クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

11. 仲直り

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 リィちゃんと別れて、一人で図書室に来ました。
 図書室の扉をゆっくり開ければ、司書さんが挨拶をしてくれました。
 休みの日以外は、ほぼ毎日リィちゃんとカイト君と一緒に来ていたから覚えられてしまいました。
 司書さんに軽くおじぎをして、図書室の一番奥にある机の席を取ります。
 この机は一人用だけど、作業ができるように大きめなので、三人で使うにはちょうどいい机です。
 リィちゃんとカイト君と一緒に図書室に来るときは、いつもこの机を使っていました。

 鞄を椅子に掛けて、ノートとペンケースを机に置いたら、魔法の本を選びに行きます。本の位置は大体覚えています。
 迷わずに本を何冊か取り、ついでに辞書を二種類追加して席に戻りました。
 ぱらぱらと本を開いて、昨日の続きから読みはじめます。
 でも、集中できなくてすぐに止まってしまいます。

 リィちゃん、どこに行っちゃったのかな?
 一人でこの机を使うには広すぎるよ…。

 開いた本に突っ伏して、どれくらい経ったのでしょうか。
 足音が近づいてきて、軽く肩を叩かれました。

「クリスちゃん、お待たせ」

 顔を上げてみると、そこにいたのはリィちゃんでした。
 その隣にカイト君がいたことにびっくりしました。

「リィちゃん、カイト君…」
「……」

 カイト君はやっぱり目も合わせてくれません。

「とりあえず、座りましょう。クリスちゃん、いい?」
「あ、うん…」

 リィちゃんは私の隣に、カイト君は私の向かいに椅子を持ってきて座ります。
 本のページをめくる音が静かに響く図書室で、私達は何をするでもなく、ただ座っていました。

 目の前のカイト君は、苦い顔をしていて目を合わせることができません。
 目を合わせたいけど、カイト君が私を見ようとしないので、結局私も目をそらしてしまいます。

 ううっ、そらしちゃダメだ!

 頭を振って、そらした目をもう一度カイト君に向けます。
 向き合わなければ、言葉にしなければ、相手に伝わらないから。

「カイト君、あのね…」
「ストップ」

 カイト君に謝ろうとした時、その本人から言葉を止められてしまいました。
 遮るように突き出された手に、小さくなって俯いてしまいます。

「もう謝るな。クリスの謝罪は受け取った。俺がただ意地張ってただけだ。俺の方こそ悪かった。クリスは俺の事情なんて知らないし、知らなくて当然。それをいつまでも怒っててごめん」

 カイト君のいつもの空気と言葉に、ゆっくり顔を上げます。
 申し訳なさそうな顔のカイト君と目が合って、思わず泣いてしまいました。
 リィちゃんもカイト君もびっくりして、オロオロし始めます。

「カイトく、ごめ、っね。ありっ、が、とう。なかなっ、おりっでき、て、よか、たよぉ」

 泣きながらしゃべるとうまく言葉にできません。
 でも、カイト君には伝わったようで、頭をぐしゃぐしゃとなでてくれました。

「俺も。仲直りできてよかった」

 カイト君の笑顔を久しぶりに見れて、私はますますうれしくなりました。

 よかった、本当に。
 このままカイト君とケンカしたままだったら、きっと立ち直れなかったかもしれない。

 すると、カイト君が手を差し出してきました。
 照れくさそうに「仲直りの握手だ」と言われて、また目が熱くなります。
 涙を拭いて、両手で握手をすれば、もう仲直りです!

「やっと仲直りできたわね。クリスちゃんもカイトも全然仲直りしないんだもの。どうなることかと思ったわ」

 リィちゃんは呆れたようにため息をつきながらも、その顔は笑っています。

 わざわざカイト君を呼びに行ってくれたのかな?
 カイト君は、もしかしたらリィちゃんに何か言われたのかな?

 仲直りは、お互いにそれを望まないと叶えられないものだから。
 リィちゃんは、私の知らないところで仲直りのきっかけを作ってくれたのかもしれません。

「結局、カイトは一週間も何に怒っていたの?クリスちゃんの謝罪はとっくに受け取っていたんでしょう?」
「……」

 カイト君は少し間を空けて、まっすぐ私を見ました。
 それに緊張しましたが、私も見つめ返します。

「…クリスの…言ったことが、間違いではなかったから。動揺したのと、自分への怒りもあって…。まあ、要するに自己嫌悪だな」
「それで一週間もクリスちゃんを困らせてたの?やっぱりカイトが悪いわ、一番悪い」

 リィちゃんの言葉が刃になってカイト君に突き刺さっているような気がしました。
 カイト君は不機嫌な顔をしながらも何も言い返さないので、その方がいいんだろうなと思いました。
 私が何か言ってしまうと、今度はリィちゃんとカイト君がケンカしそうだったから。

 私は、カイト君の嫌なことを知れてよかったと思います。
 「人は、心の中が読めないから、きちんと言葉にして向き合うことがいい人間関係の一歩だ」と、クロードお兄ちゃんが言っていました。
 うん、その通りだと思います。
 カイト君は自己嫌悪だと言ってくれたけど、私が言ってしまった言葉に怒って、傷ついたのは事実です。
 きっと、このケンカがなかったら、私は知らないまま何度でもカイト君を傷つけたかもしれません。
 何も知らないことが赦される理由にならないのは、十分知っています。それが消えないことも。
 嫌いになった後で、真実を知るのでは、もう遅いのです。

 だから、正直に訊いてみようと思いました。
 またカイト君を知らずに傷つけないように。
 ダメなら、ダメできっぱり諦めます。
 「同じことを繰り返さない努力も大切ですよ」と、レガロお兄ちゃんに言われたのを思い出します。

「ね、カイト君のこと、訊いてもいい?」
「…少しならな」

 カイト君はため息をつきながら、笑って答えてくれました。
 ちょっとだけカイト君に近づけた気がして、私も笑みがこぼれました。

「カイト君の魔力は、生活魔法しか使えないっていうのは合ってる…?」
「…半分正解で、半分不正解」

 え、どういう意味だろう?

 返ってきた答えに首を傾げて再び問う目をすると、カイト君は目を泳がせました。
 リィちゃんは、小さくため息をついています。
 カイト君は、あまり答えたくない顔をしていました。
 これはきっとリィちゃんが言っていた、本人の口からじゃないといけないことなのですね。

 気になるけど…言いたくないことを言わせるのは、違うよね。
 リィちゃんのように、言ってもいいって関係になれたら、きっとカイト君は言ってくれるだろうと思います。
 
「うん。わかった。カイト君の魔法のことはもう訊かない。もし、いつかカイト君が私に言ってもいいって思えたら、教えてくれる?」
「え?あ、ああ…。その時による、かもだけど…」

 カイト君は拍子抜けしたような顔で見つめてきます。
 約束はしなかったけど、私にはその答えが聞けただけで充分でした。
 うん、この話は終わり!

 他の質問をいくつか考えて、またカイト君に訊きます。

「ね、得意なことはなあに?」
「得意なことは、あんまり考えたことねーけど…。そうだな、走るのは早いかもな。思いっきり走るの好きだし」

 走るのが好きって、なんだかカイト君らしいかも。
 カイト君は運動の成績もいいから、羨ましいなぁ。

「じゃあ、好きな食べ物は?」
「好きな食べ物?うーん…魚とか」
「ええっ、カイト君、お魚好きなんだ!?私は苦手で…」
「へー。意外だな。まあ、俺も魚は生でしか食わないけど」

 お魚を生で!?
 それって丸かじり?踊り食い?

 びっくりして、食べ方を思ったまま訊いてみたら、大笑いされてしまいました。

「人に言ったことねーけど、俺、基本的に料理されたものとかあまり食わねーんだ。生か、焼くくらいのものしか食わねー」
「そ、そうなんだ?」

 そんな人もいるんだなと思いながら、はた、と気がつきます。
 今、カイト君、「人に言ったことない」って言った…。
 誰も知らないカイト君を一つ知れて、うれしくなりました。

 にこにこしだした私を見て、カイト君は不機嫌な顔になります。
 でも、それはケンカしてた時の険悪なものではなくて、友達同士がじゃれ合う時に見せるような顔です。

「何笑ってんだよ?」
「えへへへ、カイト君と友達でうれしいなぁって思ってただけ」
「……ふんっ」

 ぷいっとそっぽ向かれてしまいました。
 頬が赤くなっているから、照れてる…のかな?
 そんな私達のやり取りをリィちゃんは優しい目で見つめていました。

 それから、いろいろカイト君に質問をすれば、答えられることだけ答えてくれました。
 カイト君の好きな色、嫌いなもの、好きな本など、小さなことだけど。
 ときどき、リィちゃんも一緒になって答えてくれたりして、私達はお互いのことをちょっとだけ知りました。
 時間はあっという間に過ぎて、気がつけば帰る時間になってしまったほど、おしゃべりしました。



「カイト君、これからもよろしくね」

 帰り際、カイト君にそう言ったら、ちょっとだけ苦い顔をされてしまいました。
 でも、すぐに夕焼け色の目が細められて、きれいな笑顔になりました。

「俺も。よろしくな、クリス」
「クリスちゃん、私も、よろしくね?」

 カイト君の横で、ちょっとだけ拗ねた顔をしたリィちゃんが言います。

「うんっ。よろしくね!リィちゃん!」

 三人で笑い合えば、とっても心がポカポカします。

 友達とはじめてのケンカは、悲しくて、さみしかったけど、仲直りした時のうれしさは、きっとケンカしないとわからないものでした。
 それほど、カイト君は私にとって大切な友達だってことがわかったから。

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