。
その旅の中で、ゼロが壊してきたものを精霊王達が救い、時には守り、戦いました。
ゼロはどうしてか、精霊の力を持つ者を容赦なく傷つけていきました。
時には、人形にしたり、自分の味方にしたりもしました。
ゼロは、守護獣がいる土地ばかりを狙いました。
精霊獣が守護する土地は魔力が満ち、それが人々にも影響するからです。
それは、いい方向にもですが、悪い方向にも言えました。
ゼロは、あらゆる土地の人々を自分の味方にして、一緒になって精霊達と対立し始めたのです。
そのことにより、たくさんの血が流れ、精霊と人の間に大きな溝ができてしまいました。
こうして、精霊王さんは人々との繋がりを断ち切ることになったのです。
『…と、まあ、こんな感じだな。そういう訳もあって、次に守りたい奴ができたら、そいつに新しい名前を付けてもらいたかったんだ』
フォルトの過去があまりにも衝撃的過ぎて、言葉が出ませんでした。
ゼロもその時からいたなんて……。
…あれ?ちょっと待って。
何気なく話の内容に頷いていましたが、精霊王さん出てきましたよね!?
精霊王さんって私に魔宝石をくれたアンジェさんのことだよね!?
フォルトに人間の体を与えたって言ってたけど…えええっ!!?
なんだか昨日からいろいろなことが判明して、しかもいろんなところで繋がっていたことにもびっくりして、頭がパンクしそうです。
突然一人で頭を抱えた私をリィちゃんとフォルトは不思議そうに見ていました。
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