73 / 87
第2章 ◆ 見えるものと見えないものと
10. フォルトの旧友②
しおりを挟む
『ねえねえクリス。あたしもオルデンに連れてってくれない??』
玄関先でエレナさんと迎えに来た騎士団の人達を見送ったら、フォルトの頭に乗ったシーニーがどこか楽しそうに言いました。
クロードお兄ちゃんは「うさぎ!?喋った!!?」と、とてもびっくりして、勢いよくお母さんの方に向きました。
そうだった。シーニーをまだお兄ちゃんに紹介していませんでした。
「クロード、こちらはフォルト様の旧友のシーニー様よ。遠い昔にこの『深霧の森』に住んでおられたお方で、今も森を守る魔法を維持しておられるのよ」
「えっ。それは失礼いたしました」
お母さんがシーニーを紹介すると、お兄ちゃんは改まって礼を執ります。
シーニーは気にすることもなく笑っていて、『そんな硬くならずに、スマイル、スマーイル♪』とその場を和ませてくれました。
とりあえず私達はリビングに戻って、落ち着いて話をすることにしました。
「シーニーはどうしてオルデンに行きたいの?」
『オルデンにはずーっと遊びに行ってなかったから、今どうなったのか気になって!クリスの学校にも行ってみたいしー!』
シーニーは耳をぴょこぴょこ動かして、目はキラキラと好奇心いっぱいです。
そんなハイテンションなうさぎが頭に乗っているフォルトは、半分呆れた目で伏せをしています。
なんだか疲れてるみたいだから、寮に帰ったらゆっくり休ませよう…。
「えっと…どれくらい行ってなかったの?」
『ん~~~。今のオルデンの話からだと、最後に行ったのはほんとにずーっと昔になるかな??人はちょっとしかいなかったし、まだ集落だった時かなぁ?』
そ、それはものすごく昔ですね!?
オルデンはこのヴェルトミール国の中では歴史が古い街に数えられます。
ここまで発展したのはここ100年くらいのことらしいのですが、オルデンが貿易都市と呼ばれる前から騎士団や学園、お店などもあったらしく、たくさんの人達が行き交っていたと歴史書に記されています。
そのオルデンがまだ集落だった頃となれば、えーと…まだヴェルトミール国が建っていない頃となります。
一番古い記録では大火山イグニスの噴火の後くらいだから…本当に大昔の話です。むむむ、全然想像できない!
「そんなに昔からシーニーは生きてるんだね。シーニーはこの森とかオルデン以外の場所にも遊びに行ってたの?」
『うん、そうだよー!遊びに行ってるって言っても、人間達を験したり、助けたりするのがあたしの仕事だから、それがいろんなところへ行く一番の理由かな!』
『そういえば、シーニーは【験す者】だったな。俺がいた村にも何度か来てたよな』
『そうそう!あの時はうさぎじゃなくてもっと別の姿だったなぁ』
フォルトとシーニーが昔を懐かしむように話が盛り上がっていると、クロードお兄ちゃんがこっそり声を掛けてきました。
私も思わず内緒話をしている気分でお兄ちゃんへ身を寄せます。
「シーニー様って、フォルトと同じ精霊獣なんだよな?母さんの精霊酔い大丈夫か?」
その言葉にはっとしてお母さんに目を向けると、いつも通りの穏やかな笑顔が返ってきました。
顔色もいいし、大丈夫みたい。
そこで、クレスト様のことを思い出して、お母さんの魔導具のペンダントに視線を落とします。
お母さんのペンダントはクレスト様が作った魔導具だとお父さんから聞きました。
その時は、こんな身近にすごい魔導具があることにびっくりしました。
『精霊獣は精霊に仕えてるけど、実際は精霊じゃないから大丈夫よ?』
お兄ちゃんとの会話を聞いたシーニーがあっけらかんと言いました。
それは前にフォルトにも言われたことでした。精霊獣は精霊じゃないけど精霊に近い存在ということ。
んん?それじゃあ、私は精霊と契約しているわけじゃないから、精霊魔術師じゃないよね?
でも、ルミナさんは立派な精霊魔術師だなって言ってた…。
なんだか頭が混乱してきました。
頭の中をぐるぐるしてるとフォルトが鼻を寄せてきました。
『あんまり深く考えなくてもいいと思うぞ。精霊獣っていう生き物だぐらいに思っておけば』
「そんなもの?」
『ああ。そんなもんそんなもん。クリスだって、自分が人間だって言われても人間ってどういう存在なのかって説明できないだろ?』
「そ、そうだね…確かに説明できないかも」
自分の存在…人間だということ…そんなこと考えたこともないよ。
世界には人間がいて、エルフもいて、妖精だって人の目には見えないけど存在していて、精霊も精霊獣もいる、それが「世界」なんだ。
うん。それを知っているだけでもいいんだよね?
『クリスは昔からいろんな種族と仲良くしていたから、みんな同じに見えるんじゃない??』
「えっ?どういうこと?」
シーニーがあまりにも普通なことのように言ったので、思わず訊き返してしまいました。
フォルトが顔をしかめて、シーニーに内緒話をするように鼻を寄せます。
『おい。それは言っていいことなのか?』
『んん?…ああ、そう言えばフォルトはルミナから聞いたんだっけ?大丈夫大丈夫。あたしは一切をあのお方に任されてるから』
『は?ってことは、シーニーがクリスの…?』
こそこそと内緒話をする2人(?)にお兄ちゃんと一緒に首を傾げるしかありませんでした。
お母さんは何か知っているようで、穏やかに笑っています。
もしかしたら、お母さんは精霊達から何か聴いているのかもしれません。
『クリス、今は答えられないけど、絶対話すから今は待ってくれる?』
シーニーが真剣な顔で言うので、頷くしかありませんでした。
それと同時に、それを聴く時、私は今の私なのだろうかと頭のどこかでぼんやりとそう思いました。
そうして、寝る時間までお母さんとお兄ちゃんに学園であったことを話して、アメジストさん特製のペンダントもちょっとだけ自慢しました。
お兄ちゃんはやっぱり海組進級に反対していたこともあって、困ったような顔をしていましたが、最後には笑って「よかったな」と言ってくれました。
あと、魔法の石がフォルトの媒体になったことも話して、お母さんはとっても喜んでくれました。
次の日、朝一番の馬車に乗ってオルデンへ帰ることにしました。
連休の最終日はオルデンで買い物をすることにしたので、早めに戻ろうと思ったからです。
お見送りにお母さんと早朝に帰ってきたお父さん、そしてクロードお兄ちゃんが私を抱きしめてくれました。またしばらくお別れです。
本当はすごく寂しくて、ずっと一緒にいたいけど、今度帰ってくるときはもっと海組の生徒として成長した姿で帰ってきたいから、それは口にしません。
「クリス、気をつけてね。またお休みが取れたら今度こそ一緒にお買い物に行きましょうね」
「うんっ!お母さんも無理しないでね」
目線を合わせるように屈んだお母さんの首に腕を回して抱きしめました。
お母さんも優しく私の背中に腕を回してくれました。
お母さんはいつもいい香りで心がほっと落ち着きます。
「大きくなって帰ってくるクリスを楽しみにしているよ」
「お父さん…いっぱい心配かけてごめんなさい。お父さんの娘に恥じないよう頑張るね!」
お父さんは私を抱き上げて、両腕いっぱいに抱きしめてくれました。
強すぎず弱すぎず、私を尊重してくれるお父さんの腕の中は安心します。
「クリス、本当に海組に行ってよかったか?」
クロードお兄ちゃんは、苦しそうな顔でそう言いました。
それは、帰って来てから一度も訊かれなかったこと。
「うん。課題とか勉強とかたくさん大変なことはあるけど、とっても楽しいよ!」
お兄ちゃんにこれ以上心配させないように、思いっきりの笑顔でそう答えました。
まだ海組に入ってからそこまで長い時間を過ごしてないから、これからどうなるかわからない。
本当は寂しいし、うまくやっていけるか不安もある。
それでも、フォルトと思い切り魔法の練習をするのが楽しい。
魔法が使えるのはもちろんそうだけど、魔導具師になるためにちょっとずつでも前に進めてるのがうれしいのです。
お兄ちゃんは、しばらく見つめてきた後、ふっと笑ってくれました。
「…そうだな。クリスが行きたいって言ったんだもんな。心配だけど…それがクリスの選んだ道だ」
お兄ちゃんにお姫様のように大事に抱き上げられます。
その一連の動きがまるで王子様みたいと思ってしまいました。
それはもう私を子ども扱いしていない、一人のレディーとしての扱いだと気づきました。
「海組は他の組と違って実力重視で自由な所だけど、とても息苦しい所でもある。クリス、本当に苦しくてもうだめだって思ったら逃げてもいいし、やめてもいい。でもクリスは頑張り屋さんだから、きっと立ち向かっていくんだろうな。それでも本当に挫けそうになったら、そうなる前に誰か頼れる人に味方してもらうんだぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん。スティール団長さんから弟さんのイヴェル先生のことも知れたし、大丈夫。これからもっと頑張れるよ!」
「ああ。体に気をつけるんだぞ」
そうして家族に別れを告げ、馬車に揺られてオルデンに戻りました。
降りた停留所はオルデンの正門前です。今日はこのまま買い物に行こうと思います。
『おおおおおお!!!?ここがオルデン――!!?しばらく見ない間にこんなに大きくなっちゃってたのぉおおお!!?』
『シーニー、静かにしろよ。街の人が驚いてるだろ?』
馬車を降りると、一番にシーニーが声を上げました。
そのスカイブルーの目はキラキラと輝いていて、耳もピコピコといろんな方向に忙しなく動いています。かわいい。
フォルトの頭の上でぴょんぴょん跳ねながらはしゃいでいるので、されている本人はとても迷惑そうな目でシーニーを見つめています。
『わ~~~っ探検したーい!!フォルト、探検がてら案内して!!』
『なんでだよ!!?』
昨日よりもテンションが上がっているシーニーは、ファルトの頭をバシバシ叩きます。
さすがにフォルトも苛立ってきて、頭を振ってシーニーを落とそうとしますが、がっしり毛を掴まれていて叶いませんでした。
フォルトの機嫌がものすごく悪くなってきたので、慌ててシーニーに手を伸ばします。
「シーニー、あんまりフォルトを困らせないで?私の大切な親友なの」
そう言って優しく頭を撫でてあげると、ぴたりと動きが止まりました。
『…むぅ。クリスの頼みなら仕方ないわ』
『俺の意見は無視なのかよ…』
おとなしくなったシーニーと納得いかない顔のフォルトを見て、ただ困り笑いするしかありませんでした。
玄関先でエレナさんと迎えに来た騎士団の人達を見送ったら、フォルトの頭に乗ったシーニーがどこか楽しそうに言いました。
クロードお兄ちゃんは「うさぎ!?喋った!!?」と、とてもびっくりして、勢いよくお母さんの方に向きました。
そうだった。シーニーをまだお兄ちゃんに紹介していませんでした。
「クロード、こちらはフォルト様の旧友のシーニー様よ。遠い昔にこの『深霧の森』に住んでおられたお方で、今も森を守る魔法を維持しておられるのよ」
「えっ。それは失礼いたしました」
お母さんがシーニーを紹介すると、お兄ちゃんは改まって礼を執ります。
シーニーは気にすることもなく笑っていて、『そんな硬くならずに、スマイル、スマーイル♪』とその場を和ませてくれました。
とりあえず私達はリビングに戻って、落ち着いて話をすることにしました。
「シーニーはどうしてオルデンに行きたいの?」
『オルデンにはずーっと遊びに行ってなかったから、今どうなったのか気になって!クリスの学校にも行ってみたいしー!』
シーニーは耳をぴょこぴょこ動かして、目はキラキラと好奇心いっぱいです。
そんなハイテンションなうさぎが頭に乗っているフォルトは、半分呆れた目で伏せをしています。
なんだか疲れてるみたいだから、寮に帰ったらゆっくり休ませよう…。
「えっと…どれくらい行ってなかったの?」
『ん~~~。今のオルデンの話からだと、最後に行ったのはほんとにずーっと昔になるかな??人はちょっとしかいなかったし、まだ集落だった時かなぁ?』
そ、それはものすごく昔ですね!?
オルデンはこのヴェルトミール国の中では歴史が古い街に数えられます。
ここまで発展したのはここ100年くらいのことらしいのですが、オルデンが貿易都市と呼ばれる前から騎士団や学園、お店などもあったらしく、たくさんの人達が行き交っていたと歴史書に記されています。
そのオルデンがまだ集落だった頃となれば、えーと…まだヴェルトミール国が建っていない頃となります。
一番古い記録では大火山イグニスの噴火の後くらいだから…本当に大昔の話です。むむむ、全然想像できない!
「そんなに昔からシーニーは生きてるんだね。シーニーはこの森とかオルデン以外の場所にも遊びに行ってたの?」
『うん、そうだよー!遊びに行ってるって言っても、人間達を験したり、助けたりするのがあたしの仕事だから、それがいろんなところへ行く一番の理由かな!』
『そういえば、シーニーは【験す者】だったな。俺がいた村にも何度か来てたよな』
『そうそう!あの時はうさぎじゃなくてもっと別の姿だったなぁ』
フォルトとシーニーが昔を懐かしむように話が盛り上がっていると、クロードお兄ちゃんがこっそり声を掛けてきました。
私も思わず内緒話をしている気分でお兄ちゃんへ身を寄せます。
「シーニー様って、フォルトと同じ精霊獣なんだよな?母さんの精霊酔い大丈夫か?」
その言葉にはっとしてお母さんに目を向けると、いつも通りの穏やかな笑顔が返ってきました。
顔色もいいし、大丈夫みたい。
そこで、クレスト様のことを思い出して、お母さんの魔導具のペンダントに視線を落とします。
お母さんのペンダントはクレスト様が作った魔導具だとお父さんから聞きました。
その時は、こんな身近にすごい魔導具があることにびっくりしました。
『精霊獣は精霊に仕えてるけど、実際は精霊じゃないから大丈夫よ?』
お兄ちゃんとの会話を聞いたシーニーがあっけらかんと言いました。
それは前にフォルトにも言われたことでした。精霊獣は精霊じゃないけど精霊に近い存在ということ。
んん?それじゃあ、私は精霊と契約しているわけじゃないから、精霊魔術師じゃないよね?
でも、ルミナさんは立派な精霊魔術師だなって言ってた…。
なんだか頭が混乱してきました。
頭の中をぐるぐるしてるとフォルトが鼻を寄せてきました。
『あんまり深く考えなくてもいいと思うぞ。精霊獣っていう生き物だぐらいに思っておけば』
「そんなもの?」
『ああ。そんなもんそんなもん。クリスだって、自分が人間だって言われても人間ってどういう存在なのかって説明できないだろ?』
「そ、そうだね…確かに説明できないかも」
自分の存在…人間だということ…そんなこと考えたこともないよ。
世界には人間がいて、エルフもいて、妖精だって人の目には見えないけど存在していて、精霊も精霊獣もいる、それが「世界」なんだ。
うん。それを知っているだけでもいいんだよね?
『クリスは昔からいろんな種族と仲良くしていたから、みんな同じに見えるんじゃない??』
「えっ?どういうこと?」
シーニーがあまりにも普通なことのように言ったので、思わず訊き返してしまいました。
フォルトが顔をしかめて、シーニーに内緒話をするように鼻を寄せます。
『おい。それは言っていいことなのか?』
『んん?…ああ、そう言えばフォルトはルミナから聞いたんだっけ?大丈夫大丈夫。あたしは一切をあのお方に任されてるから』
『は?ってことは、シーニーがクリスの…?』
こそこそと内緒話をする2人(?)にお兄ちゃんと一緒に首を傾げるしかありませんでした。
お母さんは何か知っているようで、穏やかに笑っています。
もしかしたら、お母さんは精霊達から何か聴いているのかもしれません。
『クリス、今は答えられないけど、絶対話すから今は待ってくれる?』
シーニーが真剣な顔で言うので、頷くしかありませんでした。
それと同時に、それを聴く時、私は今の私なのだろうかと頭のどこかでぼんやりとそう思いました。
そうして、寝る時間までお母さんとお兄ちゃんに学園であったことを話して、アメジストさん特製のペンダントもちょっとだけ自慢しました。
お兄ちゃんはやっぱり海組進級に反対していたこともあって、困ったような顔をしていましたが、最後には笑って「よかったな」と言ってくれました。
あと、魔法の石がフォルトの媒体になったことも話して、お母さんはとっても喜んでくれました。
次の日、朝一番の馬車に乗ってオルデンへ帰ることにしました。
連休の最終日はオルデンで買い物をすることにしたので、早めに戻ろうと思ったからです。
お見送りにお母さんと早朝に帰ってきたお父さん、そしてクロードお兄ちゃんが私を抱きしめてくれました。またしばらくお別れです。
本当はすごく寂しくて、ずっと一緒にいたいけど、今度帰ってくるときはもっと海組の生徒として成長した姿で帰ってきたいから、それは口にしません。
「クリス、気をつけてね。またお休みが取れたら今度こそ一緒にお買い物に行きましょうね」
「うんっ!お母さんも無理しないでね」
目線を合わせるように屈んだお母さんの首に腕を回して抱きしめました。
お母さんも優しく私の背中に腕を回してくれました。
お母さんはいつもいい香りで心がほっと落ち着きます。
「大きくなって帰ってくるクリスを楽しみにしているよ」
「お父さん…いっぱい心配かけてごめんなさい。お父さんの娘に恥じないよう頑張るね!」
お父さんは私を抱き上げて、両腕いっぱいに抱きしめてくれました。
強すぎず弱すぎず、私を尊重してくれるお父さんの腕の中は安心します。
「クリス、本当に海組に行ってよかったか?」
クロードお兄ちゃんは、苦しそうな顔でそう言いました。
それは、帰って来てから一度も訊かれなかったこと。
「うん。課題とか勉強とかたくさん大変なことはあるけど、とっても楽しいよ!」
お兄ちゃんにこれ以上心配させないように、思いっきりの笑顔でそう答えました。
まだ海組に入ってからそこまで長い時間を過ごしてないから、これからどうなるかわからない。
本当は寂しいし、うまくやっていけるか不安もある。
それでも、フォルトと思い切り魔法の練習をするのが楽しい。
魔法が使えるのはもちろんそうだけど、魔導具師になるためにちょっとずつでも前に進めてるのがうれしいのです。
お兄ちゃんは、しばらく見つめてきた後、ふっと笑ってくれました。
「…そうだな。クリスが行きたいって言ったんだもんな。心配だけど…それがクリスの選んだ道だ」
お兄ちゃんにお姫様のように大事に抱き上げられます。
その一連の動きがまるで王子様みたいと思ってしまいました。
それはもう私を子ども扱いしていない、一人のレディーとしての扱いだと気づきました。
「海組は他の組と違って実力重視で自由な所だけど、とても息苦しい所でもある。クリス、本当に苦しくてもうだめだって思ったら逃げてもいいし、やめてもいい。でもクリスは頑張り屋さんだから、きっと立ち向かっていくんだろうな。それでも本当に挫けそうになったら、そうなる前に誰か頼れる人に味方してもらうんだぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん。スティール団長さんから弟さんのイヴェル先生のことも知れたし、大丈夫。これからもっと頑張れるよ!」
「ああ。体に気をつけるんだぞ」
そうして家族に別れを告げ、馬車に揺られてオルデンに戻りました。
降りた停留所はオルデンの正門前です。今日はこのまま買い物に行こうと思います。
『おおおおおお!!!?ここがオルデン――!!?しばらく見ない間にこんなに大きくなっちゃってたのぉおおお!!?』
『シーニー、静かにしろよ。街の人が驚いてるだろ?』
馬車を降りると、一番にシーニーが声を上げました。
そのスカイブルーの目はキラキラと輝いていて、耳もピコピコといろんな方向に忙しなく動いています。かわいい。
フォルトの頭の上でぴょんぴょん跳ねながらはしゃいでいるので、されている本人はとても迷惑そうな目でシーニーを見つめています。
『わ~~~っ探検したーい!!フォルト、探検がてら案内して!!』
『なんでだよ!!?』
昨日よりもテンションが上がっているシーニーは、ファルトの頭をバシバシ叩きます。
さすがにフォルトも苛立ってきて、頭を振ってシーニーを落とそうとしますが、がっしり毛を掴まれていて叶いませんでした。
フォルトの機嫌がものすごく悪くなってきたので、慌ててシーニーに手を伸ばします。
「シーニー、あんまりフォルトを困らせないで?私の大切な親友なの」
そう言って優しく頭を撫でてあげると、ぴたりと動きが止まりました。
『…むぅ。クリスの頼みなら仕方ないわ』
『俺の意見は無視なのかよ…』
おとなしくなったシーニーと納得いかない顔のフォルトを見て、ただ困り笑いするしかありませんでした。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる