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本編
4、予言
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空を飛ぶ魔法はない、と言われたので素直に歩く事30分。
森が途切れて、道が拓けた。
整備された街道をしばらく行くと、巨大な壁が現れて正面に門が見えた。
「あれは聖都イリルムードの凱旋門だ。近々聖戦でも始めるんじゃないかって噂だよ。実際、400年ほど前まではどこもかしこも戦争だらけだったらしいな………」
「えぇッ!そんなトコ行くんですか!」
「いやいや、手前に立派なお屋敷があるだろ?そこにいるのが私らの目的のアーライル大公の屋敷だ」
「あぁ、なるほど」
少しホッとしてだんだん近づいてきた屋敷を目指す。
手入れが行き届いてない、という風な洋館であった。
ツタは伸び放題に伸び、窓という窓、壁という壁を覆っている。
ところどころにひび割れも見られた。
「私です、薬剤師のレインです」
蝶番をコンコンと鳴らして、ごく小さな声で訪ねたレイン。
「そんなんで中に聞こえるんですかね?」
分厚い扉が見掛け倒しだとは思えない。
しばらくして、不気味な音を立ててドアが開いた。
「はい、レイン様ですね。お待ちしておりました、アーライル様がお待ちです」
「………………あぁ、すぐ行きます」
執事の只ならぬ気配を感じ取ったのか、早足且つ勝手知ったる様子でカーペットを歩いて行くレイン。
歩いていると、二階に上がった時点で執事は消えていた。
「………お茶も出さなかったろ。それだけアーライル大公が危篤だという事だ」
「え………」
もちろん、ハルは会うのも初めてなので誰かは知らない。
突き当たりの部屋に着くと、ノックするなり扉を開けたレイン。
「ちょっ」
流石にそれは失礼じゃないか、と声をあげたハルだったが「うるさい」でシュンと沈む。
「アーライル大公。薬剤師ですが」
窓際のベッドで横になっていた白髪の老人が、凛とした瞳をこちらへ向けた。
「………若造か。ちょっと………寄れ」
「はい」
一も二もなくベッドの脇に寄ったレイン。
「もう………薬はいらん。自分の死期くらいは分かっているつもりだ……………いくら耄碌していようが…」
「ご冗談を。今回の薬はダルマンドラゴラから採った「シリクスリンカプセル」です」
「もういい!」
突然、大声をあげてきつくレインを睨め付ける。
「若造。老人の言うことは聞くものだ………いくら嗄れていようが」
「そんな、私はもう27ですよ。若造扱いはやめてください。いつまで………いつまで私は若造なのでしょう?」
レインはレインで、何かとこの老人と面識があるらしい。
「いつまでも………さ。こんな、《魔石》のお陰で生き延びているわしからすればな…」
「………くッ!」
「若造よ。わしはもう、賢者もやめた。………軍国主義にはついていけんよ。いずれお前にもわかる。そして………わしはもう…………国の重鎮でもなんでもない」
「しかし………ッ!貴方は大公です!国から公爵位を与えられたのはあなたを含めたった5人だ!生きる理由など………」
それだけで十分ではないですか。
老人はそれを鋭敏に感じ取り、年齢を忘れさせるほどの怒号をあげた。
「見くびるなッ!わしはこれでも軍人の端くれよ………っ!せめて恥を忍んで死なせてはくれまいか!」
いっそ沈痛なほどレインの表情は歪みに歪んでいた。
「なぁ………レインよ。わしはもう国に必要とされなくなったのよ…。寂しい事だがそれもまた事実………!それに、向こうで待つ友もおるでな………」
「………………ッ!」
レインは食いしばった歯の隙間から血を流していた。
しかし、やがて力なく肩を落とした。
「………鎮痛剤と言っても、鎮痛剤も受け取ってくれないのでしょうね、あなたは」
「ふん、当たり前だ。…………………そうだ、その子を見てやろう」
「え、え?私ッ??」
突然に指名されて肩が跳ねる。
「感謝しろ、賢者に見てもらえることなどもうないぞ」
「元をつけんか、元を」
苦笑するレイン。
指示された通りに両手を差し出すと、老人は唸って黙り込んだ。
どれくらいそうしていたか。
10分ほども経った時、顔をあげた老人は額に汗を滲ませていた。
「太陽の………境界を探すか。………レインの業に付き従えば、自ずと道は開かれる………か」
「え、太陽の………境界!?」
それは無視して、もはや白濁した瞳の老人が最後まで凛とレインを見据える。
「レインよ、この子を………守って………やるのだ……………ぞ…………」
凄絶な死であった。
その時、最初で最後のレインの弱みを見た気がした。
森が途切れて、道が拓けた。
整備された街道をしばらく行くと、巨大な壁が現れて正面に門が見えた。
「あれは聖都イリルムードの凱旋門だ。近々聖戦でも始めるんじゃないかって噂だよ。実際、400年ほど前まではどこもかしこも戦争だらけだったらしいな………」
「えぇッ!そんなトコ行くんですか!」
「いやいや、手前に立派なお屋敷があるだろ?そこにいるのが私らの目的のアーライル大公の屋敷だ」
「あぁ、なるほど」
少しホッとしてだんだん近づいてきた屋敷を目指す。
手入れが行き届いてない、という風な洋館であった。
ツタは伸び放題に伸び、窓という窓、壁という壁を覆っている。
ところどころにひび割れも見られた。
「私です、薬剤師のレインです」
蝶番をコンコンと鳴らして、ごく小さな声で訪ねたレイン。
「そんなんで中に聞こえるんですかね?」
分厚い扉が見掛け倒しだとは思えない。
しばらくして、不気味な音を立ててドアが開いた。
「はい、レイン様ですね。お待ちしておりました、アーライル様がお待ちです」
「………………あぁ、すぐ行きます」
執事の只ならぬ気配を感じ取ったのか、早足且つ勝手知ったる様子でカーペットを歩いて行くレイン。
歩いていると、二階に上がった時点で執事は消えていた。
「………お茶も出さなかったろ。それだけアーライル大公が危篤だという事だ」
「え………」
もちろん、ハルは会うのも初めてなので誰かは知らない。
突き当たりの部屋に着くと、ノックするなり扉を開けたレイン。
「ちょっ」
流石にそれは失礼じゃないか、と声をあげたハルだったが「うるさい」でシュンと沈む。
「アーライル大公。薬剤師ですが」
窓際のベッドで横になっていた白髪の老人が、凛とした瞳をこちらへ向けた。
「………若造か。ちょっと………寄れ」
「はい」
一も二もなくベッドの脇に寄ったレイン。
「もう………薬はいらん。自分の死期くらいは分かっているつもりだ……………いくら耄碌していようが…」
「ご冗談を。今回の薬はダルマンドラゴラから採った「シリクスリンカプセル」です」
「もういい!」
突然、大声をあげてきつくレインを睨め付ける。
「若造。老人の言うことは聞くものだ………いくら嗄れていようが」
「そんな、私はもう27ですよ。若造扱いはやめてください。いつまで………いつまで私は若造なのでしょう?」
レインはレインで、何かとこの老人と面識があるらしい。
「いつまでも………さ。こんな、《魔石》のお陰で生き延びているわしからすればな…」
「………くッ!」
「若造よ。わしはもう、賢者もやめた。………軍国主義にはついていけんよ。いずれお前にもわかる。そして………わしはもう…………国の重鎮でもなんでもない」
「しかし………ッ!貴方は大公です!国から公爵位を与えられたのはあなたを含めたった5人だ!生きる理由など………」
それだけで十分ではないですか。
老人はそれを鋭敏に感じ取り、年齢を忘れさせるほどの怒号をあげた。
「見くびるなッ!わしはこれでも軍人の端くれよ………っ!せめて恥を忍んで死なせてはくれまいか!」
いっそ沈痛なほどレインの表情は歪みに歪んでいた。
「なぁ………レインよ。わしはもう国に必要とされなくなったのよ…。寂しい事だがそれもまた事実………!それに、向こうで待つ友もおるでな………」
「………………ッ!」
レインは食いしばった歯の隙間から血を流していた。
しかし、やがて力なく肩を落とした。
「………鎮痛剤と言っても、鎮痛剤も受け取ってくれないのでしょうね、あなたは」
「ふん、当たり前だ。…………………そうだ、その子を見てやろう」
「え、え?私ッ??」
突然に指名されて肩が跳ねる。
「感謝しろ、賢者に見てもらえることなどもうないぞ」
「元をつけんか、元を」
苦笑するレイン。
指示された通りに両手を差し出すと、老人は唸って黙り込んだ。
どれくらいそうしていたか。
10分ほども経った時、顔をあげた老人は額に汗を滲ませていた。
「太陽の………境界を探すか。………レインの業に付き従えば、自ずと道は開かれる………か」
「え、太陽の………境界!?」
それは無視して、もはや白濁した瞳の老人が最後まで凛とレインを見据える。
「レインよ、この子を………守って………やるのだ……………ぞ…………」
凄絶な死であった。
その時、最初で最後のレインの弱みを見た気がした。
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