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第2章 ◆ 見えるものと見えないものと
18. 審問①
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リィちゃんとちゃんと話をして、いろんなことを知りました。
私の知らなかったこと、知らなきゃいけないこと…とても大切なことをリィちゃんとフォルトと共有できました。
安心したら、とても眠たくなってきます。
今日はいろいろありすぎて、もう体力の限界でした。
倒れるようにリィちゃんに身を任せて、そのまま眠ってしまいました。
―――――…
誰かに呼ばれた気がして、ゆっくりと目を開けた。
そこはいつか見た、夢の中。
真っ白な空間に、いろんな物が置かれている。
あの時は、全てがおぼろげで実体のないものだったのに、いくつか触れそうな物がある。
一番近くにあった小さなチェストの引き出しを開けてみると、赤いリボンが入っていた。
そのリボンを手に取ると、どこか懐かしい感覚になった。
「赤いリボン…着けたことないのに…」
ぼんやりとした頭でそう呟くと、赤いリボンは消えてしまった。
―――――…
また誰かに呼ばれたような気がして振り向いてみる。
そこにはあの大きな鏡があった。
たくさんの装飾がされた、とてもきれいで不思議な鏡。
「…まだ、その時ではないんだね」
その言葉を最後に、また私の意識は沈んでいった。
「クリスちゃん!起きて!」
『クリス―!朝だぞー!!』
『クリスぅ~~~!お寝坊さんにはお仕置きしちゃうぞぉ!!』
周りの騒がしさに意識がはっきりしてきて、ああ、朝なんだと思ったその瞬間。
『ドーン!!』
「ぐえっ」
お腹のあたりに強い衝撃を受けて、飛び起きました。
目を開けてみると、フォルトとリィちゃん、シーニーが覗き込んできました。
「大丈夫?クリスちゃん…起きられる?」
『シーニー、起こし方が雑すぎるぞ』
『だってぇ。クリス、呼んでも全然起きないんだもん~』
ワイワイと顔の周りで騒いでいるみんなを見て、思わず笑ってしまいました。
そんな私をリィちゃんが不思議そうな顔をして見つめてきました。
「ごめんね、みんな。ちょっとだるいけど、大丈夫。シーニー、起こしてくれてありがとう」
『どういたしまして~』
ちょっと痛かったけど、お礼にとシーニーの頭をふわふわと撫でました。すると、気持ちよさそうな表情で長い耳がぴょこぴょことうれしそうに揺れました。かわいい。
今頃気づいたけど、いつの間にかベッドで寝ていたみたいです。フォルトとリィちゃんが運んでくれたのかな?
ふと時計を見ると、食堂の朝食の時間が終わろうとしていました。
「わー!?朝ご飯!!」
お昼ご飯までお預けになっちゃう!
昨日は晩ご飯も食べてなかったので、お腹がすいているのです。とっても!!
とにかくサンドイッチだけでも貰おうと、急いで制服に着替えていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきました。
「クリス、起きているか?」
「ルルーシア先輩!」
訪ねてきてくれたのは、昨日心配をかけてしまったルルーシア先輩でした。
先輩はもう鍛練用の服装に着替えていて、その手にはポットと籠いっぱいのサンドイッチが。
「食堂に来ていなかったから、もしかしたら起きていないのかもと思ってな。一応、四人分の朝食を詰めてきた。疲れはないか?」
「先輩、ありがとうございます!すごくお腹すいてたんです。助かりました!」
ルルーシア先輩の気遣いにうれしくなっていると、お腹の音が鳴りました。
その音に、みんなが気が抜けたように笑いだしました。
慌ててお腹を押さえてももう遅いです。うう、恥ずかしい…。
「ははっ。昨日は夕食も食べていなかったからな。ほら、ゆっくり食べるんだぞ。ポットには水が入っているからな」
先輩は、籠とポットを差し出してくれました。
グラスは籠の底に収納してくれていたので、みんな思い思いに水を注いでのどを潤しました。
「クリス、訊きたいことはたくさんあるが、少々厄介なことが起きてな…。海組の先生達がおまえを呼んでいる。報告は先生達にするように」
「はい、わかりました。でも、厄介って…?」
昨日の出来事の報告は、もちろんするつもりだけど、それでどうして先輩の顔が暗くなっているのかわかりませんでした。
ルルーシア先輩は一つため息をついて、それについて簡単に説明をしてくれました。
「昨日のことは、クリスの担任と海組の学年主任、教育科主任、学園長に通達されている。一時とはいえ、学園内から生徒が一人消えるという事件を重く見てな…」
「…えと、私、罰則に触れたってことなのでしょうか…?」
規則で言えば、無断外出とかになるのでしょうか。
「いや、そうじゃないんだが…もともとクリスの海組進級自体とても揉めたらしくてだな…契約獣がいるのならばということで進級が許されたそうなんだ…」
ルルーシア先輩がとても言いにくそうな顔をして、フォルトの方を見ました。
その視線を受け止めるように、ピクリとフォルトの耳が動きました。
ああ。これは、私だけの問題ではないのかもしれない。
フォルトはこの海組では「契約獣」という認識です。
契約獣は主人から離れてはいけない、ううん、離れられない存在なのです。
主人と従僕の関係になるので、その主人を一時とはいえ、契約獣が感知できなかったのはとてもまずいことです。
良くて契約破棄、最悪その命を絶たなければいけません。
契約獣とは、そういうものなのです。
でも、フォルトは私の「契約獣」じゃない。
フォルトと私の繋がりは、契約とかそういうものではないから。
どう表現すればいいのかわからなかったから、結局「契約獣」と言って誤魔化してきました。
ここに来て、それがフォルトにとって良くないことになるなんて…。
ギュッと手を握りしめて、ルルーシア先輩を見上げます。
「…わかりました。それもきちんと説明してきます」
「クリス…」
先輩のその凛々しい顔に心配の色が浮かびました。
やっぱり、ルルーシア先輩は優しいな…。
言えないことがたくさんある私をこんなに心配してくれる。
「フォルトについては、簡単に言えることじゃなくて…学園長と光組にいた時の先生達はフォルトのことを知ってたけど、海組の先生達はもしかしたら知らないのかもしれないです。光組の先生達もまさかフォルトのことを言われると思ってなかったから、伝えてなかったかもしれないし…」
同じ教育科であっても、組同士はお互い干渉することなく独立しています。
情報は私の分だけで、退学扱いになったフォルト…カイト君の情報は伝わらなかったのかもしれない。
そもそも、光組の先生達はカイト君がフォルトになってから一度も会ってないと思うから、情報なんて無かったのかもしれないです。
「私の進級は、いろんな人達がいろいろ考えてくれて、難しい中で叶えてくれました。その人達にたくさん心配もかけさせちゃったみたいなので、先生達にちゃんと話して、わかってもらいます!」
握りしめた手を突き出して、自分を奮い立たせます。
大丈夫、フォルトもリィちゃんもいる。
二人がいるだけで、何にでも立ち向かっていける。
「クリス…おまえは…」
ルルーシア先輩は、どこか泣きそうな、苦しそうな顔でその瞳を揺らしました。
なんだろう…先輩のこんな顔、最近増えた気がする。
「先輩…?」
首を傾げると、先輩はすぐに顔を引き締めて、その暗い顔は消えてしまいました。
「…なんでもない。とにかく、今は朝食を食べて、落ち着いたら職員室に行くように。契約獣に、エルフ…クリスを頼んだぞ」
先輩は、私の寝起きでぼさぼさの髪を撫でながら、フォルトとリィちゃんに視線を向けます。
「はい。何があっても、私達はクリスちゃんを護るわ」
『もちろんだ』
力強くそう言った二人を見て、力が湧いてきます。
『あたしはとりあえず、傍で見守ることにする~。ヤバそうだったら、まあその時考えるね』
シーニーは、サンドイッチをかじりながら軽い感じでそう言いました。
フォルトとリィちゃんがじっと見つめたけど、シーニーは我関せずでモグモグとサンドイッチを食べ進めていきます。
「シーニーも一緒に来てくれてうれしいよ。私が何か間違ったこと言ったら、止めてね?私のせいでみんなが傷つくのは嫌だから」
『……』
ピクリとシーニーの耳が揺れて、サンドイッチを食べる手が止まりました。
青い目が私を射抜くように向けられて、戸惑います。
「あれ?さっそく何か間違った?」
『……そうだよね…。ううん、なんでもないよぉ。あたしも一緒には行くけど、姿は消しとくからね~』
ぱっと、いつも通りのシーニーに戻って、またサンドイッチを食べ始めました。
その頭を撫でて、「ありがとう」とお礼を言います。
さっきのシーニーの様子がなんだか気になるけど、シーニーとはまだ知り合ったばかりだから、全てを教えてくれるわけじゃないよね。
「では、私はそろそろ戻ることにするよ。クリス、今日は課題を受けなくてもいいようだから、ゆっくりするといい。職員室へはお昼前までには行けばいいそうだ」
「先輩、ありがとうございました。朝食を食べて身支度をしたら行きます」
「ああ」
先輩を見送って、改めて朝ご飯を摂ります。
先輩はいろんな種類のサンドイッチを入れてくれていたようで、みんな思い思いに好きなサンドイッチを食べました。
シーニーがチキンサンドを一番多く食べたのにはびっくりしました。意外と肉食?
髪を梳いて、制服をきちんと整えたら、海組の職員室に向かいます。
職員室へ続く廊下では、誰ともすれ違うことがありませんでした。
なんでだろう?いつもなら、絶対誰かと出会うのに…。
職員室の前まで来ると、その扉をノックします。
「二年生、クリスです」
「入りなさい」
すぐに返事が返ってきたので、扉を開けてフォルトとリィちゃんと一緒に中へ入ります。
入ってすぐにソファーとテーブルが見えて、扉側のソファーに座っている担任の先生と目が合いました。その向かいのソファーには見たことのない先生が二人並んで座っていました。
ソファーの右側に座っている無精髭を生やした先生が私の後ろに視線をずらします。
「契約獣と…その子は?」
教育科花組の…と言おうと思いましたが、ここは主人らしく挨拶することにします。
「私と従属契約しているエルフです」
「…なるほど。その情報はなかったな。隠していたのか?」
途端に先生の雰囲気が怖くなって、睨みつけられました。
その威圧に、フォルトとリィちゃんが私の前に出ます。
すると、ソファーの左側に座っていた先生が無精髭の先生を緩やかに手で制しました。
その先生は、鼻頭から上が仮面か何かで覆われていて、口元でしか表情が読み取れませんでした。
仮面には大きな目の模様が描かれているだけで、あれで見えてるのかな?と気になってしまいます。
「契約しているそのエルフはフラワーエルフですね?フラワーエルフの場合、主人の知らないところで契約できるので、おそらく最近まで知らなかったのでしょう」
当たってる!!
びっくりして仮面の先生を見つめていると、その向かいに座っていた担任の先生が隣に座るようにと手招きしました。
あれ?今日は優しい…?
呼ばれるままに、先生の右隣に座ります。
ちらりと横を見ると、どこか苦々しい顔をしていて、いつも通りだったと思い直しました。
私が座るのを確認すると、後ろにリィちゃん、右側にフォルトが付きます。
「今日、あなたを呼んだのは、寮長から言われたかと思いますが、昨日のことについてです。話してくれますか?」
仮面の先生が穏やかな声でそう言ってくれたので、ちょっとだけ緊張がほぐれました。
声からして、女の人…だと思うのですが、男の人とも言えるかもしれない…。とても不思議な雰囲気の先生です。
無精髭の先生と担任の先生はとても怖い顔をしているので、完全に緊張が解けたわけではありませんが、とにかく必死にリィちゃんと一緒に昨日の出来事を話しました。
フォルトと、その頭の上に載っているであろうシーニーは、静かに先生達の様子を窺っているようでした。
私の知らなかったこと、知らなきゃいけないこと…とても大切なことをリィちゃんとフォルトと共有できました。
安心したら、とても眠たくなってきます。
今日はいろいろありすぎて、もう体力の限界でした。
倒れるようにリィちゃんに身を任せて、そのまま眠ってしまいました。
―――――…
誰かに呼ばれた気がして、ゆっくりと目を開けた。
そこはいつか見た、夢の中。
真っ白な空間に、いろんな物が置かれている。
あの時は、全てがおぼろげで実体のないものだったのに、いくつか触れそうな物がある。
一番近くにあった小さなチェストの引き出しを開けてみると、赤いリボンが入っていた。
そのリボンを手に取ると、どこか懐かしい感覚になった。
「赤いリボン…着けたことないのに…」
ぼんやりとした頭でそう呟くと、赤いリボンは消えてしまった。
―――――…
また誰かに呼ばれたような気がして振り向いてみる。
そこにはあの大きな鏡があった。
たくさんの装飾がされた、とてもきれいで不思議な鏡。
「…まだ、その時ではないんだね」
その言葉を最後に、また私の意識は沈んでいった。
「クリスちゃん!起きて!」
『クリス―!朝だぞー!!』
『クリスぅ~~~!お寝坊さんにはお仕置きしちゃうぞぉ!!』
周りの騒がしさに意識がはっきりしてきて、ああ、朝なんだと思ったその瞬間。
『ドーン!!』
「ぐえっ」
お腹のあたりに強い衝撃を受けて、飛び起きました。
目を開けてみると、フォルトとリィちゃん、シーニーが覗き込んできました。
「大丈夫?クリスちゃん…起きられる?」
『シーニー、起こし方が雑すぎるぞ』
『だってぇ。クリス、呼んでも全然起きないんだもん~』
ワイワイと顔の周りで騒いでいるみんなを見て、思わず笑ってしまいました。
そんな私をリィちゃんが不思議そうな顔をして見つめてきました。
「ごめんね、みんな。ちょっとだるいけど、大丈夫。シーニー、起こしてくれてありがとう」
『どういたしまして~』
ちょっと痛かったけど、お礼にとシーニーの頭をふわふわと撫でました。すると、気持ちよさそうな表情で長い耳がぴょこぴょことうれしそうに揺れました。かわいい。
今頃気づいたけど、いつの間にかベッドで寝ていたみたいです。フォルトとリィちゃんが運んでくれたのかな?
ふと時計を見ると、食堂の朝食の時間が終わろうとしていました。
「わー!?朝ご飯!!」
お昼ご飯までお預けになっちゃう!
昨日は晩ご飯も食べてなかったので、お腹がすいているのです。とっても!!
とにかくサンドイッチだけでも貰おうと、急いで制服に着替えていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきました。
「クリス、起きているか?」
「ルルーシア先輩!」
訪ねてきてくれたのは、昨日心配をかけてしまったルルーシア先輩でした。
先輩はもう鍛練用の服装に着替えていて、その手にはポットと籠いっぱいのサンドイッチが。
「食堂に来ていなかったから、もしかしたら起きていないのかもと思ってな。一応、四人分の朝食を詰めてきた。疲れはないか?」
「先輩、ありがとうございます!すごくお腹すいてたんです。助かりました!」
ルルーシア先輩の気遣いにうれしくなっていると、お腹の音が鳴りました。
その音に、みんなが気が抜けたように笑いだしました。
慌ててお腹を押さえてももう遅いです。うう、恥ずかしい…。
「ははっ。昨日は夕食も食べていなかったからな。ほら、ゆっくり食べるんだぞ。ポットには水が入っているからな」
先輩は、籠とポットを差し出してくれました。
グラスは籠の底に収納してくれていたので、みんな思い思いに水を注いでのどを潤しました。
「クリス、訊きたいことはたくさんあるが、少々厄介なことが起きてな…。海組の先生達がおまえを呼んでいる。報告は先生達にするように」
「はい、わかりました。でも、厄介って…?」
昨日の出来事の報告は、もちろんするつもりだけど、それでどうして先輩の顔が暗くなっているのかわかりませんでした。
ルルーシア先輩は一つため息をついて、それについて簡単に説明をしてくれました。
「昨日のことは、クリスの担任と海組の学年主任、教育科主任、学園長に通達されている。一時とはいえ、学園内から生徒が一人消えるという事件を重く見てな…」
「…えと、私、罰則に触れたってことなのでしょうか…?」
規則で言えば、無断外出とかになるのでしょうか。
「いや、そうじゃないんだが…もともとクリスの海組進級自体とても揉めたらしくてだな…契約獣がいるのならばということで進級が許されたそうなんだ…」
ルルーシア先輩がとても言いにくそうな顔をして、フォルトの方を見ました。
その視線を受け止めるように、ピクリとフォルトの耳が動きました。
ああ。これは、私だけの問題ではないのかもしれない。
フォルトはこの海組では「契約獣」という認識です。
契約獣は主人から離れてはいけない、ううん、離れられない存在なのです。
主人と従僕の関係になるので、その主人を一時とはいえ、契約獣が感知できなかったのはとてもまずいことです。
良くて契約破棄、最悪その命を絶たなければいけません。
契約獣とは、そういうものなのです。
でも、フォルトは私の「契約獣」じゃない。
フォルトと私の繋がりは、契約とかそういうものではないから。
どう表現すればいいのかわからなかったから、結局「契約獣」と言って誤魔化してきました。
ここに来て、それがフォルトにとって良くないことになるなんて…。
ギュッと手を握りしめて、ルルーシア先輩を見上げます。
「…わかりました。それもきちんと説明してきます」
「クリス…」
先輩のその凛々しい顔に心配の色が浮かびました。
やっぱり、ルルーシア先輩は優しいな…。
言えないことがたくさんある私をこんなに心配してくれる。
「フォルトについては、簡単に言えることじゃなくて…学園長と光組にいた時の先生達はフォルトのことを知ってたけど、海組の先生達はもしかしたら知らないのかもしれないです。光組の先生達もまさかフォルトのことを言われると思ってなかったから、伝えてなかったかもしれないし…」
同じ教育科であっても、組同士はお互い干渉することなく独立しています。
情報は私の分だけで、退学扱いになったフォルト…カイト君の情報は伝わらなかったのかもしれない。
そもそも、光組の先生達はカイト君がフォルトになってから一度も会ってないと思うから、情報なんて無かったのかもしれないです。
「私の進級は、いろんな人達がいろいろ考えてくれて、難しい中で叶えてくれました。その人達にたくさん心配もかけさせちゃったみたいなので、先生達にちゃんと話して、わかってもらいます!」
握りしめた手を突き出して、自分を奮い立たせます。
大丈夫、フォルトもリィちゃんもいる。
二人がいるだけで、何にでも立ち向かっていける。
「クリス…おまえは…」
ルルーシア先輩は、どこか泣きそうな、苦しそうな顔でその瞳を揺らしました。
なんだろう…先輩のこんな顔、最近増えた気がする。
「先輩…?」
首を傾げると、先輩はすぐに顔を引き締めて、その暗い顔は消えてしまいました。
「…なんでもない。とにかく、今は朝食を食べて、落ち着いたら職員室に行くように。契約獣に、エルフ…クリスを頼んだぞ」
先輩は、私の寝起きでぼさぼさの髪を撫でながら、フォルトとリィちゃんに視線を向けます。
「はい。何があっても、私達はクリスちゃんを護るわ」
『もちろんだ』
力強くそう言った二人を見て、力が湧いてきます。
『あたしはとりあえず、傍で見守ることにする~。ヤバそうだったら、まあその時考えるね』
シーニーは、サンドイッチをかじりながら軽い感じでそう言いました。
フォルトとリィちゃんがじっと見つめたけど、シーニーは我関せずでモグモグとサンドイッチを食べ進めていきます。
「シーニーも一緒に来てくれてうれしいよ。私が何か間違ったこと言ったら、止めてね?私のせいでみんなが傷つくのは嫌だから」
『……』
ピクリとシーニーの耳が揺れて、サンドイッチを食べる手が止まりました。
青い目が私を射抜くように向けられて、戸惑います。
「あれ?さっそく何か間違った?」
『……そうだよね…。ううん、なんでもないよぉ。あたしも一緒には行くけど、姿は消しとくからね~』
ぱっと、いつも通りのシーニーに戻って、またサンドイッチを食べ始めました。
その頭を撫でて、「ありがとう」とお礼を言います。
さっきのシーニーの様子がなんだか気になるけど、シーニーとはまだ知り合ったばかりだから、全てを教えてくれるわけじゃないよね。
「では、私はそろそろ戻ることにするよ。クリス、今日は課題を受けなくてもいいようだから、ゆっくりするといい。職員室へはお昼前までには行けばいいそうだ」
「先輩、ありがとうございました。朝食を食べて身支度をしたら行きます」
「ああ」
先輩を見送って、改めて朝ご飯を摂ります。
先輩はいろんな種類のサンドイッチを入れてくれていたようで、みんな思い思いに好きなサンドイッチを食べました。
シーニーがチキンサンドを一番多く食べたのにはびっくりしました。意外と肉食?
髪を梳いて、制服をきちんと整えたら、海組の職員室に向かいます。
職員室へ続く廊下では、誰ともすれ違うことがありませんでした。
なんでだろう?いつもなら、絶対誰かと出会うのに…。
職員室の前まで来ると、その扉をノックします。
「二年生、クリスです」
「入りなさい」
すぐに返事が返ってきたので、扉を開けてフォルトとリィちゃんと一緒に中へ入ります。
入ってすぐにソファーとテーブルが見えて、扉側のソファーに座っている担任の先生と目が合いました。その向かいのソファーには見たことのない先生が二人並んで座っていました。
ソファーの右側に座っている無精髭を生やした先生が私の後ろに視線をずらします。
「契約獣と…その子は?」
教育科花組の…と言おうと思いましたが、ここは主人らしく挨拶することにします。
「私と従属契約しているエルフです」
「…なるほど。その情報はなかったな。隠していたのか?」
途端に先生の雰囲気が怖くなって、睨みつけられました。
その威圧に、フォルトとリィちゃんが私の前に出ます。
すると、ソファーの左側に座っていた先生が無精髭の先生を緩やかに手で制しました。
その先生は、鼻頭から上が仮面か何かで覆われていて、口元でしか表情が読み取れませんでした。
仮面には大きな目の模様が描かれているだけで、あれで見えてるのかな?と気になってしまいます。
「契約しているそのエルフはフラワーエルフですね?フラワーエルフの場合、主人の知らないところで契約できるので、おそらく最近まで知らなかったのでしょう」
当たってる!!
びっくりして仮面の先生を見つめていると、その向かいに座っていた担任の先生が隣に座るようにと手招きしました。
あれ?今日は優しい…?
呼ばれるままに、先生の右隣に座ります。
ちらりと横を見ると、どこか苦々しい顔をしていて、いつも通りだったと思い直しました。
私が座るのを確認すると、後ろにリィちゃん、右側にフォルトが付きます。
「今日、あなたを呼んだのは、寮長から言われたかと思いますが、昨日のことについてです。話してくれますか?」
仮面の先生が穏やかな声でそう言ってくれたので、ちょっとだけ緊張がほぐれました。
声からして、女の人…だと思うのですが、男の人とも言えるかもしれない…。とても不思議な雰囲気の先生です。
無精髭の先生と担任の先生はとても怖い顔をしているので、完全に緊張が解けたわけではありませんが、とにかく必死にリィちゃんと一緒に昨日の出来事を話しました。
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