クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

3. 有名人の妹

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 入校式の手続きも終わって、晴れてこの学校の一員になった私は、光組の八番になりました。

 教育科は、空組、花組、海組、光組の四組に分けられています。
 空組は、研究や学問を探求する子達が自由に勉強します。
 花組は、演劇や芸術、文学など、人々を楽しませる職業を目指す子達が職業に合わせて勉強します。
 海組は、騎士や傭兵、魔法使いなど、人々を守る職業を目指す子達が実践を中心に勉強します。
 光組は、最初に入る組です。なので、一年生しかいません。途中から入ってくる生徒が多いので、勉強は薄い教科書三冊です。

 この光組ですが、他の組へ飛び級するのはいつでも自由だそうです。
 なので、生徒の入れ替わりがとても多くて、友達になっても、すぐ組替えで離ればなれになってしまうこともあります。
 もちろん、飛び級、留年もあるので、ずっといっしょにいられる生徒は少ないです。
 ちなみに、組の後ろにつく「番」は、教室の番号です。
 光組は、生徒が多くて一つの教室では収まらないので、こうして教室を分けているそうです。





 今、担任の先生と教室の前に立っています。
 忘れていた不安が急に襲ってきました。

 わ、私、卒業までやっていけるかな…?

 不安げな顔に気がついたのか、担任の先生が「大丈夫だよ」と笑いかけてくれました。
 私は少しだけ気が楽になって、こくりと頷きます。

 先生が教室の扉を開けて、私を導くように中に入ります。
 遊んでいた人や、おしゃべりしていた人も一斉に先生と私の方を見つめます。

 ド、ドキドキします…!!

「今日からこの組の仲間になる、クリスさんだ」
「くっ、クリス、です!よ、よろしくお願いしますっ」

 固くなりながらも頑張ってご挨拶をしました。
 勢いで言えたようなものですが、ドキドキするものはドキドキします…!

「わー、女の子だー!」
「よろしくねー!」
「小っちゃい、かわいい~」

 みんなから思い思いの言葉が投げかけられ、そのほとんどが受け入れてくれる言葉で、ほっとしました。
 この光組は、私と同じくらいの年齢の子が多いみたいでした。

「クリスさんの席は、窓側の後ろから二番目。わからないことがあれば、隣の席のカイト君、後ろの席のリリーさんに聞くんだぞ。カイト君、リリーさん、クリスさんをよろしくな」

 さわやかな担任の先生に促され、こくりと首を縦に振って返事をします。
 自分の席の方を見ると、カイト君が面倒そうな顔で、リリーさんがにこにこしながら返事をしていました。

 わああ、お友達になれるかな!?

 ドキドキしながら席に着くと、早速後ろのリリーさんが話しかけてくれました。

「改めて、私、リリー。みんなからは、リィって呼ばれてるの。クリスちゃんもリィって呼んでね」
「うん、リィちゃん」

 わー、近くで見ると、ふわふわしててかわいい女の子です!
 薄いストロベリーピンクの髪は、ウェーブがかかっていて、大きな目は新緑を思い出すような、さわやかな緑色です。
 リィちゃんが笑うたびに髪の毛がふわふわ揺れて、癒し系です!

「面倒だなぁー。俺はカイト。俺からは何も言わねーから、わからないことだけ質問してくれ」
「う、うん…」

 な、なんだか仲良くなれそうか不安です。
 カイト君の髪はダークブラウン色。
 短い髪の毛はぴょんぴょん跳ねていて、くせっ毛みたいです。
 目は夕陽のような色で、見ようによっては黄色にも見えます。
 機嫌が悪いのか、目つきは怖いです。
 それに、たぶん私よりもちょっと年上な気がします…。

「さあ、授業を始めるぞー。教科書の二十八ページを開いてー」

 先生の授業開始の合図で、みんなが黒板へと意識を向けます。
 私も慌てて真新しい教科書を引っ張り出して、今日最初の授業に耳を傾けました。





 リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン…。


 ふう、やっと放課後です。
 あとは教室の掃除をして、帰るだけです。
 今日は文字の読み書きが中心の授業だったから、手が疲れました。

 箒でごみを集めていると、リィちゃんが話しかけてきました。

「クリスちゃん、家に帰る組?私は寮組なの」
「うん、家に帰る組だよ」
「学校から近いの?歩いて行ける距離?」
「ううん、そんなに近くもないけど遠くもないよ。馬車で三十分くらい」
「だったら、お休みの日はいっしょに遊べるね!私のお部屋にも遊びに来てね!」
「え…っ、う、うん!絶対遊びに行く!」

 思わずリィちゃんの手を握って、喜びをいっぱい表します。
 リィちゃんも笑顔を返してくれて、絶対遊ぼうねと約束しました。

 う、うれしい…!

 村には、私と同じくらいの年の女の子はいなかったから、話せるだけでも幸せなのに、いっしょに遊びに行こうだなんて!
 感動していると、教室の扉が開いて、聞き慣れた声がしました。

「クリスー。迎えに来たぞー」
「お兄ちゃん!」

 そうでした、お兄ちゃん達もこの学校に通っていたんでした。
 そこにいたのは、笑顔で手を振る上のお兄ちゃん。
 背が高いから、存在感がすごいです。
 急な来客にびっくりしたのか、光組のみんなはポカンとお兄ちゃんを見つめます。

 は!そういえば、お兄ちゃん達の紹介がまだでした!

 上はクロードお兄ちゃん。お父さんと同じ、村の自警団に入っていて、攻撃魔法や剣術が得意です。
 髪は空色を溶かし込んだようなきれいな銀色で、葡萄を絞った時のような濃い紫の目をしています。
 二年前にこの学校を卒業して、今は剣術の先生としてときどき教えに来ています。
 卒業式の時に海組代表で、すごくかっこいい剣技を披露して、みんなからたくさん拍手をもらっていました!
 かっこよくて、とても面倒見がいいお兄ちゃんです。

 そして、下はレガロお兄ちゃん。魔法と歴史が得意です。
 九年生の空組です。もちろん飛び級しています!
 夜の霧のようなグレーの少し長めの髪を後ろで一つに結んでいます。
 目の色は落ち着いたアンバーで、レガロお兄ちゃんの雰囲気をよく表していると思います。
 私相手でも敬語でお話しして、冷たい感じに見られることが多いけど、わからないことがあればきちんと向き合ってくれる、クールだけど熱心で優しいお兄ちゃんです。

 お兄ちゃん達は、私の目標で、憧れです!

「お兄ちゃん、今日授業だったの?」
「いや、クリスの学校初日だからな。心配くらい当然だろう?レガロもクリスを心配してたぞ、ほら」

 クロードお兄ちゃんの後ろを見ると、レガロお兄ちゃんが本を持って立っていました。
 ちょっとだけ不機嫌な顔しています。なんでだろう?

「…余計なことは言わないでください、兄上」
「本当のことだろう?全く素直じゃないな」

 からかうように笑うクロードお兄ちゃんに、ふんと顔を背けるレガロお兄ちゃん。
 でもその場を動かないから、一緒に帰ってくれるんだね。
 二人のお兄ちゃんにかわいがられていることを感じて、思わず笑みがこぼれちゃいます。

「今、お掃除してるの。終わったら、すぐ帰る用意するから玄関ホールで待ってて!」
「ああ。それじゃあ、待ってるな」
「忘れ物はしないでくださいね」

 お兄ちゃん達を見送って、掃除を再開しようとしたら、手を止められます。
 がっちり私の手を掴んでいたのは、リィちゃんでした。
 どうしたんだろう?震えてる?

「…っ、クリスちゃんて、クロード様とレガロ様の妹なの!?」
「う、うん。そうだけど?」
「ええーーーーーーーーっ!!」

 リ、リィちゃん…!?

 私の返事を聞いた瞬間、リィちゃんはものすごい叫び声を上げました。
 顔を赤くしながら、きゃあきゃあと、落ち着きません。
 突然のリィちゃんの変わり様に、戸惑ってしまいます。
 そして、なんだろう?気のせいでしょうか?
 みんなの視線が叫んでいるリィちゃんよりも私に集まっている気がします。

「全然気づかなかった!あんまり似てないのね!?」
「あ…うん、よく言われるよ」

 困り笑いするしかないです。
 リィちゃんの興奮は収まらないようで、私の手を握ってぶんぶん振ります。
 お掃除、終わらせないと帰れないよ~。

「リ、リィちゃん、お掃除終わらせよう?」
「は!そうよね!お兄様達を待たせたらだめだもんね!」
「う、うん…」

 とにかく落ち着いてくれたみたいなので、一気に掃除を終わらせます。
 鞄に新しい教科書を入れて時計を見ると、お兄ちゃん達と別れて二十分くらい経っていました。

「それじゃあね、リィちゃん。また明日。ばいばーい」
「あああっ、待って待って、一緒に行くー!」

 リィちゃんも急いで鞄に荷物を詰め込んで、教室を出ます。
 他に何人か私についてくるように教室を出たのが見えました。

 これって、やっぱりお兄ちゃん達を見たい…のかな?

 戸惑いながら、階段を二階分降りて、玄関ホールまで早足で向かいます。
 近くまで来ると、人がいっぱいになってきました。
 何の騒ぎでしょうか?

 人だかりの方を見ると、背の高いクロードお兄ちゃんの頭が見えます。
 きっと、一緒にレガロお兄ちゃんもいるとは思いますが…。

 もしかして、お兄ちゃん達って、実はすごい有名人?

 さっきのリィちゃんや組の子達の反応も、この人だかりの雰囲気と似ています。
 どうしよう、と人だかりを見ていると、クロードお兄ちゃんが私に気がつきました。

「ク、クリス!助けてくれ!」

 その言葉で一斉にみんなが私の方を向きました。

「え、えと…、帰ろう、か…お兄ちゃん…」





 この時向けられた、みんなの目は忘れられないです。




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