クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

17. わからないことだらけ

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 カイト君は次の日になっても帰ってきませんでした。
 先生は、大事な急用でしばらく休むと連絡をもらったそうで、組のみんなはそれで納得したようでした。
 でも、私とリィちゃんはそう簡単に納得できませんでした。

 カイト君は、あの後のグループ研究の時間も落ち着かないようで、そわそわして、とても焦っているように見えました。
 リィちゃんは、そんなカイト君を心配していたし、私も気になります。

 きっと、カイト君はあの図書室で会った男の子に関係してるんだ。
 あの男の子のことを知っていて、きっと、あまりいい関係ではないのかもしれない。
 そうじゃなかったら、あんなにびっくりなんかしない。

 帰ってこないのは、本当に急用なのか、それとも…。

 そう考え始めたら、帰ってこないカイト君がとても心配になってきました。
 ちらりと後ろの席を見ればリィちゃんも、何か考えているようでした。

 こっそり小声でリィちゃんに声をかけてみます。

「リィちゃん…カイト君、本当に急用なのかな…?」
「わからないわ…でも、カイトの勘はよく当たるから。クリスちゃん、気をつけてね」

 え?私?
 何に気をつけるの?

 首を傾げると、真剣な顔が返ってきたので、意味が解らなかったけど静かに頷きました。
 リィちゃんは少し微笑んで、私の髪ゴムを撫でてきます。

「クリスちゃんにしか見えなかった、その男の子…もしかしたら……」
「もしかしたら?」

 続くリィちゃんの言葉を聴こうとしたその時。

「クリスさん、リリーさん、授業を始めるぞー」

 先生に注意されて、リィちゃんの言葉を聴くことができませんでした。
 授業が終わっても、リィちゃんはそれ以上何も話しませんでした。


 気をつけてって…あの男の子は私にも関係することなの?





 そんなこんなで、あっという間に放課後になりました。
 さっきまで、リィちゃんとグループ研究のレポートをカイト君の分まで頑張ってまとめていました。
 まだ完成まで半分しか進んでいませんが、あと二日頑張ればなんとかなりそうです。

 発表までにカイト君、帰ってくるかな?
 この課題の内容は、もともと3人で始めたものだから、リィちゃんとカイト君と一緒に発表したいです。

 大きなため息をついて、レポートの内容のことを考えながら門へ向かいます。

 魔法は魔力がないと使えない。
 魔力は生きているものすべてにあって、自分の魔力は自分にしか使えない。
 魔力によって魔法は発動し、魔力が尽きると魔法は消える、もしくは暴走する。

 うーん…。
 魔法の暴走って、どういうことなんだろう?
 魔力がなくなると魔法の効力がなくなるのはわかるんだけど、暴走って…魔力がないのにどうやって魔法が発動しているのかな?
 魔力がなくなるまで使うことはできないはず。自己防衛本能が働くから。
 魔力の性質か、何か条件や状況が暴走を引き起こすのかな?


 「…リ…、……ス。クリス」


 黙々と考えていると、ふと、呼ばれる声が聞こえた気がして後ろを振り返ります。
 すぐ後ろにライゼンさんがいて、ちょっとびっくりしました。
 相変わらず無表情ですが、今日はちょっと疲れた顔をしているように見えました。

「は!ごめんなさい、ライゼンさんっ!もしかして、呼んでましたか!?考え事してて…」
「いや、気にするな。何かあったのか?」
「えと…」

 ライゼンさんは、真剣な目で私を見つめてきます。
 その強さと意志を感じる目にどこかほっとします。
 あの男の子の目と正反対だと思ったから。

 ライゼンさんに図書室で会った男の子のこと話してもいいかな?
 あの時のカイト君があまりいい雰囲気ではなかったので、すごく胸騒ぎがします。
 どうしてかはわからないけど、あの図書室で会った男の子は、何か普通とは違う気がするから。

 少し間を置いて、ライゼンさんを見つめます。
 ライゼンさんは、私が話すまで待っていてくれました。
 そのきれいな目にちょっとだけ力をもらえて、話してみることにしました。

「…ライゼンさん、少しお話してもいいですか?」
「ああ」

 一年生の下校時間まで、まだちょっとだけ時間があります。
 私達は、学園の中庭のベンチで話すことにしました。

「それで、どうしたんだ?魔法の石に関してか?」
「え?あっ、そうだった!この石、ときどき光ってるみたいなんです。前までそんなことなかったのに」

 ライゼンさんに訊こうと思っていたことをすっかり忘れていて、言われて思い出しました。
 慌ててポケットからポーチを取り出して、魔宝石をライゼンさんに見せます。
 ライゼンさんは、ちょっとだけ不機嫌な顔になりましたが、すぐに無表情に戻って魔法の石を見つめます。

 見つめるだけで、触ろうとしないのはどうしてだろう?

「今は光っていないようだが…どういう時に光っている?」
「それが、わからないんです。気がついたら光ってて…いつもこのポーチに入れてるから、ずっと光ってるのかどうかは出して見ないとわからないです」
「そうか」

 ライゼンさんは、ポーチの方を見ます。
 やっぱり触ろうとしないので、不思議に思って首を傾げてしまいます。

「ライゼンさん、手に持って見てもいいですよ」
「いや。駄目だ」

 即答されてしまいました。
 何がダメなんだろう?
 ライゼンさんは、何かを考えながら魔宝石とポーチを交互に見ています。
 それらをライゼンさんに見えるように両手で持っているので、ちょっと腕が疲れてきました。

「…このポーチは、魔導具だったのか?」
「え?…お店の人が中の物を守ってくれる魔法って言ってたので…そうですね!」

 魔法が込められた道具は魔導具だとライゼンさんは話してくれました。
 なので、このポーチも魔導具ということになります。それなら普通のポーチよりも高いよね。納得です。

 ん?だった?

 今聞いたライゼンさんの言葉に違和感を感じました。

「魔導具だったって…どういうことですか?」
「?」

 私が疑問に思って首を傾げると、ライゼンさんも釣られたように首を傾げます。
 その顔は無表情だけど、コテンと首を傾げるライゼンさんは、なんだかかわいく見えます。

「このポーチの魔法は、もう壊れている。転んだ衝撃や少しの魔力干渉で壊れるくらいの小さな守護魔法のようだからな。それを知ってて持っていたわけではないのか?」
「知りませんでした。確かに、何度か転んだことはありましたけど…ポーチを潰すほどじゃなかったですよ?」

 ライゼンさんは、苦い顔をして自分の髪の装飾具を触りました。
 ときどき、ライゼンさんは装飾具を今みたいに触ります。
 何かを確かめるようになぞるので、魔導具なのかもしれません。
 ライゼンさんの髪の装飾具は、複雑な模様が入った留め具のような形で、どうやって髪に着けてるんだろうと不思議に思います。

「……私のせいではなさそうだ…」
「え?」

 小さく言ったライゼンさんの言葉が聞こえなくて、もう一度聞き返します。
 ライゼンさんは何でもないと首を振ったので、答えが返ってくることはありませんでした。

「仮定だが、魔法の石がポーチの魔法を壊したのかもしれない。こんな小さな守護魔法では、中の大きすぎる魔力を収めることはできないだろう」
「そ、そうなんですね……」

 また魔宝石のすごさを知りました。
 むむむ。このままこのポーチに入れて持っていても大丈夫なのでしょうか?
 魔法も壊れているし、周りに何か影響が出たりしないでしょうか?
 あ、ポーチを買うまではずっとポケットに入れてたから、あまり変わらないかも。

「この石を貰った時から、そのポーチに入れているのか?」
「ううん。これは二ヵ月くらい前にレガロお兄ちゃんに買ってもらったものです」
「二ヵ月前?それまではどうしていたんだ?」

 あまりにも困った顔をしたライゼンさんに、いつもポケットに入れて持ち歩いていたことを説明しました。

「……そんな無防備に入れていたのか…」
「や、やっぱりいけないことでしたか?」

 魔宝石ユーラティオと知るまでは、お守りのきれいな石として持っていたので、今より扱いは雑だったかもしれません。
 しょんぼりしながら魔宝石を見つめていると、ライゼンさんの手が頭を撫でてきました。
 目を上げれば、優しい目を向けられていて心があったかくなってきます。

「いや。ポーチに閉じ込めるよりもポケットくらいがちょうどいいのかもしれない」
「ライゼンさん…」

 また頭を撫でられて、周りの空気もふわふわとあったかいものに変わります。
 ライゼンさんと一緒にいると、どうしてこんなに心がポカポカするのでしょうか。
 ぽかぽかのおひさまの下で、ふわふわな雲に寝転んでるような気分です。

 あっ、図書室の男の子のこと訊いてみないと。

 そう思った時、一年生の下校を知らせる鐘が鳴りました。
 まだライゼンさんと話したかったけど、帰らなければいけません。

「ライゼンさん、ごめんなさい。本当は他に話したいことがあったんですけど、下校の時間なので今日は帰りますね」

 ぺこりとライゼンさんにお辞儀をすると、急に体が浮きました。
 びっくりして顔を上げれば、ライゼンさんに抱っこされていました。
 その距離は額が触れあいそうになるくらい近くて、思わず固まってしまいます。

「その話を聴きたい…が、規則は守らなければな」

 抱っこされたまま中庭を進んでいくので、慌ててライゼンさんから降りようとジタバタもがきます。
 が、さらに強くぎゅっとされてしまい、力が抜けてしまいます。

「クリス、門まで送っていくから、おとなしくしてくれ」
「えええと!私、歩けますから!」
「? レガロはクリスを抱っこして送り迎えをすると聞いたが?」

 それが当然のように言って、首を傾げるライゼンさん。

 全然違うよー!!
 レガロお兄ちゃん、ライゼンさんに何話してるの!?
 ライゼンさんもちょっとずれてます、何かが!
 それはもっと小さい時の話で、今は馬車に乗る時だけです!
 本当は自分で乗れるけど、乗る前に抱っこされちゃうんですっ。

 中庭には他にも人がいます。
 微笑ましそうに見ている人や、白い目をしている人、きゃああと騒いでいる人、反応は様々です。
 お兄ちゃん達に抱っこされるのは、いつものことなのであまり感じなかったのですが、なんだかこれは恥ずかしい、とっても恥ずかしいです!!
 それに、完全に小さな子ども扱いで傷つきますー!

「と、とにかく、降ろしてくださいっ。人の目もありますし、私はそんなに小さな子どもじゃないです!」

 抗議するように、ぽかぽかとライゼンさんを叩くと、納得してくれたのか降ろしてくれました。
 それにほっとしてライゼンさんを見たら、申し訳なさそうな顔をしていました。

「すまない。クリスを子ども扱いしたわけではない。だが、門までは送る」

 そう言って困った顔をしたので、叩いたのは悪かったかもしれないです。
 それならと思って、ライゼンさんの横に並びます。

「ありがとうございます。じゃあ、手を繋いでくれますか?」

 ライゼンさんは一瞬きょとんとしましたが、今日一番の笑みをくれました。

「もちろんだ、クリス」

 差し出された手を握り、門までゆっくり歩いて行きます。
 門に着くまでお互いに言葉はなかったけど、繋いだ手の温かさと、ライゼンさんの優しい目になんだかくすぐったい気分でした。

 あっという間に門に着いて外に出ようとすると、ライゼンさんが内緒話をするように顔を近づけてきました。

「クリス。今その石について調べている。過去にその石が顕現した記録があるから、何かわかったら知らせる」
「はい、ライゼンさん。ありがとうございます」

 笑顔で返せば、ライゼンさんも微笑んでくれます。

「気をつけて帰れ。ゆっくりおやすみ」
「ライゼンさんも、お疲れ様です」

 もっとお話ししたかったけど、お互いに手を振って別れます。

 次に会えるのはいつかな?

 ライゼンさんの優しい目を思いながら、停留所まで走っていきました。






 
 図書室の男の子のことは、カイト君が帰ってくるまで、胸にしまっておくことにしました。






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