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翌日。
燃えるような、紅い空。夕暮れ。
優斗の声。
彼女。
失ったものの再認識。
正直、辛かった。
けれど、時は過ぎる。生きていくためには、思考を止めている暇などない。いつまでも哀しんでいる余裕などない。まずは、住むところを探さないといけない。
あれからネットで調べたり、不動産屋に行ったりしたが、主に予算の問題で、中々部屋は見つからなかった。
ちなみに前住んでいた部屋は、もう別の誰かが住んでいた。汚いが、家賃は安かったあの部屋が今は恋しい。
「これなー……いいんだけど。一駅向こうか。自転車で何分かかるかだな」
はなから電車をつかう選択肢などない璃空は、今日もスマホとにらめっこしていた。
講義が終わると、璃空と前原はスーパーに向かう。一度前原のアパートに帰り、夕ご飯を作るためだ。
食べた後、2人はそれぞれのバイト先に向かう。4限で終わる日も、5限で終わる日も、大学がある時は、大体このパターンで行動することが多い。
前原は自転車をもっていないため、璃空は自転車を押しながら歩いている。
ふと、璃空の自転車を押しながら、横を歩く優斗を見た。
――ああ。ほら、また比べてる。
振り払うように首をぶんぶん左右に振り、スマホをリュックにしまった。
「何やってんの?」
「思い出と戦ってた」
「はあ。そうですか」
深く突っ込まないところが、前原のいいところだ。
「なあなあ。それよりさ、もういっそオレん家で暮らせばいいんじゃね?」
え、と横を歩く前原を見る。
求める条件がそろう部屋が見つからず、焦っていた璃空にとって、その申し出は素直に有難かった。
「いいのか?」
「いいも何も。もうオレ、お前の飯なしじゃ生きていけねーもん」
ある意味プロポーズのような科白だが、両者ともに気付いていない。
「じゃあ、今月から家賃の半分払うよ。いくらだっけ?」
うーん、と何故か前原が腕組みをした。
「や、いい」
「いいって。そんなわけにいかないだろ」
「だってそうすると、家事を全部やってもらいにくくなる」
「……あ、そう」
納得できまくる理由に、璃空は少し呆れてしまった。呆れながら、手放しで喜んでいない自分に気付いた。
家賃がタダというのは有難い。非常に有難い。
以前の璃空なら、神に感謝していたことだろう。
けれど、人間というのは一度贅沢を覚えると、駄目になるらしい。
優斗は同じ条件で、料理以外の家事はほとんどやってくれていた。嫌な顔一つせずに。
『今まで、ずっと家のこと頑張ってきたんだから。その分、俺に甘えなよ。料理は璃空の方が上手いから、それだけはお願いしていい?』
優斗はとことん、甘やかしてくれた。
おかげで自分は、こんなにも脆くなってしまった。
燃えるような、紅い空。夕暮れ。
優斗の声。
彼女。
失ったものの再認識。
正直、辛かった。
けれど、時は過ぎる。生きていくためには、思考を止めている暇などない。いつまでも哀しんでいる余裕などない。まずは、住むところを探さないといけない。
あれからネットで調べたり、不動産屋に行ったりしたが、主に予算の問題で、中々部屋は見つからなかった。
ちなみに前住んでいた部屋は、もう別の誰かが住んでいた。汚いが、家賃は安かったあの部屋が今は恋しい。
「これなー……いいんだけど。一駅向こうか。自転車で何分かかるかだな」
はなから電車をつかう選択肢などない璃空は、今日もスマホとにらめっこしていた。
講義が終わると、璃空と前原はスーパーに向かう。一度前原のアパートに帰り、夕ご飯を作るためだ。
食べた後、2人はそれぞれのバイト先に向かう。4限で終わる日も、5限で終わる日も、大学がある時は、大体このパターンで行動することが多い。
前原は自転車をもっていないため、璃空は自転車を押しながら歩いている。
ふと、璃空の自転車を押しながら、横を歩く優斗を見た。
――ああ。ほら、また比べてる。
振り払うように首をぶんぶん左右に振り、スマホをリュックにしまった。
「何やってんの?」
「思い出と戦ってた」
「はあ。そうですか」
深く突っ込まないところが、前原のいいところだ。
「なあなあ。それよりさ、もういっそオレん家で暮らせばいいんじゃね?」
え、と横を歩く前原を見る。
求める条件がそろう部屋が見つからず、焦っていた璃空にとって、その申し出は素直に有難かった。
「いいのか?」
「いいも何も。もうオレ、お前の飯なしじゃ生きていけねーもん」
ある意味プロポーズのような科白だが、両者ともに気付いていない。
「じゃあ、今月から家賃の半分払うよ。いくらだっけ?」
うーん、と何故か前原が腕組みをした。
「や、いい」
「いいって。そんなわけにいかないだろ」
「だってそうすると、家事を全部やってもらいにくくなる」
「……あ、そう」
納得できまくる理由に、璃空は少し呆れてしまった。呆れながら、手放しで喜んでいない自分に気付いた。
家賃がタダというのは有難い。非常に有難い。
以前の璃空なら、神に感謝していたことだろう。
けれど、人間というのは一度贅沢を覚えると、駄目になるらしい。
優斗は同じ条件で、料理以外の家事はほとんどやってくれていた。嫌な顔一つせずに。
『今まで、ずっと家のこと頑張ってきたんだから。その分、俺に甘えなよ。料理は璃空の方が上手いから、それだけはお願いしていい?』
優斗はとことん、甘やかしてくれた。
おかげで自分は、こんなにも脆くなってしまった。
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