桜の木の下でイケメンとモブは何をするか。

黒猫と招き猫

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本編

3.

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 あのあと、私は入学式の時間が近づいてきたことに気づいて、急いで講堂にむかった。

 式のあいだ、さっきの出来事を思い出して、ため息を吐くのをこらえるのが大変だった。でも、式が終わったこと後のことを考えて憂鬱な気分を振り払った。

 なのに、…

 なんでこの人がいるんだっ!


 「ねぇねー、君覚えてる?俺だよ俺」

 「オレオレ詐欺は受け付けておりません」
 
 「ええ~、」

 ほんと、腹立つんですけど、この人。

 「というか、さっさと出てってもらえません?」
 めんどくさくなって声が冷え冷えとしている。だから、それを察して、「ほら、朝会ったでしょ。桜のまえでさぁ~」…いや、聞けよっ!

 「あの聞いてます?」

 「うんうん、聞いてるよー。僕の名前が知りたいんだっけ?「いや、違います」」

 「あはは、そんな食い気味に否定しなくても。俺、泣いちゃうよー」
 そう言うと、男は顔を覆ってシクシクとわざとらしく泣き真似をしてきた。

 「はぁ~…」

 ため息を吐き、男へ冷たい視線を向けるとさすがに、まともに話す気になったのか、泣き真似をやめてこちらの方を見てきた。
 顔はヘラヘラしてて腹立つことこの上ないが…
 
 「そんなに怒んないでよ~。顔が般若みた~い」

 「……」

 そばにあった金槌にふと目を向ける。

 「ご、ごめんごめん。それはまじで洒落にならないから」

 もう一度冷たい視線を男に向けると、

 「あっ、うん。
  えーと、俺にここから出てって欲しいんだっけ?」

 「そうです」
 やっと、観念したかと思って安堵したが、次の言葉でやっぱり、こいつを殴ろうかと本気で殺意が芽生えた。

 「え~、それは無理だな~」

 「はっ?」

 「いや、、だから無理だって」男は少し焦りながら言った。

 「え、いや、でも、退学してもいいんですか?」

 「えっ、さっきの写真本当に学校側にバラすの?」

 「ええ、そうですよ?ただの脅しではありませんので…」

 「ふーん、でも、
  俺、なんも罰食らわないよ」

 「えっ、はっ?」

 「だーかーら、言っても意味ないよ~」

 「な、なんで」

 「あっ、でも女のほうは悪くて退学かな~」

 男はそう言って、ヘラヘラ笑った。

 「そう言えば、君、美術部に用があったんでしょ?」

 「えっ、ええ、入部しようと思っていたので見学を…先輩にも会おうと思ってて、」

 なんだ急に、そう訝しみの目を向けるが男はニンマリと笑うだけで無視した。

 「じゃあ、ちょうどよかったじゃない」

 「何を…」という私の声は次の言葉で完全にかき消された。

 「俺は美術部所属の2年だよ」

 よろしくね、そう言ってケラケラとまた笑った。

 「えっ…」

 頭の中で危険信号が点滅している。
 
 この男を初めに見たとき、私は王子様のようだと思ってしまった。
 だが、こいつは王子なんかじゃない。

 私の高校生活を脅かす悪魔に違いない、そう確信した。
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