クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

文字の大きさ
86 / 87
第2章 ◆ 見えるものと見えないものと

23. 不思議な部屋の精霊①

しおりを挟む
「…っ!リィちゃん、授業は!?」

 リィちゃんを召喚してから、二日くらい経ってる。
 もしかしたら、授業の途中で呼び出したかもしれない。
 花組の規則を破らせてしまったかもしれない。

 そんな事をぐるぐると考えてあまりにも私の顔色が悪かったのか、リィちゃんの手が優しく頬を撫でてくれました。

「大丈夫よ、クリスちゃん。花組に進級した時にちゃんと先生達には説明してあるわ。従属契約をしているから、急にいなくなることがあるかもしれないってね」
「リィちゃん…」
「ふふふ。正直、このまま退学してクリスちゃんの傍にいたいんだけど…」
「わーーー!!?それはダメだよ!?」

 リィちゃんがなんでもないように言うから、思いっきり首を振って思い留まるように説得しました。
 だって、リィちゃんがどんなにお花が好きなのかを知ってるから。私の為に好きなことを勉強することを手放さないでほしい。
 リィちゃんはあまり納得してない顔でしたが、小さく頷いてくれました。

「でも、遠慮なく召喚してね?」
「うん。リィちゃんの力が必要な時は絶対呼ぶよ」

 今度は、迷わずにリィちゃんを呼ぶ!
 大きく頷き返したら、親友のきれいな緑の目が伏せられます。

「…そうじゃなくても、クリスちゃんに会いたい時は会ってくれる?」

 ちょっとだけ沈んだその声は、言葉の裏で「離れるのが寂しい」と言っているようでした。
 それは私も同じで、思わずリィちゃんを抱きしめます。

「もちろんだよ!会いに行くし、会いに来てね!」
「クリスちゃん、ありがとう!」

 お互いにぎゅうぎゅう抱きしめ合って、笑います。
 そんな私達の様子をフォルトとシーニーはどこか微笑んで見守ってくれていました。

『本当に仲良いな、おまえら』

 そんな和やかなひと時は、控えめに扉を叩く音でかき消されました。
 こんな夜中に誰だろう…?
 もしかしてうるさくしてしまったのかなと思い、恐る恐る扉を開けました。

「夜中にすまぬな」

 扉の向こうにいたのは、穏やかに微笑むルミナさんでした。





「ルミナさん、どこへ行くんですか?」

 今私達は、ルミナさんに連れられて寮の廊下を歩いています。
 消灯時間を過ぎているので、廊下は非常灯と足元を照らすほのかな明かりだけで薄暗いです。
 ルミナさんは質問に答えることなく、ただただ私の手を引いて進んでいきます。
 フォルトとリィちゃん、シーニーも一緒にと言われたので、フォルトを魔宝石に入れて、シーニーは姿を隠して私の頭の上に乗っています。リィちゃんはそんな私達の後ろを静かについてきています。

 なんだろう?
 ルミナさんの用事もそうですが、フォルトとシーニーも一緒っていうのも気になります。

 しばらく歩いていくと、目的の場所に着いたのか、ルミナさんが足を止めました。
 そこは、あの不思議な部屋があった武器庫の扉の前でした。
 扉にはいくつもの鎖と魔法紋章術が刻まれていて淡く光っています。武器庫は誰も入れないようになっていました。

 ロジーちゃん達は大丈夫だったかな…?
 あの黒い存在はどうなったんだろう?
 魔剣も、あのままだともっと大変なことになるはず。
 黒い靄に満ちた部屋で辛うじて形を保ったあの黒い剣を思い出します。
 魔剣として、あの部屋に封印されていた剣。
 あの剣の持ち主さんは、剣と離れて寂しくなかったのかな…。
 剣を大事にするルルーシア先輩が重なって、名も知らないあの剣の持ち主さんを想いました。

「ルミナさん、どうしてここに?」

 ルミナさんの方へ目を上げると、じっと見つめられていました。
 その目は、何かを見通しているようでちょっとだけ怖いと思ってしまいました。
 そんな私の気持ちが伝わったのか、ルミナさんはすぐに武器庫の方に目を向けました。

「…すまぬな。ここの部屋の主がクリスと話したいそうでな」
「え?部屋の主って…?」
「クリスとそこのエルフが行った部屋におった者だ」

 ルミナさんはそう言うと扉に手をかざしました。
 すると、武器庫の扉の鎖がまるで朽ちたかのようにバラバラに解けて、ガシャンと床に落ちました。扉に刻まれていた紋章も光を失い、ただの模様になってしまいました。
 それらのことに驚いている暇もなく、ルミナさんは武器庫の扉を開けて中へ入っていきました。

 えええええ!?こ、壊しちゃった!いいのかな!?
 先生達が立ち入り禁止にしてたのに…!

 あまりのことに言葉を失って、リィちゃんと顔を見合わせます。

「えっと…入ってもいいのかな…?」
「…ルミナ様が行くと言っているのなら、いいんじゃないかしら?私もあの部屋のこと気になるわ」
『大丈夫大丈夫!あたし達もついてるし!ほら、フォルトも出してあげてよ』

 頭に乗っていたシーニーが姿を現して、楽しそうに言いました。
 その言葉に従って、フォルトを魔宝石から出します。
 それから、ルミナさんの後を追うように暗い武器庫へ入りました。
 武器庫の扉の向こうは夜のせいか、真っ暗で何も見えませんでした。
 すると、真っ暗だと思っていた視界が急に眩しい光に包まれて、思わず目を閉じてしまいました。
 しばらくして光が収まったのを感じると、恐る恐る目を開きます。

「クリスちゃん、大丈夫?」
『大丈夫か?クリス』

 目を向けるとリィちゃん、フォルトに心配そうな目で見つめられていました。
 フォルトの頭の上でシーニーが『眩しかったねぇ』とのんびりした様子で言います。

「クリス、こっちだ」

 ルミナさんに呼ばれて改めて部屋を見渡すと、思わず息をのみました。

「…武器庫…じゃない…?」

 目の前に広がった光景は、白く高い石積みの壁に無数の蔦の模様が刻まれた、どこか神聖な空間。
 ここは本当にあの黒い靄に包まれていた部屋?
 そう思うほど、この場所は澄んだ場所でした。
 部屋全体に描かれた蔦の模様を目で追うと、ある一点から伸びてきているようでした。
 その場所を隣にいたリィちゃんが指差します。

「クリスちゃん、あれが妖精達が言っていた剣?」
「えと…私が見た剣はもっと黒くて、どろって溶けたような形のものだったと思うんだけど…」

 蔦の模様が向かっていたその場所には、蔦が這うような装飾がされた剣が台座に刺さっていました。
 ただ静かにそこに在る剣を不思議な感覚で見つめます。
 ロジーちゃん達が言っていた魔剣…じゃないよね?
 だって、あの時私が見た剣はあんなに透き通るような色をしてなかった。

『少女よ、私を掬い上げてくれたことに感謝する』

 リンと鈴のような響く声がどこからか聞こえてきました。
 それにびっくりしてリィちゃんと周りを見渡しましたが、声の主は見つかりません。
 ルミナさんとフォルト、シーニーは声の主がわかっているようで、驚いていませんでした。

『今の私は、人の目で捉えることはできない。存在としてはそうだな、目の前に広がる蔦の模様だと思えばよい』

 その言葉にまたびっくりして、思わず足元を見下ろします。
 美しく描かれた蔦の模様は淡く光を放っていて、それは魔法の石と似た輝きでした。

「えと…あなたは…もしかしてこの蔦の魔法の精霊さんですか…?」
『そうだ。長年、この封じられた神殿で妖精達とともに剣を護ってきた』

 蔦の模様が呼吸をするようにキラキラと光を波打たせます。
 精霊さんの存在がとても近く感じて、なんだかほっとします。

「あの、ロジーちゃん達がいなくなってしまったんですが…無事ですか?」
『無事だ。剣の瘴気が強くなったあの時、私が妖精達を空間から切り離した。今はそこで眠っている』

 蔦の模様が場所を示すように淡く光り、それを目線で追っていくと、蔦のベッドで気持ちよさそうに寝ている三人を見つけました。

「…よかった…」

 ロジーちゃん達が無事でほっとしました。
 あの黒い存在に取り込まれたりしていたらどうしようと思っていたから。

『少女よ。改めて礼を言う。私の魔力を浄化してくれたこと、心から感謝する』
「えっ!?えと…私、精霊さんにどこかでお会いしましたか?」

 あっもしかして、あの床の蔦の模様!?
 そうだよ、この部屋全体に蔦の模様が刻まれてるんだから、精霊さんは私のことを認識してる。
 そう思っていると、全く違った答えが返ってきました。

『私はこの蔦の模様でもあるが、あの時其方が出会ったあの首のない存在だ。其方を通して穢れていた魔力が浄化され、こうして役目に戻ることができた』
「ええええ!?」

 あまりのことに叫んでしまいました。隣にいたリィちゃんも目を丸くしています。
 ちょ、ちょっと待って…!あれは精霊さんだったの!?あの黒いのが!?
 それじゃあ、最初に会った黒い存在も精霊さん?でも、どこか雰囲気が違ったし…もしかして精霊さんとは別の存在?

「えと、妖精さん達に案内された部屋で実体のない黒いものに会ったんですけど、あれも精霊さんだったんですか?」
『あれは魔剣に憑いた憎悪の塊だ』
「憎悪…」
 
 あれが憎悪…。
 ゼロのものに似てるって思ったけど…もしかして、ゼロも何かを憎んでる…?

 そう考えていたら、蔦の精霊さんが淡く光りながら言葉を続けます。

『其方があの魔物に取り込まれるところだったから、そうなる前に私の空間へと取り込んだのだ。間に合ってよかった』
「そうだったんですね…ありがとうございます」

 そうして会ったのがあの首のない精霊さんだった…ということですね。
 でも、魔法の浄化って…どういうことだろう?
 意味がわからなくて、内心首を傾げているとリィちゃんが真剣な声で精霊さんに問いかけました。

「蔦の精霊様、どうしてこの剣はここに封じられることになったのでしょうか?」
『…其方は…フラワーエルフか。その気配、懐かしい』
「はい。私も蔦の精霊様にお会いできて、光栄の極みです」

 きれいな礼を執ったリィちゃんの挨拶に、思わず釣られて私もお辞儀をします。
 お辞儀をしたまま蔦の模様を見てみると淡く緑色に輝いてふわふわと揺れていました。
 その様子がなんだか喜んでいるみたいで私もうれしくなってしまいます。
 植物繋がりで気が合ったりするのかな?

「この剣がここに封じられておるのは、ある者から悪用されないためだ」
「ある者?」

 リィちゃんの疑問に答えたのは、ずっと沈黙していたルミナさんでした。

『それは私から話そう。この剣はもともと精霊王様が人間に渡したものだった…』

 そう言って、蔦の精霊さんは私達にあの台座に刺さっている剣の由来を話してくれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...