クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

54. 招待状

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「クリスちゃん、どうしたの?大丈夫?」
『……また変に悩んでんのか?』

 リィちゃんとフォルトに声を掛けられて、意識が現実に引き戻されます。
 二人とも心配そうに見つめてきたので、「大丈夫だよ」と言って、首を横に振ります。

「…フォルト、話してくれてありがとう」
『おう。俺のことはもう終わったことなんだから、クリスが気にするんじゃねーぞ?』

 フォルトは穏やかに笑います。
 私もそれに笑顔で返しました。

 フォルトの過去はつらいものだったけど、そんな遠い昔から今に繋がって私と契約してくれたことは奇跡なんじゃないかな?
 そう思うと、この絆をより一層大事にしようと思いました。
 精霊王さん、ありがとうございます。
 次に精霊王さんに会えたら、フォルトの事を紹介して、いっぱい感謝を言おう。

「クリスちゃん、エレナさん達のお手紙も読んでみたら?」
「あ。そうだった」

 リィちゃんにそう言われて、エレナさん達のお手紙もあったことを思い出します。
 封を開けると色違いの便箋が二枚入っていて、二人別々に書いたんだろうなと、なんだか笑ってしまいました。

 まずは、きれいな淡い水色の便箋の方を読むと、それはエレナさんからのお手紙でした。
 騎士団のことや、魔導具のその後の処理のこと、怪我の具合も書かれていました。
 あの大怪我もだいぶ良くなったようで、訓練には参加できていませんが、早く復帰できるようにリハビリを頑張っているそうです。
 よかった。一時はどうなることかと思ったけど…。
 エレナさんの鮮やかな野イチゴ色の目で笑う顔を思い出して、ほっとします。

 もう一枚の方は、クリーム色の便箋でジルディースさんからのお手紙です。
 こちらは私の心配をしてくれていて、体調のことや寂しくないかと気遣う言葉が並んでいました。
 それを読んで、なんだかもう一人お兄ちゃんができた気分になりました。
 二人で内容が被ってないところがすごいなと思っていたら、お手紙の最後に二人の名前が連名で書かれていました。
 あ、二人で書いてくれたんですね。そっか、エレナさんは右腕を怪我してて書けないから…。
 エレナさんの名前がちょっとだけ歪んだ筆跡だったので、それ以外はジルディースさんが書いたんだとわかりました。
 ジルディースさん、意外と柔らかい文字を書くんですね。
 女の人が書いたって言われても違和感がないです。

「二人とも元気そうでよかった。あの時はエレナさんはひどい怪我だったし…ジルディースさんも」
「そうね。手紙を預かった時も、とても元気そうだったわよ。エレナさん達ももうすぐ街の見回りに復帰できるみたい」

 リィちゃんはくすくすと笑いながら、「毎日机仕事はもう飽きたって言ってたわ」と付け足しました。
 その様子が目に浮かんで、私も笑みがこぼれました。

 本当によかった。
 あとから聞いた話ですが、エレナさんとジルディースさんはあの校外学習の時よりも前にゼロと戦闘をしていて、二人ともそれで大怪我を負ったそうです。エレナさんはその時にゼロに連れ去られたと聞きました。
 だから無事に戻って来れた時、あんなにジルディースさんがエレナさんを抱きしめたのかと納得しました。
 殴られてたけど…たぶん、エレナさんの照れ隠しだと思います。
 初めて出会った時の印象のせいかもしれないけど、二人で揃っているのが一番好きです。

「そうだわ!ねえ、クリスちゃん。また今度エレナさん達に会いに行きましょう。それで、クリスちゃんが行きたかった、魔導具のお店にも」
『それいいな。俺も騎士団の奴らに会いてえし。魔導具の店は、ずっと行けてなかったんだろ?行こうぜ、クリス』

 リィちゃんが思いついたように言うと、私の隣でフォルトもその提案に乗ります。
 確かに、エレナさん達の様子も気になるし、それに騎士団にはいっぱいお世話にもなって迷惑もかけてしまったので、一度個人的にご挨拶に行ってもいいかもしれないです。
 騎士団長さんとも、この二週間何度も顔を合わせましたが、きちんとお礼を言えてなかったです。
 うん、ご挨拶に行こう!

「そうだね、騎士団には行きたい!魔導具のお店は、もうちょっと勉強してから行きたいな」
『クリス、充分勉強できてるじゃねーか。まだ足りねえのか?』
「全然足りないよ!もっと勉強したい!」

 初めてライゼンさんに魔導具を触らせてもらった時の感動は忘れません。
 あの時のキラキラと輝くカンテラは、私の魔導具への興味のきっかけでした。
 そして、無表情だけど、ときどき優しく笑ってくれるライゼンさんも。
 光を通したはちみつ色のような金色の目を思い出して、思わず頬が緩みます。

「ライゼンさんといっぱい魔導具のことでお話ししたいから、もっと頑張るよ!」

 両手で力拳を作る私に、フォルトは呆れた目で見つつも、どこかうれしそうに笑っていました。
 リィちゃんもできることがあれば手伝うと言ってくれました。

 その後は、三人で他愛のない話をして、時間はあっという間に過ぎていきました。

「それじゃあ、クリスちゃん、また学校でね。騎士団に行くこと、エレナさんに連絡して都合のいい日も訊いておくわ」
「うん。ありがとうリィちゃん。また来週、学校でね!」
『気をつけて帰れよー』

 リィちゃんが乗った馬車を見送って、村の人達に声を掛けられながら家に帰ります。
 玄関を開けると、レガロお兄ちゃんもちょうど帰ってきていました。
 この時間に帰ってきているのは珍しいです。学校が休みの日は、最終馬車に乗れる時間まで研究塔で研究してるのに。

「ただいま。おかえりなさい、お兄ちゃん」
「おかえりなさい、クリス。ただいま」

 声を掛けると、とても疲れたというか困ったような顔で振り向いてきました。
 どうしたんだろう?研究で何か失敗したのかな?
 そう思って声を掛けようとしたら、お兄ちゃんが先に言います。

「突然ですが、クリスへの手紙を預かっています。クレスト様から」
「? えっと…誰…?」

 聞いたことのない名前に首を傾げていると、お兄ちゃんが説明してくれました。

「母上の魔導具の制作者であり、この前壊れた時にも直していただきました。魔導具研究科の最高顧問で、ライゼンの師匠にあたるお方です」

 んん!?とてもお世話になっている人じゃないですか!?
 しかも、ライゼンさんのお師匠様!

 びっくりしすぎて言葉を失っていると、お兄ちゃんが教育科の鞄からお手紙を取り出します。
 それは、真っ白に青色の蔦模様の縁取りがされたきれいな封筒でした。

「クリス、いつの間にクレスト様にお会いしたのですか?声を掛けられたときは、驚きすぎて心臓が止まるかと思いましたよ」
「ええと、会ったのかな?私は全然覚えてないよ」

 隣のフォルトが呆れたように私を見ます。
 だって、本当に覚えがないんです!

 お兄ちゃんは私の答えに困った顔をしました。

「それは私にもわかりませんが…。返事を待っているそうなので、返事が書けたら私にください。私がクレスト様にお渡しします」
「うん。わかった。お兄ちゃんありがとう」

 お手紙を受け取ると、お兄ちゃんは部屋へ戻っていきました。
 私も足早に自分の部屋に戻り、早速お手紙を読みます。
 傍で座っているフォルトは、内容に興味がないのか、丸まって目を閉じています。

 挨拶から始まったお手紙は、子どもの私にもわかりやすい言葉で、それでも丁寧な文章に恐縮してしまいました。
 その挨拶の後に本題が書かれていて、読み進めれば、なんとお茶会へのご招待でした。
 日時と場所が書かれていて、もし都合が悪ければ、都合のよい日を教えてくれというものでした。

 あれ?ちょっと待って。お茶会?

 お茶会という言葉に、校外学習一日目に転移魔法を使ってくれた魔法の先生のことを思い出します。

 ―『―――今度、お茶会にでも招待するとしよう。無表情な弟子でよければ、話し相手にもなるぞ?』―

 もしかして、クレスト様って、あの時の魔法の先生!?
 確かにあの時、「あれ?」って思ったけど、ゼロの事件のことですっかり忘れていました。

 あの魔法の先生とのお茶会なら、参加したい。
 くしゃりと笑う顔はとても優しくて、魔導具の先生なら、お話を聴いてみたいです!
 は!ライゼンさんも来てくれるかな?
 一緒におしゃべりできたらうれしいな…。
 お返事にライゼンさんとも一緒にお茶会したいですって書こう!

 早速、お気に入りのレターセットでクレスト様にお返事を書いて、エレナさん達のお手紙のお返事も一緒に書きました。
 クレスト様には花柄の淡いピンクの封筒に、エレナさん達にはライムグリーンの封筒にお手紙を入れて封をしました。
 レガロお兄ちゃんにそれらを渡すと、すぐに送ってくれました。

 お茶会は、ちょうど二週間後。場所は、魔導具研究科の中庭にあるサンルーム。
 違う科の人が入るのは許可がいるそうなので、私のための許可証を申請してくれるそうです。
 なんだかいろいろ面倒をかけている気がしますが、レガロお兄ちゃんが「招待する側が用意するのは当然ですよ」と言うので、クレスト様にお任せしました。



「フォルトはお茶会参加する?」

 部屋に戻って、ラグで丸まっていたフォルトに声を掛けると、その片目だけがぱちりと開きます。

『俺は招待されてねーだろ。んー、でもあんまりクリスの傍から離れたくねーから…そうだな、その日はリリーのところへ行く』
「リィちゃんのところに?別にいいけど、どうして?」
『…俺なりのちょっとしたけじめだよ。リリーにはいろいろ世話になったから』

 フォルトはちょっと照れたような顔をして、そう呟きました。

 そっか、そうだね。
 リィちゃんは、カイト君だった時もフォルトのことを心配して、いろいろ気を遣っていました。
 きっと、私もフォルトも知らないところでも。
 そんなリィちゃんの優しさにフォルトは救われてたんだね。
 私も、そんなリィちゃんが大好きだよ。

「じゃあ、リィちゃんにお礼をしたら?何かプレゼントとか…」
『俺がそんなことするように見えるか?』
「う、うーん…?」

 ジト目で返してくるフォルトに、言葉が詰まりました。

 いやいや、こんな機会じゃなきゃ、できないことです!
 ここはフォルトが頑張らないと!

「いいと思う!リィちゃん、喜ぶよ絶対!」
『……』

 フォルトは眉間に皺をよせるほど困った顔になって、しばらく黙ってしまいました。
 これは私が口出すことじゃないなと思って、そのままそっとしておきました。

 リィちゃんとフォルトも、なんだかんだ言って仲がいいよね。
 そういえば、リィちゃんはフォルトのことを知ってた。
 だったら、リィちゃんと契約することはできなかったのかな?
 リィちゃんは魔法が上手に使えるから、よくわからない魔力を持ってる私よりもきっといい契約者になれると思うけど…。

 そんなことをぼんやり考えていたら、フォルトが鼻で頬を突きます。

『…クリス、今度雑貨屋に連れてってくれ。リリーへのプレゼントを買う』
「うん。リィちゃんの好きなそうな雑貨、一緒に選ぼうね」

 フォルトはちょっと照れたように頷きました。
 それがなんだかかわいいなと思って、頭を撫でます。
 フォルトの毛並みは、ちょっと硬めだけどつやつやで、光に反射してキラキラするのでとてもきれいです。
 フォルトは目を細めて、されるがままに撫でる手の動きに合わせて尻尾を振っていました。

 後日、二人でこっそり用意したプレゼントは、その日になるまで大事に机の引き出しにしまいました。
 リィちゃん、喜んでくれるといいな。
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