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第1章 ◆ はじまりと出会いと
59. 進む道
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お茶会で「魔導具が作れますか?」とライゼンさん、クレスト様に言ったら、ものすごくびっくりされました。
しばらく固まっていた二人は、意識をこっちに戻すと私の言葉を何度も確認してきました。
「クリスさん、魔導具を作ってみたいのか?本当に?」
「はい」
「クリス、魔導具を作るというのは図画工作とは違う。それをわかっているか?」
「はい、わかってます」
二人がこんなに確認してくるのも無理ないです。
だって、私は七歳で子どもだし、知識もライゼンさんに貸してもらった「魔導具の基礎<初級編>」しかありません。
ライゼンさんも子どもだけど、私とは知識も経験も遥かに違う。
あの馬車の中で見せてもらった魔導具研究科専用ノートには、ライゼンさんの努力と知識がたくさん詰まっていたのを知っているから。
「小さな私が魔導具を作るなんて難しいかもしれません。でも、私が今、一番やってみたい、目指したい道なんです」
心から真剣に言うと、ライゼンさんとクレスト様は顔を見合わせました。
二人はどこか困惑していましたが、クレスト様は小さく息を吐きました。
「…クリスさん、教育科光組の図書室に魔導具についての本がないことは知っておるかな?」
「? はい。なんでだろうって思ってました」
クレスト様は、唐突に光組の図書室のことを言いました。
それに首を傾げつつも答えます。
「魔導具を作るのには、ある程度魔法に知識と経験がある者にしか作ることを許されておらん。それは、未熟なものが魔導具を作ると暴発、魔力の枯渇、呪い、中毒など…よいことにはならんからだ」
「…つまり、魔力のコントロールがきちんとできる者ではないといけないということですか?」
私の答えに、クレスト様がちょっとだけ眉を上げます。
「ふむ。よく心得ておるな。その通りだ。魔導具はただ魔力を込めるだけで完成するものではない。クリスさん、あなたはまだ幼く、経験も知識も足らん。今、本当に目指したいか?」
「はい」
クレスト様から目を逸らさずに頷きます。
魔導具を作ってみたい…ううん、作りたい。
魔法が使えない人のための魔導具を作りたい。
そんな魔導具があれば、私がうれしいから。
ライゼンさんに教えてもらって、魔導具に込められた「想い」やその技術を目の当たりにして、私の中にその思いが生まれた。それがちょっとずつ形になったんです。
それは、わがままで、すごくありふれた理由で、曖昧で形がはっきりしないものかもしれないけど。
「…クリスさんはあの守護魔法の魔導具を見たのだったな?」
「はい。とてもすごい魔導具でした」
クレスト様が言っている守護魔法の魔導具とは、あのゼロに奪われたオルデンの魔導具のことです。
あとから聞いた話ですが、あの魔導具は一つ作るのに十年もかかるという、とても高度な技術を詰め込んだものでした。
遠目からでしか見ることはできませんでしたが、とても細かい部品が集まって、それが1つのものとして噛み合うように計算され尽くしたものでした。
その部品それぞれに魔法や紋章術も込められている…一つの魔導具を作るのに、きっとたくさんの人が協力したんだと、その時思いました。
それを五個も壊してしまったことは本当にごめんなさい。
「あれはかなりのものだが、たとえ小さな魔導具を作るにしても、いろんな手間と知識と経験、魔力が必要だ。それは並大抵の努力などでは手に入らん。一生かけても、ただの一つも作れんかもしれん。それでも目指すか?」
クレスト様は怖いくらい真剣な目で私に問いました。
クレスト様は、私が知らないいろんな危険と途方もない苦労を知っているから、私を心配してくれているんだと思いました。
隣のライゼンさんもいつもとは違う真剣な目をしています。
「はい。目指します」
魔導具に関しての大先輩達を前に大きく頷きます。
頷くなんてものじゃない、これは宣言です。
私は魔導具師を目指す。
クレスト様の目は、ずっと私を見つめていました。
私もクレスト様を見つめます。
誰も言葉を発することもなく、しばらく見つめ続ければ、クレスト様は顔を片手で覆って大きくため息を吐きました。
「…クリスさんの決意はわかった。では、まず教育科を卒業しなさい。そうだな…組は海組がよい。そこで魔法経験を積み、決意が変わらないのであれば魔導具研究科に来なさい」
クレスト様は早口でそう言うと、席を立ちました。
そのままサンルームを出て行ってしまったので、私とライゼンさんだけが残されました。
「……ライゼンさん、私、クレスト様を怒らせてしまったのでしょうか?」
クレスト様が出て行った扉を見つめながら呟くように言うと、ライゼンさんが近くに寄ってきます。
そして、私が座っている椅子の傍らに立ち、黙って見下ろしてきました。
その表情は、どこか陰りがあるように感じました。
「…クレスト様は怒っていない…と思う。すまない」
「どうしてライゼンさんが謝るんですか?」
「……」
ライゼンさんは、それ以上何も話してくれませんでした。
お茶会から帰ってきて、私が「海組に行く!」と言った時の家族とフォルトの反応は、全員びっくりしすぎて固まっていました。
何の前触れもなくいきなり言われたら、それはびっくりしますよね。
言う順番を間違えたと反省して、海組に行くのは魔導具師になるために魔法経験が必要だからと説明すると、お父さんとフォルトは納得しました。
でも、お母さんとお兄ちゃん達は猛反対でした。
「魔導具師になりたいというのはわかったけれど…。魔法の経験を積むのは、海組でなければいけないのかしら?他ではだめなの?」
「クリス、卒業した組だからわかる。海組は実力主義で半端を嫌うところだ。クリスが行っても潰されるだけだぞ」
「兄上の言うとおりです。それに、魔導具師になるのには素質も必要なのですよ?私も制作に挑戦したことがありますが、あれは努力では越えられない壁があることを悟りました」
お母さん、クロードお兄ちゃん、レガロお兄ちゃんが口々に言います。
とてもとても心配している顔です。
確かに、体力もなくて、よくわからない魔力を持ってる私じゃ海組ではつらいかもしれないです。
でも、クレスト様が言ったんです。そこを卒業して、決意が変わらないのならって。
それは、私に逃げることも諦めることもできると言っているようなものでした。
諦めるつもりはないけど、まだ小さな私に魔導具師だけじゃない選択肢を示してくれたんだと思います。
魔導具師のことがなくても海組で魔法経験を積むことは、私にとって必要なことです。
自分の魔力ととことん向き合える…私にとってマイナスではないはずだから。
『…俺はクリスを応援するぜ。あんだけ悩んでたやりたいことが見つかって、寧ろうれしいぞ』
「フォルト…」
フォルトは私の傍に寄ってきて、頬に鼻を寄せます。
それに応えるように、頭をそっと撫でてあげました。
「そうだね。私もクリスの道を応援するよ」
お父さんがちょっとだけ困ったように笑いながら言いました。
いつもの「仕方ないね」っていう顔です。
私の頭を優しく撫でて、お母さんたちの方へ向きます。
「お母さん、クロード、レガロ。どの道を選んでも大変なのは変わらない。なら、自分が納得して選んだ道を進む方がいいだろう?」
お父さんの言葉に、誰も言い返すことはありませんでした。
次の日の放課後、レガロお兄ちゃんに連れられて、教育科の職員室で海組についての話を聴くことになりました。
「クリス…本当に魔導具師を目指すのですか?」
「お兄ちゃん、私、何度も言ったよ?魔導具師になるって」
職員室へ向かう道すがら、この応答が何度も繰り返されて、いい加減うんざりしてきました。
お兄ちゃんは、海組に行くことよりも、魔導具師を目指すことに反対なようです。
心配はわかります。心配するなという方が無理な話です。
でも、ちょっとは私のことを信用してほしいです!
そんなこんなで職員室に着くと、リスト先生が迎えてくれました。
「クリスさん、レガロさん。待ってたぞ。こっちの席に座ってくれ」
リスト先生に案内されて、職員室奥の応接用のテーブルの席に座ります。
そこには、ギル先生とミリア先生も座っていました。
「今日は、ギル先生とミリア先生も一緒に話を聴いてくれる。適性も見るから、質問にはきちんと答えてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
向かいに座るギル先生達に礼をすると、先生達も礼を返しました。
お兄ちゃんは緊張した顔で、ちょっと離れた後ろの椅子に座っています。
「さて、クリスさんは海組に進級したいということですが…志望理由は何ですか?」
ギル先生が早速質問をしてきます。
昨日家族に話したように、魔導具師を目指すためだと話しました。
他にも様々な質問が先生達から出て、ときどき戸惑いながらも、一つ一つ答えていきました。
質問の内容は思ってたものと違って意外なものばかりで、「これって聞く必要あるのかな?」と思うものばかりでした。
嫌いな食べ物とか苦手なものなど、マイナスな質問ばかりで首を傾げそうになりました。
「最後に。クリスさんは魔法がまだ自分でうまく使えてないが、海組ではどうするつもりだ?」
リスト先生が私の一番の弱点を突いてきました。
お兄ちゃんがはらはらしながら、私を見ているのを背中で感じます。
「…わかりません」
「わからない?」
リスト先生の顔がちょっと険しくなりました。
この質問の答えは、失敗したかもしれない。
だけど、それは私にはまだ答えが出ていないこと。本当にわからないことだから、しょうがない。
「海組は、さっき説明したように実力主義だ。入るのは簡単だが卒業するのは難しい。課せられた課題ができなければ、できるまで続けなければいけないところだ」
リスト先生は厳しい顔でクロードお兄ちゃんと同じようなことを言います。
リスト先生…もしかして海組の卒業生なのでしょうか。
「わかっています。でも、私は海組に行きたいです。課題は、ずるいかもしれないけど、フォルトがいればできてしまうと思いますから」
レガロお兄ちゃんと先生達が息を呑んだのを感じました。
これは海組に行きたいと言った時、フォルトと二人で相談して決めたことです。
魔法が使えない私が魔法を使う感覚を覚えるなら、フォルトの魔法を使った方がわかりやすいとフォルトが言ったからです。
言葉や見るだけで教えられるよりも、自分の中で魔法が生成され、直接感じることができるのは、どんな教科書や教師よりも勝るからです。
その感覚を経験しながら自分の魔力の使い方を模索することが今のところ海組に行く一番の目的です。
「私は、海組で自分の魔力と向き合いたいです。…私の魔力は、魔法を使うことができないそうですから」
「…それは、本当なの?」
ミリア先生が真剣な顔で問います。
他の先生はびっくりした顔で私を見つめます。
そういえば、魔法が使えないことは先生達には言っていませんでした。
「フォルトにはっきり言われたんです。私の魔力は魔法を使えないって。その理由はわからないけど、私の魔力は弱くて、よくわからないものなんです。魔法を使えないのは悔しいけど、魔力は魔法を使うためだけのものではないことを教えてくれた人がいました。だから、私は海組でそれを探したいです」
魔導具師になるためには、自分の魔力をコントロールすることが絶対条件です。
自分の魔力がよくわからないままなら、きっとクレスト様はそれを許さない。
だから、海組で探しながら学ぶんです。他の人から、自分の中から。
「魔法を使えないということは、周りから侮られる。クリスさんにフォルト様がいたとしても、それはクリスさんの力とはみなされないかもしれないわ。それでも、海組に行くのね?」
ミリア先生は、苦しげに眉をしかめながら言いました。
私は迷うことなく、大きく頷きます。
「行きます。魔導具師になるために」
しばらく固まっていた二人は、意識をこっちに戻すと私の言葉を何度も確認してきました。
「クリスさん、魔導具を作ってみたいのか?本当に?」
「はい」
「クリス、魔導具を作るというのは図画工作とは違う。それをわかっているか?」
「はい、わかってます」
二人がこんなに確認してくるのも無理ないです。
だって、私は七歳で子どもだし、知識もライゼンさんに貸してもらった「魔導具の基礎<初級編>」しかありません。
ライゼンさんも子どもだけど、私とは知識も経験も遥かに違う。
あの馬車の中で見せてもらった魔導具研究科専用ノートには、ライゼンさんの努力と知識がたくさん詰まっていたのを知っているから。
「小さな私が魔導具を作るなんて難しいかもしれません。でも、私が今、一番やってみたい、目指したい道なんです」
心から真剣に言うと、ライゼンさんとクレスト様は顔を見合わせました。
二人はどこか困惑していましたが、クレスト様は小さく息を吐きました。
「…クリスさん、教育科光組の図書室に魔導具についての本がないことは知っておるかな?」
「? はい。なんでだろうって思ってました」
クレスト様は、唐突に光組の図書室のことを言いました。
それに首を傾げつつも答えます。
「魔導具を作るのには、ある程度魔法に知識と経験がある者にしか作ることを許されておらん。それは、未熟なものが魔導具を作ると暴発、魔力の枯渇、呪い、中毒など…よいことにはならんからだ」
「…つまり、魔力のコントロールがきちんとできる者ではないといけないということですか?」
私の答えに、クレスト様がちょっとだけ眉を上げます。
「ふむ。よく心得ておるな。その通りだ。魔導具はただ魔力を込めるだけで完成するものではない。クリスさん、あなたはまだ幼く、経験も知識も足らん。今、本当に目指したいか?」
「はい」
クレスト様から目を逸らさずに頷きます。
魔導具を作ってみたい…ううん、作りたい。
魔法が使えない人のための魔導具を作りたい。
そんな魔導具があれば、私がうれしいから。
ライゼンさんに教えてもらって、魔導具に込められた「想い」やその技術を目の当たりにして、私の中にその思いが生まれた。それがちょっとずつ形になったんです。
それは、わがままで、すごくありふれた理由で、曖昧で形がはっきりしないものかもしれないけど。
「…クリスさんはあの守護魔法の魔導具を見たのだったな?」
「はい。とてもすごい魔導具でした」
クレスト様が言っている守護魔法の魔導具とは、あのゼロに奪われたオルデンの魔導具のことです。
あとから聞いた話ですが、あの魔導具は一つ作るのに十年もかかるという、とても高度な技術を詰め込んだものでした。
遠目からでしか見ることはできませんでしたが、とても細かい部品が集まって、それが1つのものとして噛み合うように計算され尽くしたものでした。
その部品それぞれに魔法や紋章術も込められている…一つの魔導具を作るのに、きっとたくさんの人が協力したんだと、その時思いました。
それを五個も壊してしまったことは本当にごめんなさい。
「あれはかなりのものだが、たとえ小さな魔導具を作るにしても、いろんな手間と知識と経験、魔力が必要だ。それは並大抵の努力などでは手に入らん。一生かけても、ただの一つも作れんかもしれん。それでも目指すか?」
クレスト様は怖いくらい真剣な目で私に問いました。
クレスト様は、私が知らないいろんな危険と途方もない苦労を知っているから、私を心配してくれているんだと思いました。
隣のライゼンさんもいつもとは違う真剣な目をしています。
「はい。目指します」
魔導具に関しての大先輩達を前に大きく頷きます。
頷くなんてものじゃない、これは宣言です。
私は魔導具師を目指す。
クレスト様の目は、ずっと私を見つめていました。
私もクレスト様を見つめます。
誰も言葉を発することもなく、しばらく見つめ続ければ、クレスト様は顔を片手で覆って大きくため息を吐きました。
「…クリスさんの決意はわかった。では、まず教育科を卒業しなさい。そうだな…組は海組がよい。そこで魔法経験を積み、決意が変わらないのであれば魔導具研究科に来なさい」
クレスト様は早口でそう言うと、席を立ちました。
そのままサンルームを出て行ってしまったので、私とライゼンさんだけが残されました。
「……ライゼンさん、私、クレスト様を怒らせてしまったのでしょうか?」
クレスト様が出て行った扉を見つめながら呟くように言うと、ライゼンさんが近くに寄ってきます。
そして、私が座っている椅子の傍らに立ち、黙って見下ろしてきました。
その表情は、どこか陰りがあるように感じました。
「…クレスト様は怒っていない…と思う。すまない」
「どうしてライゼンさんが謝るんですか?」
「……」
ライゼンさんは、それ以上何も話してくれませんでした。
お茶会から帰ってきて、私が「海組に行く!」と言った時の家族とフォルトの反応は、全員びっくりしすぎて固まっていました。
何の前触れもなくいきなり言われたら、それはびっくりしますよね。
言う順番を間違えたと反省して、海組に行くのは魔導具師になるために魔法経験が必要だからと説明すると、お父さんとフォルトは納得しました。
でも、お母さんとお兄ちゃん達は猛反対でした。
「魔導具師になりたいというのはわかったけれど…。魔法の経験を積むのは、海組でなければいけないのかしら?他ではだめなの?」
「クリス、卒業した組だからわかる。海組は実力主義で半端を嫌うところだ。クリスが行っても潰されるだけだぞ」
「兄上の言うとおりです。それに、魔導具師になるのには素質も必要なのですよ?私も制作に挑戦したことがありますが、あれは努力では越えられない壁があることを悟りました」
お母さん、クロードお兄ちゃん、レガロお兄ちゃんが口々に言います。
とてもとても心配している顔です。
確かに、体力もなくて、よくわからない魔力を持ってる私じゃ海組ではつらいかもしれないです。
でも、クレスト様が言ったんです。そこを卒業して、決意が変わらないのならって。
それは、私に逃げることも諦めることもできると言っているようなものでした。
諦めるつもりはないけど、まだ小さな私に魔導具師だけじゃない選択肢を示してくれたんだと思います。
魔導具師のことがなくても海組で魔法経験を積むことは、私にとって必要なことです。
自分の魔力ととことん向き合える…私にとってマイナスではないはずだから。
『…俺はクリスを応援するぜ。あんだけ悩んでたやりたいことが見つかって、寧ろうれしいぞ』
「フォルト…」
フォルトは私の傍に寄ってきて、頬に鼻を寄せます。
それに応えるように、頭をそっと撫でてあげました。
「そうだね。私もクリスの道を応援するよ」
お父さんがちょっとだけ困ったように笑いながら言いました。
いつもの「仕方ないね」っていう顔です。
私の頭を優しく撫でて、お母さんたちの方へ向きます。
「お母さん、クロード、レガロ。どの道を選んでも大変なのは変わらない。なら、自分が納得して選んだ道を進む方がいいだろう?」
お父さんの言葉に、誰も言い返すことはありませんでした。
次の日の放課後、レガロお兄ちゃんに連れられて、教育科の職員室で海組についての話を聴くことになりました。
「クリス…本当に魔導具師を目指すのですか?」
「お兄ちゃん、私、何度も言ったよ?魔導具師になるって」
職員室へ向かう道すがら、この応答が何度も繰り返されて、いい加減うんざりしてきました。
お兄ちゃんは、海組に行くことよりも、魔導具師を目指すことに反対なようです。
心配はわかります。心配するなという方が無理な話です。
でも、ちょっとは私のことを信用してほしいです!
そんなこんなで職員室に着くと、リスト先生が迎えてくれました。
「クリスさん、レガロさん。待ってたぞ。こっちの席に座ってくれ」
リスト先生に案内されて、職員室奥の応接用のテーブルの席に座ります。
そこには、ギル先生とミリア先生も座っていました。
「今日は、ギル先生とミリア先生も一緒に話を聴いてくれる。適性も見るから、質問にはきちんと答えてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
向かいに座るギル先生達に礼をすると、先生達も礼を返しました。
お兄ちゃんは緊張した顔で、ちょっと離れた後ろの椅子に座っています。
「さて、クリスさんは海組に進級したいということですが…志望理由は何ですか?」
ギル先生が早速質問をしてきます。
昨日家族に話したように、魔導具師を目指すためだと話しました。
他にも様々な質問が先生達から出て、ときどき戸惑いながらも、一つ一つ答えていきました。
質問の内容は思ってたものと違って意外なものばかりで、「これって聞く必要あるのかな?」と思うものばかりでした。
嫌いな食べ物とか苦手なものなど、マイナスな質問ばかりで首を傾げそうになりました。
「最後に。クリスさんは魔法がまだ自分でうまく使えてないが、海組ではどうするつもりだ?」
リスト先生が私の一番の弱点を突いてきました。
お兄ちゃんがはらはらしながら、私を見ているのを背中で感じます。
「…わかりません」
「わからない?」
リスト先生の顔がちょっと険しくなりました。
この質問の答えは、失敗したかもしれない。
だけど、それは私にはまだ答えが出ていないこと。本当にわからないことだから、しょうがない。
「海組は、さっき説明したように実力主義だ。入るのは簡単だが卒業するのは難しい。課せられた課題ができなければ、できるまで続けなければいけないところだ」
リスト先生は厳しい顔でクロードお兄ちゃんと同じようなことを言います。
リスト先生…もしかして海組の卒業生なのでしょうか。
「わかっています。でも、私は海組に行きたいです。課題は、ずるいかもしれないけど、フォルトがいればできてしまうと思いますから」
レガロお兄ちゃんと先生達が息を呑んだのを感じました。
これは海組に行きたいと言った時、フォルトと二人で相談して決めたことです。
魔法が使えない私が魔法を使う感覚を覚えるなら、フォルトの魔法を使った方がわかりやすいとフォルトが言ったからです。
言葉や見るだけで教えられるよりも、自分の中で魔法が生成され、直接感じることができるのは、どんな教科書や教師よりも勝るからです。
その感覚を経験しながら自分の魔力の使い方を模索することが今のところ海組に行く一番の目的です。
「私は、海組で自分の魔力と向き合いたいです。…私の魔力は、魔法を使うことができないそうですから」
「…それは、本当なの?」
ミリア先生が真剣な顔で問います。
他の先生はびっくりした顔で私を見つめます。
そういえば、魔法が使えないことは先生達には言っていませんでした。
「フォルトにはっきり言われたんです。私の魔力は魔法を使えないって。その理由はわからないけど、私の魔力は弱くて、よくわからないものなんです。魔法を使えないのは悔しいけど、魔力は魔法を使うためだけのものではないことを教えてくれた人がいました。だから、私は海組でそれを探したいです」
魔導具師になるためには、自分の魔力をコントロールすることが絶対条件です。
自分の魔力がよくわからないままなら、きっとクレスト様はそれを許さない。
だから、海組で探しながら学ぶんです。他の人から、自分の中から。
「魔法を使えないということは、周りから侮られる。クリスさんにフォルト様がいたとしても、それはクリスさんの力とはみなされないかもしれないわ。それでも、海組に行くのね?」
ミリア先生は、苦しげに眉をしかめながら言いました。
私は迷うことなく、大きく頷きます。
「行きます。魔導具師になるために」
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