クリスの魔法の石

夏海 菜穂(旧:Nao.)

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第1章 ◆ はじまりと出会いと

21. ドタバタなおでかけ②

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 正門の停留所から学園へ向かう大通り。
 その十三区画目にグランツ学園認定文房具店「精霊の祝福」があります。
 この文房具屋さんは、お店の名前もすごいですが、グランツ学園ができるもっともっと前からあって、ここで揃わない文房具は無いと言われています。
 見た目は普通の建物に見えますが、中は魔法空間になっていて、店員さんがいないと迷子になってしまうほど広いです。



「えーっと…光組専用ノートは…っと、あった!」
「クリスちゃん、こっちのノート、すごくかわいいわよ」

 ノートが並ぶ棚に案内してもらった私達は、目当ての物を早々に見つけて他のノートも見てみることにしました。
 ノートといっても、種類がたくさんあって、大きさやページ数、色、形など、本当に様々です。
 職業や環境に合わせて、より使いやすいノートを開発してたら、数えきれないほどの種類になったんだとか。
 そこまでノートの研究をする人がいるなんて、びっくりです。

 ちなみに、光組専用のノートはちょっと珍しい仕様です。
 ノートは窓みたいに真中から両開きになっていて、見開きにすると左のページ、真中のページ、右のページと三つのページになります。
 どうやって使うのかというと、左のページは閉じた状態で捲っていきます。ここには、毎日教科の宿題や課題内容を書き込みます。
 真ん中のページは、授業の内容を書きます。左のページと綴じられているので、左開きです。
 右のページは開いた状態で捲っていきます。ここのページは、自由に使っていいページです。私は、授業でわからなかったことや興味を持ったことをメモしています。たまに、先生のコメントが書かれることもあります。
 サイズは、普通のノートより少し大き目で、閉じた状態だと正方形に近い形のノートです。

「クリス、リリー。俺、あっちのペンの棚に行ってくるな」

 カイト君が指差した方を見ると、色とりどりのペンが並ぶ棚が空中に見えます。
 空中にある棚は、店員さんと空中艇ゴンドラに乗って行けます。
 リィちゃんも「私も青ペン買わなきゃ」と言って、カイト君と一緒に行ってしまいました。

 二人を見送って、ノートの棚をゆっくり見回っていると、ふと魔導具研究科専用ノートに目を留めます。

 ライゼンさんと同じノート…。

 それは、あの帰りの馬車で魔導具のお話を聞いた時に見せてくれたノートでした。
 表紙はダークブルーとワインレッドがあって、ライゼンさんはダークブルーの方を持っていました。
 ノートを手に取って中を見ると、左ページは上半分が無地、下半分が目盛で、右ページは方眼になっていました。
 ライゼンさんのノートはいっぱい書き込みがしてあったので、こんな仕様だったとは気づきませんでした。

「クリスちゃーん、お待たせー」

 リィちゃんの声がして振り返ります。
 リィちゃんとカイト君は、もう会計を済ませていました。

「クリス、まだ買ってねーのか?そろそろ出ないと、他の店回れねーぞ?」

 カイト君にそう言われて、慌てて会計をしました。
 その時に、うっかり魔導具研究科のノートも一緒に会計に出してしまい、そのまま買ってしまいました。



 その後、リィちゃんの行きたい店とカイト君の行きたい店に行ったら、もうお昼になってしまいました。
 カイト君はもう帰らなければいけません。

「悪い、クリス。おまえの行きたいところ一緒に行ってやれなくて」
「ううん。気にしないで。また今度一緒に行こうね」
「おう。じゃーな、気をつけろよ」

 カイト君は、私達に手を振って、学園の方角へと走って行きました。
 軽やかに人の間を縫うように走って行くカイト君は、やっぱり運動神経がいいなぁと思いました。

「クリスちゃん、この後どうする?」
「うーん、そうだね…とりあえず、お昼ごはんにしよう?」

 ちょっとおなかが減ってきました。
 それに、休日のお昼時のせいか人が増えてきて、このままだと人に流されそうです。
 人の流れが落ち着くまで、どこかのお店にいた方がいいと思いました。

 その提案にリィちゃんは微笑んで頷いてくれました。
 手を繋ごうとしてリィちゃんに手を伸ばしたら、後ろから何かがぶつかってきました。
 びっくりして振り返れば、目つきの悪いお兄さんが。

「気をつけろ、嬢ちゃん」
「あっ。すみません」

 一言お兄さんに謝って、リィちゃんと道の端へ避難します。
 道に人がいっぱいになってきて、このままでは埋もれてしまいそうです。

「どうしよう、これじゃ、どこのお店にも行けないね」

 たくさんの人に、ちょっと目が回りそうです。
 
「クリスちゃん、こっちの路地、確か猫町通りに繋がっていたはずよ。この道を使って抜けましょう」

 リィちゃんが指差した先は、ちょっと薄暗い細い道でした。
 大人2人すれ違うのがやっと幅の道です。
 こういう狭い道を見ると、探検するみたいで行ってみたくなっちゃいます。

 リィちゃんは私の手を握って、先導してくれました。
 途中、道が何度か分かれていましたが、リィちゃんは迷うことなく進んでいきました。
 進んでいく細い道は、薄暗いのに不思議と怖くなくて、気がつけば見覚えのある場所に出ました。

「あっ、妖精のかまど!」

 そこは、前にリィちゃんとレガロお兄ちゃんとでおでかけした時に入った喫茶店でした。
 よかった、ちゃんと猫町通りに出られたみたいです。

 猫町通りは、相変わらず人より猫が多いです。
 さっきの慌ただしい大通りとは違い、ゆったりとした時間の流れにホッとしました。

「クリスちゃん、お昼はここにする?」
「うんっ!」

 もうおなかペコペコです。

 中に入ると、お客さんはそんなにいませんでした。
 通りが見える窓際の席に座って、リィちゃんとハニーピザを注文しました。
 前に来た時、隣のテーブルの人がこれを注文していて、とてもおいしそうだったので食べるのが楽しみです!

 リィちゃんと次はどうしようかと話しながらピザを待っていると、聞き覚えのある声に呼ばれました。

「あ。今朝のお嬢ちゃん」
「あら、ほんと。お昼ごはん食べに来たの?」

 その声は、エレナさんとジルディースさんでした。
 二人も、お昼ごはんを食べに来たようでした。

「お疲れ様です」と、ぺこりとお辞儀をすると、隣のリィちゃんも釣られたようにお辞儀をします。
 エレナさんとジルディースさんも騎士の礼で答えてくれました。

「偶然ね。せっかくだから、相席いい?」

 エレナさんがそう言ったので、戸惑って隣に目を向けると、リィちゃんは笑顔で答えました。

「ええ、どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとな」

 エレナさんとジルディースさんが座ると、店員さんが二人にお水を持ってきました。
 二人はその店員さんに、メニューも見ずに注文をしました。
 その慣れている感じ、エレナさんとジルディースさんはこのお店の常連さんなのかな?

「お嬢ちゃん、その包みを見る限りグランツ学園の生徒なのか?」

 ジルディースさんが文房具店のロゴが入った透明な包みを見て言いました。
 学園認定のノートは「精霊の祝福」でしか買えないので、学園の生徒だと思ったようです。
 間違いではないので、素直に肯定しました。

「はい。教育科の一年生です」
「まあ、かわいい。あ、自己紹介が遅れたわ。私はオルデン専属騎士団第三部隊のエレナよ。で、こっちのバカも同じ部隊のジルディース」
「よろしくな!…って!バカとはなんだ!?」

 ジルディースさんは、エレナさんの紹介の仕方にツッコミを入れました。
 おお。なんか息ぴったりです。
 このまま放っておけば、ずっと言い合いをしそうなので、私達も自己紹介をします。

「えと、私はグランツ学園教育科光組八番のクリスです」
「私はリリーです。クリスちゃんと同じ組です」

 エレナさんとジルディースさんは、リィちゃんの自己紹介を聞いて目を見開きました。

「あなたも学園の生徒だったの?フラワーエルフが入るなんて珍しいわね」
「へぇ。そっちのお嬢ちゃんはエルフだと思ってたが、フラワーエルフだったのか。初めて見たな」

 ええっ!?リィちゃんがエルフだって気がついた!?
 レガロお兄ちゃんでも気づかなかったのに!

 「どうしてわかったの?」という顔をしていたら、エレナさんはそれに答えるように微笑んで言いました。

「実は私もエルフなの。だから、エルフかどうかは見ただけでわかるわ」

 エレナさんの話を聞けば、エルフは人間とエルフの違いがわかるそうです。
 エレナさんの種族…ランドエルフは、人間と長く暮らしていたから見た目は人間と変わらないそうです。
 でもちゃんとエルフとしての力を持っているし、寿命も人間よりも長いので、それを知らない人にはよく驚かれるんだとか。
 確かに、エルフだと言われても全然わからないです。どこが違うのかさっぱりわかりません。
 それほど、エレナさんの見た目は人間と変わりませんでした。

「ジルディースさんは、どうしてわかったんですか?見たところ、エルフではないですよね?」

 リィちゃんが不思議そうに訊きます。

「魔力の性質だ。俺は他人の魔力の色を見ることができる」
「ジルディースのいいところって、そこだけよね」
「なんだと、エレナ!?」

 ええと!ケンカしないで―!
 なんですぐにケンカになるのー!?

 ジルディースさんの言ったことが気になりすぎて、慌ててその場を収めます。
 リィちゃんもこの二人のやり取りに、ちょっと疲れた目をしています。

「ジルディースさん、魔力の色ってなんですか?魔力に色がついてるんですか?」

 魔力に色がついているなんて、本には書いていませんでした。
 一体どんな風に見えるのでしょうか?

 とても興味津々で訊いたので、ジルディースさんは笑いながら教えてくれました。

「んー。魔力には色はついてないと思うぞ。魔力は目に見えないが人それぞれ違うだろ?俺は、その違いが色として見えるだけだ」
「エルフが見ているものと近いわね。エルフは見た目よりも、その人の魔力を見ているの」

 ジルディースさんの話にときどきエレナさんの補足が入りながら話は進みます。

 人間以外は魔力の違いがわかるそうです。
 たまに、人間でもジルディースさんのように魔力の性質で魔力が見える人がいるんだとか。
 ジルディースさんは、魔力が色で見えているだけと言いますが、それでもすごいです。
 リィちゃんがエルフってわかったのは、エルフの色が混じっていたからだそうです。

 魔力は、人間、エルフ、妖精、精霊…それぞれ違う輝きを持っているので、エルフはそれを見分けて判断できるようです。
 見えると言っても、ただ魔力の違いが見えるだけで、魔力の量や魔力の性質がどんなものなのかは、エルフにはわからないとエレナさんは言いました。

「でもね、エルフは魔力の持ち主がどんな人なのか見極める目はあるわよ」
「はい。そうですよね。心に悪がある人は魔力が黒く見えて、明るい人や優しい人は陽の光のような色をしていますよね」
「そうそう」

 エレナさんとリィちゃんはお互いに頷きながら言いました。

「へぇ。エルフは魔力がそんな風に見えるんだな。だからエレナは犯人を見つけるのがうまいのか。ほんと、すげーよ」

 感心しながらジルディースさんがエレナさんを褒めると、褒められた本人は真っ赤になりました。

「な、何でここで急に褒めてくるわけっ!?このバカ!」
「なんで俺怒られてんだ!?」

 あれ?意外とエレナさんって、かわいい人なのかな?
 どこからどう見ても、ジルディースさんの言葉に動揺してます。
 私が見た限りでは、ジルディースさんに対する言動は冷めてて、相性が悪いのかなと思っていたのですが、この二人のやり取りを見ていると、そうでもないのかなと思いました。


「…エレナさんって結構乙女なのね」



 隣で小さく呟いたリィちゃんの言葉は、聞かなかったことにしました。


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