68 / 121
番外編①
7
しおりを挟む
ベッドで眠る璃空。涙の跡が残る璃空の頬にそっと触れた優斗は、静かに立ち上がると、音をたてないように注意しながら、部屋を後にした。
ピーンポーン。
部屋に響いたチャイム音に、前原が目を開けた。「誰だよ、もお」と億劫そうに立ち上がり、ノロノロと歩きながら玄関のドアを開ける。
「こんにちは、前原くん」
太陽の光を浴び、爽やか笑顔で立っていたのは。
「──あ、朝比奈の同居人さんだ」
太陽が眩しのか、イケメンのオーラが眩しいのか。前原が右手を顔の前にかざす。
「覚えていてくれて良かったよ。寝ていたのにごめんね。これ、届けにきたんだ」
明らかな寝起きの前原に謝罪しながら、優斗はスマホを差し出した。
「あ、オレのスマホ! 何で?」
「二人して、間違えたんだろうね。璃空も二日酔いでダウンしてるから、俺が代わりに届けにきたんだ」
前原はスマホを受け取ると、無邪気に笑った。
「マジか。助かる~ありがとな。あ、朝比奈のスマホ持ってくるな」
「お願いね。そういえば、昨日前原くんの先輩と一緒に飲んだって聞いたけど」
あー。
前原は背を向けようとしたが、再び優斗に向き直った。
「そー、小瀬野先輩な。偶然会って、途中から一緒に飲んだんだ。そんでさ。朝比奈が寝ちゃって、ウチ知らねーからオレんち連れて行こうとしたら、先輩がオレに任せろって言ってくれて。オレもべろべろに酔って力入らなかったから、正直助かったわ」
優斗の片眉が、ぴくりと動く。
「けどさー、先輩が男に優しくしてるとこ、はじめて見たわ。男と女に対する態度が、あからさまに違う人だから」
「──へえ、そうなんだ」
不穏な空気が漂うが、前原は「そうなんだよ」とまるで気付かない。優斗は瞬時に空気を変えると、にっこりと微笑んだ。
「実はね。璃空が先輩の家に、財布を忘れたみたいなんだ。その先輩と、連絡とれるかな」
「そうなの? んじゃあ、先輩に電話──あ、充電切れてる。ちょっと待ってもらっていい?」
「もちろん」
「んじゃ、中入って。適当に座ってて」
お邪魔します。
優斗は挨拶をしてからはじめて、部屋の惨状を見た。璃空が以前、前原の家は汚ないと評していたが、その意味を身をもって理解した優斗は、笑顔を崩さないまま「すぐ行くから、玄関で待たせてもらうね」と言った。
そう? とだけ返した前原は、スマホの充電をはじめてから少しして、電源を入れた。
「──ちす。前原っす。昨日先輩が家に泊めた朝比奈なんすけど、財布忘れたみたいで。今、朝比奈の同居人さんが来てるんすけど──は? 名前? えーっと」
前原がチラッと優斗を見る。
「佐伯優斗、だよ」
にっこり応じる。
「佐伯優斗、だそうです。──へ? はあ、はあ。先輩の家の場所を教えればいいんすか。じゃあ、同居人さんに確認とって──あ、切れた」
前原は通話を終えると、優斗に視線を向けた。
「今から家まで取りにこいって。都合、平気か? 何か予定あんならもっかい先輩に電話すっけど」
申し訳なさそうな前原に、きちんとした気遣いができる子だなあと、優斗は何だか嬉しくなった。
「大丈夫だよ、ありがとう。それじゃあ、時間とらせて悪いけど、家の場所を教えてくれるかな」
ピーンポーン。
部屋に響いたチャイム音に、前原が目を開けた。「誰だよ、もお」と億劫そうに立ち上がり、ノロノロと歩きながら玄関のドアを開ける。
「こんにちは、前原くん」
太陽の光を浴び、爽やか笑顔で立っていたのは。
「──あ、朝比奈の同居人さんだ」
太陽が眩しのか、イケメンのオーラが眩しいのか。前原が右手を顔の前にかざす。
「覚えていてくれて良かったよ。寝ていたのにごめんね。これ、届けにきたんだ」
明らかな寝起きの前原に謝罪しながら、優斗はスマホを差し出した。
「あ、オレのスマホ! 何で?」
「二人して、間違えたんだろうね。璃空も二日酔いでダウンしてるから、俺が代わりに届けにきたんだ」
前原はスマホを受け取ると、無邪気に笑った。
「マジか。助かる~ありがとな。あ、朝比奈のスマホ持ってくるな」
「お願いね。そういえば、昨日前原くんの先輩と一緒に飲んだって聞いたけど」
あー。
前原は背を向けようとしたが、再び優斗に向き直った。
「そー、小瀬野先輩な。偶然会って、途中から一緒に飲んだんだ。そんでさ。朝比奈が寝ちゃって、ウチ知らねーからオレんち連れて行こうとしたら、先輩がオレに任せろって言ってくれて。オレもべろべろに酔って力入らなかったから、正直助かったわ」
優斗の片眉が、ぴくりと動く。
「けどさー、先輩が男に優しくしてるとこ、はじめて見たわ。男と女に対する態度が、あからさまに違う人だから」
「──へえ、そうなんだ」
不穏な空気が漂うが、前原は「そうなんだよ」とまるで気付かない。優斗は瞬時に空気を変えると、にっこりと微笑んだ。
「実はね。璃空が先輩の家に、財布を忘れたみたいなんだ。その先輩と、連絡とれるかな」
「そうなの? んじゃあ、先輩に電話──あ、充電切れてる。ちょっと待ってもらっていい?」
「もちろん」
「んじゃ、中入って。適当に座ってて」
お邪魔します。
優斗は挨拶をしてからはじめて、部屋の惨状を見た。璃空が以前、前原の家は汚ないと評していたが、その意味を身をもって理解した優斗は、笑顔を崩さないまま「すぐ行くから、玄関で待たせてもらうね」と言った。
そう? とだけ返した前原は、スマホの充電をはじめてから少しして、電源を入れた。
「──ちす。前原っす。昨日先輩が家に泊めた朝比奈なんすけど、財布忘れたみたいで。今、朝比奈の同居人さんが来てるんすけど──は? 名前? えーっと」
前原がチラッと優斗を見る。
「佐伯優斗、だよ」
にっこり応じる。
「佐伯優斗、だそうです。──へ? はあ、はあ。先輩の家の場所を教えればいいんすか。じゃあ、同居人さんに確認とって──あ、切れた」
前原は通話を終えると、優斗に視線を向けた。
「今から家まで取りにこいって。都合、平気か? 何か予定あんならもっかい先輩に電話すっけど」
申し訳なさそうな前原に、きちんとした気遣いができる子だなあと、優斗は何だか嬉しくなった。
「大丈夫だよ、ありがとう。それじゃあ、時間とらせて悪いけど、家の場所を教えてくれるかな」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
617
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる