クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第2章 ◆ 見えるものと見えないものと

3. 魔力の使い方?

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 今日も課題を終えて自分の部屋に戻ります。
 完全に扉を閉めれば、ここは私だけの空間。
 何をしていても、誰にも怒られない。
 と言っても、悪いことをしているわけではないけど。

 最初は実力不足の私に対する周りからの悪口が怖くて、毎日部屋で泣いていました。
 だけど泣き疲れた次の日に、いつもはできていた魔法が失敗して、これではダメだと思ったのです。
 だって、私は魔導具師になるために魔法経験を積みに海組に来たのです。
 私が行く道はつらいことの方が多いとわかっていたはずなのに、こんなことでへこんでたらダメです。
 クロードお兄ちゃんにも認めてもらいたいし、海組で最年少だからこそ誰よりも頑張らないといけないのです。

「フォルト、聞こえる?」
『…おう、聞こえるぞ』

 海組に入って最初に覚えたことは、契約獣との魔法会話です。
 契約者と契約獣は、相手が遠くに離れていても相手の言っていることが頭の中に届いて口に出さなくても会話をすることができます。
 今まで必要なかったのですが、寮ではフォルトと離れてしまうのでフォルトがこの魔法会話を教えてくれたのです。

「今日もお疲れ様。今日の攻撃魔法、難しかったね。魔力のコントロールが大変だった」
『だな。クリスは集中力はあるけど一つのことにしか意識が向いてねーから、他が疎かになるんだ』
「うう、やっぱりそうだよね。もっと視野を広げる」
『おう。そのためには実践と経験を積まねーとな。多少無茶しても俺が支えてやるからな、頑張れよ』

 ここにはいないけど、頼もしいフォルトの言葉に思わず頷きます。

 いつもこうやってフォルトと課題の反省をしながら、自分に何が足りないのか、自分に必要なものは何かを一つずつ確認していきます。
 私は魔法初心者で一からのスタートだから、こうして向き合いながら自分の魔力を知っていくのです。
 今は魔法を使うことに専念していて、魔力の流れと練り方を実践しています。
 課題も最初のうちは簡単なものばかりでしたが、最近では魔法の応用も課せられるようになりました。

「明日の課題は広域魔法Ⅱだけど…。どうする?」

 広域魔法になると魔法のランクが一段階上がります。今までの課題では初級の魔法ばかりでしたが、これは中級になります。
 もちろん、使う詠唱や紋章術の難しさも当然上がります。
 私はそれらを使わないのであまり関係ないのですが、その代わりに魔力のコントロールがさらに難しくなります。

『そうだなぁ…いつものように他の奴らとは別施設だな。それか、許可が下りるんだったらオルデン平原がいい』
「街の外は先生達が困っちゃうよ。いつものように一番大きい施設の貸切をお願いしてみるね」
『それもそれで、困ることだと思うけどな…』

 私達の魔法は一般的な魔法とは違うので、失敗すれば何が起こるかわかりません。
 一番最初の課題で、教室を半壊にしてしまったことは申し訳なかったです。その時近くに誰もいなかったのが唯一の救いでした。先生にはものすごく怒られたけど。
 そういうこともあり、私がフォルトの魔力のコントロールを間違えたら周りを巻きこんでしまうので、いつも課題は周りに人がいない場所を選ぶのです。
 ときどき実技の先生が一緒にいることがありますが、基本的に見ているだけで放任です。先生が実践して指導してくれることはありません。
 海組の生徒は多くもないけど、少なくもない。それでも全員の実技を傍で見ていなくてもきちんと公平に評価ができるのは、先生達にはいろんな「目」があるからです。エヴァン先生にとってそれが妖精のように、何かしらの存在が先生達の「目」になっているんだろうなと思います。
 だから、課題達成をごまかすこともサボることもできません。すべてお見通しなのです。

 しばらくフォルトと明日の課題のことを話して早めに休むことにしました。
 明日は大きな施設を借りなくてはいけないから、早起きしなくちゃ!



 次の日の朝、一番乗りで担任の先生に施設の使用許可を取りに行きます。
 先生は顔をしかめましたが、渋々とハンコを押してくれました。

「俺はエヴァン先生から頼まれているから許しているのであって、俺自身はおまえを認めていないからな」

 担任の先生は見た目はクロードお兄ちゃんくらいの年齢に見えますが、実はエルフです。しかも戦闘種族のバトルエルフです。攻撃魔法も武器の扱いも得意な種族です。
 エヴァン先生とは古い付き合いだそうで、ときどきお茶をしているのだと何故かフォルトが教えてくれました。
 「なんで知ってるの?」と首を傾げましたが、長く学園にいればいろんな情報を知ったり聞いたりするのかもしれないです。

 そんな先生は私のことがどこか気に入らないようで、いつもこうやって刺々しい態度です。
 理由がわからないので、私から言えることはありません。

 このやり取りにも慣れたので、いつものように返します。

「はい。わかっています。許可、ありがとうございます」

 先生にぺこりと礼を執って、そのまま許可をもらった施設へと向かいます。
 普通なら、私みたいなよくわからない実力の生徒が大きな施設を丸々貸切にすることはできません。
 それでもこうして許可してくれるのは、エヴァン先生のおかげです。
 私が海組でやりやすいようにエヴァン先生がしてくれていることに感謝しかないです。
 フェルーテちゃんのお見舞いに行く時に、またクッキーを持って行こう。

 途中の中庭でフォルトと合流して、教育科で一番大きな訓練施設に入ります。
 入り口にはいつもの施設管理人さんがいて、許可状を見せると無言で小さく頷いて通してくれました。
 私達がよくこの施設を使っているので、管理人さんはてきぱきと施設が使えるようにしてくれます。
 最初の方はものすごく面倒な顔をされていましたが、今では私達が来るとすぐに対応してくれるようになりました。
 言葉を交わすことはないけど、ちょっとは顔見知りになれたかな?

 この施設はコロシアムみたいになっていて、違うのは観覧席がないところでしょうか。
 中に入ってしまえば、何もないただの砂地に高い高い天井と壁。
 この施設自体が魔法空間になっているので、中でどんなに大きな魔法を使っても、外に影響はありません。
 そういう施設なので、使うのはもちろん海組が圧倒的に多いです。ときどき、空組の大規模実験や花組のサーカスなどが入るだけらしいです。

『それじゃあ、早速魔法を使ってみるか。広域魔法だからな、クリス、どの魔法を使ってみたい?』
「うーん、そうだね…」

 施設の真ん中に立って、記録媒体レコード二つと魔力測定器を傍に置いておきます。
 課題をクリアしたかどうかは、これらの機器の数値で判断されるのです。
 もし電源を入れ忘れても、先生達の「目」があるのでクリアしたかどうかは判断できますが、記録に残らないので結局成績にはなりません。

「授業で、基本的な魔法を応用するやり方もあるって言ってたよ?それだとランクも低いし、難しくないかも」
『基礎魔法の応用か。いいんじゃねーか?クリスが好きなあの鋼の刃を使ってみるか』

 フォルトが楽しげに言います。

 ええ!?鋼の刃って基礎魔法なの?
 オルデンの魔導具を一撃で壊していったから、相当な高位魔法だと思っていました。

「その魔法は好きだけど、威力が強すぎないかな?」
『大丈夫だ。鋼の刃は、込める魔力量で威力が変わるんだよ。だから、使い手次第で強さが変わる魔法の一つでもあるな』
「へえ~」

 なるほど、魔力量で威力の調節ができる魔法もあるんですね。
 魔力コントロールの練習にはいいかもしれないです。

 フォルトが言うには、精霊級魔法はそういう魔法が多いそうです。
 魔力量で最強にも最弱にもできる魔法…これは魔力が桁違いに多い精霊ならではの魔法かもしれないですね。
 人はいろんな種類の魔法が使えた方が評価されるので、使える魔法が少ないと能力が低く見られるそうです。
 だから魔法にも初級・中級・上級とランクがされているのです。
 状況に合った魔法を使い分けられるかという点も重要な評価です。
 魔法はいろんな種類も使い方もあって、魔法一つだけでいろんな可能性がある。
 魔法って本当に奥深いです。

『この課題が終わったら、魔法の種類とかも勉強し直そうぜ。知ってるのと知らないのとでは全然違うしな』
「うん。そうだね!」

 2人で笑い合うと、記録媒体と魔力測定器の電源を入れます。
 記録媒体の二つの内の一つは、ふわりと浮かんで高く上へと飛んでいきます。もう一つは、私の近くを浮遊しています。
 立っている私の右隣りにはフォルトが座り、準備はこれで整いました。

 ゆっくりと右手を前にかざすと、私の中にフォルトの魔力が入ってきます。
 その魔力の巡りをゆっくりと感じながら、自分の中で練り上げていきます。
 フォルトの魔力は、夕暮れのようなオレンジ色。
 ジルディースさんに魔力に色はないと言われたけど、こうして体の中で感じる魔力には色があるように思えました。
 ちなみに私の魔力は、自分のだからなのか全く色が見えません。

 長い詠唱の代わりに、魔力を丁寧に丁寧に零さないように練り上げて魔力の形を鋼の刃として思い浮かべます。
 形が決まったら、ゆっくりと一言。


「鋼の刃」


 その瞬間、私の周りに渦を巻くように無数の刃が現れました。その動きは、まるでリボンをくるくると巻いては解くを繰り返すものです。
 刃は魔導具を壊した時のよりも小さく、軽いように感じました。
 
『クリス、魔力を練るのに時間がかかりすぎだ。丁寧なのはいいが、戦闘となると一瞬で死ぬぞ』
「うーん、わかってるんだけど…」

 魔力を練り、形にして発現するまで約一分。
 確かに、これだと詠唱した方がはるかに早いです。
 戦闘でなくてもこれは遅すぎます。

「フォルトの魔力を加減するのが難しいんだよ。練り上げてるとどんどんフォルトの魔力が私に入ってくるし。それで早く形にしようと焦るから、余計にうまく形にできないし…」
『んん?ちょっと待て、クリス』
「何?」

 フォルトを見上げれば、びっくりした目とぶつかります。
 それに首を傾げながら答えを待っていると、なんだか困った顔を向けられました。

『おまえ、魔力を形にしているのか?』
「え?うん。魔力を練るってそういうことだよね?」

 フォルトの長い二本の尻尾がうなだれるように垂れ下がります。
 あれ?もしかして、フォルトの考えている魔力の練り方と違ってた?

『全然違うぞ。そもそも魔力は感じてもそれを魔法の【形】にすることはできねえ。それは詠唱や紋章術の役割だ』
「……うん??」

 意味がわからなくて首を傾げると、フォルトはため息を吐きながらもわかりやすく説明してくれました。

 まず、魔力は自分の中で感じることができ、魔力の性質や魔力量も自分の中で認識することもできます。
 でも、魔法がどんな「形」になるかは発現されるまでわからないそうです。指定できるのはせいぜい属性のみです。火とか水とか風とかね。
 それがどうして具体的な「形」になるのか。それは、詠唱や紋章術で魔法の「形」を決めているからです。
 私はフォルトの魔力を使って魔法を使うので、魔力を練って「形」を決めることが詠唱や紋章術の代わりになっていると思っていたけど、それは違っていたようです。
 フォルトが言いたかった「魔力を練る」は、ただ単純に魔力の量をコントロールして少なすぎず多すぎず適度にしろということでした。
 練るは練るでも、私が考えていたものと違う意味でした。

『クリスに魔力が無駄に流れて行っているのはわかってたけどよ。まさか形を練ってたとは思わなかったぞ』
「ええ!?わかってたなら早く言ってよ!」
『それじゃコントロールの練習にならねーだろ!まあ、言った方がよかったけどよ…』

 フォルトは遠い目をしながらため息を吐きます。
 でも、すぐに真剣な顔になって私の額に鼻先を寄せます。

『クリスの魔法の使い方はわかった。俺もちゃんとやり方とか確認すればよかったな。人間は大体詠唱や紋章術で魔法の【形】を決めてたから、それに囚われてた』
「ううん、私もちゃんとフォルトに自分が実践していることをもっと詳しく話せばよかった。いつも発現できた魔法や失敗した魔法の結果しか反省してこなかったから」

 結果を見るばかりで、その過程を深く反省していなかった。
 ただ魔力のコントロールができていないだけだと、それだけだと思っていました。
 でもそうじゃなかった。実際はフォルトと私の間で認識の違いがあって、それが魔法の発現の妨げになっていたのかもしれない。
 いくら反省してもそれが的外れだったら、それは何の意味もない。

「えっと、整理するね。私が使う魔法はフォルトの魔力を使って発現するけど、魔力の使い方によって発現の仕方が違うってことだね?」

 ゼロと戦った時のようにフォルトの魔力が私を通してそのまま発現される魔法と、今みたいに私が魔法の形を決めて発現する魔法。
 それは似ているようで全く違う。

 フォルトは難しい顔をしながら、しばらく考え込んで頷きました。

『…そういうことになるな。まだ疑問が残るとこもあるけど、今はその認識で行こうぜ』

 疑問?何かあったかな?
 そう思って訊いたけど、フォルトが答えようとしなかったので、そのまま課題に集中しました。



 その時、ポケットの中の魔宝石に変化があったことに気がつくことができませんでした。


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