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第1章 ◆ はじまりと出会いと
15. 魔法の石
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ざあああああああっ
「はあ、つまんない…」
窓の外の土砂降りの雨を眺めながら、大きなため息をつきます。
今日は、学校に行くことができませんでした。
このひどい雨で、馬車が出なかったからです。
今日の授業は魔法実技だったのに…。
学園の寮に入っていれば、休むこともなかったんだろうなぁ。
う、でも寮暮らしは、ちょっと不安かも。
今、家には私以外誰もいません。
今日は、他のみんなは用事があって、私はお留守番です。
お父さんは忙しいのか、昨日の夜から今日の夜までずっと自警団の屋敷でお仕事です。
お昼ご飯にお母さんとクロードお兄ちゃんが帰ってきたけど、すぐにお父さんのところへ出かけてしまいました。
レガロお兄ちゃんは、グランツ学園専用の転移魔法を使って学校へ行きました。
私も連れて行って欲しかったけど、魔力が弱い私を転移させるとどこかではぐれてしまうそうで、やっぱりお留守番になりました。
うぅ、独りで遊ぶのは、つまらないです…。
しょんぼりしていると、扉のノックが聞こえました。
あれ?誰か帰ってきたのかな?
ゆっくり振り返ると、扉の向こうに誰かがいる気配がしました。
入ってこようとしないので、不思議に思って首をかしげます。
家族なら、すぐに入ってくるはずです。
「…入ってもいいか?」
「!」
その声にびっくりして、すぐに扉の方へ走りました。
扉を思い切り開けてそこにいたのは、昨日馬車の中でたくさん魔導具のお話をしてくれた人。
「ライゼンさん!」
扉の向こうのライゼンさんはびっくりした顔をしていました。
無表情の人がびっくりした顔すると、こんな顔になるんですね。
びっくりさせてごめんなさい。
は!どうして家にいるんだろう!?
「えと!あのっ!どうして私の家に!?」
うれしくてうれしくてしょうがないです。
だって、また魔導具のお話聞きたいです!
お話ししたいです!
じーっと見つめ合っていると、ライゼンさんは少し困った顔をして、「とりあえず、入ってもいいか?」ともう一度聞いてきます。
そうでした!お部屋に来てくれたんですよね!
「はいっ、どうぞ入ってください!」
「邪魔する」
私はお客様用のクッションを取り出して、ライゼンさんに勧めます。
リィちゃんにはピンク色の丸いクッションを勧めますが、ライゼンさんは男の子だから、紺色の四角いクッションです!
「あっ、何か飲み物持ってきます!」
「いや。構うな。私が何故ここに来たか、だったな」
ゆっくりとクッションに座るライゼンさんに倣って、私も自分のクッションに座ります。
「もともと、クリスの父君に用があった。新しい魔導具を持ってきたのと母君の魔導具の修理ができたためだ」
「えええっ!!お父さんとお母さんの知り合いだったんですか!?」
それだけでもびっくりですが、お母さんの魔導具の修理!?
お母さんがいつも身に着けていたお守りも魔導具だったんですね!
エルフさんのお店で見た、魔法のアクセサリーのようなものだと思っていました。
あっ、それが魔導具なんですね!?なるほど!
一人でびっくりしながら納得している私の顔を見て、ライゼンさんは少し笑いました。
無表情からのその笑顔には、もっとびっくりします。
昨日の馬車の中でもそうでしたが、ライゼンさんは無表情で話してるかと思えば、たまに感情が出て今みたいに笑ったりします。
それを見るたびに、どうしてか心臓の鼓動がいつもより早くなります。
ライゼンさんは、戸惑う私に気づかずに話を続けます。
「知り合いなのは、私の師だ。私は師の遣いで来ただけだ。私もまさかクリスの家に来るとは思わなかった」
「そうだったんですか。昨日別れた後、自警団の屋敷に行ってたのは、お父さんに用があったからなんですね」
「ああ。それでもう帰れる馬車がなかったから、自警団のところで泊まらせてもらった」
ええっ!ライゼンさんが泊まったなら、私も自警団の屋敷に行けばよかったなぁ。
ちょっとしょんぼりです。
ライゼンさんは、少し考えながら、また言いました。
「…今日の朝の便で帰ろうと思ったのだが、この大雨で足止めを食らった。私も独りで何もすることがなかったから、それならとクリスの父君が娘の相手をしてくれないかとここに連れてきてくれた」
それでこの雨の中を来てくれたんですね!
お父さん、ありがとう…!
学校に行けなかったのは幸運だったかもです!
ライゼンさんとまたいっぱいお話しできる!
「えへへっ、うれしいです。ライゼンさんとまたお話ししたかったんです」
「………」
喜びを全身で発していたら、ライゼンさんはなんだか苦い顔をしました。
あれっ、もしかしてうれしいのは私だけでしょうか?
苦い顔は一瞬だけで、その顔はいつもの無表情に戻っていました。
ああ、そうでした。ライゼンさんはお父さんに頼まれてここに来たんです。
別に私のために来たわけじゃありません。
それにきっと、年が離れている私とは話も遊びも合わないですよね。
なんだかだんだん悲しくなってきました。
「…ライゼンさんは、やっぱり私みたいな小さい子の相手は嫌、ですよね」
あからさまにしょんぼりしてしまいました。
ライゼンさんは何も言わず、黙って私を見つめます。
違うと言わないのは、肯定、ということ…?
だんだんその視線に耐えられなくなって、俯いてしまいました。
部屋が重い空気に包まれます。
降り続ける雨の音が、耳の近くで響くようでした。
すると、紺色のクッションが動いたのが見えました。
気がつけば、ライゼンさんが昨日の馬車の中の時のように、隣に座りました。
肩にライゼンさんの腕が当たっているので、気づかないふりなんてできません。
そろりと視線を隣に向ければ、ライゼンさんの顔が近くにあってびっくりしました。
「…っ!?」
ものすごくびっくりした顔をしても、ライゼンさんはじっと見つめてくるだけで、何も言いません。
ライゼンさんの金色の目は、冷たくもなく熱くもなく、ただそこにあるものを見ているような目でした。
そんな視線を受けとめながら、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じます。
ライゼンさんに聞こえちゃうんじゃないかと思うくらい。
なんでドキドキしているのかわからないから困ります。
頭の中がぐるぐるして、どうしようと一生懸命考えていると、ライゼンさんが言いました。
「すまない」
ライゼンさんは無表情で謝ってきました。
一体何なんでしょう?
不思議に思って首を傾げると、ライゼンさんは少し困った顔をしました。
「クリスは…小さいが、あまり年が離れているとは思えない。言葉遣いに敬語が混じっているからだろうか」
私の目をまっすぐ見て、つぶやくように言われた言葉。
あ、これは答えだ。
黙っていたのは、肯定じゃなくて答えを考えてくれていたから?
昨日の停留所での会話も馬車の中での会話も、黙っていたり間があったりしたから、もしかしたらライゼンさんは、ちょっと不器用な人なのかもしれないです。
無表情なところもそれを手伝ってる気がします。
ライゼンさんの不器用な気遣いに、思わず笑みがこぼれます。
「えへへ、そう言ってもらえてうれしいです。私には歳の離れたお兄ちゃん達がいますから、敬語はちょっとだけ得意です」
「そうなのか。…ああ、もしかして、昨日父君の隣にいたクロードという背の高い人か?」
「はいっ、そうです!上のお兄ちゃんです。下のお兄ちゃんはレガロお兄ちゃんで、同じ教育科の空組です。二人とも私の自慢のお兄ちゃんです!」
ちょっとだけ得意げにお兄ちゃん達を紹介すると、ライゼンさんはびっくりしたような顔をしました。
「…レガロ……そうか、レガロの妹か…」
そう言ったライゼンさんの顔は、ちょっと疲れたような顔でした。
もしかして、レガロお兄ちゃんと知り合いなのかな?
学修科が違うのに…?
不思議そうにライゼンさんを見れば、私の気持ちが分かったのか答えてくれました。
「レガロとは、数ヵ月間だけ一緒に行動したことがある。その時の妹話は周りが引くくらいだった」
レガロお兄ちゃん、何話してるの!?
びっくりしながらライゼンさんを見つめたら、思い出したようにまたじっと私を見つめてきました。
本当、一体何なんでしょう。
「妹はとてもかわいくて、甘やかしたいけれど、あまりわがままや物を欲しがることもしないから、さみしいと言っていた。本当か?」
「………」
あまりそこは触れてほしくないです。
甘えないのも、物を欲しがらないのも本当。
まさか、それでレガロお兄ちゃんをさみしい気持ちにさせていたなんて思ってなかったです。
もしかして、お父さんやお母さん、クロードお兄ちゃんもそう思ってるのかな?
「…私はお父さんとお母さん、お兄ちゃん達がいてくれたら、それだけで幸せですから」
「クリスは子どもに見えて、大人のようだな。……魔導具の話は難しいし、女の子にはつまらないものだと思っていたのだが…」
そう言って、ライゼンさんは少し困り笑いをしました。
そっか。だから、苦い顔を…。
ライゼンさんも気にしてくれてたんですね。
私とは話も遊びも合わないかもしれないと考えてくれてたんですね。
ライゼンさんの気持ちがちょっとだけわかって、胸がぽかぽかしてきました。
「ライゼンさんとお話しするのはとても楽しかったです。このまま馬車が着かなければいいのにって思ったくらい」
「……そうか」
お互い見つめ合って、小さく笑います。
とっても温かくてふわふわした空気が部屋に広がって、なんだか優しい気持ちになります。
ライゼンさんの目もとても優しくて、ずっと見ていたいです。
「そうだ!ライゼンさんっ、私、見せたいものがあるんです。見てくれますか?」
「ああ」
言った勢いで立って、机の上の小さなクッションの上に乗せた石を取りに行きました。
それは私のお守り、「魔法の石」です。
アンジェさんにもらった大事な大事な宝物。
あまり人に見せたことはないけど、ライゼンさんには見せたいと思いました。
「ライゼンさん、これは私の宝物の魔法の石です」
大事に両手で持って、ライゼンさんに見せます。
すると、魔法の石がキラキラと輝いたように見えました。
「これは……」
つぶやいた声に目を上げると、ライゼンさんがとてもびっくりした顔をしていました。
それは、私が見た中で一番びっくりしてる顔。怖いほど深刻な顔でした。
「ライゼンさん?」
「………」
ライゼンさんはじっと魔法の石を見つめたままで、何もしゃべりません。
なんだか不安になってきました。
もしかして、この石は何か貴重なもので、私が持っていていいものじゃないのかもしれません。
それか、とても悪いもので、あってはいけないものとか…?
「…なるほど…だからか…」
長いような短いような、しゃべらなかったライゼンさんがやっと口を開きました。
ライゼンさんの視線は、また私に向きます。
でもその視線は痛いものじゃなくて、私の何かを見ているようでした。
「クリス。これは誰かからもらったのか?例えば、人間離れしたような者に」
「えっ、うん?そうなのかな?黒髪のとってもきれいなお姉さんにもらいました」
この石をもらった時のことを簡単に話すと、ライゼンさんはただただびっくりした顔をしていました。
「道端に落ちているとか、絶対あり得ない。これは人間の持つ技術では作り出せない、『魔宝石ユーラティオ』というものだ。精霊王にしか造れない代物だ」
一体、何のことでしょうか?
さっぱり意味が分かりません。
人間には作れないもの?
せいれいおう?
「えと、この石がものすごいもの…ということでしょうか?」
「ものすごいどころじゃない。国を、いや世界をひっくり返すことができる大きな魔力が込められた石だ」
「っええ!!?」
な、なんでそんなすごすぎる石が道端なんかに…!
私が持ってていいものなの!?
ライゼンさんも困惑したような顔で、私を見つめます。
「クリスが出会った、その女性はおそらく精霊王だ。その喧嘩も傍で見ていたんだろう?精霊王は人間に紛れて、気まぐれに人を試しながら世界を見まわっていると聞く」
「こ、これ、私が持ってていいものなんですか?返した方がいいんじゃ…」
オロオロしながらライゼンさんを見ると、難しそうな顔をしました。
あ、そうか、アンジェさん、じゃなかった、精霊王さんにまた会えるとは限らないもんね。
どうしよう…。
魔法石を見つめながら、返す方法をどうにか考えていると、ライゼンさんが言いました。
「返すのは難しい。それに精霊王はクリスに何か契約の対価を要求してきたはずだ」
「え?契約?してないと思いますけど…」
「? いや、クリス、お互い名前を名乗ったんだろう?それで契約が結ばれている」
あまりのことに言葉が出ません。
あの時のやり取りを思い出せば、確かに、お互い名前を名乗りました。
それで、精霊王さんはこの石をくれました。
その後何かを言っていた気がしますが、全然思い出せません。
「ど、どどどどうしよう!?」
私、いつの間にか精霊王さんと契約をしてしまっていました!
「はあ、つまんない…」
窓の外の土砂降りの雨を眺めながら、大きなため息をつきます。
今日は、学校に行くことができませんでした。
このひどい雨で、馬車が出なかったからです。
今日の授業は魔法実技だったのに…。
学園の寮に入っていれば、休むこともなかったんだろうなぁ。
う、でも寮暮らしは、ちょっと不安かも。
今、家には私以外誰もいません。
今日は、他のみんなは用事があって、私はお留守番です。
お父さんは忙しいのか、昨日の夜から今日の夜までずっと自警団の屋敷でお仕事です。
お昼ご飯にお母さんとクロードお兄ちゃんが帰ってきたけど、すぐにお父さんのところへ出かけてしまいました。
レガロお兄ちゃんは、グランツ学園専用の転移魔法を使って学校へ行きました。
私も連れて行って欲しかったけど、魔力が弱い私を転移させるとどこかではぐれてしまうそうで、やっぱりお留守番になりました。
うぅ、独りで遊ぶのは、つまらないです…。
しょんぼりしていると、扉のノックが聞こえました。
あれ?誰か帰ってきたのかな?
ゆっくり振り返ると、扉の向こうに誰かがいる気配がしました。
入ってこようとしないので、不思議に思って首をかしげます。
家族なら、すぐに入ってくるはずです。
「…入ってもいいか?」
「!」
その声にびっくりして、すぐに扉の方へ走りました。
扉を思い切り開けてそこにいたのは、昨日馬車の中でたくさん魔導具のお話をしてくれた人。
「ライゼンさん!」
扉の向こうのライゼンさんはびっくりした顔をしていました。
無表情の人がびっくりした顔すると、こんな顔になるんですね。
びっくりさせてごめんなさい。
は!どうして家にいるんだろう!?
「えと!あのっ!どうして私の家に!?」
うれしくてうれしくてしょうがないです。
だって、また魔導具のお話聞きたいです!
お話ししたいです!
じーっと見つめ合っていると、ライゼンさんは少し困った顔をして、「とりあえず、入ってもいいか?」ともう一度聞いてきます。
そうでした!お部屋に来てくれたんですよね!
「はいっ、どうぞ入ってください!」
「邪魔する」
私はお客様用のクッションを取り出して、ライゼンさんに勧めます。
リィちゃんにはピンク色の丸いクッションを勧めますが、ライゼンさんは男の子だから、紺色の四角いクッションです!
「あっ、何か飲み物持ってきます!」
「いや。構うな。私が何故ここに来たか、だったな」
ゆっくりとクッションに座るライゼンさんに倣って、私も自分のクッションに座ります。
「もともと、クリスの父君に用があった。新しい魔導具を持ってきたのと母君の魔導具の修理ができたためだ」
「えええっ!!お父さんとお母さんの知り合いだったんですか!?」
それだけでもびっくりですが、お母さんの魔導具の修理!?
お母さんがいつも身に着けていたお守りも魔導具だったんですね!
エルフさんのお店で見た、魔法のアクセサリーのようなものだと思っていました。
あっ、それが魔導具なんですね!?なるほど!
一人でびっくりしながら納得している私の顔を見て、ライゼンさんは少し笑いました。
無表情からのその笑顔には、もっとびっくりします。
昨日の馬車の中でもそうでしたが、ライゼンさんは無表情で話してるかと思えば、たまに感情が出て今みたいに笑ったりします。
それを見るたびに、どうしてか心臓の鼓動がいつもより早くなります。
ライゼンさんは、戸惑う私に気づかずに話を続けます。
「知り合いなのは、私の師だ。私は師の遣いで来ただけだ。私もまさかクリスの家に来るとは思わなかった」
「そうだったんですか。昨日別れた後、自警団の屋敷に行ってたのは、お父さんに用があったからなんですね」
「ああ。それでもう帰れる馬車がなかったから、自警団のところで泊まらせてもらった」
ええっ!ライゼンさんが泊まったなら、私も自警団の屋敷に行けばよかったなぁ。
ちょっとしょんぼりです。
ライゼンさんは、少し考えながら、また言いました。
「…今日の朝の便で帰ろうと思ったのだが、この大雨で足止めを食らった。私も独りで何もすることがなかったから、それならとクリスの父君が娘の相手をしてくれないかとここに連れてきてくれた」
それでこの雨の中を来てくれたんですね!
お父さん、ありがとう…!
学校に行けなかったのは幸運だったかもです!
ライゼンさんとまたいっぱいお話しできる!
「えへへっ、うれしいです。ライゼンさんとまたお話ししたかったんです」
「………」
喜びを全身で発していたら、ライゼンさんはなんだか苦い顔をしました。
あれっ、もしかしてうれしいのは私だけでしょうか?
苦い顔は一瞬だけで、その顔はいつもの無表情に戻っていました。
ああ、そうでした。ライゼンさんはお父さんに頼まれてここに来たんです。
別に私のために来たわけじゃありません。
それにきっと、年が離れている私とは話も遊びも合わないですよね。
なんだかだんだん悲しくなってきました。
「…ライゼンさんは、やっぱり私みたいな小さい子の相手は嫌、ですよね」
あからさまにしょんぼりしてしまいました。
ライゼンさんは何も言わず、黙って私を見つめます。
違うと言わないのは、肯定、ということ…?
だんだんその視線に耐えられなくなって、俯いてしまいました。
部屋が重い空気に包まれます。
降り続ける雨の音が、耳の近くで響くようでした。
すると、紺色のクッションが動いたのが見えました。
気がつけば、ライゼンさんが昨日の馬車の中の時のように、隣に座りました。
肩にライゼンさんの腕が当たっているので、気づかないふりなんてできません。
そろりと視線を隣に向ければ、ライゼンさんの顔が近くにあってびっくりしました。
「…っ!?」
ものすごくびっくりした顔をしても、ライゼンさんはじっと見つめてくるだけで、何も言いません。
ライゼンさんの金色の目は、冷たくもなく熱くもなく、ただそこにあるものを見ているような目でした。
そんな視線を受けとめながら、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じます。
ライゼンさんに聞こえちゃうんじゃないかと思うくらい。
なんでドキドキしているのかわからないから困ります。
頭の中がぐるぐるして、どうしようと一生懸命考えていると、ライゼンさんが言いました。
「すまない」
ライゼンさんは無表情で謝ってきました。
一体何なんでしょう?
不思議に思って首を傾げると、ライゼンさんは少し困った顔をしました。
「クリスは…小さいが、あまり年が離れているとは思えない。言葉遣いに敬語が混じっているからだろうか」
私の目をまっすぐ見て、つぶやくように言われた言葉。
あ、これは答えだ。
黙っていたのは、肯定じゃなくて答えを考えてくれていたから?
昨日の停留所での会話も馬車の中での会話も、黙っていたり間があったりしたから、もしかしたらライゼンさんは、ちょっと不器用な人なのかもしれないです。
無表情なところもそれを手伝ってる気がします。
ライゼンさんの不器用な気遣いに、思わず笑みがこぼれます。
「えへへ、そう言ってもらえてうれしいです。私には歳の離れたお兄ちゃん達がいますから、敬語はちょっとだけ得意です」
「そうなのか。…ああ、もしかして、昨日父君の隣にいたクロードという背の高い人か?」
「はいっ、そうです!上のお兄ちゃんです。下のお兄ちゃんはレガロお兄ちゃんで、同じ教育科の空組です。二人とも私の自慢のお兄ちゃんです!」
ちょっとだけ得意げにお兄ちゃん達を紹介すると、ライゼンさんはびっくりしたような顔をしました。
「…レガロ……そうか、レガロの妹か…」
そう言ったライゼンさんの顔は、ちょっと疲れたような顔でした。
もしかして、レガロお兄ちゃんと知り合いなのかな?
学修科が違うのに…?
不思議そうにライゼンさんを見れば、私の気持ちが分かったのか答えてくれました。
「レガロとは、数ヵ月間だけ一緒に行動したことがある。その時の妹話は周りが引くくらいだった」
レガロお兄ちゃん、何話してるの!?
びっくりしながらライゼンさんを見つめたら、思い出したようにまたじっと私を見つめてきました。
本当、一体何なんでしょう。
「妹はとてもかわいくて、甘やかしたいけれど、あまりわがままや物を欲しがることもしないから、さみしいと言っていた。本当か?」
「………」
あまりそこは触れてほしくないです。
甘えないのも、物を欲しがらないのも本当。
まさか、それでレガロお兄ちゃんをさみしい気持ちにさせていたなんて思ってなかったです。
もしかして、お父さんやお母さん、クロードお兄ちゃんもそう思ってるのかな?
「…私はお父さんとお母さん、お兄ちゃん達がいてくれたら、それだけで幸せですから」
「クリスは子どもに見えて、大人のようだな。……魔導具の話は難しいし、女の子にはつまらないものだと思っていたのだが…」
そう言って、ライゼンさんは少し困り笑いをしました。
そっか。だから、苦い顔を…。
ライゼンさんも気にしてくれてたんですね。
私とは話も遊びも合わないかもしれないと考えてくれてたんですね。
ライゼンさんの気持ちがちょっとだけわかって、胸がぽかぽかしてきました。
「ライゼンさんとお話しするのはとても楽しかったです。このまま馬車が着かなければいいのにって思ったくらい」
「……そうか」
お互い見つめ合って、小さく笑います。
とっても温かくてふわふわした空気が部屋に広がって、なんだか優しい気持ちになります。
ライゼンさんの目もとても優しくて、ずっと見ていたいです。
「そうだ!ライゼンさんっ、私、見せたいものがあるんです。見てくれますか?」
「ああ」
言った勢いで立って、机の上の小さなクッションの上に乗せた石を取りに行きました。
それは私のお守り、「魔法の石」です。
アンジェさんにもらった大事な大事な宝物。
あまり人に見せたことはないけど、ライゼンさんには見せたいと思いました。
「ライゼンさん、これは私の宝物の魔法の石です」
大事に両手で持って、ライゼンさんに見せます。
すると、魔法の石がキラキラと輝いたように見えました。
「これは……」
つぶやいた声に目を上げると、ライゼンさんがとてもびっくりした顔をしていました。
それは、私が見た中で一番びっくりしてる顔。怖いほど深刻な顔でした。
「ライゼンさん?」
「………」
ライゼンさんはじっと魔法の石を見つめたままで、何もしゃべりません。
なんだか不安になってきました。
もしかして、この石は何か貴重なもので、私が持っていていいものじゃないのかもしれません。
それか、とても悪いもので、あってはいけないものとか…?
「…なるほど…だからか…」
長いような短いような、しゃべらなかったライゼンさんがやっと口を開きました。
ライゼンさんの視線は、また私に向きます。
でもその視線は痛いものじゃなくて、私の何かを見ているようでした。
「クリス。これは誰かからもらったのか?例えば、人間離れしたような者に」
「えっ、うん?そうなのかな?黒髪のとってもきれいなお姉さんにもらいました」
この石をもらった時のことを簡単に話すと、ライゼンさんはただただびっくりした顔をしていました。
「道端に落ちているとか、絶対あり得ない。これは人間の持つ技術では作り出せない、『魔宝石ユーラティオ』というものだ。精霊王にしか造れない代物だ」
一体、何のことでしょうか?
さっぱり意味が分かりません。
人間には作れないもの?
せいれいおう?
「えと、この石がものすごいもの…ということでしょうか?」
「ものすごいどころじゃない。国を、いや世界をひっくり返すことができる大きな魔力が込められた石だ」
「っええ!!?」
な、なんでそんなすごすぎる石が道端なんかに…!
私が持ってていいものなの!?
ライゼンさんも困惑したような顔で、私を見つめます。
「クリスが出会った、その女性はおそらく精霊王だ。その喧嘩も傍で見ていたんだろう?精霊王は人間に紛れて、気まぐれに人を試しながら世界を見まわっていると聞く」
「こ、これ、私が持ってていいものなんですか?返した方がいいんじゃ…」
オロオロしながらライゼンさんを見ると、難しそうな顔をしました。
あ、そうか、アンジェさん、じゃなかった、精霊王さんにまた会えるとは限らないもんね。
どうしよう…。
魔法石を見つめながら、返す方法をどうにか考えていると、ライゼンさんが言いました。
「返すのは難しい。それに精霊王はクリスに何か契約の対価を要求してきたはずだ」
「え?契約?してないと思いますけど…」
「? いや、クリス、お互い名前を名乗ったんだろう?それで契約が結ばれている」
あまりのことに言葉が出ません。
あの時のやり取りを思い出せば、確かに、お互い名前を名乗りました。
それで、精霊王さんはこの石をくれました。
その後何かを言っていた気がしますが、全然思い出せません。
「ど、どどどどうしよう!?」
私、いつの間にか精霊王さんと契約をしてしまっていました!
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