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第1章 ◆ はじまりと出会いと
19. グループ研究発表会
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カイト君が帰ってきて、私達のグループは急いでまとめのレポートを完成させました。
やっぱりカイト君がいると、早くまとまります。
カイト君は、てきぱきと役割分担を決めて、必要な資料と統計をすぐにまとめてくれました。
私とリィちゃんはあんなにあたふたしてたのに、それを難なくやってのけるカイト君は本当にすごいです。
リィちゃんは、カイト君の補佐がうまくて、カイト君が必要だと思うものがわかってるように本を探し出してくれます。
二人を見ていると、なんだか、教授と助手みたいな関係に見えてしまいます。
「何笑ってんだよ、クリス」
「あ、ごめん、カイト君。なんでもないよ」
リィちゃんとカイト君のやり取りを見ていたら、不機嫌な顔をされてしまいました。
どうやら顔に出ていたようです。いけない、いけない。
教授と助手みたいだねって言ったら、絶対ケンカになりそうなので、黙っておきます。
いよいよ明日はグループ研究発表の日。
放課後、私達は図書室で発表の準備をしていました。
準備と言っても、発表資料の整理をしているだけで、明日の準備はすでにできています。
レポートが完成したのは、昨日の放課後でした。
下校時間の前に滑り込みで先生に添削してもらって、参考資料などの提出、発表の順番も決まりました。
ここまでギリギリだったけど、なんとか間に合いました。
正直、内容の完成度には不安があるけど、ここまでまとめられたから、あとはみんなに聴いてもらえるように頑張るだけです。
「クリスちゃん、疲れた?今日はもう帰る?」
「ううん、大丈夫だよ。これ、片付けるね」
分厚くて大きな本を数冊、本棚に戻しに行きます。
あれから、ずっと気になっていたあの男の子が図書室に現れることはありませんでした。
カイト君もリィちゃんも何も言いません。
カイト君が帰ってきたら訊こうと思ってたけど、カイト君は言いたくなさそうでした。
気になることはたくさんあるけど、二人が何も言わないので、とりあえず気にするのはやめることにしました。
うん、もうあの男の子に会わないのなら、このまま忘れよう。その方がいいよね。
「クリス、それは持ちすぎだろ。手伝うぞ」
「あ。ありがとう、カイト君」
横からひょいっと大きな本を持ち上げられます。
手に残ったのは一冊だけで、カイト君はさっさと本を戻しに行ってしまいました。
カイト君は、何かと私を助けてくれるようになりました。
さっきみたいなこともそうだけど、勉強の時も魔法実技の時も世話を焼いてくれます。
むむむ。なんだか過保護になった気がします。
そんなこんなで発表資料を整理して、あまり遅くならないうちに帰ることになりました。
「クリスちゃん、明日頑張りましょうね」
「早く寝ろよ」
「うん!二人ともまた明日~」
発表、頑張ります!
次の日、グループ研究発表の時間になりました。
今日は一日グループ研究発表会の時間になります。
一グループの持ち時間は三十分~五十分。三十分以下、五十分以上になると減点になります。
それぞれのグループの発表を聴きながら、聴いている側も評価をつけます。
どこがわかりやすかったかとか、興味が持てたかなど、課題と発表に関する評価の項目がいくつかあって、それぞれ五段階評価で評価します。
私達のグループは、最後から三番目です。
順番が来るまでいろんなグループの発表を見て、とても勉強になりました。
その中で特に気になったのは、「精霊と妖精」、「国の成り立ち」、「守護魔法」でした。
「精霊と妖精」の発表をしたグループは、精霊と妖精の違いを強く押し出していました。
精霊は肉体を持っていないけど、その代りにいろんなものに乗り移れるとか、人の目には人型や獣型に見えることが多いとか。
妖精は特殊な祝福魔法を持っていて、鉱脈を引き当てたり、急に事業が成功したりする裏には妖精が関わっていることが多いとか。
精霊と妖精の決定的な違いは、人との関わりが積極的であるかないか。
精霊は妖精と違い、気まぐれに人を助けないそうです。
精霊王の名の下、それぞれに役割があり、世界が正しく回るようにしてくれているそうです。
その中で、ときどき人に手を貸すことがあるくらいで、基本的には人と距離を置いています。
それとは反対に妖精は人にちょっかいを出すのが好きみたいです。
発表の内容は、どちらかと言えば精霊について多かった気がします。妖精に関しての記述はいろいろありすぎて、はっきりしたことはわからないから仕方ないです。
精霊に少なからず関係している私には、とても気になることばかりで、このグループの発表は始終食い入るように聴きました。
「国の成り立ち」を発表したグループは、古い地図と新しい地図を比べて、この国がどんなふうにここまで来たのかを発表していました。
私が住むこの国ヴェルトミールは、最初はとても小さな国で、いつも他国の侵略に怯えていました。
この国は大陸のちょうど中心にあり、周りの国はいつも取り合っていたそうです。
それがどうしてここまで大きくなったか。
それには精霊の介入があったからだと言われているそうです。
このグループは、文献が古すぎて、ところどころ無くなったり読めなくなっていて、詳しいことを詰められなかったそうですが、私はそれは事実だと思いました。
精霊王さんに会わなければ、そういう風に思わなかったかもしれません。
「守護魔法」を発表したグループは、実際に守護魔法を披露しながら、その特性を発表していました。
守護魔法は様々な形のものがあって、内側から守るものや外側から守るもの、自分が護りたいものだけ護るものなど、発動条件は使い手次第で様々なのだそうです。
他の魔法と決定的に違うのは、なんと言ってもその魔法の希少さです。
守護魔法を使うには、ある一定以上の魔力が必要で、その上、複雑な魔法式と魔法紋章術を掛け合わせなければなりません。
魔法式と魔法紋章術が使える時点で、もう雲の上の人ぐらいすごいことなので、魔力の性質以外でこの魔法を使える人は本当に少ないそうです。
ちなみに、守護魔法を披露していた子は、魔力の性質で使えているそうです。それでも発動するのは難しいようで、形を長く留めることはできませんでした。
あれ?もしかして、守護魔法がかかった魔導具って、本当はものすごく貴重なんじゃ?
ポケットのポーチを思い出しながら、心の中でエルフのお店のお姉さんに謝りました。
買ってくれたレガロお兄ちゃんにも謝ろう…。
そんなこんなで、私達の番がやってきます。
前のグループの発表が終わって、拍手が起きます。
その拍手の間に、前のグループと私達のグループが入れ替わり、先生がタイマーをセットします。
「では、次のグループ」
『はい!』
元気よく返事をして、「魔力と魔法の関係性」を発表しました。
内容を簡単に説明すると、こんな感じです。
魔力は生きているものすべてが持っていて、その性質や量は人それぞれ。
そして、特殊な性質ではない限り、自分の魔力は自分にしか使えない。
魔力は魔法を使うためにあり、魔法は魔力がないと発動できない。
魔法を使うのに、特に心に留めておかなければいけないのは魔力の性質。
魔力の性質は、世界のバランスを崩さないためにある。
それは制限に思えるかもしれないけど、逆に言えば、いろんな人と協力し合えば、なんでもできるということ。
良くも悪くも、人が魔法を使うことは、お互いに影響し合っていることがわかる。
そして、それは精霊や世界を巡る流れにも大きく影響してくる。
「そういうわけで、魔力と魔法は切っても切れない関係にあります」
締めの言葉で終われば、ぱらぱらと拍手が起きます。
聴いていたみんなは戸惑っていて、ちょっとわからないという顔でした。
うん、そうだよね。
ここまで頑張って調べたのはいいのですが、課題の内容が思った以上に大きすぎて、結局魔力の性質についてしかレポートにまとめられなかったんです。
このまま調べてたら、あと一年くらいは時間が必要です。
それに光組の図書室の本では、これ以上調べるのは無理だと思いました。
みんなの微妙な反応にしょんぼりすれば、リィちゃんとカイト君が隣で肩をたたきます。
二人とも笑っていたけど、やっぱり悔しさもあって、それは困り笑いのように見えました。
「カイト君、リリーさん、クリスさん、ありがとう。難しい課題だったから、まとめるのは大変だったでしょう。ここまでまとめられただけでもすごいわ」
先生が大きく拍手をしてくれました。
それに釣られて、みんなも大きく拍手をしてくれます。
「君たちの課題は、僕たちの課題に繋がるものだったよ。よかったら、また教えてくれ」
「うんうん、あたし達の課題にもリンクしてるよね。視点が違うから、とてもおもしろかったよ」
「守護魔法」を発表したグループと「精霊と妖精」を発表したグループが声をかけてくれました。
かけられた言葉に、胸が熱くなります。
グループ研究のいいところは、発表で終わらないところです。
こうやってお互いの課題を見せ合うことで、違う視点に驚かされたり、勉強になったり…みんながお互いに刺激し合って、また新しい課題や答えが見つかるのです。
「うんっ!ありがとう!こちらこそ、また教えてください!」
こうして、グループ研究発表会は無事に終わりました。
私達のグループは順位は最下位でした。完全に力不足の結果です。
結果は悔しかったけど、いろんなグループの課題と関わりが持てたことはとてもうれしいことでした。
「あーあ、もっとなんとかできたんだろーなー」
「もう、カイト。最下位だったからって、そんな不機嫌にならないでよ」
発表会が終わっても、私達はまた図書室で本を積み上げています。
大きなため息を吐くカイト君にリィちゃんがちょっと怒ります。
「もっと、勉強しなくちゃ。今回の発表会で、足りないものがいっぱいあるんだってよくわかったよ」
大きな本と辞書を開きながら呟くと、リィちゃんが驚いたような顔をします。
カイト君もちょっと拗ねたような顔をしながら見つめてきます。
「そうね。今回はだめだったけど、次頑張りましょう!」
「うんっ!次はもっとわかりやすく説明できるようにいろんな本を読んでおかなくちゃ!」
知識は無限に続く空のように大きく広がっていて、そのすべてを知ることはできない。
だけど、知りたいことを集めてパズルのように埋めていくことはできる。
だから、私に足りないものを吸収して、次に繋げよう!
「クリスは本当、まっすぐだなー」
カイト君は呆れたようにそう言ったけど、その顔は優しく微笑んでいました。
リィちゃんも微笑みながら、私の頭を撫でてくれました。
「頑張るのはいいけど、とりあえず、今日は休みましょう?」
「え?まだ頑張れるよ?」
私の答えにリィちゃんは苦笑いを返しました。
「頑張りすぎたら倒れてしまうわ。倒れてしまったら、何もできない。そうでしょう?」
「……」
その言葉に、ちょっとだけ反省をしました。
リィちゃんの言うとおりです。
頑張ることは大事だけと、休むことも同じくらい大事です。
お母さんがいつもお父さんとクロードお兄ちゃんに言っていたことを思いだしました。
「うん、そうだね。発表も終わったし、ちょっとだけお休みしようかな」
「ええ。そうしましょう。そうだわ!今度のお休みに、気分転換におでかけしましょう!今度はカイトも一緒よ」
リィちゃんは楽しそうに言いました。
横で聞いていたカイト君は、ぎょっとした顔をして、「なんで俺も行かなきゃなんねーんだ!?」と叫びました。
三人でおでかけ……!
それはすごく行きたいです!
「いいね!私、カイト君ともおでかけしたいな!」
その一言でカイト君は観念したようで、三人でおでかけすることになりました。
家に帰って、カイト君とおでかけすると言った時のお兄ちゃん達の顔は、どこかショックを受けていました。
んん?なんでだろう?
やっぱりカイト君がいると、早くまとまります。
カイト君は、てきぱきと役割分担を決めて、必要な資料と統計をすぐにまとめてくれました。
私とリィちゃんはあんなにあたふたしてたのに、それを難なくやってのけるカイト君は本当にすごいです。
リィちゃんは、カイト君の補佐がうまくて、カイト君が必要だと思うものがわかってるように本を探し出してくれます。
二人を見ていると、なんだか、教授と助手みたいな関係に見えてしまいます。
「何笑ってんだよ、クリス」
「あ、ごめん、カイト君。なんでもないよ」
リィちゃんとカイト君のやり取りを見ていたら、不機嫌な顔をされてしまいました。
どうやら顔に出ていたようです。いけない、いけない。
教授と助手みたいだねって言ったら、絶対ケンカになりそうなので、黙っておきます。
いよいよ明日はグループ研究発表の日。
放課後、私達は図書室で発表の準備をしていました。
準備と言っても、発表資料の整理をしているだけで、明日の準備はすでにできています。
レポートが完成したのは、昨日の放課後でした。
下校時間の前に滑り込みで先生に添削してもらって、参考資料などの提出、発表の順番も決まりました。
ここまでギリギリだったけど、なんとか間に合いました。
正直、内容の完成度には不安があるけど、ここまでまとめられたから、あとはみんなに聴いてもらえるように頑張るだけです。
「クリスちゃん、疲れた?今日はもう帰る?」
「ううん、大丈夫だよ。これ、片付けるね」
分厚くて大きな本を数冊、本棚に戻しに行きます。
あれから、ずっと気になっていたあの男の子が図書室に現れることはありませんでした。
カイト君もリィちゃんも何も言いません。
カイト君が帰ってきたら訊こうと思ってたけど、カイト君は言いたくなさそうでした。
気になることはたくさんあるけど、二人が何も言わないので、とりあえず気にするのはやめることにしました。
うん、もうあの男の子に会わないのなら、このまま忘れよう。その方がいいよね。
「クリス、それは持ちすぎだろ。手伝うぞ」
「あ。ありがとう、カイト君」
横からひょいっと大きな本を持ち上げられます。
手に残ったのは一冊だけで、カイト君はさっさと本を戻しに行ってしまいました。
カイト君は、何かと私を助けてくれるようになりました。
さっきみたいなこともそうだけど、勉強の時も魔法実技の時も世話を焼いてくれます。
むむむ。なんだか過保護になった気がします。
そんなこんなで発表資料を整理して、あまり遅くならないうちに帰ることになりました。
「クリスちゃん、明日頑張りましょうね」
「早く寝ろよ」
「うん!二人ともまた明日~」
発表、頑張ります!
次の日、グループ研究発表の時間になりました。
今日は一日グループ研究発表会の時間になります。
一グループの持ち時間は三十分~五十分。三十分以下、五十分以上になると減点になります。
それぞれのグループの発表を聴きながら、聴いている側も評価をつけます。
どこがわかりやすかったかとか、興味が持てたかなど、課題と発表に関する評価の項目がいくつかあって、それぞれ五段階評価で評価します。
私達のグループは、最後から三番目です。
順番が来るまでいろんなグループの発表を見て、とても勉強になりました。
その中で特に気になったのは、「精霊と妖精」、「国の成り立ち」、「守護魔法」でした。
「精霊と妖精」の発表をしたグループは、精霊と妖精の違いを強く押し出していました。
精霊は肉体を持っていないけど、その代りにいろんなものに乗り移れるとか、人の目には人型や獣型に見えることが多いとか。
妖精は特殊な祝福魔法を持っていて、鉱脈を引き当てたり、急に事業が成功したりする裏には妖精が関わっていることが多いとか。
精霊と妖精の決定的な違いは、人との関わりが積極的であるかないか。
精霊は妖精と違い、気まぐれに人を助けないそうです。
精霊王の名の下、それぞれに役割があり、世界が正しく回るようにしてくれているそうです。
その中で、ときどき人に手を貸すことがあるくらいで、基本的には人と距離を置いています。
それとは反対に妖精は人にちょっかいを出すのが好きみたいです。
発表の内容は、どちらかと言えば精霊について多かった気がします。妖精に関しての記述はいろいろありすぎて、はっきりしたことはわからないから仕方ないです。
精霊に少なからず関係している私には、とても気になることばかりで、このグループの発表は始終食い入るように聴きました。
「国の成り立ち」を発表したグループは、古い地図と新しい地図を比べて、この国がどんなふうにここまで来たのかを発表していました。
私が住むこの国ヴェルトミールは、最初はとても小さな国で、いつも他国の侵略に怯えていました。
この国は大陸のちょうど中心にあり、周りの国はいつも取り合っていたそうです。
それがどうしてここまで大きくなったか。
それには精霊の介入があったからだと言われているそうです。
このグループは、文献が古すぎて、ところどころ無くなったり読めなくなっていて、詳しいことを詰められなかったそうですが、私はそれは事実だと思いました。
精霊王さんに会わなければ、そういう風に思わなかったかもしれません。
「守護魔法」を発表したグループは、実際に守護魔法を披露しながら、その特性を発表していました。
守護魔法は様々な形のものがあって、内側から守るものや外側から守るもの、自分が護りたいものだけ護るものなど、発動条件は使い手次第で様々なのだそうです。
他の魔法と決定的に違うのは、なんと言ってもその魔法の希少さです。
守護魔法を使うには、ある一定以上の魔力が必要で、その上、複雑な魔法式と魔法紋章術を掛け合わせなければなりません。
魔法式と魔法紋章術が使える時点で、もう雲の上の人ぐらいすごいことなので、魔力の性質以外でこの魔法を使える人は本当に少ないそうです。
ちなみに、守護魔法を披露していた子は、魔力の性質で使えているそうです。それでも発動するのは難しいようで、形を長く留めることはできませんでした。
あれ?もしかして、守護魔法がかかった魔導具って、本当はものすごく貴重なんじゃ?
ポケットのポーチを思い出しながら、心の中でエルフのお店のお姉さんに謝りました。
買ってくれたレガロお兄ちゃんにも謝ろう…。
そんなこんなで、私達の番がやってきます。
前のグループの発表が終わって、拍手が起きます。
その拍手の間に、前のグループと私達のグループが入れ替わり、先生がタイマーをセットします。
「では、次のグループ」
『はい!』
元気よく返事をして、「魔力と魔法の関係性」を発表しました。
内容を簡単に説明すると、こんな感じです。
魔力は生きているものすべてが持っていて、その性質や量は人それぞれ。
そして、特殊な性質ではない限り、自分の魔力は自分にしか使えない。
魔力は魔法を使うためにあり、魔法は魔力がないと発動できない。
魔法を使うのに、特に心に留めておかなければいけないのは魔力の性質。
魔力の性質は、世界のバランスを崩さないためにある。
それは制限に思えるかもしれないけど、逆に言えば、いろんな人と協力し合えば、なんでもできるということ。
良くも悪くも、人が魔法を使うことは、お互いに影響し合っていることがわかる。
そして、それは精霊や世界を巡る流れにも大きく影響してくる。
「そういうわけで、魔力と魔法は切っても切れない関係にあります」
締めの言葉で終われば、ぱらぱらと拍手が起きます。
聴いていたみんなは戸惑っていて、ちょっとわからないという顔でした。
うん、そうだよね。
ここまで頑張って調べたのはいいのですが、課題の内容が思った以上に大きすぎて、結局魔力の性質についてしかレポートにまとめられなかったんです。
このまま調べてたら、あと一年くらいは時間が必要です。
それに光組の図書室の本では、これ以上調べるのは無理だと思いました。
みんなの微妙な反応にしょんぼりすれば、リィちゃんとカイト君が隣で肩をたたきます。
二人とも笑っていたけど、やっぱり悔しさもあって、それは困り笑いのように見えました。
「カイト君、リリーさん、クリスさん、ありがとう。難しい課題だったから、まとめるのは大変だったでしょう。ここまでまとめられただけでもすごいわ」
先生が大きく拍手をしてくれました。
それに釣られて、みんなも大きく拍手をしてくれます。
「君たちの課題は、僕たちの課題に繋がるものだったよ。よかったら、また教えてくれ」
「うんうん、あたし達の課題にもリンクしてるよね。視点が違うから、とてもおもしろかったよ」
「守護魔法」を発表したグループと「精霊と妖精」を発表したグループが声をかけてくれました。
かけられた言葉に、胸が熱くなります。
グループ研究のいいところは、発表で終わらないところです。
こうやってお互いの課題を見せ合うことで、違う視点に驚かされたり、勉強になったり…みんながお互いに刺激し合って、また新しい課題や答えが見つかるのです。
「うんっ!ありがとう!こちらこそ、また教えてください!」
こうして、グループ研究発表会は無事に終わりました。
私達のグループは順位は最下位でした。完全に力不足の結果です。
結果は悔しかったけど、いろんなグループの課題と関わりが持てたことはとてもうれしいことでした。
「あーあ、もっとなんとかできたんだろーなー」
「もう、カイト。最下位だったからって、そんな不機嫌にならないでよ」
発表会が終わっても、私達はまた図書室で本を積み上げています。
大きなため息を吐くカイト君にリィちゃんがちょっと怒ります。
「もっと、勉強しなくちゃ。今回の発表会で、足りないものがいっぱいあるんだってよくわかったよ」
大きな本と辞書を開きながら呟くと、リィちゃんが驚いたような顔をします。
カイト君もちょっと拗ねたような顔をしながら見つめてきます。
「そうね。今回はだめだったけど、次頑張りましょう!」
「うんっ!次はもっとわかりやすく説明できるようにいろんな本を読んでおかなくちゃ!」
知識は無限に続く空のように大きく広がっていて、そのすべてを知ることはできない。
だけど、知りたいことを集めてパズルのように埋めていくことはできる。
だから、私に足りないものを吸収して、次に繋げよう!
「クリスは本当、まっすぐだなー」
カイト君は呆れたようにそう言ったけど、その顔は優しく微笑んでいました。
リィちゃんも微笑みながら、私の頭を撫でてくれました。
「頑張るのはいいけど、とりあえず、今日は休みましょう?」
「え?まだ頑張れるよ?」
私の答えにリィちゃんは苦笑いを返しました。
「頑張りすぎたら倒れてしまうわ。倒れてしまったら、何もできない。そうでしょう?」
「……」
その言葉に、ちょっとだけ反省をしました。
リィちゃんの言うとおりです。
頑張ることは大事だけと、休むことも同じくらい大事です。
お母さんがいつもお父さんとクロードお兄ちゃんに言っていたことを思いだしました。
「うん、そうだね。発表も終わったし、ちょっとだけお休みしようかな」
「ええ。そうしましょう。そうだわ!今度のお休みに、気分転換におでかけしましょう!今度はカイトも一緒よ」
リィちゃんは楽しそうに言いました。
横で聞いていたカイト君は、ぎょっとした顔をして、「なんで俺も行かなきゃなんねーんだ!?」と叫びました。
三人でおでかけ……!
それはすごく行きたいです!
「いいね!私、カイト君ともおでかけしたいな!」
その一言でカイト君は観念したようで、三人でおでかけすることになりました。
家に帰って、カイト君とおでかけすると言った時のお兄ちゃん達の顔は、どこかショックを受けていました。
んん?なんでだろう?
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