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わたしはキミに負けるつもりはない。
しおりを挟む昼休み、お弁当箱を広げ、蒼子は教室の前の方で弁当を食べている生徒会長である 千秋と副会長である 湊斗をチラチラ盗み見していた。
目の前に座る音乃は、その視線の先をちらりと確認した後、箸で唐揚げをつまみ、口に運んでいた。
蒼子は、おにぎりを持ちながら、うっとりとした表情をして彼らを眺めていた。教室にいる女子生徒も皆、同じような表情をしている。
「あの二人って、本当人気だよね~。」
「そうだねー。」
蒼子は、軽くため息をつく横で、音乃は棒読みで彼女に相槌を打つ。音乃はあまり彼らに興味を示していない。特に、副会長のことは、最近避けているように見える。
我が校の生徒会長と副会長は、女子生徒から圧倒的な人気を誇る。
生徒会長の千秋は、色素の薄い美形であり、同い年とは思えない色気とミステリアスな雰囲気を纏っており、人を引っ張るカリスマ性を持ち合わせているため、生徒から圧倒的な支持を得ている。
副会長の湊斗は、童話に出てくる王子様のように綺麗な顔立ちをしている。常に穏やかな笑みを浮かべ、誰に対しても友好的に接しており、紳士的なため、本当の王子様のようだ。
容姿も秀でているが、千秋と湊斗は、成績も優秀だ。校内テストでは、5本の指に入るほどの学力の持ち主らしい。
二人共、自分の魅力に酔いしれておらず、謙虚な姿勢である。
そのため、女子生徒だけでなく、男子生徒からも好かれており、教師からも一目置かれている。
そんな二人と同じ生徒会に所属している友人の音乃は書記を務めている。
彼女はこの学校の中で一番二人と関わっている女子生徒だろう。
清楚で綺麗な顔をしており、常識的で融通が利く性格をしている。年の割には大人びている一面もあるが、だからといって、気取っておらず、高校生らしく、明るく無邪気に振る舞う。男女問わず、フレンドリーに接するため、友人も多く慕われている。
彼女も彼らと同じで自分の魅力に酔いしれていない。
謙虚な姿勢でいる人は好かれるのだ。
蒼子は、烏龍茶のペットボトルの蓋を開け、口にする音乃に声をかける。
「ねー、音乃。」
「ぶほっ…。ごほっ。ごほっ。」
音乃は、飲みかけていた烏龍茶を喉の器官に詰まらせ、咽せる。
何かぼぉーっと考えていたからだろうか…。
意外と、しっかりしているようで、ドジな一面もある。
蒼子は、涙目になりながら、息をスゥーと吸う音乃の背中をポンポンと優しく叩く。
「ちょっ…、大丈夫なの?」
「ごめん、息吸おうと思ったら、変なとこに入った…。何、どうしたの?」
こう改めて聞かれると、言いづらい…。
蒼子は、何となくおにぎりにかぶり付く。
音乃は、器官が落ち着いたのか、ミニトマトを口に入れ、中でコロコロ転がしていた。
その様子を見ていたら、さっきまでの躊躇していたのが、嘘みたいに薄らいでいた。蒼子は、よく噛んだ米をゴクリと飲み込む。口の中に、のりの風味が広がっていた。
音乃は、転がしていたトマトを噛みながら、蒼子に尋ねる。
「蒼子は、会長と副会長どっち派?」
「…。」
さっきまで、音乃に蒼子が聞こうと思っていたことである。
まさか、先手を打たれるとは…。
だが、ここである考えが思い浮かんだ。
この手の話になると、なぜか逃げるか、うまくはぐらかす音乃も、蒼子がきちんと答えたら、きちんと答えてくれるかもしれない。
蒼子は、音乃の目をまっすぐ見つめた。
あまり、他人の瞳をマジマジと見たことがなかったが、彼女はとても澄んでいた。まるで、何もかも見透かす水晶のようである。
蒼子は自身も見透かされているのではないかと、勘違いしそうになる。そんなことはないのに…。
すぅーと気持ちをなんとなく落ち着かせるために息を吸い、ゆっくりと吐く。
「わ、私は、か、会長が好みかな…。」
「へー。会長、大人っぽいから人気だよね…。そっか、そっか。」。
「音乃は?」
「うーん、強いて言うなら、副会長かなぁ。」
意外にもすんなりと答えた音乃に内心驚きつつも、彼女が副会長の方がタイプと言った理由に興味がある。蒼子が尋ねると、音乃は、にっこりと笑みを浮かべ、はっきりと告げる。
「顔。」
「あ、な、なるほどね…。他は?」
「ない。」
きっぱりと言い切った。ふざけているのかと疑ってしまいそうになるが、彼女の顔は真面目だった。
音乃は、人を見る目があるのか。副会長は、顔だけでなく、内面も優しく良い人柄なのに…。すべて、が完璧で非の打ちどころがない。
そう彼女に告げると、音乃は、意味深に小さな声でつぶやく。
「完璧ね…。」
「今、なんて?」
「なんでもない。」
音乃は、にっこりと、柔らかな笑みを浮かべる。その笑みが蒼子には不自然にみえた。
なぜ、彼女がそのような表情をするのかは、この時の蒼子には理解できなかった。
***
放課後、生徒会室で顧問の桜庭先生に提出する書類を作成していた音乃は、目の前で机に突っ伏している湊斗に話しかける。
「確認とサインして。」
「…。」
シカトである。絶対、聞こえているはずなのに。
音乃が、彼の椅子の脚を軽く蹴ると、端正な顔を不機嫌そうに歪め、渋々差し出した書類を受け取った。
湊斗は、音乃が彼の化けの皮の一面を指摘してから、彼は、本性で接するようになった。
最初は困惑したが、今は普段の演じている方に違和感を覚えるようになってしまった。
みんなに憧れられる王子様は、自己守備者で利己的。自分に敵意を持つ相手は、慢性的に排除する。怒らせたり、喧嘩をする相手には向いていない。
そして、他人に興味がなく、思いやりに欠けている。
別に、それで構わないと思う。彼は、他人に今までこの姿を誰にも見せてこなかった。これからだって、完璧に演じるだろう。
音乃が気づいたのが、悪いのだ。
だからといって、彼に遠慮をするつもりは絶対ない。
湊斗は、サインをし終わった書類を音乃に渡す。きちんと、確認もしてくれたらしく、間違っていて所は訂正してくれている。提出するには、完璧なものとなった。
音乃は、素直にお礼を告げる。
「ありがとう。」
「…。」
「じゃあ、私はこれ出してくる。」
音乃は、そう言い、カバンをもって立ち上がる。提出したら、そのまま下校するためである。立てつけの悪い扉をグっと力を入れて開ける。
疲れ切ったように、また机に突っ伏す湊斗に声をかけとく。
「お疲れ様。また、明日。」
「…。」
音乃は、心の奥から湧き出てくる言葉にできない気持ちを、立てつけの悪い扉を思いっきりぶつけるため、力任せに閉めるのだった。
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