クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

文字の大きさ
74 / 87
第2章 ◆ 見えるものと見えないものと

11. 「精霊の祝福」

しおりを挟む

「えっと、それじゃあ、二人は街を探検する?私は『精霊の祝福』に行こうと思ってるんだけど…」
『クリス、一人で歩くのはダメだからな?前にもリリーと言っただろ?』

 あ。そうでした。独りで行動したらダメだってみんなに言われてた。
 ジト目で見つめてくるフォルトに苦笑いで何度も頷きます。

『クリスをそこまで送ったら、探検する。シーニー、いいだろ?』
『探検できるならなんだっていいよぉ!』

 シーニーは元気よくフォルトの頭からぴょこんと体を乗り出して返事をしました。

「それじゃあ、『精霊の祝福』までよろしくね」
『任せろ!』
『お~~~~!』

 フォルトが伏せをするように背を低くすると、そこに跨ります。
 フォルトに乗っていれば自然と人が避けてくれるし、小さな私が人込みに押しつぶされる心配もありません。
 最初は「重くないかな?」と戸惑ったけど、フォルトは人を乗せて走るのが好きなようで、今は親友の好きなようにさせています。
 私がもっと大きくなったら、さすがにもう乗れないだろうけど…。
 そう思うと、ちょっとだけこのフォルトの背に乗るのも特別な気がしてきます。
 そんなことを考えているうちに、オルデンの人込みを何の障害もなくすり抜けて、あっという間に「精霊の祝福」に到着しました。

 「精霊の祝福」の前でフォルト達と別れて、早速目当ての筆記用具を探します。
 ついでに魔法と魔導具の勉強用に何冊かノートも買うことにしました。海組になってからはあまり学園の外に出られないから、多めに買っておきます。
 いつものように必要なものをかごに入れて、お店の時計を見るとまだ30分程度しか経っていませんでした。

「うーん…フォルトを呼ぶには早すぎるよね…」

 用事が終われば、魔法会話でフォルトに連絡して迎えに来てもらうことになっています。
 探検をしている二人を呼ぶにはまだ時間を潰した方がいいかもしれないと思いました。
 そういうわけで、普段はあまり行かないような棚へ足を向けてみることにしました。

 「精霊の祝福」はとても古いお店で、今は文房具とか日用品も置いていますが、もともとはオルデンの職人さん達のためのお店だったようです。
 絵を描くための筆やキャンバス、木を彫るための多種多様な形をした刃や材木、ガラス細工のためのガラス粉や色ガラスなど…他にもたくさんの職人さんのための道具や材料が揃えられています。
 ここで揃わないものは無いと言うほど道具の種類は豊富で、それは見たことのない物ばかりです。私の知らない職人さんがいると思うと、わくわくしまてしまうのも仕方ないですよね?
 ときどき雑貨や作品も飾られていて、飾りかなと思っていたのですが値段が付いていました。それは私でも買えるような物から、とても手が出ない値段の物までありました。
 作品はどれも個性豊かで、かわいい物から何に使うのかよくわからない物まで、眺めるだけでもおもしろい物ばかりです。
 見つけるたびに「どんな人が作ってるんだろう?」と想像を膨らませては、また次の作品へと足を向けました。

 店内をゆっくり見回って、ちょっと疲れたなと一息つくと、ふと高い所に何かが浮かんでいるのに気づきました。
 空中にも棚や作品があって空中艇ゴンドラで行けますが、子どもは一人で空中艇に乗ってはいけないことになっていたので上の方はあまり見ていませんでした。
 その高い所に浮かんでいる物を改めて見ると、ショーケースのようでした。
 それは今まで見たような作品と明らかに違う感じがして、あそこに浮かんでいる物が何なのか気になってしまいました。

「あの高いところにあるショーケースには何が入っているんですか?」

 近くに店員さんがいたので、ショーケースに指を指しながら訊いてみました。
 店員さんは、私が示した方を見上げるとちょっとびっくりした顔をしました。
 あれ?もしかして訊いちゃいけなかったかな?
 首を傾げれば、店員さんは一つため息をついて、内緒話をするように小さな声で答えてくれました。

「あれは魔導具です」
「魔導具!」

 その言葉を聴いて、さらに興味がわきました。
 どんな魔導具なのか、とても気になります!

 店員さんは顔を輝かせた私を見て、「見てみますか?」と苦笑いをしながら言いました。
 それにこくこくと頷くと、店員さんは空中艇を呼んでショーケースの所まで連れて行ってくれました。 
 高く高く上った先に、ぽつんとショーケースが浮かんでいます。
 傍まで行って中を見れば、その魔導具に目が釘づけになりました。
 その魔導具は、星空を閉じ込めたような不思議な光を放つ、手のひらサイズのランプでした。
 星がキラキラと色を変えて輝く様は、息をするのを忘れてしまうくらいきれいで、このままずっと見ていたいほどです。

「お嬢さん、このショーケースを見つけるとは幸運ですね」
「え?」

 店員さんは、この不思議な魔導具について話してくれました。

「店長から聞いた話なのですが、この魔導具は人を選びます。このショーケースを見つけることができた人がこの魔導具を目にする資格を与えられるそうです。何人かこのショーケースに気がついた人はいましたが、手にした者は誰もいません」
「え?えっと?手にした者は誰もいないって…この魔導具、とっても高いんですか?」

 こんなにきれいな星空を閉じ込めているから、ものすごく高いんだろうなって思います。
 この魔導具は、一体どんな魔法が込められているのでしょうか?

 店員さんは否定するように首を振りました。

「触れないのです。まるで星が掴めないのと同じように」
「え、ランプ…なんですよね?」
「ええ。見た目は。ですが、実はこの魔導具が一体どんな魔法が込められているのか、どうやって使うのか、誰も知らないのです」

 ええええええっ!!?そんな不思議な魔導具なの…!?
 一体誰が作ったんだろう?

 魔導具に視線を戻せば、ふと、ライゼンさんが思い浮かびました。
 最初に魔導具のことを教えてくれた時も手のひらサイズの明かりだったなと、ちょっとだけ笑います。
 あの時のカンテラとは全然違うけど、このランプはどうしてかライゼンさんみたいだと思いました。
 真っ黒な髪と金色の目、このランプと同じ雰囲気だと思ったから。

「ちなみに、この魔導具はいくらですか?絶対買えないと思いますけど」

 他の作品と同じように値段がついている物だと思ってそう訊いたら、店員さんはそれに笑って答えました。

「値段が付けられないんです。何せ、触れませんからね。どんな魔法や素材が使われているのかわかりませんから判断できないのです」
「そ、そうなんですか…」
「この魔導具はこの店ができた頃からあったそうで、誰もが欲しがったそうなのですが、触れませんからそれが叶うことはありません。なので、今ではこの魔導具を見ることができたら幸せになれる、という言い伝えになる程度の物になってしまいました」

 改めて、淡く輝くランプを見つめます。
 そんな長い間、この魔導具はお店を漂っていたのですね。
 見つけることができた人は魔導具に選ばれた者だと言うけれど、求めてもそれを叶えることができない。
 このランプは何のために作られて、ここにあるんだろう?
 吸い寄せられるようにショーケースに手を伸ばすと、その冷たいガラスには触ることができました。
 ランプを囲むガラスには触れるのに、閉じ込められた魔導具はまるで触れないのは当然だと言っているように静かにそこにありました。

 少し考えて、もしかしたらと思いついた答えに行き着きます。
 私が出会った数少ない魔導具や魔法の知識と経験だけで辿り着いた答えは間違ってるかもしれない。それでも…。

「このランプは…ずっと、このお店を見守ってきたんですね」
「え?」

 零した言葉に店員さんが訊き返してきました。

「私、ちょっとだけ魔導具の勉強をしてるんですけど、読んだ本に書かれていたんです。魔導具を作る時は、一番に何のために作るのかをはっきりさせることが大事だって」

 これはライゼンさんが貸してくれた本、「魔導具の基礎<初級編>」に書かれていたことです。魔力の調整が難しい魔導具にとって、それはとても大切なことです。
 魔法を使うようになってから、目的がはっきりしないと込める魔力も曖昧なものになってしまうことがよく分かるようになりました。

「きっと、このランプはこのお店『精霊の祝福』の名前の通り、祝福が込められてるんだと思います。このお店に、このお店に来てくれたお客さんに…祝福があるようにと作られた物なんじゃないかなって」

 「私の想像でしかないですが」と店員さんの方に振り返ります。
 店員さんが私の言葉を聴いて、ゆっくりとショーケースの方に視線を向けます。
 その表情は泣き笑いの顔をしていて、もしかしたら店員さんは何度もこの魔導具の場所にお客さんを連れて来ては、やっぱり触れられないことに悲しんでいたのかもしれません。

「店員さんも…この魔導具に選ばれた人なんですね」

 店員さんはびっくりした顔を向けました。

「だって、このショーケースの場所まで連れてきてくれました。店員さんも幸せになれますね」

 この魔導具はこのお店で働く人達も平等に祝福をしてくれてるのかもしれない。
 このお店に関わる人達がみんな幸せになる魔導具。
 これを作った人が込めた本当の目的は今となっては知ることができないけど、この「精霊の祝福」っていうお店の名前が全てを物語っている気がしました。
 だって、このショーケースにはお店と同じ名前の作品名が付いていたから。

 そう思うと、とても心がポカポカしてきて、キラキラと輝くランプを店員さんとしばらく見つめました。


 私も、こんな魔導具を作ってみたいな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...