上 下
35 / 121

35

しおりを挟む
 翌日。

 燃えるような、紅い空。夕暮れ。

 優斗の声。

 彼女。

 失ったものの再認識。

 正直、辛かった。

 けれど、時は過ぎる。生きていくためには、思考を止めている暇などない。いつまでも哀しんでいる余裕などない。まずは、住むところを探さないといけない。

 あれからネットで調べたり、不動産屋に行ったりしたが、主に予算の問題で、中々部屋は見つからなかった。

 ちなみに前住んでいた部屋は、もう別の誰かが住んでいた。汚いが、家賃は安かったあの部屋が今は恋しい。

「これなー……いいんだけど。一駅向こうか。自転車で何分かかるかだな」

 はなから電車をつかう選択肢などない璃空は、今日もスマホとにらめっこしていた。

 講義が終わると、璃空と前原はスーパーに向かう。一度前原のアパートに帰り、夕ご飯を作るためだ。

 食べた後、2人はそれぞれのバイト先に向かう。4限で終わる日も、5限で終わる日も、大学がある時は、大体このパターンで行動することが多い。

 前原は自転車をもっていないため、璃空は自転車を押しながら歩いている。

 ふと、璃空の自転車を押しながら、横を歩く優斗を見た。

 ――ああ。ほら、また比べてる。

 振り払うように首をぶんぶん左右に振り、スマホをリュックにしまった。

「何やってんの?」

「思い出と戦ってた」

「はあ。そうですか」

 深く突っ込まないところが、前原のいいところだ。

「なあなあ。それよりさ、もういっそオレん家で暮らせばいいんじゃね?」

 え、と横を歩く前原を見る。

 求める条件がそろう部屋が見つからず、焦っていた璃空にとって、その申し出は素直に有難かった。

「いいのか?」

「いいも何も。もうオレ、お前の飯なしじゃ生きていけねーもん」

 ある意味プロポーズのような科白だが、両者ともに気付いていない。

「じゃあ、今月から家賃の半分払うよ。いくらだっけ?」

 うーん、と何故か前原が腕組みをした。

「や、いい」

「いいって。そんなわけにいかないだろ」

「だってそうすると、家事を全部やってもらいにくくなる」

「……あ、そう」

 納得できまくる理由に、璃空は少し呆れてしまった。呆れながら、手放しで喜んでいない自分に気付いた。

 家賃がタダというのは有難い。非常に有難い。
 以前の璃空なら、神に感謝していたことだろう。

 けれど、人間というのは一度贅沢を覚えると、駄目になるらしい。

 優斗は同じ条件で、料理以外の家事はほとんどやってくれていた。嫌な顔一つせずに。

『今まで、ずっと家のこと頑張ってきたんだから。その分、俺に甘えなよ。料理は璃空の方が上手いから、それだけはお願いしていい?』


 優斗はとことん、甘やかしてくれた。
 おかげで自分は、こんなにも脆くなってしまった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最上級超能力者~明寿~ 社会人編 ☆主人公総攻め

BL / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:234

貴方の子どもじゃありません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:24,573pt お気に入り:3,878

神さま、どうか、お願いします

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:49

【18禁】聖女の処女を守るため、逆アナルを教えたら、開眼した模様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:324

【完結】私がいなくなれば、あなたにも わかるでしょう

nao
恋愛 / 完結 24h.ポイント:15,511pt お気に入り:937

異世界でいっぱいH!

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:240

18禁 R18 弟達のイケナイ遊び

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:35

【完結】ナルシストな僕のオナホが繋がる先は

BL / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:1,587

処理中です...