18 / 22
―― Chapter:Ⅱ ――
【018】おにぎりの話
しおりを挟むおにぎりの話を、誰かにしたくてたまらなくなる。夢では無いのだと、刻みつけたかった。佳音は、だから学校へと行くことにした。とはいえ、クラスメイト達は自分を無視するのだから、話を聞いてくれそうな心当たりは一人しかいない。
水曜日、自由登校の本日も、別に授業に出る必要は無い。
駆け上るように階段を進み、鍵が壊れている屋上へと出た。するとフェンスに背を預けて、上を向いて煙草を吸っている榛名の姿が今日もあった。
「榛名先輩!」
明るい声を上げて、佳音は走り寄る。そして榛名の隣に立って、両腕をフェンスの上に載せた。
「聞いて。あのね、お母さんに実は最近無視されてたんだけど……仲直りできたみたいなの!」
榛名は煙草を吸い込みながら、神妙な顔をしている。
「昨日さ、私やけになっちゃって、部屋を無茶苦茶にして、家出してたの。だけどそんなの無駄だと思って家に帰ったらね? おにぎりを作ってくれてて……手紙もあって……私、嬉しかった……」
思い出すと、再び涙腺が緩みそうになる。
その時、榛名が言った。
「七花」
「なに?」
「あんたはさ、いつも無理してた。でしょ?」
「え……」
「私には分かってたんだ」
榛名はそう言うと、煙草を深々と吸い込む。それを見ながら、佳音は目を丸くした。
「先輩……」
「愚痴でもなんでも聞いてやるから……だから……」
「だから?」
「……」
何かを言いかけた榛名は、煙草を吸い込むと、煙を長い間吐いていて、そのまま沈黙した。その瞳が、寂しげに見えた。
「先輩?」
「七花。私いつでもここで待ってるからね」
「うん。今日も先輩が聞いてくれたおかげで、すごく嬉しくなれた」
大きく頷いた佳音は振り返ると、ドアを見る。
「私、またこれから頑張れそう。だから、今日はもう行くね。ありがとう、聞いてくれて」
佳音はそう告げて、屋上を後にした。
しかし――教室の風景は、残酷だった。誰もが佳音をいないように扱う。声をかけても、挨拶をしても、目を合わせてすらくれない。これならよほど、暴力を揮われた方がマシなのかもしれない。それならばまだ、自分を見てもらえていると分かる。
先輩の優しさに振れた後だから、教室の、自分には無味な温度は落差がありすぎて、本当に……きつい。無意識に佳音は、嶺色の姿を探した。だが、彼の姿は無い。
「今日も公園にいるかな?」
無意識に呟いてから、きっとそうだとハッとした。
だから佳音は、さと瀬公園に行くことに決めた。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる