クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

文字の大きさ
10 / 87
第1章 ◆ はじまりと出会いと

10. カイトとリリー

しおりを挟む
 こんにちは。私はリリー。
 グランツ学園光組八番に在籍してるわ。
 みんなからはリィって呼ばれてるの。よろしくね。
 私が特に仲良くしているのは、三ヵ月前に組に入ってきたクリスちゃん。それと、ちょっと目つきの悪いカイトよ。


 そのクリスちゃんとカイトが喧嘩をした。
 私から見れば、喧嘩っていうものじゃなかったけど、あれから一週間が経ってる。
 いまだに二人の雰囲気は最悪で、周りが心配するほど。

 クリスちゃんは優しいから、怒らせたことをとても気にしてる。
 大体、カイトが悪いと思うのよね。
 意地張っちゃってクリスちゃんとなかなか仲直りしない。

「これは、私がカイトに言った方がいいわね」
 
 その日、クリスちゃんと図書室に行く前に、カイトに話をすることにした。
 別れ際に、クリスちゃんにとてもさみしそうな顔をされてしまったけど。

 ごめんね、クリスちゃん。待っててね!

 クリスちゃんのために、急いでカイトのいそうな場所を探した。



 もう、カイトはどこに行ったのかしら?

 教室にもいなかったし、校庭にもいなかった。
 組の子達もカイトがどこに行ったかは知らないと言っていた。
 もう寮に帰ってるのかしら?

 校舎を出て、日の当たらない暗い中庭を通る。
 中庭を通れば寮にすぐに行ける。いわば近道ね。
 小走りで通り過ぎようとしたら、カイトが花壇に座っているのが見えた。
 そこは暗くて、見ようとして見ないと見つけられなかったと思う。

 そうだった…相変わらず、暗い場所が好きなのね。

 方向転換をして、少し怒りながら、ずんずんとカイトのもとへ近づくと、あっちも私に気がついた。
 その顔は困り顔だったけど、そんなの気にしない。
 傍まで行って、座っているカイトを見下ろす。
 諸々の怒りを込めてね。

「カイト、私が来た理由、わかるわよね?」
「……」

 カイトは少し戸惑って、俯いてしまった。
 だけど、すぐに顔を上げて頷いた。

「わかってるよ。クリスと仲直りしろって言うんだろ?」
「わかってるなら仲直りしてよ。クリスちゃん、すっごく悩んでるんだから」

 はっきり言って、カイトはずるいと思う。
 何も知らないクリスちゃんに勝手に怒って、悲しい思いをさせてる。
 自分のこと何も話してないのに、クリスちゃんを責めるのは違うわよ。

 カイトは、睨みつけられた視線から逃げるように目を逸らす。

「悪かったよ。クリスは何も悪くない」
「それはクリスちゃん本人に言って」

 私に謝ってどうするの。
 本人に言わなきゃ、意味ないんだからね!

 殴ってやりたいと、手を強く握りしめる。
 でも、それは叶わなかった。
 カイトが悲しげに笑ったから。
 それは、見た目と不釣り合いな大人の笑い方。

 この顔、久しぶりに見たかもしれない…。

「…俺、クリスに嫌われたかな…もう友達じゃないかな…?」
「……」

 何よ、急に弱気になって。

 カイトは、ぶっきらぼうでちょっと意地悪に見られがちだけど、本当はそうじゃない。
 さみしがり屋で、結構傷つきやすいところがある。
 それは、子ども特有のものではなくて、カイトは本当に孤独なのだ。
 いろんなものを諦めて、捨ててしまったから。
 そういう風に見られないのは、が違うのだから、仕方ない。

「カイト…喧嘩したくなかったんでしょ?」
「…それは…」

 カイトは暗い顔で足元を見つめている。
 その姿から、カイトもクリスちゃんと喧嘩したことを後悔しているのがわかる。
 そんなに後悔するくらいなら、怒らなければいいのに。

 カイトを見つめながら、強く握った手の力を抜く。

 わかってる。わかってるわよ。
 カイトがクリスちゃんと喧嘩をしたくてしたわけじゃないってこと。
 でも、思わず怒ってしまうくらい、心が乱されたのよね?

 クリスちゃんは知らずに言ってしまったけど、カイトにとって魔法について訊かれるのはつらいことなの。
 それは、とても重くて、カイト自身ではどうにもならないことだから。

 でも私は、カイトが魔法を使うには、カイト自身が動かなければいけないと思う。

 偶然知ってしまったけど、私はカイトが魔法を使えない理由を知っている。
 それは他人が言ってはいけないこと。
 カイト自身の口からでないと、ダメなことなの。
 それがもどかしくてたまらない。

 いっそのこと、クリスちゃんが…。

「クリスが…俺のこと、好きになってくれたらいいのに…」

 まったく同じことを考えていた私は、カイトを睨む。
 そして、甘えた考えを持った自分にも叱咤する。

「クリスちゃんが優しいからって、甘えないでよ。そうなりたいなら、自分から話さないと意味ないでしょ!」
 
 誰しも秘密を持ってる。
 カイトも、私も、クリスちゃんに言ってない秘密がある。
 私は、そんなに大した秘密ではないけど、カイトは違う。
 カイトにとって自分の秘密を話すということは、それなりの覚悟がいること。

 でも、それを乗り越えなくちゃいけない。
 もし、クリスちゃんを選ぶのなら、カイトはその覚悟をしなければいけないの。

 簡単に「好きになってくれたら」なんて言えない。言ってはいけない。

「ごめん、リリー。俺はいつもおまえに怒られてばかりだな」
「カイトがヘタレだからよ」
「……否定はできねーな…」

 カイトは小さく笑うと、顔を上げた。
 その顔は、もう暗いものではなかった。

「クリスに謝る。このままじゃ、ダメだもんな」
「もっと早くそうしてよ」
「リリーも俺に厳しいよな」

 それはお互いを知っているから。
 だからこそ、言い合えるのだと思う。
 ここまで打ち解けるのに時間がかかった分、信頼が私たちの間にはあるの。

 困り笑いをするカイトに、私も笑みを返した。
 そして、大事なことを訊いてみる。

「クリスちゃんには…いつか、話すの?」
「……どうだろうな。わかんねー。クリスも魔法で悩んでるから、もし必要なら俺が言ってもいいと思う」
「そう。カイトがそこまで言うのなら、いいと思うわ。それはカイトにしか決められないことだから」

 これから先、私もカイトもいろんな人に出会う。
 だけど、何度でもクリスちゃんをと思う。
 素直で一生懸命で、かわいい。
 そして、とても温かくて、一緒にいると心が穏やかになれる。
 こんなに純粋で透明な子はいない。
 私もカイトもそんなクリスちゃんが好き。
 クリスちゃんが困っているなら、助けてあげたいと思うほど。

 カイトは、目を細めるようにして笑った。
 私もそれに釣られて微笑んだ。





 さあ、仲直りをしに行きましょう。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

「魔物の討伐で拾われた少年――アイト・グレイモント」

(イェイソン・マヌエル・ジーン)
ファンタジー
魔物の討伐中に見つかった黄金の瞳の少年、アイト・グレイモント。 王宮で育てられながらも、本当の冒険を求める彼は7歳で旅に出る。 風の魔法を操り、師匠と幼なじみの少女リリアと共に世界を巡る中、古代の遺跡で隠された力に触れ——。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...