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第2章 ◆ 見えるものと見えないものと
15. 不思議な部屋③
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リィちゃんにここまで来た経緯と妖精さんのことを軽く説明しました。
最初はびっくりされたけど、「クリスちゃんらしいわ」と微笑んでくれました。
その微笑みになんだかほっとして、リィちゃんがいるだけで心強く感じました。
一通り説明して、ロジーちゃん達を探すことにしました。
魔法の石が照らす範囲を見回しながら、リィちゃんと進んでいきます。
「クリスちゃん、妖精が見えていたのね」
「うん。でも、妖精さんみんなってわけじゃないよ?まだ四人しか見えてないし」
「そうなの?妖精が見えるだけでもすごいと思うけど…何か見える条件があるのかしら?」
リィちゃんは不思議そうな顔でそう言います。
見える条件…それは考えてみたこともなかったです。
気になるけど、今はロジーちゃん達を探さないと。
それからリィちゃんと手を繋いでどんどん先へ進んでみたけど、おかしい。
「リィちゃん。私達、武器庫の奥の部屋にいるはずだよね?」
「ええ。クリスちゃんが妖精達と入った部屋よね?」
リィちゃんと見つめ合って、お互い確認し合います。
「うん。でもさすがにこんなに広くなかったと思うんだけど…」
私達は進んでいるはず。そう思って歩いていたのですが、ロジーちゃん達を見つけるどころか部屋の端にもたどり着きません。
歩いた感覚からして、もう寮の大きさを超えてるんじゃないかと思う。
「…もしかして、この部屋は魔法空間なのかしら?」
「え?」
ぽつりと呟かれたリィちゃんの言葉。
それに思わず訊き返すと、魔剣が床に刺さっていた光景を思い出します。
黒い靄を払いながら少し進んだところにそれはあったから、そんなに広い部屋じゃないと思ったけど…。
シアラちゃんがどこからか明かりを持って来たから、たぶん何かしらの物がこの部屋にはあったはず。
でも、ここまで進んで来て何も見なかったし、落ちてもなかった。
「妖精が言っていたのでしょう?魔剣を封じている部屋だって。そんな部屋が普通の部屋な訳がないわ」
「確かに…そうかもしれないね…あっ!」
そうだ、リィちゃんが来るまで闇の恐怖で忘れてたけど、この部屋はあの古代遺跡に似てる。
ということは、私がさっき触った蔦の模様も何か意味があったのかもしれません。
リィちゃんにそのことを説明すると、何かに気がついたのか、床を見下ろします。
リィちゃんの視線の先を見ると、そこにはさっきまであった蔦の模様がありませんでした。
「今、この床にその模様がないってことは…少なくとも私がクリスちゃんのもとに来たときにはもう違う場所になっていたのかもしれないわね…」
「…あの黒い何かが来た時に、かな…?」
「私は見ていないけど、そうかもしれないわね」
いつの間にかいなくなってしまった、あの闇を纏う何か。
いなくなったんじゃなくて、ゼロの時のように私達を魔法空間に閉じ込めた…?
「とにかく、ここが普通の場所ではないことは確かね。妖精達を探さなくてはいけないけど、その黒い存在の方が気になるわ」
「うん、そうだね。あれが何かはわからないけど…ゼロに近いものだと思う…」
今いる場所もそうだけど、ロジーちゃん達と一緒に入った部屋も闇が色濃く纏わりつくような場所でした。
ゼロと違うのは、実体がないことだけ。ただぼんやりとそこにあるような感覚です。
そう思うと、この真っ暗で閉ざされた場所を魔宝石の光だけで進むのは危ないような気がしてきました。
リィちゃんも同じことを考えていたようで、どこか心配そうな顔をしています。
フォルトと話ができればいいんだけど、何度魔法会話で呼びかけてもやっぱりフォルトからの反応はなくて、焦りだけが募っていきます。
こうして落ち着いていられるのは、リィちゃんが傍にいてくれるから。独りだったら、絶対泣いて動けなくなっていたと思う。
「あの古代遺跡で感じた気配もここと同じだったわ。もしかしたら、あの遺跡にも何かが封じられていたのかもしれないわね」
「え?そうなの…?」
あの時は、私以外のみんなが何かに警戒していて、それが一体何だったのかわからなかったけど…。
首を傾げていると、リィちゃんが困ったように微笑んで答えてくれました。
「私達が入ったあの遺跡は、たぶん祠か何かの一部だったのだと思うわ。クリスちゃんが見つけたあの蔦の模様は中のものを封じるアレニア皇国特有の魔法紋章術なの」
校外学習の日のことを思い出しながら、リィちゃんが一つ一つ説明してくれました。
「まず、クロード様が精霊酔い防止の飴を私達に食べさせてくれたでしょう?アレニア皇国は精霊信仰が強い国で、魔法は精霊達ととても強い繋がりを持っているから魔法そのものが精霊であることがあるの」
遺跡に向かう道中のカイト君だったフォルトとの会話を思い出します。
フォルトがアレニア皇国のことを知っていることにお兄ちゃんはびっくりしてた。
それはつまり、お兄ちゃんもアレニア皇国の存在を知っていたということ。
きっとアレニア皇国の魔法の形も知っていたから、精霊酔いをしないように飴をくれたんだ。
「クリスちゃんが見た外壁の魔法紋章術はもう効力を失っていたけれど…遺跡の中は効力がまだ残っていたわ」
「え?でも魔法の痕跡はなかったって…」
首を傾げると、リィちゃんは真剣な目で答えてくれました。
「魔法の痕跡はなかったけれど、魔力は満ちていたのよ」
そのリィちゃんの言葉に一瞬息が詰まりました。
魔法の痕跡はなかった…でも魔力は満ちていた。
それは、そこに何かしらの存在があったということ。
「でも、しばらくしたら消えてしまったの。だから、クロード様は勘違いだと言ったんだと思うわ」
その時の状況を思い出してみると、最初に警戒をしたのはお兄ちゃん、続いてリィちゃんとフォルトが辺りを見回してた。
あれは何かの存在を感じ取っていたんですね。
その魔法紋章術の効力を維持し続けている何かを。
もしかしたら、その魔法紋章術自体が精霊か何かだったのかもしれません。
「それで話は戻るけど、あの古代遺跡とこの武器庫の奥の部屋は、同じアレニア皇国の魔法が使われているんじゃないかと思ったの」
「そっか…部屋で見た蔦の模様が古代遺跡のような魔法だとしたら…」
ここで闇以外のもう一つの存在に気がつきます。
リィちゃんの方を見ると、私と同じ考えを持っているかように頷きました。
「部屋には精霊がいたはずよ」
精霊がいる。
それは、この暗い空間の中で一つの希望となりました。
「とは言っても探索するのにこの闇は厄介ね…どうにか掃えないかしら?クリスちゃんが持ってるその石…あのお守りよね?光を大きくすることはできる?」
「え?どうだろう?やってみるね」
リィちゃんに言われて、手の中の魔宝石を握ってみました。そのまま光が大きくなるようにと念じてみます。
すると、光が強くなって私達を囲んでいた光がさらに大きくなりました。
それを見ていたリィちゃんが、不思議そうに手の中の石を見つめます。
「本当に不思議なお守りね?クリスちゃんの願いを聞いてくれてるみたい…」
「あはは…そうだね。自分でもよくわからないけど、この石にはいつも助けられてるよ」
リィちゃんには魔宝石とは言えないので、曖昧に答えます。
たぶん本当のことを言っても、リィちゃんは誰にも言わないかもしれないけど…言うのは今じゃなくてもいいよね?
それにしても、魔宝石をこんな風に使うのは初めてかもしれません。
ライゼンさんが世界をひっくり返せるほどの魔力がこの石にあるって言ってたけど…まだ実感がないです。
魔宝石をじっと見つめていると、リィちゃんが私を庇うように前に出ました。その突然の行動に体が硬くなります。
「何かがいるわ」
「…何かって…?」
リィちゃんの表情は見えないけど、その声から緊張しているのがわかります。
思わず訊き返してしまいましたが、その何かは、きっと…。
――― …っ、タ……、け…ッ。
私達を囲む光の向こうから、空気を震わせて言葉のような音が聞こえてきました。
闇の中から聞こえたそれは、悲鳴のような、うめき声のような、どこか悲痛なものでした。
そして、今度はズルリ、グチャリと何かの足音のようなものが近づいてくるのが聞こえてきます。
さっきの黒い存在とは違い、それは確実に実体を持っている音。
それへの恐怖で思わずリィちゃんの服を掴みました。
「クリスちゃん、そのまま私から離れてはダメよ」
「…う、うんっ」
近づいてくる音は、魔宝石の光の手前で止まったようでした。
リィちゃんと息をのんで、足音が聞こえた方に目線を落とすと、黒いものが見えました。
それは、さっき見た黒い存在よりも気持ち悪い黒い何かで、腐ったような強烈な臭いを放っていました。
「クリスちゃんが会ったのは、これ?」
「ううん、見た目が違う…と思うんだけど…」
見た目が酷くなっていますが、黒い存在と気配が似ていました。
リィちゃんの背中越しに見てみると、それは人の足の形をしているように思えました。
あの黒い存在も手足と頭があるように見えましたが、こっちははっきり人の足だと言うことができます。
こっちの方が怖くないかもしれない。
「…あなたは…誰?」
思わず声を掛けてしまいました。
ドロリとした足の先のようなものしか見えていませんが、光の向こうの闇の中ではどんな姿をしているのか、その足の様子でなんとなく想像がつきます。
しばらく反応を待っていると、ズルリと足が闇の中へ戻ってしまいました。
いなくなったかと思ったのも一瞬で、ぬぅっと人の形を何とか保ったドロリとした存在が再び光の中に入ってきました。
それは思ったよりも大きくて、私達は思わず見上げてしまいました。
「えっ!?」
見上げてみて、肩を揺らすほどびっくりしました。
そこには首から上が無かったからです。
―――…ッけ…、スけ……。
空気が抜けるような音とともに発せられた言葉。
この目の前の存在は、何かを私達に訴えかけているようでした。
最初はびっくりされたけど、「クリスちゃんらしいわ」と微笑んでくれました。
その微笑みになんだかほっとして、リィちゃんがいるだけで心強く感じました。
一通り説明して、ロジーちゃん達を探すことにしました。
魔法の石が照らす範囲を見回しながら、リィちゃんと進んでいきます。
「クリスちゃん、妖精が見えていたのね」
「うん。でも、妖精さんみんなってわけじゃないよ?まだ四人しか見えてないし」
「そうなの?妖精が見えるだけでもすごいと思うけど…何か見える条件があるのかしら?」
リィちゃんは不思議そうな顔でそう言います。
見える条件…それは考えてみたこともなかったです。
気になるけど、今はロジーちゃん達を探さないと。
それからリィちゃんと手を繋いでどんどん先へ進んでみたけど、おかしい。
「リィちゃん。私達、武器庫の奥の部屋にいるはずだよね?」
「ええ。クリスちゃんが妖精達と入った部屋よね?」
リィちゃんと見つめ合って、お互い確認し合います。
「うん。でもさすがにこんなに広くなかったと思うんだけど…」
私達は進んでいるはず。そう思って歩いていたのですが、ロジーちゃん達を見つけるどころか部屋の端にもたどり着きません。
歩いた感覚からして、もう寮の大きさを超えてるんじゃないかと思う。
「…もしかして、この部屋は魔法空間なのかしら?」
「え?」
ぽつりと呟かれたリィちゃんの言葉。
それに思わず訊き返すと、魔剣が床に刺さっていた光景を思い出します。
黒い靄を払いながら少し進んだところにそれはあったから、そんなに広い部屋じゃないと思ったけど…。
シアラちゃんがどこからか明かりを持って来たから、たぶん何かしらの物がこの部屋にはあったはず。
でも、ここまで進んで来て何も見なかったし、落ちてもなかった。
「妖精が言っていたのでしょう?魔剣を封じている部屋だって。そんな部屋が普通の部屋な訳がないわ」
「確かに…そうかもしれないね…あっ!」
そうだ、リィちゃんが来るまで闇の恐怖で忘れてたけど、この部屋はあの古代遺跡に似てる。
ということは、私がさっき触った蔦の模様も何か意味があったのかもしれません。
リィちゃんにそのことを説明すると、何かに気がついたのか、床を見下ろします。
リィちゃんの視線の先を見ると、そこにはさっきまであった蔦の模様がありませんでした。
「今、この床にその模様がないってことは…少なくとも私がクリスちゃんのもとに来たときにはもう違う場所になっていたのかもしれないわね…」
「…あの黒い何かが来た時に、かな…?」
「私は見ていないけど、そうかもしれないわね」
いつの間にかいなくなってしまった、あの闇を纏う何か。
いなくなったんじゃなくて、ゼロの時のように私達を魔法空間に閉じ込めた…?
「とにかく、ここが普通の場所ではないことは確かね。妖精達を探さなくてはいけないけど、その黒い存在の方が気になるわ」
「うん、そうだね。あれが何かはわからないけど…ゼロに近いものだと思う…」
今いる場所もそうだけど、ロジーちゃん達と一緒に入った部屋も闇が色濃く纏わりつくような場所でした。
ゼロと違うのは、実体がないことだけ。ただぼんやりとそこにあるような感覚です。
そう思うと、この真っ暗で閉ざされた場所を魔宝石の光だけで進むのは危ないような気がしてきました。
リィちゃんも同じことを考えていたようで、どこか心配そうな顔をしています。
フォルトと話ができればいいんだけど、何度魔法会話で呼びかけてもやっぱりフォルトからの反応はなくて、焦りだけが募っていきます。
こうして落ち着いていられるのは、リィちゃんが傍にいてくれるから。独りだったら、絶対泣いて動けなくなっていたと思う。
「あの古代遺跡で感じた気配もここと同じだったわ。もしかしたら、あの遺跡にも何かが封じられていたのかもしれないわね」
「え?そうなの…?」
あの時は、私以外のみんなが何かに警戒していて、それが一体何だったのかわからなかったけど…。
首を傾げていると、リィちゃんが困ったように微笑んで答えてくれました。
「私達が入ったあの遺跡は、たぶん祠か何かの一部だったのだと思うわ。クリスちゃんが見つけたあの蔦の模様は中のものを封じるアレニア皇国特有の魔法紋章術なの」
校外学習の日のことを思い出しながら、リィちゃんが一つ一つ説明してくれました。
「まず、クロード様が精霊酔い防止の飴を私達に食べさせてくれたでしょう?アレニア皇国は精霊信仰が強い国で、魔法は精霊達ととても強い繋がりを持っているから魔法そのものが精霊であることがあるの」
遺跡に向かう道中のカイト君だったフォルトとの会話を思い出します。
フォルトがアレニア皇国のことを知っていることにお兄ちゃんはびっくりしてた。
それはつまり、お兄ちゃんもアレニア皇国の存在を知っていたということ。
きっとアレニア皇国の魔法の形も知っていたから、精霊酔いをしないように飴をくれたんだ。
「クリスちゃんが見た外壁の魔法紋章術はもう効力を失っていたけれど…遺跡の中は効力がまだ残っていたわ」
「え?でも魔法の痕跡はなかったって…」
首を傾げると、リィちゃんは真剣な目で答えてくれました。
「魔法の痕跡はなかったけれど、魔力は満ちていたのよ」
そのリィちゃんの言葉に一瞬息が詰まりました。
魔法の痕跡はなかった…でも魔力は満ちていた。
それは、そこに何かしらの存在があったということ。
「でも、しばらくしたら消えてしまったの。だから、クロード様は勘違いだと言ったんだと思うわ」
その時の状況を思い出してみると、最初に警戒をしたのはお兄ちゃん、続いてリィちゃんとフォルトが辺りを見回してた。
あれは何かの存在を感じ取っていたんですね。
その魔法紋章術の効力を維持し続けている何かを。
もしかしたら、その魔法紋章術自体が精霊か何かだったのかもしれません。
「それで話は戻るけど、あの古代遺跡とこの武器庫の奥の部屋は、同じアレニア皇国の魔法が使われているんじゃないかと思ったの」
「そっか…部屋で見た蔦の模様が古代遺跡のような魔法だとしたら…」
ここで闇以外のもう一つの存在に気がつきます。
リィちゃんの方を見ると、私と同じ考えを持っているかように頷きました。
「部屋には精霊がいたはずよ」
精霊がいる。
それは、この暗い空間の中で一つの希望となりました。
「とは言っても探索するのにこの闇は厄介ね…どうにか掃えないかしら?クリスちゃんが持ってるその石…あのお守りよね?光を大きくすることはできる?」
「え?どうだろう?やってみるね」
リィちゃんに言われて、手の中の魔宝石を握ってみました。そのまま光が大きくなるようにと念じてみます。
すると、光が強くなって私達を囲んでいた光がさらに大きくなりました。
それを見ていたリィちゃんが、不思議そうに手の中の石を見つめます。
「本当に不思議なお守りね?クリスちゃんの願いを聞いてくれてるみたい…」
「あはは…そうだね。自分でもよくわからないけど、この石にはいつも助けられてるよ」
リィちゃんには魔宝石とは言えないので、曖昧に答えます。
たぶん本当のことを言っても、リィちゃんは誰にも言わないかもしれないけど…言うのは今じゃなくてもいいよね?
それにしても、魔宝石をこんな風に使うのは初めてかもしれません。
ライゼンさんが世界をひっくり返せるほどの魔力がこの石にあるって言ってたけど…まだ実感がないです。
魔宝石をじっと見つめていると、リィちゃんが私を庇うように前に出ました。その突然の行動に体が硬くなります。
「何かがいるわ」
「…何かって…?」
リィちゃんの表情は見えないけど、その声から緊張しているのがわかります。
思わず訊き返してしまいましたが、その何かは、きっと…。
――― …っ、タ……、け…ッ。
私達を囲む光の向こうから、空気を震わせて言葉のような音が聞こえてきました。
闇の中から聞こえたそれは、悲鳴のような、うめき声のような、どこか悲痛なものでした。
そして、今度はズルリ、グチャリと何かの足音のようなものが近づいてくるのが聞こえてきます。
さっきの黒い存在とは違い、それは確実に実体を持っている音。
それへの恐怖で思わずリィちゃんの服を掴みました。
「クリスちゃん、そのまま私から離れてはダメよ」
「…う、うんっ」
近づいてくる音は、魔宝石の光の手前で止まったようでした。
リィちゃんと息をのんで、足音が聞こえた方に目線を落とすと、黒いものが見えました。
それは、さっき見た黒い存在よりも気持ち悪い黒い何かで、腐ったような強烈な臭いを放っていました。
「クリスちゃんが会ったのは、これ?」
「ううん、見た目が違う…と思うんだけど…」
見た目が酷くなっていますが、黒い存在と気配が似ていました。
リィちゃんの背中越しに見てみると、それは人の足の形をしているように思えました。
あの黒い存在も手足と頭があるように見えましたが、こっちははっきり人の足だと言うことができます。
こっちの方が怖くないかもしれない。
「…あなたは…誰?」
思わず声を掛けてしまいました。
ドロリとした足の先のようなものしか見えていませんが、光の向こうの闇の中ではどんな姿をしているのか、その足の様子でなんとなく想像がつきます。
しばらく反応を待っていると、ズルリと足が闇の中へ戻ってしまいました。
いなくなったかと思ったのも一瞬で、ぬぅっと人の形を何とか保ったドロリとした存在が再び光の中に入ってきました。
それは思ったよりも大きくて、私達は思わず見上げてしまいました。
「えっ!?」
見上げてみて、肩を揺らすほどびっくりしました。
そこには首から上が無かったからです。
―――…ッけ…、スけ……。
空気が抜けるような音とともに発せられた言葉。
この目の前の存在は、何かを私達に訴えかけているようでした。
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