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第1章 ◆ はじまりと出会いと
7. 魔法実技
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あのおでかけの日から、リィちゃんとはすっかり仲良しになりました。
お休みの日にお互いのお部屋に遊びに行ったり、魔法の練習、勉強会をするほどです。
リィちゃんは同い年だけど、私にとってお姉ちゃんみたいな存在です。
優しく笑うところや小さな気遣いがリィちゃんを大人っぽく見せてると思います。
でも、リィちゃんは相変わらず、お兄ちゃん達を見かけると叫んでいます。
一緒にいると緊張してしゃべれないそうで、いつも遠くから見つめています。
その様子は、まるで人気アイドルに会ったファンのようです。
今日の授業は、はじめての魔法実技です。
三人グループを組んで、うまくできたかどうかお互いに点数をつけ合います。
今までも授業で魔法の練習をすることはありましたが、それは小さな物を動かしたりするくらいのものでした。
今回の授業は、習った魔法を自由に実践できる時間です。
しかも外での実技なので、危険な魔法以外ならどんな魔法を使ってもいいのだそうです!
「クリスちゃん、一緒に組みましょう」
「うんっ、リィちゃん!」
リィちゃんが声をかけてくれました。
えへへ、うれしい。
私はまだ魔法が使えませんが、点数はつけられるので授業に参加しています。
あと一人、誰を誘おうか?
周りをきょろきょろ見渡せば、大体みんな組み終っているようです。
もう実技を始めているグループもいます。
別のところに目を向けると、樹の傍に座っているカイト君を見つけました。
「リィちゃん、カイト君がまだ誰とも組んでないよ。誘ってくるね!」
「あっ、クリスちゃん!」
言い終わらないうちにカイト君のもとへ走ります。
カイト君は、走ってくる私に気がついて、ちょっと不機嫌な顔になりました。
「なんだよ。何か用か?」
「カイト君、一緒にグループ組もうよ」
「組まない」
ガーン。
思いっきり嫌そうな顔で即答されてしまいました。
カイト君は、ふんっとそっぽを向いています。
そこへ、リィちゃんが追い付いてきました。
「クリスちゃん、カイトは…ちょっと事情があって魔法実技の授業には参加しないの」
「えっ?」
カイト君は魔法が使えないのでしょうか?
ううん、魔法の授業では、ものを動かす魔法をいとも簡単に使っていました。
私みたいに魔力がとても弱いわけでもなさそうです。
不思議そうにカイト君を見つめていると、ちっと、舌打ちされてしまいました。
「リリー、余計なこと言うな」
「でも…本当のことでしょう?」
リィちゃんは、カイト君が魔法を使えない理由を知っているようです。
二人ともあまりいい顔をしていません。
きっと、私にはわからない、簡単な理由ではないんだろうなと思いました。
「ね、カイト君。やっぱり私とグループ組んで?」
「あのなぁ、リリーの言葉聞いてなかったのかよ?」
「うん。だからだよ。私だって、全然魔法が使えないよ。でも、他の人の魔法を近くで見るのはとってもわくわくする!だから、カイト君も一緒に見ようよ!」
離れたところで一人で座っているよりは、みんなの魔法を見ている方が楽しいと思います!
カイト君は、何かを考えるような顔をして見つめてきます。
私もその目をじっと見つめて返事を待ちます。
すると、あきらめたようにため息をついたカイト君は、その場から立ち上がりました。
「しょうがねーなぁ。組んでやるよ」
「本当!?やったぁ!」
カイト君の手を握って、ぶんぶん振ります。
嫌そうな顔を返してきましたが、そんなの気にしません!
そして、もう一つ、一緒に組みたい理由を言ってみました。
「えへへ。もしカイト君がよかったら、私の魔法見てくれる?簡単な魔法をお兄ちゃんに教えてもらったけど、まだできないの」
「げぇ、それが一番の理由だろ?」
ますます嫌そうな顔をするカイト君。
リィちゃんは、私達のやり取りを見て、ちょっと驚いていました。
「カイト君、魔法が使えなくても、わかるんでしょう?私がどうして使えないのか教えてくれたらうれしいな!」
「……まあ、見てやるだけなら」
およ?ちょっとだけカイト君うれしそう。
魔法が使えなくても、魔法が嫌いってわけじゃないんだね。むしろ好きなのかな。
にこにこしていると、カイト君は逃げるようにずんずんと行ってしまいました。
私とリィちゃんは慌てて追いかけます。
先生にグループメンバーを報告して、さあ、やっと実技です!
他のグループとの間を十分に取って、まず誰から魔法を使うかを決めます。
「まずはリリーから使えよ。その次はクリス。じゃあ、点数つけるぞ」
「はーい。リィちゃん頑張ってね!」
「ええ!」
てきぱきと順番を決めたカイト君は、点数表の用紙を片手に立ちます。
私もカイト君の隣に立って、リィちゃんを見つめます。
私達から一定の距離を取ったリィちゃんは静かに魔法の詠唱を始めます。
この詠唱は、風の中級魔法です。
リィちゃんが発する詠唱は、とても心地よくて、きれいな発音でした。
詠唱が終わると、リィちゃんの周りを魔法文字が囲みます。
その魔法文字、それぞれが糸のように空に向かって光を放ち、やがてそれらが一つに編み込まれました。
すると、編み込まれた大きな光の柱は、竜巻になりました。
竜巻はリィちゃんを中心に周りを自由に移動します。
きちんとリィちゃんの意志で動いているようで、リィちゃんが右に手を動かせば右の方向へ、下に降ろせばその場に留まります。
すごい、すごい、すごい!
こんなに自由自在に魔法が使えるリィちゃんは本当にすごいです!
他のグループのみんなもびっくりしながらリィちゃんの魔法に見入っています。
「すごいね!ね、カイト君!」
「………」
興奮しながらカイト君を見ると、その顔は明るいものではありませんでした。
それは、羨ましそうな、さみしそうな、どこか遠くを見ている顔。
どうして、そんな顔をするの?
カイト君は、ときどきそういう顔をします。
教室でも、ふとした時に他の生徒を見る目がどこかさみしそうなのです。
カイト君のそんな顔を見たくなくて、思わず袖を引っ張ってしまいました。
「…あ?悪い、なんか言ったか?」
「う、ううん!リィちゃんの魔法、すごすぎて、点数なんかつけられないって思っちゃって」
カイト君はすぐにいつもの顔に戻りました。
それにほっとして、リィちゃんの方を見れば、竜巻が小さくなっていて魔法の終わりを告げていました。
竜巻が完全に消えると、リィちゃんが走り寄ってきて、「どうだった?」と笑顔で聞いてきます。
「詠唱長すぎ。リリーの魔力なら、もっと短縮できるだろ。あと、竜巻の強さが一定じゃなかったぞ」
「いつもながら厳しいわね、カイト」
リィちゃんはカイト君の言葉を聞いて困り笑いをしました。
それでも、自分の実力をわかっているのか、文句なんて言いません。
付けてもらった点数表を見ながら、カイト君と魔法の詠唱について話しています。
二人ともすごい。
今日はすごいをいっぱい言っている気がします。
だって、本当にすごいから。
リィちゃんの魔法も、それをきちんと評価できるカイト君の目も。
私は、何ができるだろう?
魔法も使えなければ、見る目もない。
無いものばかりで、何を持っているんだろう?
少し、二人が羨ましいなと思ってしまいました。
「おい、次はクリスだぞ」
「うぇっ!?う、うん!」
ジト目でカイト君が見つめてきます。
いけない、いけない。集中です!
「クリスちゃん、頑張って!」
「うん!」
私は大きな魔法が使えないので、二人から少し距離を取るくらいのところまでで十分です。
使う魔法は、初歩中の初歩、石を持ち上げること。
大きめの石を探して、足元に置きます。
それから、自分の中の魔力を集めて、足元の石に注ぐようなイメージを描きます。
初歩中の初歩なので、詠唱は一言。
「浮遊!」
そう唱えて、石に手をかざします。
石が魔力を受けて、魔法が発動すると浮かび上がります。
…。
……。
………浮かび上がるはずなんです。
石はまったく浮かび上がりませんでした。
何度も、同じようにして唱えても石は動きません。
リィちゃんははらはらしながら、カイト君は冷静な目で見ていました。
「クリス。魔力、注いでるか?」
「注いでるよ。ちゃんとイメージしてる!」
なかなか浮かばないので、涙目になりそうです。
カイト君は、何か考えているようでした。
リィちゃんは心配そうにカイト君を見つめます。
「…ちょっと考えさせてくれ」
「うん?」
考えさせてくれって、それほど私の魔法が下手なの…!?
軽くショックを受けていると、カイト君が少し困った顔で言いました。
「おまえの魔法が下手って言うわけじゃねーよ。ちょっと、違和感があって、それを調べないと何とも言えねー」
「違和感って…?」
自分では全然違和感がないんだけど、どういうことだろう?
「魔法は魔力と体力が必要だ。でも、おまえはうまく使えない。いくらなんでもおかしいだろ。七歳って年齢でも、浮遊魔法くらいの魔力と体力は十分あるはずだ」
「確かにそうだわ。この組の魔力が低い子だって、初級の炎魔法を使えているもの」
カイト君の言葉にリィちゃんも頷きます。
二人はしばらく考えるように黙ってしまって、声をかけることができませんでした。
そこへ、動きがない私達に気がついたのか、先生がやってきました。
「三人とも、終わったのかい?」
「あっ、えと。はい!」
慌ててリィちゃんが点数表を先生に渡します。
もちろん、リィちゃんの分しかありません。
先生はそれを受け取って、ちらりと、カイト君を見つめます。
カイト君はまだ考えていて、その視線には気がついていないようでした。
その様子を見ると、小さくため息をついて、私の方に向きます。
「クリスさんは、もう少しでできそうかな?」
「……わからないです」
できなかったことがやっぱり悔しくて俯きながら先生に答えます。
すると、大きな手が優しく頭をなでてきました。
びっくりして見上げると、少し困った顔で笑う先生が。
「わからない、なら、これから知る努力をするのかな?」
「え…?」
「わからないことは、たくさんあるね。難しくて、できなくて、足りなくて。でも、重要なのは、どうしてそれができないのかを知ることだよ」
真剣な顔で言われました。
怒られているわけではないけど、胸に刺さったような気がしました。
知る努力をしていたのだろうかと思ったからです。
「難しいことかもしれないけど、クリスさんはもっと自分の魔力について見つめるといい。闇雲では、できるものもできないからね」
そう言って、先生は私達から離れていきました。
それを呆然と見送っていたら、隣にリィちゃんが来てくれました。
反対側にはカイト君も。
「確かに、自分の魔力を知ることは大切だわ」
「ああ。魔力は千差万別。おまえだけの魔力なんだからな」
二人とも、私を励ますように強く言ってくれました。
わからない。
できない。
足りない。
言うだけなら簡単です。
わからないなら、調べればいい。
できないなら、どうしてできないか考えればいい。
足りなければ、助けてもらえばいい。
そう、いつもの考え方だ。
二人を交互に見て、にこっと笑います。
「私、意地になってたかも。魔法が使えない理由から、逃げてた。知ることにも、向き合うことにも」
先生の言うとおりです。
クロードお兄ちゃんも、レガロお兄ちゃんも言っていました。
どんなに魔法の知識を身に着けても、体を鍛えていても、魔力を認識しないと魔法は使えない。
それは、教えてあげたくても、教えられない。
だって、自分にしか知ることができないんだから。
それがようやくわかりました。
できないから、できるまでやってみるじゃダメなんだ。
できることを探すのも大事だけど、できない理由を知るのも大事なことなんですね。
私はこの日、また一つ自分の未熟さがわかりました。
お休みの日にお互いのお部屋に遊びに行ったり、魔法の練習、勉強会をするほどです。
リィちゃんは同い年だけど、私にとってお姉ちゃんみたいな存在です。
優しく笑うところや小さな気遣いがリィちゃんを大人っぽく見せてると思います。
でも、リィちゃんは相変わらず、お兄ちゃん達を見かけると叫んでいます。
一緒にいると緊張してしゃべれないそうで、いつも遠くから見つめています。
その様子は、まるで人気アイドルに会ったファンのようです。
今日の授業は、はじめての魔法実技です。
三人グループを組んで、うまくできたかどうかお互いに点数をつけ合います。
今までも授業で魔法の練習をすることはありましたが、それは小さな物を動かしたりするくらいのものでした。
今回の授業は、習った魔法を自由に実践できる時間です。
しかも外での実技なので、危険な魔法以外ならどんな魔法を使ってもいいのだそうです!
「クリスちゃん、一緒に組みましょう」
「うんっ、リィちゃん!」
リィちゃんが声をかけてくれました。
えへへ、うれしい。
私はまだ魔法が使えませんが、点数はつけられるので授業に参加しています。
あと一人、誰を誘おうか?
周りをきょろきょろ見渡せば、大体みんな組み終っているようです。
もう実技を始めているグループもいます。
別のところに目を向けると、樹の傍に座っているカイト君を見つけました。
「リィちゃん、カイト君がまだ誰とも組んでないよ。誘ってくるね!」
「あっ、クリスちゃん!」
言い終わらないうちにカイト君のもとへ走ります。
カイト君は、走ってくる私に気がついて、ちょっと不機嫌な顔になりました。
「なんだよ。何か用か?」
「カイト君、一緒にグループ組もうよ」
「組まない」
ガーン。
思いっきり嫌そうな顔で即答されてしまいました。
カイト君は、ふんっとそっぽを向いています。
そこへ、リィちゃんが追い付いてきました。
「クリスちゃん、カイトは…ちょっと事情があって魔法実技の授業には参加しないの」
「えっ?」
カイト君は魔法が使えないのでしょうか?
ううん、魔法の授業では、ものを動かす魔法をいとも簡単に使っていました。
私みたいに魔力がとても弱いわけでもなさそうです。
不思議そうにカイト君を見つめていると、ちっと、舌打ちされてしまいました。
「リリー、余計なこと言うな」
「でも…本当のことでしょう?」
リィちゃんは、カイト君が魔法を使えない理由を知っているようです。
二人ともあまりいい顔をしていません。
きっと、私にはわからない、簡単な理由ではないんだろうなと思いました。
「ね、カイト君。やっぱり私とグループ組んで?」
「あのなぁ、リリーの言葉聞いてなかったのかよ?」
「うん。だからだよ。私だって、全然魔法が使えないよ。でも、他の人の魔法を近くで見るのはとってもわくわくする!だから、カイト君も一緒に見ようよ!」
離れたところで一人で座っているよりは、みんなの魔法を見ている方が楽しいと思います!
カイト君は、何かを考えるような顔をして見つめてきます。
私もその目をじっと見つめて返事を待ちます。
すると、あきらめたようにため息をついたカイト君は、その場から立ち上がりました。
「しょうがねーなぁ。組んでやるよ」
「本当!?やったぁ!」
カイト君の手を握って、ぶんぶん振ります。
嫌そうな顔を返してきましたが、そんなの気にしません!
そして、もう一つ、一緒に組みたい理由を言ってみました。
「えへへ。もしカイト君がよかったら、私の魔法見てくれる?簡単な魔法をお兄ちゃんに教えてもらったけど、まだできないの」
「げぇ、それが一番の理由だろ?」
ますます嫌そうな顔をするカイト君。
リィちゃんは、私達のやり取りを見て、ちょっと驚いていました。
「カイト君、魔法が使えなくても、わかるんでしょう?私がどうして使えないのか教えてくれたらうれしいな!」
「……まあ、見てやるだけなら」
およ?ちょっとだけカイト君うれしそう。
魔法が使えなくても、魔法が嫌いってわけじゃないんだね。むしろ好きなのかな。
にこにこしていると、カイト君は逃げるようにずんずんと行ってしまいました。
私とリィちゃんは慌てて追いかけます。
先生にグループメンバーを報告して、さあ、やっと実技です!
他のグループとの間を十分に取って、まず誰から魔法を使うかを決めます。
「まずはリリーから使えよ。その次はクリス。じゃあ、点数つけるぞ」
「はーい。リィちゃん頑張ってね!」
「ええ!」
てきぱきと順番を決めたカイト君は、点数表の用紙を片手に立ちます。
私もカイト君の隣に立って、リィちゃんを見つめます。
私達から一定の距離を取ったリィちゃんは静かに魔法の詠唱を始めます。
この詠唱は、風の中級魔法です。
リィちゃんが発する詠唱は、とても心地よくて、きれいな発音でした。
詠唱が終わると、リィちゃんの周りを魔法文字が囲みます。
その魔法文字、それぞれが糸のように空に向かって光を放ち、やがてそれらが一つに編み込まれました。
すると、編み込まれた大きな光の柱は、竜巻になりました。
竜巻はリィちゃんを中心に周りを自由に移動します。
きちんとリィちゃんの意志で動いているようで、リィちゃんが右に手を動かせば右の方向へ、下に降ろせばその場に留まります。
すごい、すごい、すごい!
こんなに自由自在に魔法が使えるリィちゃんは本当にすごいです!
他のグループのみんなもびっくりしながらリィちゃんの魔法に見入っています。
「すごいね!ね、カイト君!」
「………」
興奮しながらカイト君を見ると、その顔は明るいものではありませんでした。
それは、羨ましそうな、さみしそうな、どこか遠くを見ている顔。
どうして、そんな顔をするの?
カイト君は、ときどきそういう顔をします。
教室でも、ふとした時に他の生徒を見る目がどこかさみしそうなのです。
カイト君のそんな顔を見たくなくて、思わず袖を引っ張ってしまいました。
「…あ?悪い、なんか言ったか?」
「う、ううん!リィちゃんの魔法、すごすぎて、点数なんかつけられないって思っちゃって」
カイト君はすぐにいつもの顔に戻りました。
それにほっとして、リィちゃんの方を見れば、竜巻が小さくなっていて魔法の終わりを告げていました。
竜巻が完全に消えると、リィちゃんが走り寄ってきて、「どうだった?」と笑顔で聞いてきます。
「詠唱長すぎ。リリーの魔力なら、もっと短縮できるだろ。あと、竜巻の強さが一定じゃなかったぞ」
「いつもながら厳しいわね、カイト」
リィちゃんはカイト君の言葉を聞いて困り笑いをしました。
それでも、自分の実力をわかっているのか、文句なんて言いません。
付けてもらった点数表を見ながら、カイト君と魔法の詠唱について話しています。
二人ともすごい。
今日はすごいをいっぱい言っている気がします。
だって、本当にすごいから。
リィちゃんの魔法も、それをきちんと評価できるカイト君の目も。
私は、何ができるだろう?
魔法も使えなければ、見る目もない。
無いものばかりで、何を持っているんだろう?
少し、二人が羨ましいなと思ってしまいました。
「おい、次はクリスだぞ」
「うぇっ!?う、うん!」
ジト目でカイト君が見つめてきます。
いけない、いけない。集中です!
「クリスちゃん、頑張って!」
「うん!」
私は大きな魔法が使えないので、二人から少し距離を取るくらいのところまでで十分です。
使う魔法は、初歩中の初歩、石を持ち上げること。
大きめの石を探して、足元に置きます。
それから、自分の中の魔力を集めて、足元の石に注ぐようなイメージを描きます。
初歩中の初歩なので、詠唱は一言。
「浮遊!」
そう唱えて、石に手をかざします。
石が魔力を受けて、魔法が発動すると浮かび上がります。
…。
……。
………浮かび上がるはずなんです。
石はまったく浮かび上がりませんでした。
何度も、同じようにして唱えても石は動きません。
リィちゃんははらはらしながら、カイト君は冷静な目で見ていました。
「クリス。魔力、注いでるか?」
「注いでるよ。ちゃんとイメージしてる!」
なかなか浮かばないので、涙目になりそうです。
カイト君は、何か考えているようでした。
リィちゃんは心配そうにカイト君を見つめます。
「…ちょっと考えさせてくれ」
「うん?」
考えさせてくれって、それほど私の魔法が下手なの…!?
軽くショックを受けていると、カイト君が少し困った顔で言いました。
「おまえの魔法が下手って言うわけじゃねーよ。ちょっと、違和感があって、それを調べないと何とも言えねー」
「違和感って…?」
自分では全然違和感がないんだけど、どういうことだろう?
「魔法は魔力と体力が必要だ。でも、おまえはうまく使えない。いくらなんでもおかしいだろ。七歳って年齢でも、浮遊魔法くらいの魔力と体力は十分あるはずだ」
「確かにそうだわ。この組の魔力が低い子だって、初級の炎魔法を使えているもの」
カイト君の言葉にリィちゃんも頷きます。
二人はしばらく考えるように黙ってしまって、声をかけることができませんでした。
そこへ、動きがない私達に気がついたのか、先生がやってきました。
「三人とも、終わったのかい?」
「あっ、えと。はい!」
慌ててリィちゃんが点数表を先生に渡します。
もちろん、リィちゃんの分しかありません。
先生はそれを受け取って、ちらりと、カイト君を見つめます。
カイト君はまだ考えていて、その視線には気がついていないようでした。
その様子を見ると、小さくため息をついて、私の方に向きます。
「クリスさんは、もう少しでできそうかな?」
「……わからないです」
できなかったことがやっぱり悔しくて俯きながら先生に答えます。
すると、大きな手が優しく頭をなでてきました。
びっくりして見上げると、少し困った顔で笑う先生が。
「わからない、なら、これから知る努力をするのかな?」
「え…?」
「わからないことは、たくさんあるね。難しくて、できなくて、足りなくて。でも、重要なのは、どうしてそれができないのかを知ることだよ」
真剣な顔で言われました。
怒られているわけではないけど、胸に刺さったような気がしました。
知る努力をしていたのだろうかと思ったからです。
「難しいことかもしれないけど、クリスさんはもっと自分の魔力について見つめるといい。闇雲では、できるものもできないからね」
そう言って、先生は私達から離れていきました。
それを呆然と見送っていたら、隣にリィちゃんが来てくれました。
反対側にはカイト君も。
「確かに、自分の魔力を知ることは大切だわ」
「ああ。魔力は千差万別。おまえだけの魔力なんだからな」
二人とも、私を励ますように強く言ってくれました。
わからない。
できない。
足りない。
言うだけなら簡単です。
わからないなら、調べればいい。
できないなら、どうしてできないか考えればいい。
足りなければ、助けてもらえばいい。
そう、いつもの考え方だ。
二人を交互に見て、にこっと笑います。
「私、意地になってたかも。魔法が使えない理由から、逃げてた。知ることにも、向き合うことにも」
先生の言うとおりです。
クロードお兄ちゃんも、レガロお兄ちゃんも言っていました。
どんなに魔法の知識を身に着けても、体を鍛えていても、魔力を認識しないと魔法は使えない。
それは、教えてあげたくても、教えられない。
だって、自分にしか知ることができないんだから。
それがようやくわかりました。
できないから、できるまでやってみるじゃダメなんだ。
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