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第1章 ◆ はじまりと出会いと
31. ハラハラな料理実習③
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みんなが食材を集めに行ってから一時間ぐらいすると、ハーツ君がいるグループが帰ってきました。
手にはいろんな野菜とお肉があって、うまく集めて来れたんだとわかります。
その最初のグループから少し遅れてカイト君のグループが続き、時間をあまり空けずにほとんどのグループが帰ってきました。
「あれ?アイリーナちゃん達、まだ帰ってきてない…」
きょろきょろと教室を見回しますが、私のグループは誰も帰ってきていませんでした。
最初はあまり気にせずに待っていたのですが、周りの子達がどんどん調理を進めているのに焦りを感じ始めました。
どうしたんだろう?何かあったのかな?
じっと教室の扉を見つめていると、エヴァン先生が声をかけてきました。
「クリスさんのグループはまだ帰ってきてないのですか?」
「…はい…」
少し落ち込んでいると、ふわふわと頭を撫でられます。
先生の方を見上げれば、頭にフェルーテちゃんが乗っていて思わず笑ってしまいます。
その小さな妖精がついっと私の目の前まで来て、励ますように言いました。
『クリスの仲間が帰ってこないのね?まかせて。わたしが探してきてあげる』
「え?でも…」
『いいから、いいから。学園内は私の庭なんだから!』
フェルーテちゃんは、私の返事を聞かないまま窓の外へ行ってしまいました。
呆然とそれを見送っていたら、エヴァン先生が耳元で囁きます。
「クリスさん、フェルーテに任せなさい。彼女は失せ物探しが得意ですから」
先生はみんなに聞こえないように小さな声で言いました。
「どうして内緒話?」と思いましたが、素直に頷きました。
とにかく、先生の言うとおり、フェルーテちゃんを待つことにしました。
カラーン、コローン、カラーン、コローン……
授業終了の鐘が鳴り響きます。
結局、アイリーナちゃん達もフェルーテちゃんも帰ってこないまま、調理実習の前半が終わってしまいました。
周りのグループも、何もしない私を不思議そうに見ています。
その視線は、ちょっと痛いですが今は待つことしかできません。
鐘が鳴り終わると、エヴァン先生が手を叩きます。
「はい。みんな、休み時間です。切のいいところで休憩に入ってくださいね」
『はーい』
それぞれのグループが思い思いに調理場から離れて一休みします。
火を使っていたグループは一旦火を止めて、食材を刻んでいたグループは刻み終えてから休憩に入っていきます。
その様子をぼんやりと見つめていたら、突然後ろから頭を乱暴に撫でられました。
それにびっくりして、顔だけ振り向きます。
「クリス、おまえのグループどうしたんだよ?」
そう言って声をかけてきたのはハーツ君でした。
体の大きなハーツ君は、見た目の通りとても力持ちで、頼りになる男の子です。
「うん…。遅いよね、すごい食材でも見つけに行ったのかな?」
「そうなのか?負けてられねぇな!」
困り笑いで答えると、バンバンと背中を叩かれます。い、痛い。
ハーツ君はあまり加減を知らない男の子です…。
「アイリーナなら食材にこだわりそうだよな。でも早く帰ってこないと調理する時間無くなるぞ?食材があっても、ハンバーグができてなきゃ意味ないだろ」
ハーツ君の言葉が重石のようにズシっと私に落ちてきたような気がしました。もっともすぎて、何も言えません。
このまま帰ってこないとなると、ハンバーグが作れなくて私達のグループは点がもらえません。
それは絶対嫌です。
「で。クリスはなんで何もしないわけ?探しに行かないのか?」
「えっ。えと…それは…」
口ごもる私を見て、厳しい顔になるハーツ君。
そうだよね、普通探しに行くよね。
でもフェルーテちゃんが探しに行ってくれたし、先生も任せなさいって…。
あれ?でも、私が探しに行っても問題ない、よね…?
そう思って、不審げに見つめてくるハーツ君に説明しようとした瞬間。
「クリスさん、ちょっと」
エヴァン先生が私の言葉を遮るかのように声をかけてきました。
「っあ、はい…!」
反射的に先生の方を振り返って返事をします。
準備室の前で手招きをしているので、それに従い先生の傍へ行きました。
ハーツ君から離れることができたので、ちょっとだけほっとします。
ちらっとハーツ君の方を見ると、その顔は納得していないようでした。
先生に準備室の中へと案内されると、一部の子達がびっくりしたような目で見つめてきました。
「なんだろう?」と思ったのも一瞬で、準備室の扉がその視線を遮ってしまいました。
準備室に入って、一番に目に入ったのが大きな樹でした。
その樹は準備室の中心から生えていて、部屋全体を覆うように葉と根が広がっていました。
それは、リィちゃんとレガロお兄ちゃんとおでかけした日に行った雑貨屋さん「Green Bird」の樹に似ているなと思いました。
その包み込まれるような雰囲気に魅入られていると、フェルーテちゃんが樹の枝に座っているのが見えました。
「フェルーテちゃん!みんなは見つかったの!?」
『ごめんね、クリス。見つけられなかったの。もしかしたら学園の外にいるのかも…』
フェルーテちゃんは、しょんぼりした声で答えました。
心成しか、羽の淡い輝きもくすんでいるように見えます。
学園の外って…街で食材を集めてるってこと?
エヴァン先生の方を見ると、その顔は少し怒っているように見えました。
「…どうして外に出るのですか。まったく、困りましたね」
エヴァン先生は、ため息をついて大きな樹に手をかけます。
すると、樹が淡く光りだして、光の粒が先生の中へと吸い込まれていきます。
魔法のような、そうじゃないような…不思議な光景です。
ただただ息をのんで見つめていると、フェルーテちゃんがこっそり教えてくれました。
「エヴァンはね、一番妖精に近いエルフ、フェアリーエルフなの。だから、わたしの姿も見えるし、妖精の力もちょっとだけ使えるのよ」
「っえ!!?」
今、とんでもないことを聞いた気がするのですが!?
エヴァン先生がエルフ!?しかも妖精に近い!?
先生達はみんな人間だと思っていたので、びっくりするばかりです。
考えてみればそうだよね、生徒の中にエルフがいるんだもん。先生の中にだってエルフはいるよね。
当たり前のようにエヴァン先生がフェルーテちゃんと話してたから、すっかり忘れていました。
普通なら人には妖精の姿が見えない。人間だとなおさら。
妖精が見える方がおかしいんだ。
先生がみんなに聞こえないように小声で話していたのも、そういう理由だったんですね。
気がつくのが遅いよ、私…!
『…クリスは…なんで見えるのかしら?エルフでもないし』
「私にもわからないよ…」
『魔力の性質かしら?他の妖精を見たことはある?』
フェルーテちゃんの質問に首を振って否定します。
見たことあったら、フェルーテちゃんに会った時あんなにびっくりしません。
でもそっか、魔力の性質で見えることもあるんだ…。
ジルディースさんのみたいな、魔力が色で見えると同じような性質になるのかな?
『んー…じゃあ、もしかして…』
「ちょっと黙っててくれませんか…」
エヴァン先生がちょっと怒った声で言います。
ピリリと鋭い空気が先生から出ていて、思わず、ぱっと口を手で覆います。フェルーテちゃんもちょっと拗ねるように黙ります。
淡い光が収まると、エヴァン先生が大きなため息をつきました。
「フェルーテの言うとおり、学園の外…街の中にいるみたいですね。しかも迷子になっています」
「ええっ!?大変!む、迎えにいかないと…!」
オルデンは人が多いから、一度迷子になると人込みの中から見つけるのは大変です。
せめて騎士団の詰所に辿り着ければ、なんとかなるとは思いますが。
怖い思いをしてなければいいけど…。
『オルデンのどの辺り?』
フェルーテちゃんがエヴァン先生の額に自分の額を合わせます。
すると、先生からフェルーテちゃんへ淡い光が流れていきます。
エヴァン先生が持っている情報をフェルーテちゃんが頭の中を通して見ているようです。
『…ふぅん。オルデンの結界魔導具の近くね。ちょっと不味いわ』
「え…?」
首を傾げると、フェルーテちゃんが苦い顔で言いました。
『最近、魔導具が壊されてる事件が起こってるでしょ?』
一瞬息が止まりました。
つい最近私も疑われたばっかりだったから。
『犯人が子どもってことになってるから、そんな所うろついてたら絶対捕まるわよ』
「…そうですね。早急にみんなを連れ戻しましょう。クリスさん、待っていてくれますか?」
「…っ、私も…っ!」
「行きたい」と言いたかったのに、言えませんでした。
エヴァン先生の鋭い目が私を射抜いたからです。
普段の穏やかなエヴァン先生からは想像もできないほどの険しい顔に一歩引いてしまいます。
「待っていてくれますか?」
「…はい」
有無を言わさない空気でもう一度言われ、それに力なく返事をしました。
しょんぼりする私の頭をエヴァン先生は優しく撫でてくれました。
「心配しないでください。すぐにみんなを連れて戻ってきます」
「はい、先生」
『心配なんか全然ないけど…エヴァン、気をつけて』
エヴァン先生は、いつもの穏やかな顔に戻ってにっこりと笑うと、私と一緒に準備室から出ます。
ハンバーグを作っていた他のグループは、出てきた私達を一瞬見ましたが、すぐに作業に視線を戻します。
その中で、リィちゃんとカイト君は心配そうな目で見つめていました。
二人に軽く笑って見せて、「心配ないよ」と首を振ります。
ちょっとびっくりした顔をされましたが、こくりと頷いてくれました。
「みんな、先生は少し用事ができてしまったので、ギル先生を呼んできますね。火の扱いには気をつけて、いい子にしているんですよ?」
『はーいっ』
先生の言葉に素直に返事をするみんな。
私も一緒に返事をして、自分のグループの調理台に戻りました。
私の肩には、フェルーテちゃんが座っています。
『クリス、わたしも一緒に待っててあげるから』
かわいくウィンクをくれたフェルーテちゃんに、こっそり頷きます。
独りで待つには心細かったので、そう言ってもらえてうれしい。
調理台の上には、私が選んだ調理器具とハンバーグを乗せるお皿、ナイフとフォークが積まれています。
調理器具をすぐに使えるように広げておいて、窯の火が弱くなっていたので温度を測りながら様子を見ます。
不安はあるけど、待つのは慣れっこだ。
アイリーナちゃん達が帰ってくるまで、私にできることをやろう。
まずは、みんなが帰ってきたらすぐに調理ができるように準備をしておかなくちゃ!
手にはいろんな野菜とお肉があって、うまく集めて来れたんだとわかります。
その最初のグループから少し遅れてカイト君のグループが続き、時間をあまり空けずにほとんどのグループが帰ってきました。
「あれ?アイリーナちゃん達、まだ帰ってきてない…」
きょろきょろと教室を見回しますが、私のグループは誰も帰ってきていませんでした。
最初はあまり気にせずに待っていたのですが、周りの子達がどんどん調理を進めているのに焦りを感じ始めました。
どうしたんだろう?何かあったのかな?
じっと教室の扉を見つめていると、エヴァン先生が声をかけてきました。
「クリスさんのグループはまだ帰ってきてないのですか?」
「…はい…」
少し落ち込んでいると、ふわふわと頭を撫でられます。
先生の方を見上げれば、頭にフェルーテちゃんが乗っていて思わず笑ってしまいます。
その小さな妖精がついっと私の目の前まで来て、励ますように言いました。
『クリスの仲間が帰ってこないのね?まかせて。わたしが探してきてあげる』
「え?でも…」
『いいから、いいから。学園内は私の庭なんだから!』
フェルーテちゃんは、私の返事を聞かないまま窓の外へ行ってしまいました。
呆然とそれを見送っていたら、エヴァン先生が耳元で囁きます。
「クリスさん、フェルーテに任せなさい。彼女は失せ物探しが得意ですから」
先生はみんなに聞こえないように小さな声で言いました。
「どうして内緒話?」と思いましたが、素直に頷きました。
とにかく、先生の言うとおり、フェルーテちゃんを待つことにしました。
カラーン、コローン、カラーン、コローン……
授業終了の鐘が鳴り響きます。
結局、アイリーナちゃん達もフェルーテちゃんも帰ってこないまま、調理実習の前半が終わってしまいました。
周りのグループも、何もしない私を不思議そうに見ています。
その視線は、ちょっと痛いですが今は待つことしかできません。
鐘が鳴り終わると、エヴァン先生が手を叩きます。
「はい。みんな、休み時間です。切のいいところで休憩に入ってくださいね」
『はーい』
それぞれのグループが思い思いに調理場から離れて一休みします。
火を使っていたグループは一旦火を止めて、食材を刻んでいたグループは刻み終えてから休憩に入っていきます。
その様子をぼんやりと見つめていたら、突然後ろから頭を乱暴に撫でられました。
それにびっくりして、顔だけ振り向きます。
「クリス、おまえのグループどうしたんだよ?」
そう言って声をかけてきたのはハーツ君でした。
体の大きなハーツ君は、見た目の通りとても力持ちで、頼りになる男の子です。
「うん…。遅いよね、すごい食材でも見つけに行ったのかな?」
「そうなのか?負けてられねぇな!」
困り笑いで答えると、バンバンと背中を叩かれます。い、痛い。
ハーツ君はあまり加減を知らない男の子です…。
「アイリーナなら食材にこだわりそうだよな。でも早く帰ってこないと調理する時間無くなるぞ?食材があっても、ハンバーグができてなきゃ意味ないだろ」
ハーツ君の言葉が重石のようにズシっと私に落ちてきたような気がしました。もっともすぎて、何も言えません。
このまま帰ってこないとなると、ハンバーグが作れなくて私達のグループは点がもらえません。
それは絶対嫌です。
「で。クリスはなんで何もしないわけ?探しに行かないのか?」
「えっ。えと…それは…」
口ごもる私を見て、厳しい顔になるハーツ君。
そうだよね、普通探しに行くよね。
でもフェルーテちゃんが探しに行ってくれたし、先生も任せなさいって…。
あれ?でも、私が探しに行っても問題ない、よね…?
そう思って、不審げに見つめてくるハーツ君に説明しようとした瞬間。
「クリスさん、ちょっと」
エヴァン先生が私の言葉を遮るかのように声をかけてきました。
「っあ、はい…!」
反射的に先生の方を振り返って返事をします。
準備室の前で手招きをしているので、それに従い先生の傍へ行きました。
ハーツ君から離れることができたので、ちょっとだけほっとします。
ちらっとハーツ君の方を見ると、その顔は納得していないようでした。
先生に準備室の中へと案内されると、一部の子達がびっくりしたような目で見つめてきました。
「なんだろう?」と思ったのも一瞬で、準備室の扉がその視線を遮ってしまいました。
準備室に入って、一番に目に入ったのが大きな樹でした。
その樹は準備室の中心から生えていて、部屋全体を覆うように葉と根が広がっていました。
それは、リィちゃんとレガロお兄ちゃんとおでかけした日に行った雑貨屋さん「Green Bird」の樹に似ているなと思いました。
その包み込まれるような雰囲気に魅入られていると、フェルーテちゃんが樹の枝に座っているのが見えました。
「フェルーテちゃん!みんなは見つかったの!?」
『ごめんね、クリス。見つけられなかったの。もしかしたら学園の外にいるのかも…』
フェルーテちゃんは、しょんぼりした声で答えました。
心成しか、羽の淡い輝きもくすんでいるように見えます。
学園の外って…街で食材を集めてるってこと?
エヴァン先生の方を見ると、その顔は少し怒っているように見えました。
「…どうして外に出るのですか。まったく、困りましたね」
エヴァン先生は、ため息をついて大きな樹に手をかけます。
すると、樹が淡く光りだして、光の粒が先生の中へと吸い込まれていきます。
魔法のような、そうじゃないような…不思議な光景です。
ただただ息をのんで見つめていると、フェルーテちゃんがこっそり教えてくれました。
「エヴァンはね、一番妖精に近いエルフ、フェアリーエルフなの。だから、わたしの姿も見えるし、妖精の力もちょっとだけ使えるのよ」
「っえ!!?」
今、とんでもないことを聞いた気がするのですが!?
エヴァン先生がエルフ!?しかも妖精に近い!?
先生達はみんな人間だと思っていたので、びっくりするばかりです。
考えてみればそうだよね、生徒の中にエルフがいるんだもん。先生の中にだってエルフはいるよね。
当たり前のようにエヴァン先生がフェルーテちゃんと話してたから、すっかり忘れていました。
普通なら人には妖精の姿が見えない。人間だとなおさら。
妖精が見える方がおかしいんだ。
先生がみんなに聞こえないように小声で話していたのも、そういう理由だったんですね。
気がつくのが遅いよ、私…!
『…クリスは…なんで見えるのかしら?エルフでもないし』
「私にもわからないよ…」
『魔力の性質かしら?他の妖精を見たことはある?』
フェルーテちゃんの質問に首を振って否定します。
見たことあったら、フェルーテちゃんに会った時あんなにびっくりしません。
でもそっか、魔力の性質で見えることもあるんだ…。
ジルディースさんのみたいな、魔力が色で見えると同じような性質になるのかな?
『んー…じゃあ、もしかして…』
「ちょっと黙っててくれませんか…」
エヴァン先生がちょっと怒った声で言います。
ピリリと鋭い空気が先生から出ていて、思わず、ぱっと口を手で覆います。フェルーテちゃんもちょっと拗ねるように黙ります。
淡い光が収まると、エヴァン先生が大きなため息をつきました。
「フェルーテの言うとおり、学園の外…街の中にいるみたいですね。しかも迷子になっています」
「ええっ!?大変!む、迎えにいかないと…!」
オルデンは人が多いから、一度迷子になると人込みの中から見つけるのは大変です。
せめて騎士団の詰所に辿り着ければ、なんとかなるとは思いますが。
怖い思いをしてなければいいけど…。
『オルデンのどの辺り?』
フェルーテちゃんがエヴァン先生の額に自分の額を合わせます。
すると、先生からフェルーテちゃんへ淡い光が流れていきます。
エヴァン先生が持っている情報をフェルーテちゃんが頭の中を通して見ているようです。
『…ふぅん。オルデンの結界魔導具の近くね。ちょっと不味いわ』
「え…?」
首を傾げると、フェルーテちゃんが苦い顔で言いました。
『最近、魔導具が壊されてる事件が起こってるでしょ?』
一瞬息が止まりました。
つい最近私も疑われたばっかりだったから。
『犯人が子どもってことになってるから、そんな所うろついてたら絶対捕まるわよ』
「…そうですね。早急にみんなを連れ戻しましょう。クリスさん、待っていてくれますか?」
「…っ、私も…っ!」
「行きたい」と言いたかったのに、言えませんでした。
エヴァン先生の鋭い目が私を射抜いたからです。
普段の穏やかなエヴァン先生からは想像もできないほどの険しい顔に一歩引いてしまいます。
「待っていてくれますか?」
「…はい」
有無を言わさない空気でもう一度言われ、それに力なく返事をしました。
しょんぼりする私の頭をエヴァン先生は優しく撫でてくれました。
「心配しないでください。すぐにみんなを連れて戻ってきます」
「はい、先生」
『心配なんか全然ないけど…エヴァン、気をつけて』
エヴァン先生は、いつもの穏やかな顔に戻ってにっこりと笑うと、私と一緒に準備室から出ます。
ハンバーグを作っていた他のグループは、出てきた私達を一瞬見ましたが、すぐに作業に視線を戻します。
その中で、リィちゃんとカイト君は心配そうな目で見つめていました。
二人に軽く笑って見せて、「心配ないよ」と首を振ります。
ちょっとびっくりした顔をされましたが、こくりと頷いてくれました。
「みんな、先生は少し用事ができてしまったので、ギル先生を呼んできますね。火の扱いには気をつけて、いい子にしているんですよ?」
『はーいっ』
先生の言葉に素直に返事をするみんな。
私も一緒に返事をして、自分のグループの調理台に戻りました。
私の肩には、フェルーテちゃんが座っています。
『クリス、わたしも一緒に待っててあげるから』
かわいくウィンクをくれたフェルーテちゃんに、こっそり頷きます。
独りで待つには心細かったので、そう言ってもらえてうれしい。
調理台の上には、私が選んだ調理器具とハンバーグを乗せるお皿、ナイフとフォークが積まれています。
調理器具をすぐに使えるように広げておいて、窯の火が弱くなっていたので温度を測りながら様子を見ます。
不安はあるけど、待つのは慣れっこだ。
アイリーナちゃん達が帰ってくるまで、私にできることをやろう。
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